非現秘怖裏話

双葉カイト

四日目

 6月24日 金曜日


 今日は講義が三限からなのでゆったりと起きることが出来た。


「ん〜……大学生の生活ってやっぱりこうじゃないと!」


 朝早く起きてバタバタしながら学校に向かうのはどう考えても自由とは程遠い。


 本当に単位を規定量取れたら毎日夏休みみたいな感じで休んでいたい。


 なんてことを思いつつ大学に向かうのであった……。




【大学】


「おはよ〜う……。」


 少し余裕を持って講義の教室に入ると、かなり眠そうな千秋と会った。


「結構眠たそうだけど……まさかオールとかしていたのねー!」


「ふぁ〜……だってぇ……コンパとか楽しいんだもの〜……。」


 昨日私に色々言っててそれかい。と思わず呟きそうになったがぐっと抑え、怪訝そうに千秋を見つめていた。


「そもそもそのようだと講義中起きてられないでしょ!」


「うん〜……二限はなんとか頑張ったけど三限は凛ちゃん頼んだ〜……。」


 そして千秋はそのまますやぁと突っ伏して寝てしまった。


「……一応ちゃんとノートとか取ってあげよう……。」


 講義中は千秋の寝顔をよそに黒板に書いてある内容を真面目に移していた。


『……そんな訳で今日の講義はここで終わりにする!復習はちゃんとしろよ!』


 三限の講義が終わり、ガヤガヤとお喋り声が騒がしくなったところでようやく千秋もようやく起き出した。


 あの教師もよく注意しなかったものだ……。


「はふぅ〜……よく寝たぁ〜!」


 ん〜……と背伸びをして清々しい程の笑顔を浮かべている。


「その感じだとよく寝れたみたいね?千秋ちゃん。」


「そりゃぁもちろん!やっぱり1時間まるまる寝てると色々スッキリするわよー!さて次から頑張るわよー!」


 それはいいのだが……。


「でも、千秋ちゃん。次の講義無いからあまり意味無いんじゃない?」


 そもそも千秋ちゃんの今日の講義は二限と三限だけだったのである。だから次頑張ると言われてもその次がないのである。


「あれ?ほんとだ!二限と三限あったから次のもあると思ったのにー!」


 てか自分で組んだ講義を覚えてないなんて……私だってちゃんと覚えているのに……。


「そう言えばなんで凛ちゃんは私の時間割を知ってるのよー?」


「だって時間割組むときに教えてくれたじゃない。それに私の時間割は、千秋ちゃんの元にして作ったし。」


 だから大半の講義は千秋と被るわけであって……。


「んむむむ……それならサークル活動で本気だすんだから!!」


 いや……あのサークルで本気出す場面なんてあまりないような……?


「そのやる気はいいんだけど……あのサークルで何を頑張るのよ?」


「私が今日本気だすのはゲームサークルよ!!今度こそあの高難易度をクリアしてみせるんだから!」


 そっちか……出来ればこっちのサークルで頑張って欲しかった……。


「千秋ちゃん色々やるのもいいんだけどちゃんとこっちのサークルも来てよね〜……。」


「なになにー?凛ちゃんもしかして寂しかったりするのー?」


 千秋がすごいルンルンの顔で私を見つめている。


 もしや私が寂しがり屋だと誤解してるのか!?


「そっか〜!それなら今日のサークル一緒に付いて行ってあげる!そしたら凛ちゃんも寂しくないでしょ?」


 確かに千秋が居てくれた方が嬉しいが、ここで認めちゃうととっても恥ずかしい……。


「いやいや!大丈夫だから!ちゃんと私一人でもやっていけるし!」


「ふーん……まぁやって行けるならいいんだけどね!なにかあったら相談しなさいよー?」


 千秋はなにかと私の母親みたいだ。その面倒くささも相まっていて。


「ええっ……だって千秋ちゃんは気を使う相手ではないからね。その代わり愚痴とかも、たくさん吐くかもしれないけど。」


「うん!どんどん吐いても大丈夫だよ!!私はそうゆうの受け止めるの得意だし!と言うよりも凛ちゃんの愚痴がどんなものか聞いてみたいし!」


 こうも能天気で底なしの明るい感じの表情で言えたものだ……。人の愚痴なんて聞いていても楽しくないのに……。


「はいはい……今度悩んでいたら思い切りぶつけてやるんだから!覚悟してなさいよ!千秋ちゃん!」


「うふふ!その時を楽しみにしてるわね!」


 千秋はクスクスと微笑みながら喜んでいる。


 こうゆうのを見ると度肝を抜かすようなネタを仕込みたくなるものだ。今度ネットとかで探しておかないと……。


「というわけで私はゲームやりに行くから!最近ゲームサークルの人たちが、何やら本気出して来ているから私も負けられないのよね!」


 オカルト関係の人がゲーマーと戦うのか……多分経験の差では勝てないと思う……。


「よくたくさんの経験者の中で勝負する気になれるのよ……普通に考えてこっちの方が不利すぎない?」


「ふふふ……確かに経験とかの差はどうしようもないわ……そりゃ向こうの方が長くやってるけど……でもこっちは長年のカンと感性で乗り切るのよ!だからこの私でも勝てるのよ!凛ちゃん!」


 多分ゲームなその要素はほとんど使わないと思うのだが……自信満々なのはいいことなのだが、


「そんな分けて私はゲームに全力を出してくるわ!もし向こうで何かしら報告することあったらお願いね!」


 そう言い残し、足早に消えてしまった。


「今日は流石にあるみたいだし、行ってみるか…。」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「こんにちは。失礼しま……。」


 千秋と別れて(?)30分後の午後5時、部室のドアを開けて、誰かいないかを確認すると思わず絶句してしまった。


 なぜなら部室の床で酒瓶を持ちながら爆睡している会長が居たのであった。それに机の上には『19時までに起こしてくれ(^人^)』と書いてあった。しかも顔文字もかなりふざけて書いてるみたいでガタガタである。


 そしてその側にはちゆり先輩が居た。彼女は私に気づいたのか軽くぺこりと会釈した。


「あっ……先輩久しぶりですね。今まで忙しかったのですか?」


「え……ええっ……そんな感じね。凛さんこそこのサークルは楽しいかしら?」


 なんだか先輩からはっきりしない答えを貰い、不思議に思ったのだが人の秘密は探らない方がいいだろうと思い、あえて放置した。


「はいっ!とっても楽しいですよ!」


「そうなのね……それなら仕方ないわ……。」


 仕方ない?どうゆうことだろう?


「それってどうゆう意味ですか?」


「ううん……何でもないわ。気にしないで。」


 そう言われるとさらに気になってしまうのだが……。


 色々気になってるうちに、ちゆり先輩は


「あっ……あなたに頼みたいことがあるのだけれどいいかしら?私はちょっと忙しいから、代わりにあなたが会長を起こしてほしいのよ。」


 私にこの泥酔者を起こせというのか……。


「いやいや……私じゃぁ力不足ですよ!なにせ今までこうゆうこと無かったですし!」


「大丈夫大丈夫!!会長は意外と物分りがいい人だから行けるよ!」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そんなこんなで結局私が折れて、会長を起こす係になった。


「ちょっと無理矢理だったけど、じゃぁ任せたわよ。後でなにかアイスでも奢るからお願いね!それじゃ先に失礼するわ。」


 無理矢理だった自覚はあるのね……。


「はい……。お疲れ様でした!できるだけベストは尽くします!」


 先輩を見送ったあと、改めて会長を見ることにした。


 会長は安らかな顔で爆睡している。どれだけ飲んだらこうなることやら。


「こんなのどうすればいいのよ……。」


 起こす時間まで約2時間。全く起こす方法が思い浮かばない。


「うーん……あっ!!そう言えば!メールを見れば何かわかるかも!」


 わたしの中にあるものが浮かんだ。若しかしたら未来の自分がこんな時のために、なにかアドバイスのメールを送ってくれてるのかもしれない。


 藁にもすがる思いでメールを見ると、


 《今日のサークルはなるべく行かない方がいい。なぜならあなたには実力不足だからだ。》


 と書いてあった。


「もっと先にメール見ておけば良かった……。」


 なんとも言えない後悔と自責がのしかかる。


「ほんとにどうしようも出来ないの〜……。」


 そのままメールを最後まで見ていると、また最後の行に変な内容があった。


 《いずれ全てを知り、絶望に染まる。》


 なにかのポエムなのか?一言で言うと黒歴史的なものを感じる……。


「馬鹿らしい……これでどうしろと……。」


 何も手を打てないまま、ふと時計を見ると午後の6時になっていた。


「あと1時間しかないじゃん!?あーー……ほんとにどうしよう……。」


 あんな状態だと揺すって起きるようなものでは無い。目覚ましアラームを大音量で流したら目覚めるだろうか……。


「とりあえずやるしかない……。」


 アラームを音量最大にセットし、会長の耳元の側に設置する。


 あと5分後に鳴るので、その間に耳栓をしておく。


 これで起きてくれればいいのだが……出来なかったらどうしよう……?


 そう思いつつ、ぼんやりとしていたら


 ビーーーー!とアラームが部室中に響き渡った。


「わぁ!?なんだ!地震か!敵襲か!?」


 何やら血迷ったことを言っているがなんとか起きてくれたのでよかった。


 あと結構音がうるさいからアラームは消しておこう……。


「ふぅ……何かと思えば凛じゃないか?一体どうしたんだい?」


 ボサボサの髪を手で直しながら、会長席に座っている。


「ん〜……ちゆり先輩に会長を起こすの頼まれたんですよ。」


「あー……確かに紙に書いたりしてお願いはしたけどまさか警報アラームで起こされるとは、思ってなかったわ……。」


 言われてみたら警報なんて聞いたら心臓に悪い。


「そこはごめんなさい……。」


「まぁ……私も結構酔いが回っていたし、仕方ない面はあったけどね。自分でもどれだけ飲んだか分からないし。」


 それは危なくないのか?せめて自己管理はして欲しいものだ……。


「それと連絡事項とかは特にないからね。わざわざ待っててもらって申し訳ないけど……あと私は帰るからもし部室に残りたいなら鍵を渡すけど……。」


「いえ、特に用事もないですし私も帰ります。あと会長さん大丈夫ですか?」


「結構ダメなやつ。めっちゃ頭痛いしクラクラするしで絶対二日酔いパターンだよこれ……。」


 ちゃんと会長が家に帰れるか心配になってきた……。


 そんな心配を抱えつつ、大学の最寄り駅まで一緒に帰ることになった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


「んぁ〜……ちょっと落ち着いてきた。やっぱりお酒は美味しいけど代償が辛いよぉ〜…。」


「単純にお酒飲みすぎなだけだと思います。」


「わかってるさ〜……でももう飲みすぎてやめられなくなっちゃってさ〜……。」


 会長の会話内容が完全に中年男性のアレである。このままタバコとかギャンブルとかやり始めたら、ほんとにどうなるか分かったものでは無い……。


 そんなこんなで最寄り駅前まで来た。


「んじゃ……凛!気をつけて帰りたまえ!無茶してサークル来れないなんてやめてくれよー?」


 その言葉を1番あなたにあげたいのだが……。


「はい。会長さんもお酒に飲まれて来れないなんてことにならないでくださいね。」


「なーに!まだまだ若いからどうにでもなるって!」


 相変わらず危機感のなさは治らないな……会長さんは……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ほんとになんだろう……このメールは。」


 ベッドに入り、携帯の画面を眺める。


 あのポエムみたいな内容は私に何を伝えたいのだろうか。若しかしたら私は危ないことに片足を突っ込みかけているのか?


「なんて……考えすぎか……。」


 この現代でそんな摩訶不思議なことなんてそうそう起きるわけない。オカルトはあくまでもオカルト、あるかないかの駆け引きや非現実のように見えることが楽しいのだ。


 この『未来メール』もそのようなカテゴリーの一部にしか過ぎない。そんなものにいちいち人生とかを振り回されるのはゴメンだ。


 だから……私はこの『未来メール』を信じ得ない。おそらく本物だろうと。


 そんな決意を胸に抱きながら、寝ることにした。

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