甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第66話

私は、怪盗蜜。
神出鬼没の大泥棒。
今日も世界の秘宝を頂きに行くわよ!

目の所に穴を開けた漆黒のマスクをして鏡をチェックする。
真っ黒な身体に大きな黒目で漆黒のマスクに首輪を隠す赤いマフラーを付けた犬。
怪盗蜜の出来上がり。
変装は完璧これで誰も私とは気が付かないわ。

世界にはお金を出しても手に入らない物が沢山ある。
私は、世界中の要人からお使いの依頼を受けているけれどもその中には盗み出すしか手に入れる手段の無い物がある。
そんな時に怪盗蜜が活躍する。
偏執狂のコレクターが亡くなり秘蔵したまま忘れられた秘密の地下ワインセラーに眠る世界に数本しか存在しない幻のワインを頂きに上がったり。
中には中世に冷たい海流の海に沈んだ船から鞣し革を取って来てとか依頼品は様々。

さて、今回の依頼はこの前行った大磯の吉田さんの紹介でイギリスのMI6と言う所で何代か前にQと呼ばれていたお爺さんからの依頼。

19世紀末にイギリス王立アカデミーが超古代遺跡から発掘した灰色の一メートル程の卵型をした遺跡を守る狂戦士バーカーサーが廃棄された以前の職場の地下に置いたままだったけれどももうそろそろ封印が解けて無差別攻撃を始めるので再度封印するか破壊してとの依頼。
中々怪盗らしいお使いね頑張っちゃうわよ。

ロンドンの街を変装したまま歩く私に売店のおじさんや交通整理しているお巡りさん、学校帰りの小学生等道行く人々が。
「おっ!蜜ちゃんおめかしして今日は怪盗かい?気をつけなよ」
と売店のおじさん。
「蜜ちゃん今度、破壊兵器を見つけてもスコットランドヤードでは扱いきれないから見なかった事にして報告しに来ないで良いからね」
と交通整理をしているお巡りさん。
「蜜ちゃん怪盗頑張って〜!」
小学生の子供達。

何だか変装がバレてるっぽいけど聞かなかった振りをして旧MI6の地下に行ってきま〜す。

地下五階の忘れ去られた大金庫室。
入り口に有ったスイッチを入れ灯をつける。

墜落して壊れたUFOや干からびたリトルグレイ、岩に突き刺さったアーサー王の剣。
様々な物が置かれている。
大きな虫ピンで刺されて大きな標本箱の中でモゾモゾ動くモスマンや絶滅した筈の動物がモスマン同様に大きな虫ピンで刺され標本箱の中で動いている。
あっ!上の方にある標本箱にヒッ○コックと書いてあるおじさんがいる!

それらの面白い物の一番奥に一メートル程の卵型の物体がフワフワ浮いていた。
Qお爺さんの言う事によれば狂戦士の真ん中に埋まっている青い宝石に魔力を流せば再度封印出来るとか。
ピョンとジャンプして右前脚を青い宝石にタッチして魔力を流す。
暫くすると青い宝石が点滅してから真っ黒に・・・。
「永き時間、新たなマスターが訪れるのをお待ちしておりました。マスターのお名前をお教え下さい。そして我に新たな名前を」
何だか解らないけど。
「私は黒曜の蜜、蜜って呼んでね。貴方の名前かぁ・・・卵っぽいから”玉ちゃん”ね」
「畏まりました蜜様、私の新たな名前は玉ちゃんですね可愛いい名前をありがとうございます。蜜様に害を及ぼす者は狂戦士の名の元に消し去って見せましょう」
フワフワ浮きながら言う玉ちゃん。
「玉ちゃんはこれから私に着いて来るつもりなの?」
「ハイ、常に蜜様のお近くにてお守りし御用があれば承ります。護衛兼執事と思って頂ければよろしいかと」
地獄の使者の死なない身体に首輪の牙の加護で護衛なんて要らないけれども大磯の別荘にいた宮川さんみたいな執事さんならお使いで居ない間の家の掃除や洗濯に役立つなら良いわねぇ。
「判ったわ付いて来てここから出ましょうか。移動方法は浮くだけ?」
「いえ、蜜様の黒い魔力を頂き暗闇から暗闇の移動が可能に成りました。それと蜜様にお願いが・・・この忘れ去られた大金庫室の中にいる者達に蜜様の黒い魔力を訳与えて頂きたいのですが。長い間一緒にいた仲間を見捨てて行くには忍びなく。蜜様の魔力を与えて頂けるならここにいる皆は本来の力を取り戻し蜜様の配下に成ります。何か御用がある時には蜜様の元に駆けつけますのでどうかお願い致します」
「良いわ。私の魔力をここにいる皆に与えれば良いのね」
私は右前脚の腕輪の魔力を解放した。
元の型を取り戻したUFOとツヤツヤとした姿になったリトルグレイに大きな虫ピンを自分で抜いて標本箱から出てきたモスマンや絶滅した動物達に小型ハンディカムで周りを撮影しながら標本箱からヒッ○コックおじさんが出て来る。
皆が整列して私にお辞儀をしながら。
「素晴らしい質と力の黒い魔力を頂きありがとうございました。我らはこれから蜜様の配下としてお仕え致します」
その様子を撮影しているヒッ○コックおじさん、ブレないわね。
先程は分からなったけど吸血鬼や中世の甲冑を着た騎士や人魚までいるわねその他後ろの方にも沢山・・・。
「とりあえず玉ちゃんを連れて行くけど貴方達はこの大金庫室で待機で良いのね?」
「はい、時折魔力を補給しに来て頂ければ大丈夫です。お呼びの際は我々も暗闇からの移動が可能ですので直ぐに駆けつけます。御用の際は玉ちゃんに言って頂ければこちらに伝わりますので」
モスマンが敬礼しながら私に告げる。
大金庫室の皆に手を振って別れてフワフワ浮きながら付いて来る玉ちゃんとロンドンの街を歩く私。
屋台で野菜を売るおじさんが。
「うおおぉ!怪盗蜜ちゃん後ろにいるのは超古代遺跡から発掘された狂戦士じゃあないか?無差別攻撃で街を破壊しないでくれよ」
駐車違反を取り締まるお巡りさん顔をこちらから背け。
「蜜ちゃんが怪盗ファッションで狂戦士を連れて歩いているけど見なかった振りと」
「怪盗蜜ちゃん〜後ろにいる狂戦士を配下にしたの?触らせて〜」
集まって来る小学生達。
イギリスでは狂戦士ってポピュラーなのね意外だわ。
そんな事を思いながらロンドンを歩いていると電気屋さんの店頭に置いてあるテレビからヒースロー空港近くで離陸に失敗した飛行機が河に墜落して乗客乗員200人が取り残されたままと伝えていた。

私は玉ちゃんと共に電気屋さんの店先に積んで有った段ボール箱裏の暗闇から墜落した飛行機の中に急いで移動した。
非常灯の灯る薄暗い機内で呻き声が聞こえる。
「皆さん怪盗蜜が助けに来たわよ!意識を失ったり重症の人を優先して運ぶわ!動ける人は手伝って!」
幸い無傷だったCAさん達が重症の人を見つけて来てくれた。
玉ちゃんと手分けして病院に運ぶ。
何度か病院との往復を繰り返して機内に戻った時に。
「飛行機が河に沈んで行っている。脱出用のスロープを出せ!」
「機体が歪みドアが開かないんです!」
困ったわねまだ機内には百七十人は残っているわ・・・。
「玉ちゃんこの飛行機の屋根側を綺麗に取っ払えない?それが出来たら大金庫室の皆を呼び出して乗客や乗員を河岸に運ぶ様に伝えて!」
玉ちゃんのツルリとした外殻からレンズが何個か現れ数条の光が出て飛行機の屋根の両側を斜めに焼き切る。
その後、傾斜の低い側に滑り落ちて行く飛行機の屋根。
時を置かずに座席の下の暗闇からモスマンや人魚、絶滅した筈のドードー鳥に吸血鬼等が現れ乗客を開いた天井から河岸に運びだした。
そんな状況でもハンディカムで撮影しているヒッ○コックおじさん。
撮影してないであんたも仕事しろ!

大金庫室の皆のお陰で無事に避難出来た人達が駆けつけた警察や救急隊に保護されている。
残された人がいないのを確認してから。
「大金庫室皆さん!怪盗は正体を知られてはいけないからこのまま暗闇の紛れて帰るわよ!」
「了解しました蜜様!」
次々と暗闇に消えていく皆の姿を撮影しているヒッ○コックおじさんに。
「あんた!仕事もしないで撮影ばっかりして!早く帰りなさい!」
怒る私の姿を撮影しながら。
「カット!!良い映画が取れた」
と初めてハンディカムから顔を離した恰幅の良いいおじさんがニコニコしながら暗闇に消えていく。
あのおじさんは死んでも生前と変わらない映画馬鹿なのね。
最後にリトルグレイがUFOに吸い込まれてから空中の雲の陰に消えていったのを見届けて私と玉ちゃんも暗闇に紛れる。

その夜のBBC。
「今日の昼過ぎに起きた飛行機の墜落事故は重症者はいるものの死者は出ませんでした。これは、怪盗蜜ちゃんと狂戦士を筆頭にしたモンスターズの活躍による物がであります。この救助活動を指揮した使い魔の蜜ちゃん・・・いえ、怪盗蜜ちゃんに英国王室からサーの称号が贈られます。女王陛下は『いつもお使いを頼む真っ黒な使い魔の蜜ちゃんなら電話すれば直ぐに来てくれるから呼びましょうか?』とスマホを出したそうですが、怪盗蜜の正体は不明と言う設定を破っては蜜ちゃんが可哀想と周りに止められたそうなので。『怪盗蜜ちゃん!明日の正午にバッキンガム宮殿に来て下さい。美味しいお昼ご飯を用意して待ってるからね』との女王陛下の伝言をお伝えしまします」

テレビを見ていたQお爺さん。
「誰もが従える事が出来ずに地下の大金庫室に封印して有ったクセ者達を配下にし使い熟すとは流石だな蜜ちゃん・・・」

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