甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第9話

食器棚の間から山小屋の居間へ戻った私を出迎えてくれた黒蜜おばば。
私が戻るまで水羊羹を食べずに待っていてくれたらしく咥えていた籠を受け取ると中身を確認もせずテーブルに置き、お茶の準備を始めた。
小皿に何当分かに切った水羊羹と地獄人参茶を用意出来ると、頂きますとお辞儀して食べ始めた。

はぁー、なんとも言えない食感並んで買うだけあるわ。

あっと言う間に一本をペロリ。
「1人五本づつあるから三本今食べて残りは夜ご飯の後にしようか。もう一本切って来るよ」
と立ち上がる黒蜜おばばに声を飛ばす。
「筒のまま・ちゅるん・筒のまま・ちゅるん」
思いを遂げ光と消えたバイトの鬼さんを真似ようと思った私。

暫し考えた後に。
「面白そうだね」

そう言って空気抜きの穴を開けただけの竹筒を自分と私の小皿に置き二人で目を合わせ頷き合い揃って竹筒を咥え「ちゅるん」と吸い出した。

一本丸ごと口の中へ!竹筒を小皿に置き水羊羹を噛み砕くプルプルな食感気持ち良い。
何だか堪らない。
下品な食べ方だけどやったら癖になる。

あのバイトの鬼さん躾が厳しい家だったのねきっと。
落語で江戸っ子が死に際に。
「蕎麦をツユにどっぷり浸けて食べたかった」
と言うのが有るけれど意外にそう言った事が死後の執着に成るのかも?

ちゅるんと食べ終わった二人でまた顔を見合わせ頷き合う。

もう一本づつ穴を開けただけの竹筒を用意し今度は直接自分の口と私の口に竹筒を入れて。
「ちゅるん」

あゝ美味しい。
癖になってしまった見たい二人共。

食べ終わり買い物籠の中身を確認する黒蜜おばば。
「ナンジャコリャー!?」
深い森に響く絶叫。

慌てて買い物籠に耳を当てる。

報告を聞きながら私の首輪と右前脚に目やり口を開け最後に籠をテーブルにポロッと落とし。

「地獄の使者?蜜が不老不死?私が死んだら地獄の専属お使い?ヤラレター!」

先程よりも大きな絶叫が森に響いた。

買い物籠さん魔王さん達の内緒話も聞こえてたそう。

頭を抱えてたけど何とか持ち直し。
「まあ私が死んだ後に蜜の引取先が出来たと思えば良いかな」

今回持ち帰った地獄の薬材を改めて手に取りブツブツ言っている。
「い、一万年物の地獄人参、幻と言われる地獄マンドラゴラ、地獄大蝙蝠の目、その他の薬材も薬材図鑑で幻とか都市伝説並の地獄でも絶滅して取れないと言われる物ばかり・・・地獄の宝物殿からの物か。これだけの物かあれば薬材が無くて作れなかった横浜の魔女に頼まれているアレをやっと・・・」

次に私の首輪と腕輪を調べにかかる。

首輪の牙が奪衣婆と懸衣翁の物と改めて買い物籠に聞き驚き地獄の腕輪と全魔王の宝珠を確認して魔力の強大さに魂が抜けそうになった。
その上地獄の使徒になった蜜は傷付いたり死にそうになっても即座に再生するだろう。
奪衣婆と懸衣翁の牙の加護で下手な攻撃や毒も効きそうに無い。
奪衣婆達も美味しい物を届けてくれる蜜を護ろうと牙を渡したに違いない。

黒蜜おばばが人里離れたこの森の山小屋に住んでいる理由はこの地に魔力が集まる地脈がある為だ。
魔法薬を作るには膨大な魔力が必要なので森の山小屋に引き篭もって魔法薬を作り時々街に帰っていた。
しかし森に篭り魔力を集めても中々思う様には魔力が集まらない。

蜜の腕輪の魔力を借りればいつ何処でも魔法薬を作れる。
魔法薬を作る位なら腕輪の魔力のほんの少しだけしか使わない。

「蜜や、魔法薬を作る時にお前の魔力をほんの少しだけ分けてくれないかい?」
私は声を黒蜜おばばに送った
「好きなだけ・いつでも・嬉しい・役に立つ」
「蜜、ありがとう。蜜は優しいね」
頭を優しく撫ぜて貰う。私はそれだけで満足なんだ。魔力位なら幾らでも好きなだけ使って。

さっそく横浜の魔女に頼まれていた魔法薬。
人狼の”特人化促進薬”の製造に取り掛かった。

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