非現秘怖裏話

双葉カイト

休日の定例会

「……外暑っつい!!こんなに気温が高いなんて思わなかったわ!」


 気分が高揚したまま、薄長袖にジーパンの格好で外に出たのは良いのだが、あまりの暑さに慌てて家に帰ってきたのだ。


「7月でもこんなに暑いなんて……ここから先どれだけの暑さになっちゃうの〜……?」


 本格的な夏までまだまだ早いのに、ここでへばっている様だと、これから先どうなるのだろうか?


 「……あーダルい!もう夏とか冬とか無くなれば良いのにー!」


 多分誰もが1度は思ったことが、あるだろう文句を私は自分しか居ない自宅で、ただぶつぶつと愚痴っていた。


 「はぁぁ……美容院にも行かなくちゃならないし、夏用の服を買わなくちゃならないなんて〜……。」


 目の前に立ちはだかっている物事に足踏みしながら、ひとまずどうにかしようと計画を立てることにした。


 「……まずは洋服を買うことが第一で、その次に美容院に行って髪を切ってくること……。


 そしてそれが終わったら今受けてる講義の復習に、銀行から生活費の分も引き出しておかないといけないし……。」


 自分のやるべき事を声に出して数えていくと、その数はどんどん増したのでもう辞めることにした。


 「一人暮らしってこんなに大変だったの……?」


 高校時代には考えられなかったことが次々と押し寄せてくる現実に、私はただただ絶望するしか無かった。


 「……今日はお昼までごろごろしますか〜。」


 朝目覚めた時の気分は何処に行ったのか?と気になるぐらい今はどんよりしている。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 しばらくスマホでネットサーフィンをしていると、あれだけあった暇な時間がもう無くなりかけていた。


 「ふ〜……そろそろ着替えたり、ご飯食べておかないと定例会に遅刻するわね……。」


 この4時間の殆どをブログやネット掲示板の閲覧で過ごしてしまった。今になってみると、かなり無駄なことをしたな……と思った。


 「でも……大学生活はまだ長いし、たまにはこういった時間の使い方もありよね!」


 そう自分に言い聞かせながら、私は適当にお昼ご飯を済ませておき、着替えも適当な半袖と短パンと言ったファッションの欠けらも無いものにした。


 「……傍から見たらこんなのが大学生なんて思わないよね〜……。」


 姿見鏡に映っている自分に自虐を混ぜながら、定例会に遅れないように急いで出かけることにした。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「こんにちは……会長さ……何ですかそのTシャツ……?」


 定例会が始まる15分前に、部室へ到着して真っ先に目に入ったのは『単位を下さい』と書かれた、黒のTシャツを着ている会長の姿であった。


 しかし当の本人は、私が唖然としている中で至って冷静だった。


 「おっ!誰かと思えば凜ではないか!……どうやら私の『単位Tシャツ』に驚いているようだな!


 なんとこのTシャツは着ているものに、『単位』という奇跡を与えると聞いたものでな!単位が1つでも欲しい私にはぴったりだったのだよ!」


 してやったり顔で長々と説明している会長だが、私にはそのTシャツにそこまでの価値があるとは全く思えない。


 「会長さん……凛さんも呆れてますよ。てか勉強せずに単位貰えるなんて事ないですって……。」


 蘭先輩も私と同じ考えなのか、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。


 さらに追い打ちをかけるように菫ちゃんが


 「そんなんだから大学3年になっていても、ずっと処女のままなのですよ。それに会長に足りないのは単位よりも、女子力だと思います。


 だからまずは、その浮浪者みたいなボサボサロングヘアから、ミディアムのナチュラルヘアとかの清潔感のある髪型にしてください。」


 私の心にも響く火の玉ストレートを会長に投げ込んでいた……これには流石の会長も、


 「そんなに言わなくてもぉぉー!あとこの年になっても処女とか、私自身の力でどうしようもないことを的確に指摘しないでぇぇ!」


 もう最後の方なんてほぼ泣き出しちゃっていた……。いくら会長がいい加減な奴だと言っても、ここまで集中砲火する必要はないと思う……。


 「まだ10分前なのに、皆さんお早いで……なんで会長さん泣いてるのー!」


 そして嵐は嵐を呼び込む性質を持っているのか、この場面で葵さんが来てしまった。


 「いや〜……会長さんのガサツな場面をボロクソに言ったら泣いちゃったんですよ〜葵ちゃん。」


 平然とした顔でそう言い放つ菫ちゃんに、葵ちゃんは盛大に驚いていた。


 「ああぁぁ!?菫ちゃんが闇堕ちしてらっしゃるぅぅぅ!ちょっと凛ちゃん……本当にここでなにがあったのぉー!」


 とにかく彼女は動揺したまま、私に縋り付くように近付いてきた。


 「ちょっと葵さん落ち着いてくださいって……あと近いですって……。」


 「この状況の何処に落ち着ける要素があるのよー!変態菫ちゃんは闇堕ちしてるし、あの鋼のメンタルだけが取り柄の会長が沈没してるしで、もう崩壊寸前よ!」


 こんなに動揺してる中で、爆弾発言を飛ばすことが出来る葵さんに、私は清々しいと思っている。


 「無意識なのか知りませんが、葵さん今とんでもない事を言っていたのに気づいてます……?」


 「言うな……気にしてても言うものでは無いぞ!凛!」


 葵さんにツッコミを入れていると、そっと蘭先輩から肩を叩かれて、そっと静かに忠告してくれた。


 しかし、まだ定例会が始まってもないのにこの始末だと……これから先が本当に思いやられてしまう。


 それに何時からここに来ていたのか知らないけれども、千秋ちゃんにが部室のドアからじっとこちらの様子を伺っていた。


 多分この状況に、流石の千秋ちゃんもどうしていいのか分からないのだろう……。


 かつてないこの状況を打開するにはどうしたら良いか……。そんな途方にもないことを考えながら、時間は過ぎ去っていくのであった。







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