非現秘怖裏話

双葉カイト

帰り道

 


 6月2日 日曜日 午前9時頃、


 葵さんの新居お泊まり会から帰ろうとした時、ふと会長が


「そーいえば、昨日お風呂入ってなくね?ここら辺に銭湯とかないの?」


 言われてみたらお風呂に入ってないな……春だからと言っても流石に体の汗とか、流したいと思ったところに葵さんが


「いやいや!ここに来たからには銭湯とかじゃなくて温泉行きましょうよ!」


「え!?温泉あるんですか!?」


 と激しく食いついた千秋ちゃん。そして自慢げに葵さんが


「ええっ!ちょっと歩きますがあるんですよ!今度行ってみたいなって思ってて、みんな居るし絶好の機会かと!それに今からなら、多分そこまで混んでないから貸切かもですよ!」


 なるほど温泉か……そう言えば生まれてからそんなのに入ったことなんて学校の修学旅行ぐらいしか入らなかったからな〜……。


 と昔のことを思い出していると、千秋ちゃんが


「ね!凛ちゃんも行こうよ!」


 とゆさゆさ私の肩を揺すっている。相変わらず興味あることには目がないな……と思いつつも実は私も内心楽しみでもあった。


「ええっ、行くわよ。温泉なんて久しぶりだからね。」


「やったー!みんな行こうよ!」


 千秋ちゃんがキャッキャっと無邪気に喜んでる。その時会長は、


「なー、凛〜。温泉入ったあとに飲む酒って日本酒とビールどっちがいいと思うー?」


 私に対して、全くわからなそうなことを聞いてきた。なぜ未成年の私に聞くのだろうか?


「会長……私お酒なんて飲んでないですから分からないですよ。」


「うーん……この……真面目系未成年の奴〜。普通は大学生になったらお酒とか飲むだろうに……。」


 会長は真面目ではないのか……いや、留年ギリギリとか今考えたら、真面目とかそれ以前に結構ヤバい人だった……。


「凛ちゃーん!会長ー!もう行きますよー!」


 葵さんと千秋ちゃんはもう玄関で待っている。


「ごめんごめん!すぐに行くから待ってて!」


 とりあえずこの酒飲み会長はほっといて先に行くとしよう。関わってもいいことは無さそうだし、


 準備を整えて玄関に向かうと


「ねぇー!なんでみんな置いてくのー!」


 と会長が呪詛を垂れ流しながら、私にしがみついていた。ちょっと可哀想だったので、


「準備が整うまで待ってますから泣かないでくださいよ〜……。」


 と会長を励まていた。そんなこんなで、私たちが玄関に集まるのに約30分はかかった気がする。


 □□□□□□□□


「よし!みんな行くぞー!温泉の第1歩だー!」


 さっきまでの呪詛を垂れ流していた様子は何処へやら、今ではこの通り会長はノリノリである。


 ガチャ……と開けた途端眩しい程の直射日光が入ってきた。


 バタン……


「うん!ただいま!」


「ちょっと待ってください会長……なんで帰ってくるのですか。」


 思わずツッコミを入れた私。千秋ちゃんも葵さんも困惑してる。


「いや〜……やっぱり日光は毒だと思うんだ。こんな太陽さんが元気な時は引きこもるのが1番よ。」


 こんなこと言う会長の前世は、ヴァンパイアとか人狼なんじゃないか。


 そもそも温泉行くとか行かないとか以前にここを出ないとダメだろう……。しかし、ここで


「それなら私たち3人で温泉に行きましょうか!」


 葵さんが起死回生の妙案を編み出したのだ。これ程いい案は今の段階ではないだろう。


「葵さんグッジョブ!」


 思わずサムズアップする私。


「そうですね!会長はここで休んでください。」


 とオブラートに包みながら、賛同した千秋ちゃん。


「えっ?ちょ?なんか私置いてかれてない?」


 オドオドしながら不安になってる会長をよそに、


「まぁ改めて行きましょうか!温泉に!」


「おーー!!!」


 私たち3人は新居に会長を置いていき、温泉施設に行くことにした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 あれから、少しばかり歩いた所で


「会長をあそこに置いてってほんとに大丈夫かなぁ……多分戻ったら部屋の隅っこで泣いてそう……。」


 会長のことに対して不安を覚えてる千秋ちゃん。


 あの会長の事だ。寂しくなってそのうち私たちを追いかけていくだろう。


「そんなに心配しなくても来ると思いますよ。あの時温泉の場所を会長に送っておきましたし!」


 えへんと胸を張りながら自信満々に宣言する葵さん。こうゆう根回しはすごく上手だと思う。


「てかまだ温泉着かないのー?この直射日光は結構きついわ……。」


「凛ちゃんもうへこたれたのー?私はまだまだ行けるわよ!」


 相変わらず千秋ちゃんは凄いなと思う。この直射日光のせいか、まだ6月なのにまるで真夏のような暑さである。


 上着を脱いでもまだ汗がひかない……こうなる前に明日の天気予報を見ておけばよかった。


「みんなー!!!待ってよぉぉぉぉぉぉ!」


 その声を聞いた時みんな後ろを振り向いた


 すると叫びながら、後ろから全速力で追いかけてくる会長の姿があった。


 そして私たちに追いつくやいなや、会長は不満を爆発させていた。


「なんでほんとに置いてっちゃうのーーーーー!!私すっごく寂しかったんだよーー!」


 いや会長が行きたくないって言ってたじゃないですか……未だにこの会長の性格はよく分からない。


「とりあえず会長も来ましたし早く行こうよ!葵ちゃん!」


 千秋ちゃんは会長の叫びをガン無視してた。


「そうだね!千秋ちゃん!」


 葵さんも同様の反応だ。このことに不安になった会長が


「ね…ねぇ凛ちゃん、私って嫌われてるのかな?」


 また答えるのに困るような質問をしていた。実際ウザイとは思われてるかもしれないが、嫌悪されてる訳でもない。だからなんとも言えないのだ。


「それはないと思いますよ。それに早くしないと今度こそ置いていかれますよ。」


「マジだ!なんで二人共そんなに早いのー!?だから待ってよー!!」


 確かに2人の歩く速さは異常だ。私でも置いていかれそうになったし。


「り…凛ちゃんは私のこと置いていかないよね!一緒だよね!」


 まるで子羊みたいに震えながら同意を求めている。


 ここで引き離したら色々と面倒そうだし、とりあえず一緒に行こう。


「そうですね。でも先に2人とも待たせないようにちょっと急ぎましょう。」


「あ〜…よかった〜…また置いていかれるかと思ったよ〜…」


 会長は置いていかれたことに対して、かなりのトラウマを持ってるみたいだ。


 直射日光が降り注ぐ中、2人に追いついてそのまま歩くこと20分。


 ようやく私たち4人は例の温泉施設にたどり着いた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 《和璃温泉》


「はぁ〜…中は涼しいね〜。」


 施設についてすぐに会長は待合室のソファーで寝転がっている。


 ほんとにこの会長はフリーダムすぎる。と言うよりも恥じらいとかはないのだろうか……。


 しかし、葵さんの言う通りで今の時間帯で来てる客はほんとにいなかった。


 私的にはこれは素晴らしいことであると思う。やっぱり温泉は広々と使いたいからだ。


 そして私たちは会長をソファーから叩き起こした後、脱衣場に向かうのであった。




 脱衣場にて、


「ふぇぇ……やっぱり体重増えてる〜……。」


 体重計に乗ってる葵さんが絶望していた。


「葵ちゃんそんなに太ってるようには見えないけど、そんなに不安?」


 その横で体重計を覗いてる千秋ちゃんが地雷を踏んでいた。


「そ…それは気になりますよ!だから食事とか制限してるのですから!」


 いや、昨日のラーメン屋でそこそこ食べていたような気がすると、ツッコミをかけようとしたがやめておいた。


 絶望している葵さんに追い打ちをかけるように


「そんなに体重なんて気にしなくても大丈夫だって〜。人間すぐ痩せれるし〜。」


 会長も会長で爆弾発言を繰り出していた。


 そんな中、私はこの話題に巻き込まれたくないのでいち早く先に浴場に行くのであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ふぅ……やっぱり空いてる温泉は居心地いいわね〜。」


 先に浴場に着いた私はシャワーを浴び、体などを洗った後。温泉に入っていた。


 まだあの3人は脱衣場でなにか話してる。あらかた想像はついているが。


 そんなことを思っていると、


「なんで凛ちゃん先に行くんですかー!!」


「だって面倒そうだったし……私にはあんまり関係なかったですから……。」


「うぅ……ひどい〜……。」


 と不満たらたらの葵さんと


「そう言えば凛って体重どれくらいあるの?」


「会長は相変わらずですね……三つ子の魂百までとよく言いますが、その鋼のメンタルは見習うところかもしれません。」


 と半分セクハラ地味てる質問をぶつける会長と


「いや〜……やっぱり広いね!ほぼ貸切よ!これ!」


 と会話に混ざらず、感動してる千秋ちゃんが来た。


 その後、私たち4人は温泉にしばらく入っていたが


「そーいえばここ露天風呂あるじゃん。せっかくだから行かないー?」


 と露天風呂の扉を指さして、早速行こうとする会長


「おー!いいですね!」


 そして会長と共に行こうとする葵。


「そうだね!凛ちゃんも行こうよ!」


 と言って私の手を引っ張りそのまま露天風呂のドアのところまで連れていかれた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「よし!みんな来たね!それじゃぁ行こう!」


 会長は既にノリノリである。


 私は乗り気じゃなかったけど……仕方ない。


「それじゃぁ私が一番乗り……って寒い!!」


 それは当然だろう、いくら直射日光が強かったとしても裸でしかも水に濡れてるなら体温は即座に奪われる。


 しかし、諦められないのか会長は


「こんなことで諦めないぞ!こう見えても諦め悪いからな!うりゃぁー!」


 今の会長に、新居から出る時の様子を見せてあげたかった。多分もう会長は忘れているかもしれないが……。






 なんやかんやあって、私たち4人は露天風呂に入ることが出来た。


「ふぃ〜……やっぱり寒かったあとの温泉は最高やの〜……あとは日本酒とつまみがあればいいな〜……。」


 会長は中年みたいなことを言ってる。そもそもここにお酒持ち込めるわけではないだろうに……。


 でもこの露天風呂もなかなか心地がいい。


 私はそのままリラックスした状態で景色を眺めていた。


 葵と千秋に目を向けると、子供みたいにお湯を掛け合っていた。


「どうだー!千秋ちゃん!」


「やったなー!お返し!」


 バシャバシャとお湯が跳ねる。こっちにかかって来ないといいけど。


 バシャ!


 と思った途端に顔にかけられた。


「えへへ!それそれー!」


 千秋がはしゃぎながら私にどんどんお湯をかけていく。


「このー!お返しよー!千秋ちゃん!」


「凛ちゃんが怒ったー。」


 つい私も子供みたいに遊んでしまった。


 でも久しぶりにこうゆうのも楽しいと思えた。


「やっぱりみんな子供じゃないか。このまま私は傍観させてもらおう!あっはっはっ!」


 堂々と高笑いしていたので、そのままお湯を会長の顔にかけてあげた。


「わぷっ!もう怒ったぞー!凛、覚悟はいいな!」


「あっ、会長も参加するのですね!」


「おうよ!千秋!私の本気を見せてあげるからね!」


 そしてこのお湯の掛け合いはカオスな状態のまましばらく続いていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 露天風呂での大乱闘(お湯の掛け合い)を終えたあと、待合室で会長は即座にお酒を購入して一気飲みしていた。


「ぷはー!やっぱり温泉のあとのお酒はいいねー!」


 と上機嫌のまま日本酒を2本目を飲んでいた。


 そんなに飲んで大丈夫なのか。くれぐれもここでゲロったりしないで欲しいと願った。


「やっぱり温泉はいいよね〜。凛ちゃんはどう思う?」


 ねぇねぇと微笑みながら千秋が聞いていた。


 もちろんよかった、と100パーセント思ってる。久しぶりにあんなにはしゃいでいたし。


「ええっ、また今度もう1回行きたいわね。」


「そう言えば次行く心霊スポットとかはあるの?」


「今のところはないわね。葵さんはなにかあるかしら?」


「私もないです!」


 自信満々に葵が答える。まぁネタなんてまた見つければいい話だし。








 その後は、みんなで軽い雑談を挟みながら待ち合わせの駅でそれぞれ帰り道についた。


 あれだけ飲んでた会長のことが心配だったがなんとか大丈夫そうだったので安心した。


 また明日から講義が始まると思うと途端に憂鬱になる……今日は早く寝よう。




 明日からはまたいつも通りの日常が始まるから。



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