この声が届くまで、いつまでも叫び続けたい

@tsushi

5.総ちゃん

乱れた息のまま重い扉を開くと、まだ先生は教室に着いていなかった。
ホッと胸を撫で下ろし、あまり目につかず、かつ黒板の文字が見えやすそうな席を探す。
そうすると、見覚えのある顔が視線の中にあることに気付いた。


「お、こっちこっち~」


同じクラスで、この大学に入った頃からの付き合いの槙野総大だった。


「珍しいじゃん、総ちゃんがこの講義に出るなんて」


「いや、なんか目が冴えちゃって。たまにはいいかなって思ってさ」


彼の隣の席に着きながら、大学生特有の会話を交わす。
そう、この男は典型的な“真面目系サボリ魔”なのである。
内部生の俺と違って一般入学なので頭は良いはずなのだが、基本的に何に対してもやる気がない。
彼を含めた友人五人でサークルを結成したが、彼の意見は聞いたことがない。
一週間に三度会えれば奇跡に近いし、いつ電話してもたいてい寝ている。
顔はカッコイイのだが、ファッションには疎いのでいつも見ても勿体なく感じてしまう。


「何?人の顔をジロジロ見て」


「いや別に。ところで先生遅いなぁ」


「このまま休講っていうのもアリかな」


そうこうしている内に、先生がいつの間にか教壇に立っていた。


「それでは今日の講義を始めます」


俺達の思惑とはよそに、初老に差し掛かった女性の講師は黙々と教鞭を取った。
来なくていいのに。
ダルイ。


今俺が受けている講義は「ジェンダー論」という科目である。
わかりやすく説明するならば、性別やセックスに関する学問、とでも言おうか。
一般教養の中では珍しくディスカッション形式の講義も含まれているので、人気が高い。
それゆえこの講義を履修したかった生徒が全員受けられるわけではなく、毎年人気の高い講義では抽選が行われる。
実は俺も去年この講義を履修したかったのだが、抽選漏れしたために今年に持ち越された形だ。
抽選で優先される三、四年生が多い中で、俺や総ちゃんみたいに二年生が当選したのはかなり運がいいと言える。

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