非現秘怖裏話

双葉カイト

再び夢の中へ

「結構このスレって色々なネタが詰まってるわね〜。見てて全く飽きてこないわ。」


 食後の片付けを全て終わらせた後で、ベッドに寝転がりながら私はスレを眺めていた。


 ここだけの風景を見てみると、完全に自宅警備員のものと同じである。


 しかし、しばらくスレを眺めても肝心のスレ主が帰ってこない。


 その代わりと言っていいのか、お昼頃から飯テロを決行してる中国さんが、暴れ回っているのだが……。


 《51.謎のななしさん ID.tugu》


『謝謝!餃子の後はシューマイアルヨ!中には豚肉とニンニクをたーくさん詰めておいたでアルカラネ!』


 《52.謎のななしさん ID.Frmk》


『んめ……んめ……毎日こんな中華料理が食べられたら良いのにな〜……。』


 《53.謎のななしさん ID.itad》


『>>52  毎日こんなの食べたら間違いなく身体に悪そうだな。』


 《54.謎のななしさん ID Frmk》


『>>53 それはあるかもしれないが、どうせ年を取ったらこんなもの食べにくくなるし、今から沢山食べておいた方がよくない?』


 《55.謎のななしさん ID.krsw》


『>>54 だな。ワイも昔は、ラーメンとか餃子の2人前を毎日2食ぐらい、平気で食べられたんだが……おっさんとなった今では食えなくなってしまったよ……。』


 《56.謎のななしさん ID.JFDA》


『>>55 それにおっさんになるとぎっくり腰とかも来るし、何よりも体力が若いころと比べて、格段に落ちていることが実感されるんだよなぁ……。』


 スレを眺めているうちに、だんだん歳をとることが怖くなってきた。


 「私がアラフォーになったらどうなっちゃうんだろう……。」


 多分肌もガサガサになっているだろうし、運動能力とかも格段に落ちているだろう……。そしてそんな自分に自己嫌悪していくのだろうか?


 「いやいや!!そんな将来の自分なんて想像もしたくない!!」


 未来の自分にどうしようもない恐怖を抱きながら、必死に頭を振りなんとか忘れようとした。


 「今はそんな未来の話よりも、このスレ主が体験したものと《幻想の楽園》について調べておかないと……。」


 ここ数日《幻想の楽園》について色々調べていたが、いい収穫は何も出てきてない。


 いくら調べても考察やコピペが氾濫していて、肝心のものが出てこない。


「結局《幻想の楽園》はただの都市伝説であって、フィクションなのかな〜……。」


 ここまでネットなどで色々と調べあげても出てこないとなると、実は存在してないのではと思ってしまう。


 そもそも元ネタがネットの掲示板なのだから、嘘の可能性だって少なからずあるわけである。


「あ〜……もう色々と疲れちゃったよ……このままお布団に包まれながらずっと寝てたーい……。」


 無事に大学に入ってオカルトサークル(?)へ入ったのは良いものの、何か特別なものが見つかるわけでもなく……もう気がつけば7月になってしまった。


 これからどうしようかな……という言い知れぬ不安が、私をベッドに誘っている。


 もう気がついた時は、既にベッドの上で寝転がっていた。


 「まだ夜じゃないのに……すっごい眠いし、身体もダルすぎる……。もう今日はこのまま寝よっと……。」


 私は眠気に身を委ねることにした。今日はどうせ1日休みだし、ずっと寝ていても問題無いのだから……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 あれからしばらく寝ていたのか、体がものすごく重い……。しかし何故か周囲から騒ぎ声が聞こえてくる。


 一人暮らしのはずなのに、周囲の声が聞こえることなんておかしいはずだ。


 ひとまず状況を確認する為に身体を起こそうとすると、どうやら自分は椅子の上に座っているみたいだ。


 私は確かすごい眠気に襲われた後に、自宅のベッドに転がり込んだはずなのに……?


 兎にも角にも、まず周囲を確認しなくてはどうしようもない為、顔を起こしてぐるりと状況を確認すると、そこは自宅ではなく昨日の夢と同じ高校にいた。


 「んっ……ここは……?またあの『夢』?」


 驚きつつも席から立ち上がると、突然背中をドーンと押された。


 慌てて後ろを振り向くと、ケラケラと笑っている綾子ちゃんの姿があった。


 「まーた凛ちゃん寝ぼけちゃってー!いくら高校生活が忙しいからって、そうやって授業中に寝てばっかりだと背中からキノコから生えるわよ〜?」


 彼女の言うことから察するに今は休み時間であって、授業中ずっと私は机に突っ伏して寝ていたらしいのだが、その当の本人である私がそれを覚えてないのである。


「い……いやぁ……それが全く覚えてないのよね……ちゃんと家で寝てるんだけど、どうやっても学校で寝ちゃうのよね……。」


『これは理不尽よ!私が気がついた時にはもうこうなっていたのに!』と言いたい所をぐっと堪えて、如何にもありふれてそうな言い訳で誤魔化すことにした。


 どうせ本当の事言っても絶対に信じてもらえないだろうし、『何を言ってるのかな?この人は?』であしらわれそうだし……。


 けれどそんなベタな言い訳の後に、瑠璃ちゃんからさらなる事実が明らかになった。


「凛さん……確かに寝てしまうことも分かりますが!それでも流石に授業時間の80分を全て寝ることはダメでしょう!」


 ほんとに私は何していたんだろうか?と言うよりも教師もずっとスルーしていたの!?


 そんな私の心の声が聞こえているかの如く、瑠璃ちゃんはさらに私に追い打ちをかけていく。


「そして私や先生が貴方のことを起こそうと何度も試したのだけれども、ただの1度も起きる気配が無かったからずっと放置してたのよ……。」


 これだけでも顔から火が出るぐらい恥ずかしいのに、周囲のクラスメイトがじっとこちらを見つめてくる為、ただただ私はうつむくことしかできなかった。


 おそらく授業中ずっと寝ていた私をクラスメイトがこんな感じで見つめていたのだろう……今まで学生生活を過ごしてきた中で1番の公開処刑である。


 そして瑠璃ちゃんは最後に


「……ここまで長々と話してきたけど、私は貴方のことを責めてる訳じゃなくて、ちゃんとしっかりして欲しいって応援してるのよ。


 だから落ち込まないで、次はこうはならないぞ!って気持ちを切り替えていきましょ!」


 と私のことを励ましてくれたが、正直今の私はなんとか泣くのを堪えることで精一杯だ。


 夢の中でもこんな公開処刑されるなんて思わなかったよ……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 とりあえず気持ちの整理を行う為に、私は廊下に出てポツンと置かれている長椅子に腰をかけた。


 するとどこから来たのか、隣に綾子ちゃんが座ってきた。


 彼女は何やら私を気にかけてくれているので、一応反応してみた。


「……何よ……綾子ちゃん……。」


「……今の凛ちゃんって結構メランコリーな感じ?」


「当たり前よ……あれだけの公開処刑で鬱にならない人を見てみたいわよ……。」


 しかしそんな私を彼女は鼻で笑って、肩を抱いてこう言い放った。


「いや〜……凛ちゃんって素直で可愛いよね〜!もし私ならその場で開き直ってるもん!」


「ちょっと……近いって!分かったから!一旦落ち着いて!」


 なぜ私の肩を抱いたのかよく分からなかったが、これはこれで変な目で見られそうなので急いで離れることにした。


「ごめんごめん!ちょっとスキンシップ足りてないかなって思ったから、私がしてあげたんだけど、ちょっと過剰すぎたかしら?」


「過剰というよりも、スキンシップとか自体もう足りてるから要らなかったわ……。それとこんなところを見られたら、みんなに変な目で見られるわよ……。」


 綾子ちゃんの性格が全くつかめない。雰囲気とかは千秋ちゃんと似ている部分があるのだが、どこか常識がズレているのでどうしても近寄り難く感じてしまう。


「まぁ凛ちゃんの気持ちも落ち着いたところで、まだ休み時間はあるからちょっと色々話しましょっ!」


「……確かに気持ちは軽くなったわね。なんだか落ち込んでいた自分が馬鹿みたい……。」


 気付けばつい先程まで抱えていた、憂鬱な気持ちが晴れていた。


「ふふふっ……それじゃ早速質問するけど、凛ちゃんって大学に入ったら、やりたいこととかあるかしら?」


「やりたいことね……私の場合は大学に入っても、ずっとオカルトとか都市伝説のことを調べてると思うわよ。」


 すると綾子ちゃんは、なにやら物言いたげな表情で私を見つめると


「相変わらず凛ちゃんってオカルトとか好きよね〜……。それよりも髪を茶髪に染めてみたりとか、どっか海外へ旅行に行ってみたりしないのー?」


「無理に決まってるでしょ〜……この根暗な私にそんなの似合わないわよ……どうせ大学になっても性格なんて変わらないし……。」


「え〜……なんでそう決めつけるのさ〜凛ちゃん?まっさか大学生活をもう体験しちゃってたり〜?」


 そのまさかで大学生になっても、オカルト関係のことをずっと調べてます。


 でも楽しいからまだこれからも続けるつもりだけど!


「そんな訳ないじゃない……。そういう綾子ちゃんは大学生活をどうするつもりなのかしら?」


「えー?私か〜……。大学生になったらまず髪を金髪か茶髪に染めて、毎日サークルとかバイトで青春を完全燃焼させるわ!


 やっぱり大学って高校と比べて、髪型とか服装とか色々と自由度が高いのがいいと思うのよ!」


 やっぱりこの子は千秋ちゃんと似てる……。そう言えば綾子ちゃんは、この後結局どこの大学に行ったんだろう……?


 ……ダメだ、彼女のことが何も思い出せない……。これだけ仲が良いはずなのに、逆に何も覚えてないのはどうしてだろう……?


 そんなことを思っていると、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。


「ほわぁ!?もう休み時間終わりー!?ほらほら凛ちゃん急いで戻らないと、先生に怒られるよ!」


「そうね!言われなくても分かってるわよ……綾子ちゃん!」


 こうして私と綾子ちゃんは、授業へ遅れないように急いで教室に戻るのであった。

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