甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第40話

”forest story” f-s10

深夜。
寝付けなかったり、ふと目が醒めて寝られないと思った時。
私はこっそりと寝床の毛布を抜け出してお使いのお駄賃を貯めたお金を入れてある小さなクッキーの缶を咥え神奈川相模原市の某所に移動する。

そこは街道脇にある深夜でも明るい光を放つ場所だ。
数十台のレトロ自販機がズラリと並ぶ不思議な空間。

私は、天麩羅蕎麦うどん自販機と横に並ぶラーメンの自販機の前で座り込む。
ラーメン自販機横のホットサンドの自販機も気になるけれども蕎麦かうどん若しくはラーメンを食べた後にお腹の空きがあれば食べて見よう。

以前、黒蜜おばばが見ていた情報誌にレトロ自販機の記事が載っていて気になっていて眠れない夜に来て天麩羅うどんを食べてそれ以来深夜に時々来て何かを食べたりしている。

うん、今夜はまだ食べたことが無い四百円のチャーシュー麺にしよう。
小銭の入った缶の蓋を口で開け百円玉を一枚咥え硬化投入口に背伸びしていれる。
その動作を四回繰り返しチャーシュー麺のボタンを鼻先で押す。
ガタンと言う音がしてからお湯を注入している水音が聞こえる。
25秒程湯切りのモーターの廻るゴトゴトする振動の後にスープ用のお湯が注がれ狭い取り出し口からチャーシュー麺が押し出される。
熱いけれどもスープをこぼさない様に気を付けて柔らかい素材の容器を咥え胡椒や七味が置いてある場所に移動する。
小銭の入った缶に蓋をして持って来るのを忘れずに。
床に置いたチャーシュー麺のスープを啜る。

この味で四百円は安い。
普通のラーメンなら三百円。
今の時代考えられない安さと味だわ。

チャーシューが容器いっぱい麺を隠す様に乗っている。
少しパサつくけれども十分に美味しいチャーシューだ。
麺も縮れで歯応えも十分。
台の上に置いてある胡椒を振り掛け麺とスープを啜る。

有名店のラーメンとは違うけれどもこのラーメンは美味しい。
本当に美味しい。
今は夏だけれども真冬にオートバイで深夜に来て食べたら格別の物になるだろう味。
食べ終わった器を胡椒の乗っている台の上に飛び上がって乗せる。

小銭の入った缶を咥え奥にあるレトロ自販機を見て見よう。
ハンバーガー自販機、カップラーメン、瓶コーラ、ポップコーン、今まで見た事の無かった様なお菓子の自販機等たくさん。
今夜のお腹具合から考えるともう入らなさそう。
次は、ホットサンドかハンバーガーにしようかな。

レトロ自販機コーナー入り口近くに大型のオートバイが止まる。
ヘルメットをミラーに引っ掛け大柄の白髪のおじさんがこちらにやって来る。
ハンバーガー自販機の前にいた私に気が付いて無言でお辞儀をしてくる。
私も無言でお辞儀を返す。

このライダーのおじさんも眠れなくて来たのかしら?
天麩羅蕎麦が出来上がるのを待つおじさんの後ろを通り過ぎる時にこのおじさんと眠れぬ深夜の孤独を共有した気がして心が少し軽くなった。

寝床の毛布に戻ったら朝までぐっすり寝れそうだと思いながら私は、自販機の間の暗闇に紛れ込んだ。

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