甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第27話

「翡翠と言うのね子供の名前。女装は似合っているの?」
「嫌になる程似合っているし美しいよ」
「それなら何も問題無い。私と白龍の子供だもの男の姿でも女の姿でも美しいなら良いじゃない」
ニッコリと笑う紫苑さん。
「それもそうだな。美しいなら良いか・・・」
白龍さんも納得している。

私も翡翠さんに会った事があるけど綺麗だったからあの姿でも良いと思うな。

そんな事を思っているとマイクロバスが目的地に到着した。
紅さんが先に出て黒蜜おばばを促す。

薔薇飯店の正面玄関に人狼一族の方々がお出迎え。

黒蜜おばばに続き私、白龍、紫苑さんの順に車外に。
紫苑さんが姿を現した途端に電光の速度で人影が迫って来た。
その人影は人狼一族長老の巌さん。
「紫苑ちゃん久しぶり。紫苑ちゃんが行方不明になった後もワシずーっと大和ホテルに通って帰って来るの待ってたんだよ。その後戦争で日本に帰って来てしまったけど。いつか会えると思っていたんだ」
紫苑さんの手を握り頬ずりしている。
「巌ちゃんもお久しぶりね。ずっと私のこと待っててくれたんだ。ありがとう。でも今日は姪の蜜子にお話しが有って呼んだんでしょ?そちらを優先しなきゃダメでしょ?」
その言葉に巌さん慌てて黒蜜おばばの手を取り。
「ご挨拶が、遅れ申し訳無い。蜜子さん、本日は貴女の使い魔の蜜さんと曽孫の結婚の事に付いてお話しをと御招きしました。恥ずかしい姿を晒し申し訳無い。しかし相変わらず、ちっこいな蜜子ちゃん。胸なんかお母様からしたら育ちそう何だけれどな?」
「この色ボケクソジジィが!」
紅さんの右ストレートが巌さんの顔に炸裂する。

「キャイ〜ン」
と鳴きながら吹き飛ぶ巌さん。
壁に当たり毛の白い年老いた狼に変化してピクピクしている。
「駄犬がっ!」
紅さんがヒールで狼になった巌さんをガシガシ踏んだ後、笑顔になって。
「お騒がせ致しました。こちらに食事を用意しております。どうぞ」

皆んな巌さんの方を見ない様にして正面玄関近くの宴会場へ入って行った。
駄犬は、あのままでいいの?

宴会場には円卓と椅子が沢山並んでいた。
円卓の上には本格広東料理が所狭しと並べられている。
私、本格中華料理自体が、初めて!とても美味しそう。
これだけで人狼一族を気に入ってしまったわ。
私って安い女?

中央のステージみたいになっている卓に人郎さんがニコニコしながら待っている。
私達は、その卓に案内され席に座る。

席には、人郎さんのお父さんも座っており立ち上がり黒蜜おばばにお辞儀をする。
「本日は、突然の招きに応じて頂きありがとうございます。そこに居る息子と蜜さんの事でお話しが・・・」
手を挙げ相手の言葉を遮った黒蜜おばば。
「買い物籠からの報告で全てを伺っております。私の使い魔の蜜と息子さんの結婚、喜んで許可致しましょう。蜜の事をお願い致しますよ人郎さん」
立ち上がり人郎さんに頭を下げる黒蜜おばば。

隣の座っている人郎さん私の手を握り。
「ありがとうございます。蜜さんと二人幸せの家庭を築きます」

そんな感動の中、私の意識は卓上の広東料理に。

「本当に度胸があるのか食いしん坊なのか・・・紹興酒で乾杯して料理を頂きましょうか」
紅さんが苦笑いしながらウエイターさんに紹興酒の準備を促す。

甕の紹興酒が運ばれて来た。
30年物の紹興酒。
甕の蓋が開けられるとムワッと酒精が空間に広がる。
透明なグラスにトロッとした飴色の液体。
何と表現したら良いのかしらこの香り。

乾杯の声の後、グラスに口を付ける。
舌を包み込む柔らかな液体。
喉に落ちる時灼ける様な刺激、でも数十年の時のお陰で心地よい刺激になっている。
口から鼻に甘い香りが抜け上がる。

人郎さんが前菜を小皿に取り分け私の前に置いてくれた。

鶏の中華ハム、海月、胡瓜の中華風ピクルス、ピータン、叉焼どれも美味しそう。

中華ハムって思っていたよりジューシーで味が深いわ。
海月、コリコリピリ辛!
叉焼が赤い、これも良いの食感が、胡瓜の中華風ピクルス、辛いけど中華の醤油や調味料で何と表現したら良いの?日本の漬物とは根本的に違う。これは、サラダなのねピクルスで無く。

紅さんが言う事には、先程の駄犬が戦前に満州で軍の諜報活動に従事しており家族で移り住んでいたので中国人の知人も多く今でも何か集まりが有ると中華料理店を使うのが慣例だそう。

人郎さんに巻いて貰った北京ダッグを食べながら聞いていた。

紹興酒で乾杯した後、買い物籠を耳に当て静かに眼をつぶっていた紫苑さん。買い物籠を空いていた隣の席に置くと。
「私が異空間に飛ばされてからの数十年を簡単に買い物籠から聞いたわ。これから起きるで有ろう事も。蜜子には、裏の事をわざと知らせずにいたみたいね。人郎さんとの出会いの事もアレに書かれているみたいね。蜜子に自然に蜜ちゃんを使い魔にさせたかったからなんでしょ?」
「その通だよ紫苑。蜜子に知らせると蜜ちゃんとの関係がぎこちなくなっただろうからね。地獄に行って色々な加護を貰い地獄の使者に成るなんて狙って出来る物ではないよ」
白龍さん黒蜜おばばと私を笑いながら見てる。
「ハァ、何だか馬鹿にされてるのか褒められているのか判らないわね。それで月へはいつ蜜を行かせるの白龍?」
「慌しいんだけど明後日の満月なんだ予定では、紫苑に急いで兎封じの魔方陣を書いて貰わなければならない。それと蜜ちゃんに仙台銘菓○の月を買って来るお使いを頼みたいんだ。かぐや姫へのお土産に」

かぐや姫へのお土産が○の月?

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