甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第98話

”forest story”(指輪物語幕間)

「人郎君はどこにいる?最重要課題だ探し出せ!スマホをハッキングしてGPSで居場所を探し出せ!」
台北の徐仙道家で徐福仙人の怒号が飛ぶ。

「何という事だ!!こんな大事な事に気がつかなかったなんて!!手遅れになったら世界の終わりどころではないぞ!」
執務室の分厚い机を叩く徐福仙人。
仙人のこんなに焦った姿を見るのは皆初めてでビックリしてる。
実務的な指揮を執る紫苑さんが恐る恐る尋ねる。
「予言の書にある様に調香の魔女と呪具の鬼才が復活の魔香水と鎮魂の指輪を明日の朝には作りますので人郎君には余り影響が無いと思いますが?」
「儂もそう思っておったがな紫苑。北欧神話のフェンリルじゃよ。神々の黄昏〈ラグナロク〉において
世界を飲み込むとされた巨大な灰色狼よ人郎君は!人郎君が、蜜ちゃんが狂う程の衝撃を人から受けたと知ったらどうする?この前、魔女っ子の撮影で使った巨大化魔法薬を飲んで世界どころか天界や地獄も含めて破壊して飲み込むぞ?怒り狂った不死身の巨大人狼!!蜜ちゃんが正気を取り戻すまで絶対に今回の件を人郎君に悟らせるで無いぞ!」
事の重大さに気づいた紫苑さん顔面蒼白になり日本に居る妹の震電さんと人郎君の母親である紅さんに連絡を取ろうとスマホを取り出した。

その頃、人郎君は・・・横浜駅近くをフラフラ歩いていた。

「蜜からメールで『中東にお使いに行くから電波が届かないかも知れないので心配しないで晩御飯を食べて先に寝てて下さい。時差もあるから帰って来る時間が判りません』って連絡があったから今日の晩御飯はどうしょうかなぁ」

駅近くを歩いていてそこが以前に指輪を作ってくれた雲母さんと出会った場所だと気づいた。
本来なら自分と蜜の結婚式を挙げる予定だったが参列者が世界中から来る上に偉い人ばかりなので警備が出来ないと警察関係者から泣き付かれ身内だけの小さな物で済ませたのを思い出した。

薬指の指輪を見ながら蜜の事を考えていると前方から母親と震電さんがやって来る。

自分を見つけた二人は笑顔で近付いて来て
「人郎、私達にも蜜ちゃんから連絡があり帰りが明日になるだろうと言う話だから久しぶりに飲みに行きましょうよ」と母親が言う。
「明日は仕事休みの日だっけ?朝まで飲み明かしましょう!」と震電さん。
この二人に誘われて断われる程の肝っ玉を自分は持っていない。
「わかりました。付き合いますよ、でも最初はちゃんとした御飯を食べましょうか」
それから駅ビルの地下街で天麩羅を食べながら冷酒を飲み何件か飲み屋をハシゴして夜明けに実家に二人とタクシーで帰り曽祖父の駄犬巌秘蔵のワインコレクションを飲み居間のソファーで眠り気が付いたら昼過ぎだった。

周りを見回すと酔った様子も無い母親と震電さんが笑顔で自分を見ている。

「先程、蜜ちゃんから連絡があったわ。もう少ししたら帰るって。蜜ちゃんが帰って来てシャワーでも浴びたら皆んなで食事してからデパートで貴方達に好きなものを買ってあげるわ。人郎もシャワー浴びて着替えて蜜ちゃんを待ってなさい」
母親に言われ寝起きの頭で何となく理解しシャワー浴びに行く人郎君。

居間から出て行った人郎君を見送った後、顔を見合わす二人。

「「酔わない人郎に付き合い、今までで一番大量にお酒を飲んだけれども全く酔いが回って来ない不思議なお酒だったわね・・・」」
世界の危機を救った二人は妙に冴えた頭の状態で呟いた。

黒蜜おばばが指輪と魔香水を持って超高速で飛んでいた裏では世界を救う為にこんな攻防もあったのだった。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く