甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第110話

「はあ、はあ、ひぃいい!か、辛い〜!!痺れる〜!死ぬ〜!あっ、もう死んでるのか?」
地獄に新たな地獄の試練が生まれた。
それは、惠の異次元収納を生かして本番中国、四川陳家麻婆豆腐店(麻婆豆腐発祥の店)の特製花椒をたっぷりと入れた普通の人では食べられ無い程辛くした麻婆豆腐(プラス、デスソース)を地獄に大量に持ち込み亡者に食べさせる地獄だ。
それも火の山麓のとても熱い場所にテーブルと椅子を置きニコニコ笑顔の鬼さんがボーイになり椅子に座った亡者に
「当店のメニューは、激辛麻婆豆腐の食べ放題一択でございます。その上、水も出しません」
そう言って牙を剥き出し静かに笑うのだった。

事の起こりは、甘い物好きの甘味大王(閻魔大王)が、甘い物の反動か時々思い出した様にとても辛い物が食べたくなり蜜に魔鏡を改造したスマホでメールを送った事が始まり。

『(≧∀≦) 蜜ちゃん何だか、とっても辛〜い物を食べたくなっちゃったからお願いします。
地獄の皆んなにも食べさせてあげたいからちょっと多めに買って来て下さい。by閻魔大王』

餡子さんの家が手狭なので、黒蜜おばばの東京家に住み込みで魔女の修行をする事になった惠ちゃん。(とんでもない娘なんで餡子さんには手に負えないと黒蜜おばばに預けられた。震電さんの元だと余計に手に負えない魔女に成ると言う事も考えられたのもある)

「辛い物か、よーし!激辛麻婆豆腐にしましょう。惠ちゃ〜ん!早速バイトよ〜!四川省の麻婆豆腐発祥の店に行くわよ!」
「はーい!麻婆豆腐?食べた〜い!辛い物だ〜い好き」
パタパタと駆け寄ってきた惠ちゃんの手を握りガマ口財布を入れた買い物籠を持った私は、何時もの黒蜜おばばの家のリビングにある箪笥と食器棚の間の暗闇に足を滑り込ませようとしていると
「蜜〜、あまり辛く無い普通の麻婆豆腐を買って来て〜私と"たると"の遅目の昼御飯に〜」
とお腹が大きくなりフウフウ言ってる黒蜜おばばの声が聞こえる。
(魔女の仕事があるので黒蜜おばばと"たると"ちゃんドバイでなく昼間は東京の家に居る)
「わかりました。買って来ます!」

中国、四川省成都にある陳家麻婆豆腐店の目の前にある建物横の暗闇から姿を現した私達。
「えー!凄く大きなビル!」
陳麻婆豆腐店を見た惠ちゃんは、驚きの声を上げる。
私は、お店の入り口近くに居た顔見知りの店員さんを見つけ
「地獄で食べる用の飛び切り辛い麻婆豆腐をイベント用の特大中華鍋にいっぱいくださいな。特大中華鍋はこちらで運搬しますからご心配無く」

いつも大量に注目する私に慣れてる店員さんも特大中華鍋ごとと聞いてビックリして厨房に飛び込んで行った。
バタバタっと音がしてオタマを持った料理長さんが息を切らして駆けてくる。
「アイャー!蜜ちゃん地獄に激辛麻婆豆腐を特製大鍋でって本当アルカ?激辛麻婆豆腐のお風呂でグツグツ煮られる新しい地獄を作るのか?それなら死人も生き返るくらい辛い麻婆豆腐を作るねぇ〜任せとくアルヨ」

ん?なんだか料理長さん勘違いしてるみたいだけどもまあ良いかぁ。
私は、ニッコリ笑って
「地獄の名物になるくらい辛いのをお願いします。あと、激辛麻婆豆腐が出来る間に普通の麻婆豆腐のコースを二人前をお店で食べて行きます。それと普通の麻婆豆腐を二人前持ち帰りでお願いします」
と言って惠ちゃんの手を引いて空いている席へ向かった。
「地獄名物、地獄名物・・・」
とブツブツ言いながら料理長さんは、厨房に帰っ行くこれは、途轍も無い麻婆豆腐が出来そうね。

テーブルでしばらく待ってると前菜が運ばれて来た。
お魚の唐揚げ甘酢餡掛けと空芯菜炒。

お魚唐揚げ甘酢餡がしっとりとしていて美味しい!
空芯菜炒めは、塩味が絶妙!
そして本命の麻婆豆腐。
お皿の麻婆豆腐をご飯にのせて食べるのが本場流。
白いご飯と麻婆豆腐をレンゲですくってパクッ!
うーん、辛いけど美味しい〜。
あっ!白いご飯はどうしようかな?
店員さんに聞くとこちらも大釜で炊いてくれてるそうなので大釜ごと持ち帰りと伝えておく。

続いて汁無し坦々麺がテーブルに運ばれて来たこれも四川の名物。
麺の下に真っ赤なタレが!
ヒィィ!
混ぜて一口食べると・・・
か、辛い〜!
ウッ!
目の前にいる惠ちゃんは、平然と食べているわ。
この娘、やっぱ普通じゃないわね。
キャベツの炒め物と青菜お浸しがテーブルに運ばれた。
キャベツの炒め物はちょっと甘くて辛い麻婆豆腐の箸休めには丁度良い。
給仕の女性にご飯のお代わりを頼む。
えっ?惠ちゃんは丼大盛り?
じゃあ私もそれで!
二人でお代わりした丼が積み重ねられて行く。
私と惠ちゃんは、モリモリとご飯を食べてニコニコ笑顔で麻婆豆腐のコースを楽しんだ。
辛い物だとご飯がすすむわね。
杏仁豆腐と胡麻団子のデザートと中国茶を楽しんでいると店員さんに厨房に来てくれと呼ばれる。
積み重ねられた丼と杏仁豆腐の器のタワーを見た他のお客さんがスマホで写真を撮っているわ。
食べたのが私と惠ちゃん二人だとわかると私達の写真も撮り始めた。
「アイャー!若い女の子二人でこんなに食べたアルか?信じられないアルね!」

ふふふ、辛い麻婆豆腐だと、ご飯が進んでしょうがないのよ!

厨房に入るとグツグツと煮えたぎった真っ赤な地獄が待っていた・・・。
「うっ!ヤバそうな香りと赤黒い麻婆豆腐・・・」
厨房の中ほどに設えられた竃に巨大な中華鍋がデーンと鎮座してその中にグツグツと煮え立つ不気味な麻婆豆腐・・・。

「蜜ちゃん!地獄の死人も黄泉返る麻婆豆腐、出来たね!!」
えっへんと胸を張った料理長さん。

すると恵ちゃん、厨房にある小皿とレンゲを持って来てオタマで麻婆豆腐を掬い小皿に入れてパクリと味見して、小首傾げてから胸の谷間の収納から黒い瓶出し麻婆豆腐の大鍋にドバドバっと入れてオタマでグルグルと掻き回した。

それから又、味見したらニッコリ笑った。

料理長さんどれどれとオタマで少量を取り掌の上に麻婆豆腐を少し乗せて味見を・・・。
「アイャー⁉︎地獄どころじゃないアル‼︎」
と叫んでからひっくり返った料理長さん。

私は、恵ちゃんに何を入れたの?と目で語る。

「これ、デスソースって言う香辛料です。世界で一番辛いんですって!これをひと瓶入れたらやっと辛くなって来ましたよ?」
と瓶をぐいっと前に出しながらえっへんと胸を張る恵ちゃん。

この娘、やっぱり並じゃないわね〜。

ひっくり返った料理長さんに黒蜜おばば特製の反魂丹を飲ませて正気付かせる。
お金を払ってから恵ちゃんの収納に鍋やお釜いっぱいに炊いたご飯に頼んで置いたお持ち帰り用の麻婆豆腐を入れてもらい恵ちゃんのの手を引きながら
「料理長さん、お店の皆さん、ありがとうございます!この地獄の麻婆豆腐を閻魔様に届けて来ますね〜特製大鍋とお釜は、後でかえしに来ます」
と言いながら竃の裏の暗闇に飛び込んだ。

「閻魔様〜!死ぬほど辛い麻婆豆腐とお釜いっぱいのご飯を買って来ましたよ」
と閻魔様の前に飛び出す。

執務机で書類の山に埋もれていた閻魔様、私を見た途端に手に持っていた書類をパッと放り投げ
「ありがとう蜜ちゃん、今日のお昼御飯は特製麻婆豆腐だと皆に伝えろ!」
後ろに居た地獄の獄卒さんに言う。

「閻魔様、麻婆豆腐とお釜を出すのは、一番広い法廷で良いですか?あそこなら地獄の職員さん達全員入れますよね?」
「あそで良いよ蜜ちゃん。大鍋やお釜はどこ?それに一緒にいるその娘は?」
閻魔様にそう聞かれ慌てて私は、恵ちゃんを紹介する。

「あっ、ごめんなさい閻魔様。この娘は恵ちゃん。収納魔法が使える魔女なの、大物や熱々の物や冷たい物のお使いをする時用に新しくバイトで雇ったのよ」
「ほお〜、収納魔法とは珍しい。恵ちゃんこれからよろしく頼むね」
ニッコリ笑った閻魔様。

「閻魔様、こちらこそ宜しくおねがいします」
と言いペコリと頭を下げる恵ちゃん。

一番広い法廷の真ん中に
「ヨイショっと」
言いながら胸の谷間から特製大鍋とご飯の入ったお釜を出す恵ちゃん。

「「「おおっ!」」」
と周りからどよめきが起こる。

「この目で見ても中々信じられないな収納魔法か、初めて見たよ」
閻魔様が顎に手をやりながら言う。

地獄の獄卒さん達が麻婆豆腐の鍋やお釜に取り付き配膳を始める。

皆に麻婆豆腐とご飯が行き渡ってから閻魔様が
「蜜ちゃんと恵ちゃん。ありがとうね、では頂きます」
とレンゲを持った閻魔様が言った後、皆が一斉にパクリと麻婆豆腐を食べた。

『『『ぐあああああっ‼︎』』』

と言う声を上げながら麻婆豆腐を食べた皆が、バッタリと倒れる。

慌てて皆さんに反魂丹を飲ませて復活させる。
気がついた閻魔様が、一言。
「新しい地獄の仕置にこれを使うぞ・・・」
それを聞いた地獄の獄卒さん達もウンウンと頷いたのだった。

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