甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第46話

”forest story” f-s14

アメリカテキサス州メキシコ国境近くの街。
私にしては珍しい事だけれども乗っていたレンタカーの調子が悪く街で別のレンタカーを手配して貰っている間にメキシコ料理屋でトルティーヤに挟んだ豆料理を食べながら窓の外を何気無く見ていたら不思議な物を眼にした。

買い物籠を咥えた真っ黒な犬の使い魔。
使い魔が珍しいのでは無い姉の買い物籠を咥えた使い魔がこんな場所にいると言うことが不思議だったのだ。
あの買い物籠は私にとって二つの意味で姉の物だ。
作ったのが二番目の姉十勝餡子で持主が一番目の姉黒田蜜子。

私はテーブルにお金を置き店を飛びだした。

「待って!黒い使い魔さん」
買い物籠を咥えた真っ黒な犬の使い魔が立ち止まりこちらを振り返る。
「貴女は黒蜜おばばの新しい使い魔?私は黒蜜おばばの妹で黒田寿甘すあま彷徨さまよえる魔女よ」
使い魔の深紅の首輪に付いている中国の古銭を確かめながら聞いた。
真っ黒な使い魔がコクンと頷く。
「買い物籠とお話しがしたいの貸してくれる?」
と聞くと真っ黒な使い魔が買い物籠を私の方へ突き出した。
そっと使い魔の口から買い物籠を外し耳に当てる。
買い物籠の話しを聞いた私はその場で声を上げて笑い出す。
「えっ?雑誌に載っていたサルサソースを買いに行く所ですって?何それ!」
旅行雑誌の特集記事に世界のお勧め調味料が載っていて姉の蜜子がこの街のレストランのサルサソースがどうしても食べたいと使い魔の蜜に買いに来させたと買い物籠が私に言ったのだ。
これが笑わずにいられるわけがない。
でも私の乗っていた車の調子が悪くなった理由が解った。
姉の使い魔に会わせる為だったのだ。
そうで無ければ説明が付かない。

買い物籠から聞いたこの使い魔の能力があれば食いしん坊の姉が気軽に遠くまでお使いを頼む筈だわ。

この使い魔との出会いは何かの兆しだろう。
久しぶりに東京の父親と祖母に会いに帰って見ようかしら。
余り一つの場所に留まるのは良くないのだけれども。
使い魔の蜜ちゃんに買い物籠を返し。
「蜜ちゃん美味しいサルサソースにとても合うトルティーヤと豆料理を買ってあげるから付いて来て」
私は先程の店に蜜ちゃんを引き連れて歩いて行った。
その後、お目当の店でサルサソースを買った蜜ちゃんが街角の暗闇に消えるのを見送った後、新しく手配されたレンタカーに乗り込み今夜泊まる予定のホテルに向かった。

私は彷徨える魔女。
周りの幸運を自分に引き込んでしまう能力を持っていて一つの場所や特定の人と長く一緒にいると周りを不幸にしてしまう。
その為に私は旅をし続けている。
旅の資金はカジノや公営ギャンブルで能力を活かし稼いでる。

純血魔族の祖母によると私の能力の本質は”確率を操作する能力”らしいが自分では中々上手く能力を操ることがまだ出来ない。

しかし先程、蜜子姉さんの黒い使い魔に出会い魔女のカンが囁いた。

あの蜜と言う使い魔の起こす何かが。
私の能力を必要としていると。

その場の確率を操作して家族を護れと・・・。

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