非現秘怖裏話
未来の始まり
唐突だがみんなは占いとか未来予知などを信じているだろうか。
例えば朝のテレビでやってる星座とか血液型占いとか一般的なものから、『隕石が落ちてくる』『あなたには不幸が襲いかかるだろうからこれを身につけなさい』などと言った胡散臭い宗教のものまで多種多様だ。
だからそれを売りにしたり、願いを叶えるために願掛けする人もいる。実によく出来たシステムだ。
かく言う私も受験の時は神社でお守りを買ったし、大学に行く時は恋愛運を上げるパワーストーンも買ったりしたものだし。
しかし、そんな占いとかは当たることなどはあまりないだろう。だから占いの結果は大概軽く見られてしまう。
私だって占いは信じてはない。昔どっかの占い師に「あなたは将来安泰で、恋愛関係も充実したとってもいい人生を送れますよ!」と言われたことがあるが、もしとってもいい人生が送れるならあれは決して起こらなかったはずなんだから…
けれど、もしほんとに絶対当たる未来予知などがあれば私は信じてしまうかもしれない。
たとえそれが自身の破滅や大切なものを無くしてしまうことが約束されたものであっても。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
6月21日、火曜日、午前11頃
「それで、今回は五行説について教えようと思います。まず五行説とは……。」
何やら五行説とか、何とかの説明をしてるらしいのだが全く耳に入ってこない。
何故か知らないが、今日とても眠い……昨日はちゃんと寝たはずなのに眠気が強すぎる……。
「凛ちゃーん、ちゃんと起きてるかなー?」
ぺしぺしと馬鹿にするように、千秋が私を軽く叩いてくる。
全く……どうして眠気が取れないのかわからない……そして何故千秋はこの時間を寝ずに過ごせるのか不思議でならない。
しかし、ここで寝てしまったらあとで千秋になんて馬鹿にされるか、分かったものではないため意地でも起きなくてはならない。
「んにゅ……なんとか起きてる……。」
「いやそんな如何にも眠いけど起きてますって感じで言われても説得力がないわよ〜……凛ちゃーん……。」
さらにむにむにと私の頬をいじり出す千秋。
眠気もさらに強まったので私はもう潔く寝ることにした。
「ぅー……やっぱり眠いから寝る……。」
「次からはちゃんと早く寝るのよー?今日の講義の分はあとで連絡しておくからね。凛ちゃん分かったー?」
なんかお母さんに注意されてるみたいで、恥ずかしいので返事は返さなかった。
「おーい……返事しないと凛ちゃんの寝顔撮っちゃうわよ〜。」
それはやめて欲しい。寝顔を撮られるのはまだ百歩譲っていいのだが、それをサークルとかに拡散されたりしそうで怖い…
「ぅぅ〜……それはやめてよぉ〜……。」
「分かったよー……じゃぁおやすみ〜。」
本当に千秋は分かってるのかなぁ……と思いながら眠気に誘われるまま意識が沈んでいった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
どれだけ寝ていたのかわからないが、目を覚ました時にはもう講義が終わろうとしていた。
そしてヤレヤレとでも言いたげな、千秋ちゃんがこっちを見つめている。
「凛ちゃんったらもう1時間もずっと寝てたのよ〜……そんなに昨日夜ふかししてたのかしら?」
「本当にしっかり睡眠は取ったわよ〜……でも眠いだけ……。」
「うーん……やっぱり凛ちゃんは夜型人間になっちゃってるよ〜……早いところ治さないとこれから大変だよー?」
「そりゃぁ治さないと行けないのは分かってるけどなかなか治らないのよね……ほんとにどうしよう……」
「まぁ早寝早起きを繰り返せば自然に治るとは思うよ?だから頑張ってね!凛ちゃん!」
今まで夜更かししていた人間が、そんな簡単に早寝早起きなんて出来るわけはないのであるのだが……。
そしてすっごい他人事のような応援を千秋から貰った後に、一限の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「はぁ〜……次の講義行きたくないなぁ……。」
気分が憂鬱のまま次の講義の教室まで行く。
「でも行かなかったら単位落としてそのうち会長みたいになっちゃうよ〜。」
「流石に会長みたいになるのは嫌ね……ってぇぇぇぇ!」
そのまま段差にけつまづいてしまい、盛大にコケた。
「あっはははは!凛ちゃんったら面白い〜。」
1人大爆笑してる千秋ちゃんを他所に、私は恥ずかしさから急いで移動する事にした。
「あっ!凛ちゃん待ってよー!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後もまた何も無いところで転んだり、教材を家に忘れていたりなどの不運なことに見舞われながらも今日の最後の講義が終わった。
「今日は本当に酷い目にしか会ってないわ……。」
さすがの千秋も同情してるみたいで
「凛ちゃんの今日の運勢は最悪だね〜。気休め程度でも、ラッキーカラーを身につけたらマシになったかもよ?」
「いや、そんなもの付けても何も変わらないと思うわよ。私は占いとか見ないし信じてもないから。」
「なるほどねー?凛ちゃんは神様とかは信じないタイプ?」
「居ることは信じるけど、普通の人にそこまで肩入れしないとは思ってる。」
仮に神様が居ても、たった1人の為に尽力するようなことは決してしないとは思う。
だって神様は人が何人消えようとも、何も感じなさそうだし。もし何か感じるとしたら、災害なんて起こさないだろう。
「ふむふむ……確かに神様も一人一人そんな願い事叶えてたら、パンクしてそうだからね〜。だから私たちのためには動かないってことか〜。」
「そうそう、そう言えば千秋ちゃんは神様についてどう思ってるのかしら?」
「え?私?私は神様は居ると思うし、人に力を与えてくれる特別な存在だと思ってるわ!だってそうした方がロマンチックじゃない!」
ろ……ロマンチックね〜……。現実にそんなことがあったら、世界が滅ぶと思うけど。
しばらく神様についての討論をし合ってると、千秋が何かを思い出したようで
「ってそんな神様について熱弁してる場合じゃ無かったわ。今日は歯医者行かなきゃ行けなかったんだ。」
優等生の千秋が、そんなところに行くなんて珍しい。いや……意外と家だとダラダラするのかな?
「それってもしかして虫歯にでもなったのかしら?それなら甘いものを、控えるとかした方がいいんじゃない?」
それに対してむすっとした状態で千秋が、
「ちーがーうーわーよー!ホワイトニングするのよホワイトニング!ちょっと歯の色が気になったら白くしに行くの!」
「でもそこまで気にならないと私は思うけど……。」
「凛ちゃんは分かってないわ!私の歯は結構黄ばんでるから気になってしょうがないのよ!」
私の言葉が油を注いだのか千秋がさらに不機嫌になってしまった。
「そんなわけで私はこれから歯医者だから〜。何かあったらあとで連絡しておいてね〜。それとホワイトニング終わったら、その歯を凛ちゃんに見せてあげるんだから!」
「分かったわ。そう言えば、ホワイトニングが終わるのはだいたいどれくらいかかるのかしら?」
「医者に聞いたらだいたい半年だって。」
「半年って結構長くない?」
「長くても治ればいいのよ治れば!凛ちゃんはすぐに諦めちゃうんだからダメなのよ!」
私は半年も病院に通うとなると絶対にいやなのだが……金とか時間とかあと面倒なのもあって……。
そんな話をしつつ、千秋と別れた後に私は1人で部室まで行くのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
部室のドアを開けると、葵さんがこっちに向かって手を振っていた。
「あっ、凛さんこんにちはー。あれっ?もう1人のあなたの友達はどうしたのー?」
中にいたのは葵ただ1人であった。何やらネットサーフィンをしてるらしく、ずっと会長のパソコンを操作している。
「千秋ちゃんは今日歯医者行くから来れないわ。ところで会長は今日来るのかしら?」
「あー…会長さんね〜。今日は来てたけど先帰ったわよ〜。部室の鍵とかは私が持ってるし、しばらくは会長のパソコンで、ネットサーフィンでもやってようかなって。」
そう言いながらカタカタとキーボードで何かを打ち込んでいる。
「ネットサーフィンなんて家に帰ってやればいいじゃない?わざわざここに来てやる必要はないと思うけど……。」
葵さんは分かってないな〜と言いたげな顔をしている。私は何か間違っていたのだろうか?
「性能が違うの性能が。この会長のパソコンすごくスペックいいし、色々ソフトもあるからやりやすいのよね〜。」
「なるほど……会長って結構いいもの持ってるのね。その金はどこから出てるのか気になるけど。」
ここのサークルは果たして経費とか貰ってるのかなぁ……貰ってないとしたら相当金持ちじゃないと難しいし……。
葵はそんなことを考えたことないのか、気にせずパソコンを操作している。
「まぁそんな細かいこと気にしてもしょうがないわよ〜、凛さん。それと活動報告とかも特にないし、今日はすぐに帰ったらどうかしら?」
確かに何も無いならすぐに帰った方がいい。こんなところに長居しても意味が無いからだ。
しかし、葵があるものを見つけたおかげで帰れなくなった。
「あっ。ちょっと興味深いもの発見したわ!見てみて!この《絶対当たる未来予知》ってやつ!」
葵がはしゃぎながら私にその画面を見せてきた
そこにはなにやら胡散臭く《これであなたも億万長者に!》や《不安なんて不要の人生になれます!》と言ったいかにも新興宗教に有りがちな宣伝文句が並んでいた。
そもそも未来なんて絶対に分かるわけないだろうに。これから起こることをどうやって確定させるのか……。
そんな不信に思ってる私を横目に、どんどん画面を見進めている葵が
「へぇ……たったこれだけのことをするだけで未来が分かるんだ!試してみよっと!」
と目をキラキラさせながらそのページをブックマークしていき、載せてあったメールアドレスから空メールを送信した。
まさか本当にこの怪しいものを信じるつもりなのか……。
こうやってほいほいと引っかかっていると、本当に彼女はいつか詐欺に騙されるのではないかと心配になる。
「そうだ!凛さんもあとでやってみましょうよ!物は試しってやつで!」
いきなりとんでもないことを言い出した。
そんな怪しげな物に私を巻き込むつもりなのか……?
もともと興味もなかったし、やる気もないので今回は断っておくことにした。
「いや、私は遠慮しておくわ。だいたいこんなもの絶対あるわけないじゃない。」
だが、葵はここで引き下がらなかった。
「えー!そんな事言わないでやってみようよー!いいじゃんいいじゃん!!」
まるで駄々をこねる子供みたいに同意を求めてくる。
私も最初の方は断り続けたのだが、十分間も連続で攻められると流石に投げやりになってしまい。同意してしまった。
「あー……はいはい。やればいいんでしょやれば……。」
「さっすがー!凛さん分かってるー!じゃぁあとでやり方をメールで送るからねー!」
喜んでる葵を他所に、私は今日の運勢を全力で恨んでいた。
変なところでコケたり、教材忘れたり、挙句の果てにはこんな変なことに巻き込まれたり……などしているからである。
「そーいえば凛さんはまだここに残りますー?」
先程の駄々こねてる様子が無かったことに、明るく振舞ってる葵が再びカタカタとパソコンを操作している。
「ええっ……今日は早く帰って寝るわ……。」
今日は色々あって疲れたので早く帰ることにした。
「はーい。今日もお疲れ様ー!あと結果もメールで送ってねー。」
「はいはいお疲れ様〜……。」
ニコニコしている葵になんとか返答しつつ、部室を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
帰り道は電車を1本逃したぐらいで、ほぼほぼ何事も無く帰ることが出来た。これでまたトラブルがあったら泣いていたかもしれない。
しかし、色々不運なことに巻き込まれて体力は限界だった。
すぐに寝ようと布団の中に潜り込むと、誰かからメールが来ていた。内容は例のメルアドと
《凛さんメール送りましたー?もし返信とか来たらどんな感じなのか教えてねー?》
と言ったものだ。
「んぁ……なんだ葵ちゃんか……まだあのこと覚えていたし……。」
このまま無視しても良かったのだが、またあの絡みをされると思うと面倒なので、捨てのメルアドを使って送ることにした。
「これでよしと……けどあの変な団体に送って本当に大丈夫なのかなぁ……。」
そんな一抹の不安を覚えながら数分待っていると、メールが帰ってきた。
《明日は何事も無く過ごせるでしょう。昨日のことに引きずられず、落ち着いて行動するとなお良い。》
「なーんだ。結局はただの占い番組と変わらないじゃない。」
ほっと安心したのと、期待を裏切られたのが複雑に混ざりあったまま、このメールの内容を葵に返信した。
彼女からの返事は明日みようと思い、今日は寝ることにした。明日こそ不幸な目に合わなければいいのだが……。
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