甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第24話

お立ち台の下に居る黒蜜おばばを見た紫苑。
「あら、相変わらず成長しないわね蜜子。甘い物ばかりで無く御飯も食べなさいね」
「五月蝿いわね。変態女装オヤジ!騒ぎが大きくならない内に逃げるわよ!これからまだやる事があるんだから!」

やれやれと首を振る紫苑。
「仕方ないわね。白龍とデュエットで一曲歌ってファンサービスしてからよ」
白龍がピアスの片方を紫苑に着ける。
マイクロバスの天井からマイクが一つ出て来た。

マイクを手にする紫苑、白龍にニッコリと笑い掛ける。
紅さんの声がスピーカーから響く
「白龍、紫苑のオリジナル曲で”大和ホテルで恋に落ちて”をお送り致します。皆様お楽しみください」

見詰め合う白龍と紫苑。
彼らは男女入れ替わりカップルである・・・。

♪親に連れられ行った大連の大和ホテルのステージで、歌姫だった貴女を一目見た子供だった僕はすっかり虜になった。それから毎夜家を抜け出し貴女を一目見ようと家を抜け出した♪

♫そんな貴方を見兼ねたご両親は私に貴方を叱って二度と来ない様にしてと言って来たけれども。私は貴方に歌を教え一緒に居られる様にとステージに立たせた♫

♪二人でステージに立ち歌を歌う姿を見て両親や周りの大人が貴女と一緒に居るのを認めてくれた。
嬉しくって僕は貴女に愛を告げる♪

♫♪街中で有名になっていた二人、ただ一人のが最後まで二人の恋に反対していた。それは、二人にとってとても大切な人。愛の結晶が出来たとその人に話したらさっきまで数十年も引き裂かれてしまった。漸く逢えた今、二度とこの手を離さない♫♪

集まった聴衆に手を振る二人。
ゆっくりとマイクロバスの中に降りて行く。

「白龍、紫苑のライブへお越しいただきありがとうございました。これにて本来のステージは終了致します。皆様次のイベントはホームページをご覧ください」
私の横に居る紅さんがヘッドセットのマイクからアナウンスする。

プシュっと音がしてマイクロバスのドアが開いく。
黒蜜おばばと私の手を引き紅さんがマイクロバスに乗り込む。
ソファーに寛ぐ白龍さんと紫苑さん。
運転手さんに宴会場へと言いソファーの端にに座る紅さん。
私と黒蜜おばばは白龍と紫苑さんの目の前に座る。

「白龍、紅、さっきのライブが先見の魔女の予言書の本当の内容?私の末の妹”先見の魔女”が半世紀以上前に通っていた女子校の白龍ファン倶楽部会報誌【紫の花束】にその場のノリで書いた妄想だったけれども全て本当のことになっている隠された予言書の」
「流石、お蜜には隠せないな。一般に公開してたのは当たり障りない妄想の話しだけど先程のライブみたいなイベントを予言書の通りにこなすと本当の予言書に書いてある通りになるんだ。逆に書いてある通りにやらないと酷い事になる。以前、日本で大きな災害が起きる筈だったけれども予言書には”全国で不思議なポーズを流行らせれば災害が起きない”と書いてあり。テレビ黎明期の人気のアニメのキャラクターに驚いた時に不思議なポーズを取らせ全国で流行らせ災害を防いだ。」
「その後、予言書を信じない政治家や官僚が無視していたら・・・あの災害か」
「予言書に書いてある内容を信じ最初の災害を防いだのはお蜜の母親だよ。今回の事もお蜜の母親の指示で動いている」
「あの人娘の私には大事な事を何も知らせ無いんだから」
「今回は事故で時空の間に飛んだ紫苑をこの時代に呼び込むのに予言書の通りに歌を歌うのが必要だったんだ。お蜜、お前さんの母親の兄で叔父である中国仙術大魔導師の徐紫苑じょしおんの魔方陣で月の兎を封じるんだ」
「月の兎?」
「月の兎が跳ねると地球が揺れる。それを防ぐ為に紫苑の魔方陣で月の兎を封じる」
「どうやって月まで行くの?」
「予言書には『怪犬に黒蜜のお使いさせる』とあって謎だったけれども・・・」
白龍さんが私を見る。
「”怪しい犬にお使いさせる”では無く”甲斐犬にお使いさせる”のでは無いかな」

黒蜜おばばが
「甲斐犬黒蜜のお使い」
と呟いた。

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