エリートの男は未練を果たしに異世界に行く

双葉カイト

第1章 初心者エリート

 


 男は目を開けた。上は空でもなく天井でもない、ただ暗闇だけが広がっていた。


「ここは…病院ではないのか…やっぱり俺は死んだのか…」


 あの時の場面は未だに覚えてる。


 刺された時の痛み、そして自分は何もできなかったこと。


 だかいくら後悔してもあの世界には戻れない…!


 その時、何者かの声が聞こえた。


「もしもし…若くして死んだものよ…」


 慌てて起き上がりじっとその人物を睨む。


「ふーむ…その顔は現世での未練が沢山あったものだろうと思われる。」


 話しかけていたのは、顎鬚をたくさん蓄えてるおじいさんみたいな人であった。


「そうさ!まだまだやりたい事は残ってる!俺はここで終われねぇ!だから早いところ元の世界に返しやがれ!」


 俺はとにかく怒った。しかしおじいさんはそんなことを気にもとめず。


「無理じゃ、もう死んでるし遺体はもう焼かれてしまって骨もそんなに残っとらん。現背で出来ることは魂だけになりふよふよ浮くことぐらいかのぉ…」


「くそ!!なんとか出来ねぇのかよ!!」


「まあまあ…確かにわしは現世では何も出来ないとは言ったわい。でもお主は何かで成功したいという思いが強い。だからチャンスをやろうと思ってるのじゃ。」


「ちゃ…チャンスだと!俺はそのチャンスを…」


「まぁまぁ慌てなさんな、ちゃんと人の話をよく聞くが良い。お主に与えるチャンス。すなわち異世界に行って貰おうと思ってるのじゃ。」


「別世界…」


「そうじゃ!お主を送る異世界の説明をしなくちゃな。その異世界は現世で言うところの中世ヨーロッパの時代風景と思ってくれればよろしい。それとお主の希望の職を聞きたい。」


「希望の職…何があるんだ?」


「例えば、騎士、ガンナー、商人や職人、っと言ったものじゃな。」


「社長とか王様とかはないのかよ!」


「それは出来んぞ!そんな地位は有名になってから取れぃ!」


「っ…それならこの騎士に俺はなる!」


「分かったわい、それと異世界で通じる言語や常識と簡単な歴史とかをお主に与える。あとは異世界生活を始めるに対して不便がないようなものも与えよう。」


「なぁ、じじぃ。一つだけ聞きたいことがあるんだ。」


「なんじゃ、チビ助。」


「チビ助ってなんだ!チビ助って!」


「じじぃと言われたから返しただけじゃ。ところで何を聞きたかったのじゃ?」


「あぁ、どうしてここまで協力してくれたんだ。あと対価は何で払えばいい?」


「うーむ、なぜ協力したか…まぁなんとなくじゃ、強いて言うならお主のその強欲さかのぉ。あと、対価は要らんぞぃ。せめての願いとしてお主の活躍が見たいぐらいじゃ。」


「分かった、あんたを失望させないようにはするよ。」


「楽しみにしてるぞぃ、それじゃぁ精一杯頑張れ!」


 じじぃのその言葉を聞いたあと意識がふっと失った。


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「っぅ…って…ここが噂の中世ってところか。」


 厳密にはラトーナ帝国。あのじじぃが言ってた通りな中世ヨーロッパの感じだ。


「ほんとにレンガの建物とか馬車とか走ってるのな、さて人生逆転と行くか!」


 ガチャ…


 俺はまず装備を整えるために武器屋に行った。エリートと言っても丸裸じゃぁ話にならん。


 所持金はおよそ2000ザナ、これでどれだけ買えるか…


「へいらっしゃい!あんた初心者かい?」


「ああ、駆け出しってやつだ。」


「なるほど…ところであんた転生組ってやつかい?」


 何も言ってないのに見抜かれてるだと…


「なぜ知ってる!」


「あんたの目さ…人を射殺すような眼をしてる…多分前世はエリートだろう…少なくてもここの初心者にはそんな目をしてるやつは珍しい…」


 この店主…結構やり手だな


「正解、エリートだがある日突然死んでていつの間にかここに来たって訳よ。」


「そうかい、あんたのステータスを見てみたいがまずは何を買うんだい?」


 ステータスか…あとで見てみよう…


「それじゃぁ初心者装備一式ってところだな。多分それで2000ぐらいだろ?」


 パチ…パチ…とそろばんみたいなのを弾くこと5秒。


「お会計1850ザナってところだね、あるかい?」


「ああ、これでいいだろ?」


 チャリンチャリンと丁度になるよう小銭を合わせる。


「毎度あり。気をつけなよ」


「ありがとうな…また来るよ」


 こうして装備を整えた俺は店をあとにするのであった。


 ステータスを見てみると、主に攻撃と防御が普通の騎士の平均よりも高い。しかし魔法が使えないのがちょっと痛い。だか魔法が使えなくても攻撃だけで何とかなりそうでもある。それと前世の影響かレベルアップした時のステータスの伸びがいいのと、貰える経験値も多いみたいだ。


 一通り確認したあと。


「さて、仕事でも探すか。」


 この帝国の仕事は大きく2つに分かれてる。


 1つは内政関係。例えば道路工事や運搬、商業、あとは防衛なんかが当てはまる。


 2つ目に外征である。外征は帝国の外に行き魔物を倒したり、あとは帝国から帝国に物資を送る際の護衛なんかが当てはまる。


 内政関係は大抵金になりにくいが命の危険が低い。あとは外征の人が副職として行ってるか外征関係からリタイアした人が本業としてるケースもある。


 外征関係は、とにかく一攫千金。これに尽きる。しかしそれにつられて死ぬやつも多い。どれくらい死ぬかというと帝国に墓場が埋まるぐらい死んでるとかなんとか。だから1番いいとされてるのが外征で稼いだあと内政関係にシフトするのがいいらしい。


 だか俺には関係ない、元エリートの俺がちまちまと小金稼ぐとかリタイアなんて性にあわない。


 さっそくギルドみたいなところに入ると、たくさんのクエストがある。人はそれなりに居るがやはり命が惜しいのかクエストを諦めてる人もいる。


「それじゃぁ、こいつにするか。」


 俺が選んだのは☆2、ガンダーウルフの討伐。何やら凶暴らしく初心者の壁とも呼ばれてる。


 簡単そうに見えるが、これでもたくさん騎士やガンナーが死んでるとか。


「でもこんなところでつまづいてたらエリートなんてなれねぇな…」


 せっかく買ったこの剣の性能も試したいし。


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 帝国の外側についた、一言行ってかなり異様だ。内部からだと想像できないような気配がする。


 そして血と獣の匂い…既に近くに敵は居そうだ。


「気をつけて進まないとな…」


 その瞬間、横から何かが襲いかかってきた!


「っ…危ねぇな…流石初心者の壁ってところか…」


 奥歯をギラギラさせながらこちらを睨んでくる獣…正しくガンダーウルフだろう。しかし群れてないのか単独である。


「だが1:1ならこっちが勝つぜ!」


 そう、ここで負けられないのである。


 ウルフが飛びかかる。それを剣で防ぐ。


 剣とキバが触れて火花が散る…互いに1歩も譲らない。前世では体験したことない感覚に思わず汗が吹き出る。


「うぉぉぉ!」


 一瞬のスキを見て剣でウルフの胴体を貫く、血が飛び散り鎧が返り血を浴びる。


 しかしウルフの方も抵抗し、噛み付こうとしてる。しかし彼はここでは引かず、


「てめぇなんかに遅れは取れねぇんだよ!くたばれ!」


 そのまま蹴りでトドメを刺した。


「はぁ…はぁ…くたばったかこの犬っころ。」


 ウルフが動かないことを確認すると、返り血で血まみれになったままその足でクエスト報告に行ったのである。そしてギルドの受付の人に驚かれた。


「キャー!血まみれよー!誰か救護隊を!」


「黙れ!俺は怪我なんてしてねぇぞ!早いところ報酬をよこせ!」


 あとから分かったのだがちゃんと返り血を落とすアイテムがあったらしい。あのじじぃ重要なことを言い忘れやがって…


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 その日の夜、宿屋にて


「とりあえずこの世界には慣れたかな。」


 あのあとなんとか報酬金を貰えた、しかしもう夜も深くなったのでそこら辺の宿屋に直行したのである。


「これからエリートになるんだからなんとかしないとな…」


 そんな不安を抱えつつ男は眠りに着いたのであった。


 そうして異世界での1日が明ける…

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