甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第29話

”forest story” f-s7

「やっとこの日が来たわ。蜜に早速あの食べ物のお使いに行って貰うよ。その食べ物の名前は、富山ブラック」
一番大きい状態の買い物籠を咥えて歩いても大丈夫になった日に黒蜜おばばが拳に力を込めながら私に言った。

富山ブラックとは、富山独特の真っ黒なスープのラーメンの事だ。
このラーメンはただスープが黒いだけでなく他県の者が食べると富山県人大丈夫か?と言う程しょっぱい。
しょっぱいだけでなく粗挽き胡椒の量も相当な物だ。
その上白い御飯を一緒に食べる。
身体を使う人達のラーメンだ。

しかし、一度嵌るとまた食べたくなるそう言ったヤバさを持つラーメンでもある。

上に乗るメンマも塩辛い。

食べ始めは、しょっぱいのと醤油の濃さに驚くが食べ進む内に止まらなくなり白い御飯を口に放り込んでいつの間にか食べ終わっている魔性の食べ物、それが富山ブラックと言うラーメン。

一番大きい状態の買い物籠にメモとガマ口財布を入れ私は、富山ブラックのお店の前の暗闇に現れた。

暖簾に「富山ブラック」それだけしか書かれて居ない店の引き戸を鼻先で開け店内に入ると入り口近くに居た作業着の男の人が私を見つけ。
「うっ!大きい黒目で何処を見てるか判らない真っ黒な使い魔」

富山は古い街なので使い魔に慣れた人々が多いらしい。

そんな私を店の奥さんが見つけ腰を屈めて話し掛けてくれた。
「真っ黒な使い魔さんお使いご苦労様。籠の中を見せてね」
私から買い物籠を優しく外しメモを読んでいる。
メモを読んだ奥さん。
「薬を扱う所が多い富山でも黒蜜おばばの事は有名よ。蜜ちゃんと言うのね?ご注文の富山ブラック小二つと白い御飯二つね。椅子に座って待ってて」

椅子に座って待っていると近くにいた年配の背広を着たおじさんが
「黒蜜おばばの新しい使い魔の蜜ちゃんか。私はこの近くで魔法薬問屋をやっている丸屋という者だ。黒蜜おばばの魔法薬も扱っている。蜜ちゃんは、暗闇から暗闇に移動出来ると聞いたが本当かい?」
私は頷くとテーブル裏の暗闇から店の奥にある冷水機裏の暗闇に移動して見せた。
移動した私を見て店内から歓声が起こる。

椅子に戻った私に先程、黒目が大きく何処を見てるか判らないと言った作業着の男の人が富山ブラックの丼を持って近づいて丼の中身と私を見比べている。
「蜜ちゃんと言うのか使い魔さんは、それにしても君は真っ黒だな。富山ブラックのスープと同じくらい黒い。なあ、頼みがあるんだ。暗闇から暗闇に移動出来るんなら、この富山ブラックのスープからでも移動出来るか試してくれないか?」
突飛なお願いだったけれども周りにいる人も真剣に頷いている。
魔法薬問屋の丸屋さんも真剣に私を見ていた。
私は意を決して富山ブラックのスープに飛び込む。
次の瞬間先程出てきたのと同じ冷水機裏の暗闇から飛び出した。
冷水機裏から現れた私を見て泣いている人が数人、どうしたのかと見ていると。
「富山ブラックのスープの濃さが暗闇と同じくらいと証明された」
「しょっぱいだけじゃ無いんだ富山ブラック」
「蜜ちゃんは富山ブラックの妖精た!」
富山の人ってノリが良いのね好きよこんな人達。

作業着の男の人、持っていた富山ブラックの丼を私の前に置く。
「これは、出来立てでまだ手を付けてい無い。良いものを見せて貰った御礼だ食べてくれ富山ブラックの妖精」
すると他のお客さんが白い御飯を持って来て。
「これも手を付けてい無い食べてくれ富山ブラックの妖精さん」
店内のお客さん皆が、冷め無い内に食べてくれと促す。
私は、お辞儀してから富山ブラックを一口啜る。

な、なにこれ?胡椒が、口の中がしょっぱい!
麺と一緒に啜ると何故かまた新しくスープを啜りたくなる。
合間に白い御飯を食べるとラーメンを口に入れたくなってを繰り返しているといつの間にか食べ終わっていた。
恐るべき富山ブラックの魅力。

「ふう〜」
と溜息を付いていると店内のお客さんが私を囲んで嬉しそう。
「俺、さっきスープに飛び込んで冷水機裏から出てきた蜜ちゃんと富山ブラックを一心に食べてる姿をスマホで動画に撮ったぞ」
「富山ブラックの妖精が富山ブラックを夢中に食べる姿、可愛い」

店の厨房からラップで蓋をした富山ブラック小二つと白い御飯二つをお盆に乗せ店の奥さんが出てきた。

【富山ブラックの小でも普通のラーメンの並サイズです】

奥さんがガマ口財布からお金を出そうとすると魔法薬問屋の丸屋さんが手で制し。
「富山ブラックの妖精に俺から奢らせてくれ」
そう言ってガマ口財布を買い物籠に戻させた。

奥さんがニッコリ笑いながら。
「いつの間にか蜜ちゃんは富山ブラックの妖精になったの?」
丼二つと白い御飯二つの入ったお椀を買い物籠に入れ籠の持ち手を咥えさせてくれた。
「丼を返すのは次に来た時で良いからね」
と私の頭を撫ぜながら言ってくれる。

私は、店内のお客さん達にお辞儀して近くのテーブルの乗っていた富山ブラックのスープの黒に飛び込んだ。

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