甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第59話

大磯に向かう真っ白なマイクロバスと真っ黒なキャンピングカーの車内は正にカオスだった。
音響の整ったマイクロバスの車内では白龍とカミーラお婆様がワインをラッパ飲みしながらマイクを握ってデュエットで歌い。
完全に酔っ払いオヤジ状態の震電がスルメを咥えながら横にいる紅さんの胸を揉もうと手をワキワキしている。
寿甘と水無月はマイペースに高級ワインを飲み。
イタリア産生ハムやチーズ、キャビアに生牡蠣等の普段自分達では食べられ無いワインや高級食材を堪能していた。
マイクロバスには人郎一族の人が運転しているが運転席とキャビンを隔てる防音壁を下ろしているので運転に集中出来ている。
何かあればインターホンで指示が来る。
この運転手さんは昔から紅さん付きの人狼で白龍のライブの時にはマイクロバスで音響も担当していた出来る人狼だ。
人狼一族の長は紅さん旦那だが巌の配下の諜報や裏の仕事の者は実質的には紅の配下である。
つまり人狼一族の真の支配者は紅と言える。

一方真っ黒なキャンピングカーでは。
「今日は伊達男の世界へようこそいらっしゃいましたお嬢様方。これ又ガレージで待機中に仕込んだ俺様の自慢の料理に舌鼓を打ってくれ!」
伊達男のキャンピングカーの後部荷物室に特別に設置した冷凍庫には作り置きされた大量の料理がストックされていた。
ピザにパスタ類、鳥の丸焼き。
パエリアやソーセージにステーキ。
冷蔵庫には新鮮なサラダとチーズにサーモンマリネにポトフ等。
デザートにティラミスやジェラート。
飲み物に軽い口当たりのサングリアとワイン各種。
これでもか!と言う程の料理や飲み物が揃えられていた。
まだ若い者達の多いキャンピングカーの面々はこの伊達男の料理に魅了されバクバク食べていた。

「蜜子婆ちゃんこの蟹のパスタ美味しいよぅ」
瑪瑙ちゃんが泣きながら蟹のパスタを食べている。
「たるとちゃんこのアクアパッツァ絶品ですよ」
私は端無いけど口にアクアパッツァを入れたままマルゲリータを食べている、たるとちゃんをバシバシ叩きながら言う。
「お母さんパエリアを独り占めしない!」
琥珀さんが黒蜜おばばからパエリア鍋を取り上げた。
酒飲みの餡子さん。
ムール貝の白ワイン蒸しの汁をチューチュー吸いながら白ワインをピチャーからゴクゴク飲んでいる。
甘い物好きの黒蜜おばばがジェラートにエスプレッソを掛けて食べ始めたら更に混沌へ足を踏み出す。
そんな状況を楽しむかの様に伊達男の声が響く。
「実はカキ氷を作る魔道具がソファー下の物入れに置いてある。白玉を作る魔道具と粒餡を作る魔道具のサクマ君も一緒に入っているんだ。抹茶を挽く魔道具も。伊達男特製の宇治金時を食べて見ないかい?」
「キャー!伊達男さん好き〜!」
餡子さんが叫ぶ。
自分の作った魔道具のキャンピングカーに好きとか言ってるし。

そうこうするうちに大磯の別荘に着いた一行。
マイクロバスやキャンピングカーから一歩出ると先程の痴態は何処へやら。
酔った風にもお腹がいっぱいにも見えずに全員がシャキッとして出てきた。
化け物達だまるで・・・。

招待された別荘は文化財級の建物で隣りにあるホテルとして使われている建物の別館らしい。

入り口に執事服のお爺さんと若いメイドさん達が並んでいた。
「ようこそいらっしゃいましたお嬢様方。先先代からお話しを伺っております。私は当館の執事の宮川で御座います。何か御用が有りましたらお申し付け下さい」
宮川さんを見たカミーラお婆様。
「宮川か久しいなかれこれ七十年以上振りか?」
「おおっ!カミーラ奥様。お久しゅうございます。挨拶が遅れすいませんでした。現世に現れるのが数十年振りでしたので」
「うむ、構わんよ宮川。滞在中はよろしく頼むぞ」
宮川さんの後に続き歩いて行くカミーラお婆様。
ここへ来るのは初めてでは無いみたい。
マイクロバスやキャンピングカーの荷物室からバックを運び出すメイドさん達。

各自の部屋に案内された後に広い居間に集合した面々。
「皆様、お食事はおすみとの事でしたので当館前のビーチでお休みになるのが良いでしょうか。当館特製のピナコラーダをお持ち致します」
ハワイでよく飲まれるカクテルの名を聞いて酒飲みの全員がピクっとする。
ビーチパラソルの下ビーチチェアで寛ぎながら飲むカクテルを想像しているのだろう。
「では水着に着替えてビーチに集合」
震電さんが早く特製カクテルを飲みたいのか足早に居間を出て行く。
それに続き皆も自分の部屋へ。

ビーチに集合した彼女らの水着姿はまたカオスだった。
胸元の白い布に「2-3」「くろだあんこ」と書いてある紺色のスクール水着の餡子さん。
際どいV字形の黒いハイレグ姿のカミーラお婆様。
金色のラメの付いたピキニの震電さん。
真っ白な競技用水着の白龍さんに真っ赤なピキニの紅さん。
たるとちゃんは水色のフリル付きのワンピース。
寿甘さんと水無月さんはパレオを巻いたピキニ。
琥珀さんと瑪瑙ちゃん親子がハイネックビキニ。
私が真っ黒なワンピース。
最後に黒蜜おばばが・・・。
似合わない黒のTバックに無い胸を隠す黒いブラ。
セクシー?なんか違う。

流石、宮川さんこの不思議なメンバーを目にしても動揺せずにカクテルを置いて行く。
プロだわ。

よく見ると浮き輪やピーチボールがある後で遊ぼう。
この後、ピーチバレーの試合をしたが震電さん白龍さんの東洋の魔女コンビが圧勝した。
浮き輪で沖に流された餡子さんの救出に火星将軍ロボを呼ぼうとしたカミーラお婆様を慌てて止め。
白い競技用水着の白龍さんが豪快なバタフライで餡子さんを助けに行く騒動があったがシャワーを浴び夕食前の時間を楽しむ一行だった。

しかし、闖入者によってこの静寂が破られる。
「分家の俺様がいくら頼んでも使えないこの別荘をハデなマイクロバスとキャンピングカーの女達が使っているとは許せねえ!俺様の大魔術で痛い目に遭わせてやる!そこをどけ執事服の爺い」
ドンと言う音ともにガラスの割れる音と宮川さんの呻き声が。
カミーラお婆様と紅さんと私は牙を伸ばし。
震電さんを筆頭に黒田の一家と白龍さんが雷を身体に纏わせている。
あっ!怒ると水無月さんもピリピリ出すみたいね新発見。
ドスドスと言う足音と共にドアのノブが回される。

さあ来い!お馬鹿さん魔女と牙を持つ獣の集う場所へようこそ・・・。

          

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