甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第26話

”forest story” f-s6

「蜜、小腹がすいたから台北に行って豆花を買って来ておくれ。ついでに台北に居る私の母親の所に頼まれていた反魂丹はんごんたんを持って行って」
午前10時過ぎ台湾の甘味で固めの豆腐に甘い汁をかけた豆花をちょっと食べるには良い頃合い。
私は喜んで反魂丹と買い物メモ、ガマ口財布の入った買い物籠を咥えまずは反魂丹を届けに食器棚の間の暗闇へタッタッタと走り出した。

現れたのはとても大きな中華風の御屋敷の庭に架かる渡り廊下の真ん中。
こんな場所に急に現れて大丈夫かな?
買い物籠に導かれながら御屋敷の中を進む。
「おや?見慣れない真っ黒に使い魔が屋敷の中に居るなんて。徐仙術家の結界をどうやって潜り抜けのかしら?」
後ろから声が聞こえたので振り返る。
「あっ!その買い物籠に首輪の古銭。あなたが蜜子の新しい使い魔ね?それなら結界を抜けられるのも納得。私は蜜子の従弟いとこの翡翠。宜しくね真っ黒な使い魔さん」
翡翠さん緑色のチャイナドレスを着て髪を三つ編みにしているスレンダーな美人さん。二十歳位に見えるけどここの家系実年齢と見かけ違うからなぁ。
私は買い物籠を翡翠さんに差し出す。
籠を受け取った翡翠さんはメモを読み反魂丹が入っているのを確かめた。
「まずは、反魂丹を師匠の元に届けましょうか蜜ちゃん。豆花は出来立てが美味しいから後でお勧めの店を教えるわ」
連れて行かれたのは分厚い扉の前。
大丈夫かなこんな扉の部屋にいる人、怖くないかな?
翡翠さんが扉に触れ何か呪文を唱えると重厚な扉が音も無く開く。
扉の奥の執務机の上に座り脚を組み書類を読んでいる年齢不明の女性が。
長いストレートの髪。
薄黄色のチャイナドレス。
二十五歳から三十代後半までどの年齢でも当て嵌まる不思議な感じ。胸が大きく張り裂けそう。
でもこの女性の雰囲気がやらしさを感じさせない。
見る者に畏怖を感じさせる。
しかし、私を見た瞬間に書類を放り出し駆け寄って来て。
「やーん!可愛いい!」
と私を抱き締めた。
抱き締められた後の記憶が無い。
この方、興奮した状態で誰かを抱き締めると電撃を相手に落としてしまう癖があるそうで。
それで私は意識を失った。
後で聞くと、ちょうど届けた反魂丹を飲ませて貰い復活したそう。
娘である黒蜜おばばも同じ癖がありそのせいで離婚して娘の”琥珀こはく”さんは元旦那さんに引き取られて行ったらしい。
何だか壮絶な話し、苦労しているのね黒蜜おばばも。

目を覚ました私に平謝りする薄黄色のチャイナドレスを着た女性。
その様子を私は意識がボンヤリしたまま見ていたけれど首を振って大丈夫と伝えた。
「本当に御免なさい。初対面で気絶させたりして私の事嫌わないでね。私は貴女の主人、黒田蜜子の母親で徐震電じょしんでん”雷の魔女”と言うの宜しくね蜜ちゃん」
起き上がった私の頭を撫ぜている震電さんに翡翠さんが。
「師匠、蜜ちゃんは豆花のお使いが残ってます。早く買いに行かないと蜜子が怒りますよきっと」
「やだ!あの子怒らせると面倒なのよね。子供の頃にあの子を怒らせたヤクザの事務所を探知不可能な時限式爆破魔法薬を使ってチリも残さず吹き飛ばしたからね。怒らせたら理由も蜜子が当時、可愛いがっていた鳥の使い魔の羽根をヤクザが一本抜いたからだからね。急いで豆花買いに行くわよ」

そんな不穏な子供だったの?黒蜜おばば?

屋敷をでて下町の路地を早足で進む震電さん、その後を買い物籠を持って付いて行く翡翠さん二人を見て街の人々が驚いている。
二人を初めて見た観光客はその、容姿に見惚れ写真を撮ろうとして地元の人に止められている。
二人を良く知る人も反応が二つに分かれていた。
粗方の人は好意的で尊敬を持っていたが、一部の素行の悪そうな人は違った。
「雷帝が何故こんな場所に!誰か雷で丸焦げにしに来たのか?」
「翡翠さんが男と知らずに口説いて、口では言えないエゲツない魔法を掛けられた馬鹿がいたが、今度は雷帝も怒らせたら奴がいるのか?」

何だか凄く危ない人と一緒にいるみたい・・・今、翡翠さんが男とかって聞こえたけど・・・。

一軒の古いお店に着くと震電さんが
「お爺さん、蜜子が豆花を待ってるの。お願い」
「蜜子ちゃんが待ってるなら急がなきゃな」
店の奥から仙人みたいな白い髭のお爺さんが持ち帰りの容器を二つ持ち現れた。
お玉で容器に固めの豆腐を掬い入れトッピングの白豆を煮たのを匙で入れ、少し茶色いザラメの温かい汁を掛けて出来上がり。
容器に蓋をして買い物籠に入れて貰う。
温かいうちに急いで行きなさいと促されて買い物籠を咥えた私は、店の前にある暗闇に急いで消えた。

暗闇に消えた私を見ていた震電さん、豆花屋のお爺さんに。
「師父、あれが暗闇から暗闇に移動する蜜子の使い魔”黒曜の蜜”です。先見の魔女の予言書にあるお使いをする者かと」
「うむ、予言の期日はもう少し先だなそれまで監視を怠るで無いぞ」
「「了解致しました。偉大なる仙人。徐福様」」

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