異世界でひたすらコンティニュー!

双葉カイト

知識の代償

 「ーー人の日記を見ることなんて滅多に無かったから、結構新鮮な感覚だな〜。」


 俺は引き続き彼女の日記を読みながら、そんな独り言を呟いていた。どうせこの空間には俺しか居ないんだし、そもそも俺の存在が他人に見られるかどうかも怪しいしな。


「それにしてもクリフトちゃんって字がすっごい綺麗だし、ごちゃごちゃ書いてなくて読みやすいな。あの変なぬいぐるみを愛でて無ければ、とても可愛くて優しい子になれたと思うんだが……。」


 彼女がいっつも持っているヤバいぬいぐるみの『くーたん』に何回俺が殺されたことやら……。あれ以来ぬいぐるみがちょっとだけ怖くなったぞ。


 そんなことを考えながら、ペラペラとページを捲って行くと興味深いもの内容があった。


『30日目


 あれから色々な事があったけど、私は一週間後には「高校生」ってことになるみたい。


 職員達はすごく喜んでいた。今まで見せてきた笑顔よりも、ずっと嬉しそうだった。出来ればお父さんとお母さんにも、この笑顔を見せてあげたかった。


 そして、私や残りの子供たちが去った後にここは取り壊されちゃうみたい。せっかく友達も出来たのに、また離れ離れになっちゃうのはとても寂しい。


 けど私にはお父さんの「くーたん」が居るし、新しい高校でもきっと上手く行くと思う……お父さんが入れば『みんなの心を読むこと』が出来るから!ここの人達のような嘘だって見抜けるし、騙されることがない!』


「ってマジかよ!あのふわふわぬいぐるみがまさかの父親!?そして父親に対しての名前がそれなの!?」


 俺は動揺していたのか、日記を放り投げてしまった。


 あのぬいぐるみって……クリフトちゃんの「お父さん」なのかよ……。


 と言うよりも男に『くーたん』って名付けるのは……ちょっと恥ずかしいぜ?


「マジかよ……てか普通に人を殺せるぬいぐるみって時点で変だとは思ってたけど、まさか元は『人』だったなんて思わなかったぞ。」


 それに『考えてることを見抜く能力』なんて厄介なものまで付いている……だからあの時のことがバレたんだ……。


 しかし……この事実が分かっちゃったら、何故彼女があのぬいぐるみを未だに抱え持つ理由が理解出来た。


 自分だって両親から色々な文句やら説教を喰らってきたが、いざ『じゃぁその両親を喜んで手放せるか?』と聞かれたら、いいですよ!だなんて言えるわけがない。


「けど母親はどうしちゃったんだろうな〜?死んだとしても父親の魂はぬいぐるみになってるから、多分もう1つぐらいぬいぐるみあるのかな?」


 そしたらなんて名前になってるだろうか?男で『くーたん』って名付けるぐらいだから……『けんしろう』とかかもしれない。


「って……俺の体が透けてる?そろそろこの世界におさらばってことか?」


 ふと俺の体を見ると、何かの光に包まれるようにふわふわと光りながら、まるで薄い布のように透けていた。


 まぁ彼女については色々分かったし、もうこれ以上ここの世界にいる必要なんてないからな。


「そんじゃぁ……帰った後にちゃんとクリフトちゃんに会うとしますか!!」


 ぐっと腕を天に上げて、俺はあのじじいがいる所に戻ることにした。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「……っし!戻ってこれたぜ!」


 周囲を見渡した後に、相変わらずのんびりしているジジイを確認して、ようやく自分があの世界から帰ってこれたことを実感出来た。


「おーう……やっと帰ってきたか〜。まぁまずはお疲れ様と言いたい所だが、彼女のことを知ったお主はこれからどうするんだい?」


「どうするって……とりあえず嘘はつけないから、正直に言っておけば大丈夫なんだろ?」


 あのぬいぐるみの能力なのか分からないが、とにかく何かしらの形で彼女は他人の心を読めるので、言い訳したり嘘をついたりするのは自殺行為だ。


 いくら元ヒキニートの俺でも、ここまで教えられていて何の対策もなしで、死ににいくような馬鹿ではない。


 しかしジジイは間違っているとでも言いたげな顔をしている。


「おい!その顔やめろ!気持ち悪いから!」


「いや……なーんでそこまで分かってて、この答えに辿り着かないのかが分からないのだよ。


 確かに『嘘をつかない』とかも大事だが、馬鹿正直にこの事を話したら彼女はお主を怖がるだろうな。」


 答えに辿り着かない?そしてその事を知られるとヤバい?何を言ってるんだこのジジイは?


「あのさぁ……クリフトちゃんに嘘は通じないってのはもう分かり切っているじゃないか!『怖がる』って言われても、どうしようもなくない?」


 てか俺も彼女に対して後ろめたいことをしたくないのだ。だって隠し事されるのは誰だって嫌なことだし……。


「……確かにお主の能力だとどうしようも無いかもしれないが、もし『最近知り合った友人がお主の過去を詳しく知っている』としたら怖くないか?」


「そりゃ怖いわ!そしたらお前何者だよ!って思うに決まってるだろ!……ってそう言うことか!!」


 俺は彼女の過去に潜った為に、色々と詳しく知っているが……その肝心の彼女は俺がそのようなことをしているなんて、全く知ってるはずもない!


 そしてジジイもほっとした様子で、


「やっと分かったか〜……。知ってしまったからこそ、今のお主はその事がバレないようにしつつ対策を練らなきゃならないのだぞ!」


 こんな無理ゲーなことを言っていた。嘘はつけないが、全てのことを正直に話せないという二律背反が、今の俺にのしかかっている。


 この重大な問題をどう解決しようか……?俺はしばらくこの問題を前に呆然としていた。

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