非現秘怖裏話

双葉カイト

憂鬱な夏





 7月1日 金曜日


 「……これは失敗ね……。」


 目を覚ますと、朝日が眩しかった。恐らく何事も起こることなく寝ていたのだろう。


 「こんなのがあと何回もあると、気が遠くなるわね……。」


 ため息を付きながら、お昼ご飯を食べるためにベッドから起き上がった。


 「今日は何を食べようかしら?色々冷凍食品あるし……とりあえず適当に食べちゃうか。」


 そんな訳で、今日は適当に冷凍チャーハンを食べることにした。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 大学に向かっている途中で、何やら店の前で行列が出来ている。


 一体なんだろうか?と思っていると、そこには大きく『7月初めの特大セール!!』と書かれた張り紙が沢山あった。


 「もう7月になっていたのか〜……ほんとに時が経つのはあっという間ね……。」


 思えば、ここの大学に入ってもう3、4ヶ月も経過していたのである。時の流れはとにかく早いものだ……。


 「あともうちょっとで定期試験だし……憂鬱だな〜……。」


 そんな不安を抱きながら、私は喉が渇いたので自動販売機で飲み物を買って飲んでいる。


 「やっぱり今日、長袖を着てきたのは失敗だったわ……暑すぎるもの……。」


 気温もそうだが、照りつける日差しもきつい……。周囲の道行く人を見ても長袖を着てる人はほとんど居なかった。


 色々と汗ばんで来たし、早いところクーラーが効いている教室に入りたい……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「凛ちゃんおは……ってどうしてそんなに汗だくなのよ……?」


 なんとか教室にたどり着いたのだが、千秋ちゃんが何故か首を傾げている。


 確かに暑いとは言っても、これだけ滝のような汗をかいている人は多分私だけだろう。


 「今日こんなに暑いと思わなくて長袖着てきちゃったのよ……。もうほんとに後悔してるわ……。」


 「あー……なるほどね〜。まだ7月なのに私もこんなに暑いなんて思わなかったもの〜。だから私も適当な半袖を着る羽目になったし〜……。」


 千秋ちゃんもこの暑さは予想外なのか、嫌そうな顔でノートを使いパタパタと扇いでいた。


 「早いところ講義終わったら、サークル行きましょ〜凛ちゃん?あの会長の事だから、どうせクーラーガンガンに効かせてるでしょうし、絶対天国のような居心地よ!」


 言われてみたら、導火線が存在してない会長がこの暑さを我慢するわけがないな。


 そして千秋ちゃんは、あまりクーラーが効いてない教室に愚痴を漏らしていた。


 「てかこの学校もクーラーもうちょっと強くしてくれてもいいんだけどな〜……。予算の都合なのかなー?」


 それもあるかもしれないけど……あとは環境配慮とかのものもあるのだろう。


 「理由はどうであっても分かることは、この地獄のような暑さがこれから2ヶ月ぐらい続くことよ……。」




 それにこれから8月になると、寝苦しくなるほど暑苦しくなるのだ。


 やっぱり夏なんて嫌いだ。いっそ夏の代わりに秋を長くしてくれれば良いものを……。


 そんな恨み節を思っていると、三限の始まりを告げるチャイムが鳴った。


 「まぁ……夏は嫌だね〜ってことで、まずは三限と四限を頑張ろー?凛ちゃん?」


 「それもそうね〜……。とりあえず寝ないように頑張るわ!」


 憂鬱な心をなんとか切り替えて、今日の講義を頑張ることにした。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 四限も終わり、まずは部室に行くためにこの蒸し暑い廊下を、私と千秋ちゃんと菫ちゃんの3人で歩いていた。


 「ほんっとに今日暑くなーい?外に出たら蒸し暑くて堪らなかったわ……。」


 菫ちゃんが既にヘトヘトの状態で、汗をハンカチで拭っている。


 「暑いわよ〜……でもあともうちょっとで部室だし、あそこならクーラー効いてるでしょ……。」


 私は袖をまくって止まらない汗を拭きながら、なんとか歩くことが出来ている。正直この中にずっと居たら30分で倒れるだろう。


 「そんな事言ってるうちに着いたわね〜……。なんか凛ちゃんと菫ちゃんを見てると、ゲームで負傷者を運んでいる機動隊に見えるわ〜。」


 千秋ちゃんは冗談で言っているのだろうが、現場の私と菫ちゃんは、これでも演技無しのガチなのである。


 しかし、これでようやく蒸し焼きの廊下から解放されるとなると嬉しくなる。


 そして、部室のドアを開けると途端に涼しい風が入ってきた。


 「ふぁぁぁ〜……天国の風が入ってきますぅ〜……体もフワフワしてますぅ〜……。」


 菫ちゃんが何やらヤバいことを呟いて居るが、ちゃんとここに意識を戻せるのだろうか?


 とりあえず菫ちゃんを部室のソファーに寝かせて、私と千秋ちゃんは部室にいた会長と蘭先輩に挨拶した。


 すると会長はいつも通りに、


 「おおっー!凛と千秋のコンビではないか!今日もまた会長ポイントをプレゼントしよう!さっさと受け取りたまえ〜。」


 どこで会長ポイントを受け取ればいいんだろうか?


 「会長はいつも通りですね〜……。まぁそこがいい所なんですけどねぇ……。まぁ何やかんやで久しぶりになったね凛さん。」


 「そうですね……蘭先輩。向こうのサークルが忙しかったのですか?」


 今は夏休み前だから、合宿とか大会とか色々立て込み始めたのだろうか?


 「ん〜……まぁ簡単に言うと新作バトルロワイヤルゲームが出て、それをみんなで熱狂して遊んでたのさ!まぁそれが楽しいのなんので、ここに来れなかったのさ〜。」


 早い話、新作ゲームをみんなで遊んでたわけなのね……ちょっと羨ましい……。


 「おうおうおう〜。蘭のところって色々ゲームありそうじゃないか〜。今度持ってきてくれよ〜頼むよ〜。」


 そしてゲームの話となると、すかさず会長が乱入してきた。多分会長が関わったら色々やばいことになりそうだが……。


 「ダメです。そもそもゲームはほとんど個人のものですし、さっきのゲームも後輩が買ったものなんですから〜。」


 「じゃぁ今度そっちに遊びに行くぞ〜。それならいいだろ〜?」


 いや一応あなた会長ですよね?会長なのに他サークルで遊んでも大丈夫なのだろうか?


 「それもダメです!会長さんつい1ヶ月前にこっちに来て、奇声あげながら暴れていたから追い出されたのを忘れたんですか!?」


 ほんとに会長は何をしてるのだろう?


 蘭先輩と会長が色々話をしてると、ドアを開ける音がして誰か入ってきた。


 「あー……ここは『非現秘怖裏話』のところですね。君たちのところのクーラーが強すぎるのではないかと、風紀委員から忠告されているはずなんですが?」


 どうやら彼らは風紀委員みたいである。それで内容はクーラーの使いすぎだから制限しろ……。まぁ使いすぎていることは本当であり、ぐうの音も出ない。


 しかし、ここで会長は素直に「はい、そうです。」という性格ではない。


 むしろ、


 「ぁぁええぇぇ!?うるせぇぇよ!そんな使いすぎとかなぁ!!暑いから仕方ないってんだよぉぉー!」


 と逆ギレするタイプの面倒な人である。ここは外見だけでも反省しておけばいいはずなのに……。


 「いくら暑くても、こんなに強く使うだなんて非常識ですよ!こんなことだから貴女に対して色々と苦情が来てるわけなんですから!」


 あー……やっぱり各方面から苦情は来てるのか……。会長の性格からこうなることは分かりきってはいたが、こう色々聞かされると悩みたくもなる。


 しばらく会長と風紀委員の言い争いが続いていたが、会長がなかなか折れないのか風紀委員が諦めて帰ってしまった。


 そして風紀委員が帰ると、


 「よっしゃ!今日も勝ったぜ!!早いところ奴らから敗北を知りたいなぁ!」


 会長は高笑いしながら、勝利の味を噛み締めていた。


 多分これは勝利ではなく、どちらかと言うと敗北に近いのではと思うのだが、野暮なことだろうか?


 これに関しては蘭先輩や千秋ちゃんも


 「うーん……こんなことをしてて会長さんはいつか痛い目を見ないのですかね〜?」


 「いや〜……千秋ちゃん。既に成績面で痛い目にあってるから仕方ないと思うぞ。」


 とあまりいい感じには思ってないみたいだ。


 「よし!気分も良くなったし定例会始めるとするかー!」


 私たちが会長のことで頭を抱えているのにも関わらず、その当の本人は晴れやかな表情でそう宣言した。

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