非現秘怖裏話

双葉カイト

明日への布石

「さて……夜ご飯は……ってお昼の時に餃子にしようって決めてたじゃん!どうしてこうも時折ド忘れしちゃうんだろ……。」


 自分で決めたことを忘れていることに、危機感を覚えつつも、気持ちを切り替えて夜ご飯を作ることにした。


「まずは冷凍餃子があれば良いんだけど……無かったらどうしよう……。」


 恐る恐る冷蔵庫を開けて中身を見てみてると、一応冷凍餃子は有ったので一安心した。


 後はこれ以外に何を作るかが問題である……。流石にご飯と餃子だけってのは寂しすぎる……。


「なーんか……軽くて丁度ご飯とかに合いそうな一品ものとかないかしらねぇ……。」


 丁度その時、ピコーンとスマホから通知音が鳴った。ちょっと内容が気になったので、確認することにした。


『おー?凛ちゃん?お昼にも一応メール送ったんだけど見たー?もし見たなら、念の為こっちに返信ちょーだい?


 もしかしたら明日の13時くらいに、サークルの部室で定例会があるかもしれないから……来れるなら来てね〜。』


 差出人は千秋ちゃんからで、内容は定例会についてだった。


 「明日……休日の日曜日に定例会なんて珍しいわね……。一体何をするのかしら?」


 あの会長の事だから、休日に定例会なんてやらないと思っていたのに……。


 もしかして……いい加減に風紀委員とかに説教を喰らったから、その対策に定例会を開くのだろうか?


「まぁあの会長のやることは、本当に想像の遥か上をいくからね〜……。」


 ため息を付きながらも、一先ずは千秋ちゃんに返信をしておかなくてはと思い、軽くお礼とお昼頃に気づかなかったことへ対しての、謝罪を送ることにした。


『お昼に返信出来なくてごめんね……。一応メールの内容には目を通したから、謝罪の意味も込めて返信するよー!


 あと……明日の定例会は普通に行けるから大丈夫だよ〜。』


 「これで良しと!……って定例会あるから今日は夜更かししないで、早めに寝ておかないと遅刻しちゃうわ……。けど、あれだけ長く寝ちゃってたから……今から寝れるかな?」


 しかしお昼の時に長く寝てしまった為か、今から布団に篭って寝ようとしても、多分寝れないであろう……。


「……明日には明日の風が吹くって言うし、まずは目の前のやることを片付けよっと!」


 どうせ定例会に遅れたら遅れたで、『ちょっと寝不足で〜……。』と言うような感じで皆に言い訳しておけば、きっと納得してくれるはずであろう。


 今の時刻は午後8時30分。結構のんびりしていると、あっという間に午前0時を過ぎてしまうから、早めにお風呂とご飯を済ませておかなければならない。


「は〜……誰かご飯やらの手伝いをしてくれる人とか居ないのかなぁ……。」


 一人暮らしをしていると、ついついこんな悩みが出てきてしまう。


 高校生の頃と違って親からの束縛を受けない代わりに、全てのことに対して自分に責任が降りかかるようになった。


「あー……いっそ『あの夢』のように、ただただ毎日をダラダラ過ごしていたいなぁ〜……。」


 ただ学校に行って、なんとなくで図書室とかで時間を潰し、家に帰ってダラダラと本を読みながら、時折勉強する。


 そんな成長性も生産性の欠けらも無い生活を、ダラダラと責任を持たないで怠惰に暮らすことが私にとって1番似合っている。


 もしかして『あの夢』こそ……私の理想?


「まっ……そんなこと考えていても何も変わらないよねぇ……。早いところご飯を食べて、お風呂に入って寝るとしますか。」


 この世の理不尽な事に憂鬱な気持ちを抱えながら、私は夜ご飯を食べることにした。


 ◇◇◇


「あぅぅ〜……まっっったく寝れない!!」


 あれから夜ご飯を食べ終わり、お風呂にも入り終わった私は、明日の為に早めにベッドに潜り込んだ所までは良かった。


 だが問題はここからで、ベッドに潜り込んでから30分ぐらい目を瞑っているのにも関わらず、案の定寝れていないのである。


 「やっぱりお昼時に爆睡してると、夜寝る時に辛すぎるわ……。とりあえずネットとかで『ぐっすり寝れる方法』って調べてみるか〜……。」


 夜ご飯を食べる前に予想した事が的中して、『どうしてこうも悪い予想は当たるのだろうか?』と頭を抱えながら、方法を調べていると沢山出てきた。


 「うーん……色々方法があり過ぎてどれにしようか迷うなぁ……。てかこれ全部眺めてるだけで気絶するように寝れそう……。」


 情報量の多さに唖然としながら、私はひたすらベッドの上でスマホを眺めていた。


 「ふぅ……これだけ細かい文字を見たから目が疲れちゃってるし……。」


 急に目がしょぼしょぼして来たので、しばらく目を休めようとスマホの画面から目を離して休ませる事にした……。


 ◇◇◇◇◇◇


 「……ぅ……んっ?いつの間にか寝てたのかしら……?」


 気づいたらスマホの電源をつけっぱなしにしたまま寝落ちしてしたみたいだった。


 ふとスマホの画面を見てみると……画面が薄暗くなっており、


『充電が残り10%を切っています。』


 あまりにも機械的で無情な表示がデカデカとあって、私の眠気を全て吹き飛ばしてくれた。


 「うぐっ……ずっとつけっぱなしだったからもう充電無くなってる!?」


 慌ててベッドから起き出し、スマホを充電する。机の上に置いてある時計を見てみると、今日は7月3日(日曜日)の午前8時32分であった。


 たしか……定例会が午後の1時から始まるから、ここから大学まで約1時間程度かかる事を考えると、家に居れる時間は約4時間弱である。


 「……とりあえず残り4時間でスマホの充電が終わることを祈りながら、まず何をしようかな……。」


 一先ずは暇になったので、何をしようかと考えながら洗面台の鏡を見つめると、かなり髪が伸びていることに気付いた。


 そう言えば、最後に美容院で散髪したのがいつだったのか覚えてない。


 「結構髪が伸びてきてるし……折角だから美容院にでもちょこっと寄ってみようかしら!」


 この余った4時間をただ呆然と過ごすよりも、何かをした方が絶対に良い。


「えーと……まだスマホは充電出来てないけど、先に美容院に行って、家に帰ってきた時にはもう充電出来てるでしょ!」


 自分でもびっくりするほどスムーズに予定が立てられていき、正直今日の気分は最高潮だ。


「今日は何かいい事が起こりそうな予感がするわ……!だから出来ることはなんでもやってみよっと!」


 昨日の憂鬱な気持ちが嘘のように晴れた私は、軽やかに着替えた後で直ぐに外に出ることにした。



「ホラー」の人気作品

コメント

コメントを書く