甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第70話

目を覚ますと知らない天井・・・。

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真っ黒な甲斐犬から黒いチャイナドレス姿になった私は焼き台前のカウンターに座って。
「フゥ〜〜」
と深い溜息を吐いた。
何だか色々な事があってこの頃疲れたわ。
ロシアからバーバ・ヤーガと妹のシナモンが来て日本中を案内する間にお使いのお仕事して旦那さんの世話して・・・。
家の掃除や洗濯は狂戦士の玉ちゃんがやってくれるけど。
妹達が黒蜜おばばの魔法薬作りを手伝いに駆り出され、お届け物の仕事もひと段落してやっと時間が出来た私は時々黒蜜おばばのお使いで来る場末の焼き鳥屋さんに口開け時の午後四時から一人で来ていた。
「親父さん!ホ○ピー追加!それとタレでシビレとカシラにハツ一本づつにお新香頂戴!」
「はいよっ!蜜ちゃん荒れてるねぇ」
焼き鳥の煙に包まれながら店の親父さんが言う。
「蜜ちゃん、なんか悩みが有るなら吐き出せば良いよ。場末の酒場はそんな風に常連仲間や親父さんに悩みや愚痴を吐き出してスッキリして酒飲んで旨い焼き鳥喰って笑って家に帰る。そんな場所なんだから」
私と同じく今日の開店から店にいる丸眼鏡のでソフト帽を被った背広姿のお爺さんがこの店の名物、鶏モモ焼きを齧りながら優しく語りかけてくれる。
他の常連さんやお爺さんにバイトのお兄さんも頷いている。
一瞬静かになった店内に店の二階にあるストリップ劇場の喧騒が響く。
ホールのお兄さんがホ○ピーの焼酎割りを私の前に置き。
「焼酎多めにしといたよ」
私は喉をゴキュゴキュと鳴らしジョッキの中の液体を煽り。
「皆、ありがとう。今夜は飲み明かすわよ!」
その後はかなりカオスな状態に・・・。
酔っ払った私は二階のストリップ劇場の常連から渡された鳥の羽根の扇を持って踊り捲った。
それを見たストリップ劇場の支配人が二階から踊り子さんを引き連れ焼き鳥屋さんで私とどんちゃん騒ぎを始めたまでは覚えているけど・・・。

目を覚ますと知らない天井の布団で目を覚ました・・・・。

六畳の布団しか敷かれて居ない裸電球がぶら下がってる和室。

枕元に私の相棒の買い物籠が置かれている。
訳がわからずにただボーとしていると襖がガラっと開き焼き鳥屋さんで見たソフト帽子の丸眼鏡のお爺さんを少し若くした感じの初老の男性がお盆にお茶を乗せ入って来た。
「目が覚めたなお嬢さん。お茶を飲んで目を覚ましなさい」
ニコニコ笑っているお爺さんからお茶を受け取り飲んでみるととても美味しい。
「とても美味しいですこのお茶、どうやったらこんなに美味しく淹れられるんですか?」
「お嬢さん、美味しいお茶を淹れるにはね。う〜〜んと道楽をするんだよ。人が無駄だと思う様な回り道して生きるとね心に隙間が出来てとても美味しいお茶を淹れられる様になるんだ。なに、このお茶の美味しさが分かりこうやって淹れ方を聞くお嬢さんの事だ。その内貴女も淹れられる様になるさ・・・」
飲み終わった湯呑みを畳の上のお盆に置き人心地ついた私に丸眼鏡のお爺さんが。
「昨晩から気になっていたんだが他人の持ち物をジロジロ見る訳にも行かないから我慢していたんだがその買い物籠を手に取って見せて貰えないだろうか?」
枕元の買い物籠を引き寄せお爺さんに渡す。
フンフンと頷きながら買い物籠を観察するお爺さん。
「お嬢さん、この買い物籠は意思を持つ魔道具なのかい?もしかしたら」
「よくわかりましたね。魔術師か何かで無ければ普通の人には分からないですよ」
「いや、私のソフト帽もねイギリスの高名なマーリンと言う大魔導師の加護が掛けられた物でね。その買い物籠から似た雰囲気がした物だから。昨晩、浅草のストリップ劇場の楽屋に帽子を忘れ劇場が閉まる寸前に楽屋に戻ると帽子の傍らにお嬢さんが買い物籠を抱えて酔っ払って意識を失っているのを見つけてね。劇場の人に聞いてもお嬢さんの事は知らないと言うのでタクシーを呼んで私の家に運んだんだよ」
「お手間を掛けてすいませんでした。私は蜜といいます。おじいさんは・・・」
「浅草のストリップ劇場に通うただのジジイさ、そうだな壮吉爺さんとでも呼んでくれ」
「分かりました壮吉お爺さん」

それから壮吉お爺さんが浅草のレストランに御飯を食べに行くと言うので一緒に行く事に。
連れ立って歩いていると街並みが少しレトロな雰囲気だけど時々こんな感じの場所に出たりするので気にならない。
「日が高い内から蜜ちゃんの様な若い女の子と連れ立って歩くのは良いものだね。気が若返るよ」
ソフト帽と背広に下駄、買い物籠を持った壮吉お爺さんが、買い物籠を持って真っ黒なチャイナドレス姿の私を気持ちの良い笑顔で見ながら言う。
「壮吉お爺さんも、カッコイイですよ」
「そうかな?」
頭を掻く壮吉お爺さん。
浅草のレストランに着くとスタスタ歩いて勝手に席に座る。
私は慌ててその席の前に座った。
準備していたのか私達の前にさっと料理が置かれる。
この店の名物でレバーの煮込み料理だとかデミソースの酸味が美味しい。
パクパク食べる私を楽しそうに見ている壮吉お爺さん。
レストランを出て浅草寺へ行き二人して大吉が出るまで御神籤を引き近くのベンチに座ってる。
「久しぶりに楽しい時間を過ごしたよ。ありがとう蜜ちゃん」
「こちらこそ楽しかったわ。壮吉お爺さん」
ニコリと笑う私に。
「蜜ちゃん、私は文章を書く仕事を時々するんだが蜜ちゃんの事を多少形は変えるが書いても良いかい?」
「もちろん良いわよ」
私は壮吉お爺さんを最後に驚かせ様と真っ黒な甲斐犬の姿になって買い物籠を咥えてベンチに置いてあるソフト帽に飛び込んでその場から消えた。

「やれやれ、雰囲気からして普通のお嬢さんでは無いと思っていたが魔女の使い魔だったとはな・・・こんな不思議な女の子の事を断腸亭日乗に書いたら日記で無くて泉鏡花のお話しか何かになってしまうな。文章にして残さない方が良いか?惜しいなぁ」
何時も座っているベンチで腕を組み一人で悩む永井荷風の姿があった。

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