非現秘怖裏話

双葉カイト

追憶の夢

 「さてさて!今日の定例会で言うことは……。」


 会長は超上機嫌の状態で、いつもの如く適当な定例会を開いた。


 そもそも言いたいことは、ほぼ前回の定例会で言っていたではないか?


 「まずは昨日の定例会でも言ったんだが……このサークルメンバーでこの夏休みの中に海に行きたいと思うんだ!


 まぁまだ場所とかは決まってないし、予定とかも固まってないけどとりあえず頭の片隅にでも置いておいてくれ!」


 うん……この内容なのは正直予想できた。でもまだ何も決まってないのに、海に行くなんて言って大丈夫なのかなぁ……。


 「そんで〜……今日の定例会はこれでおしまいだな!あとは自由行動にしてくれ!」


 そんなわけで今日の定例会が終わった。わかったことは昨日の定例会から何も進歩してない事だ。


 「んぅ〜……あれ?もうこんな時間になってたの〜?」


 定例会が終わって直ぐに、ソファーで寝かせていた菫ちゃんが目を覚ました。


 するとそれに気がついた蘭先輩が、


 「おはようだな、菫ちゃん。今日の定例会はもう終わったよ。とりあえず夏に海に行くって予定らしいけど、まだ何も決まってないからな〜……。」


 「そうなのですね〜……てか同じような内容を昨日の定例会で聞きましたよ……!」


 まぁ昨日の定例会出ていた菫ちゃんからしたらそう思うだろう……。


 しかし、会長はそんな2人の会話をなかったことにして


 「んじゃ!私は先に帰るから鍵とかは蘭がよろしくな!!」


 「はいはい……分かりましたよ会長さん。あと、お疲れ様です。」


 と蘭先輩に色々押し付けた後で、いち早く部室から出た。


 「相変わらずあの人の考えとかよく分からないわ……それでいて、よく会長に就任出来たのやら……。」


 会長が部室から出た後に、蘭先輩がため息を付きながらこんなことを呟いていた。


 確かによくあの性格で会長なんかになれたものだ……。誰か反対したりとかは無かったのかな?


 もしくは会長と同期の人が1人も居なかったとか……?正直これが1番有り得そうだ。


 「とりあえず会長に願っていることは、もうちょっと色々な面で頑張って欲しいところですよね〜。」


 結局のところ千秋ちゃんが、言っているこれに尽きるのだ。


 まずはこういった適当に済まそうとする彼女の癖をどうにかしないといけないのだが……多分もう手遅れだろう。


 「ん〜……まぁ今日は特に何もやることないし、私はここでしばらくゲームしてるから、先に帰りたい人はもう帰って大丈夫よ。」


 そう言って蘭先輩は、ポチポチとゲームを起動している。


 確かに定例会でも何も無かったし、今日は早めに家に帰って寝てしまおうか……。


 「それなら私は先に帰りますね。みんなお疲れ様です。」


 「おっす!凛ちゃんまた明日ねー!」


 残っている3人に軽くお辞儀した後に、千秋ちゃんの元気な声を受け取り、私は部室を出て帰宅することにした。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 まだ帰宅ラッシュに入る前に、自宅の最寄り駅に着くことが出来た。あんな蒸し暑い中で激混み電車に乗る勇気は無い。


 「ちょっと涼しくなってるけど……やっぱりもう夏だから蒸し暑いのは変わらないわね……。」


 日が暮れかけて直射日光が入らなくなったのか、お昼ぐらいの暑さでは無いがそれでも湿度が高いので、とにかく汗がにじみ出る。


 「うーん……まだ家に帰って寝るには早すぎるし……一旦ショッピングモールに行ってくるか……。」


 ここで突っ立っているのも仕方ないので、駅前にあるショッピングモールに立ち寄ることにした。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「ふぅぅ〜……やっぱり店内は涼しいわ〜……。」


 早速中に入ると、冷たい風が頬を撫でてくる。蒸し暑い外とは違って、断然居心地が良い。


 「ん〜……まずは本屋に立ち寄って時間を潰そうかしら?」


 汗を拭った後に本屋に立ち寄ると、何やら資格対策や赤本などの参考書が、これ見よがしに置かれてある。


 「……そう言えばそろそろ受験勉強が本格化してくる時ね……あの体験は二度としたくないし、思い出したくもないけど……。」


 たくさん置かれている参考書を見ないようにしながら、私は『心理小説』と書いてあるジャンルの棚に向かった。


 「これだけ本があると、どれから買ったらいいか迷いそうね……。」


 棚にぎっしり詰め込まれてる本を眺めながら、ふと気になった本を手に取った。


 「『理想郷のような天国の夢を見るために』……ちょっと家で読んでみよっと。」


 もしかしたら、この本が《幻想の楽園》となにか関係があるかもしれないと、淡い期待を持ちつつ買ってみることにした。


 けれど新品で1200円はちょっと高くついてしまった……こうなったら無駄にしないように、2ヶ月ぐらいかけてこの本を読み倒しておこう。


 買った本を鞄の中にしまい、店から出るとまたあの蒸し暑い熱気が身体を覆いつつんだ。


 この蒸し暑さに我慢できなかった私は、がむしゃらに自分の中での最短距離を、最速で走り出し家に帰った。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「うぅ……もう汗でびしょ濡れだよ〜……。」


 全力疾走で帰宅した後、急いで脱衣場へ行き鏡で自分の姿を写すと、全身から汗が吹き出している自分がそこには居た。


 「暑い夏なんて無くなってくれればいいのに〜……。」


 そんな恨み節を込めながら、シャワーで汗を全て洗い流すことにした。






 「……ふぅ……シャワーも浴びたし、早速買ってきた本でも読みますか!」


 パジャマ姿でベッドに寝転がり、パラパラと小説に目を通す。


 書いてあることは、『夢とはその人が心の奥底で思っている光景である。』ということや『同時にそれは人にとって、生きる意味をもたらすものである。』などといった哲学的なものであった。


 内容は読んでいて面白いのだが、なにぶん非常に専門的かつ哲学的なので、集中力もそれなりに使うのだ。


 「ふわ〜ぁ……そろそろ時間割とかしないとなんだけど……眠いから明日にしようかな〜……。」


 読み進めていくと、だんだん眠くなってきたので今日はこのあたりで読むのをやめて、準備やら何やらも明日頑張ることにした。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「早く目を覚ましなさい!このままだと遅刻するわよー!」


 ぼやけた意識の中で誰かの声を聞いた。そしてすぐに私の掛け布団を引っペがされた。


 「ぅぅ……誰なのー?」


 堪らず私は目を擦りながら、のそのそと起き出すことにした。しかし夏という割には空気が冷たく、無意識にぶるっと身震いした。


 「あんたねー!寝ぼけてる場合じゃないのー!いっつも夜更かししてるから、朝起きれないのよ!」


 「だって〜……。」


 「言い訳してる暇があったら、着替えて朝ごはんを食べなさい!」


 しかし、こんな一人暮らしの家に誰か来たのか?この声はお母さんと似てるのだが……。


 半分寝ぼけながらも、目の前にいる人を確認するとそこには母親の姿があった。


 「あれ?お母さん来てたんだ?来るなら行ってくれればいいのにー?」


 大概来た理由は、寂しくなったとか愛する娘の顔を見に来たとか、そういったことだろう。


 「まーだ寝ぼけてるのかい!?今日から高校三年生になって、受験生になったというのにそんな様子だと志望校落ちるわよー!」


 はて?志望校?高校三年生?今の私には全く関係ないと思うのだが?


 「うーん……ってここ昔の家だ!?なんで!?」


 部屋の周囲を見渡すと、間違いなく一人暮らしする前に住んでいた自分の家だ。


 「なんでもなにも……あんたは昔っから今までずっとここに住んできたじゃない?何もおかしいところなんてないじゃないか?」


 確かに大学生になるまではここにずっと暮らしていたが……今は部屋を借りて一人暮らししてたじゃないか!


 もしかしてだけど……今の私は夢でも見ているのか?まさか見ている夢が、こんな受験期のものだなんて思いたくないが……。


 不思議そうに私を見つめている母親に、なんとか誤魔化しながら今の状況を確認するのであった。

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