この世で5番目に強い男

暗喩

第15話 勝手に崇めるな


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 あの一件以来、人知れず我が校には平和が戻った。

 ミルデンとリベラに関しては、完全に自主退学をして俺の"反国王派討伐"の一員として職務を全うしている。
 その他の仲間に関しても、2人に"ヌベルの森"への誘導を促して、俺が散々脅した後、同じように"契約"の魔法をかけたのである。


 この一連の出来事をグレイス他英雄、リンドには、以前考えた通りに『旨味がないから撤退したらしい』と伝えた。
 すっかりアジトも消え去っている為、足取りが不明なので、とりあえずは静観の姿勢を見せると言った。

 すると、案外彼らはすんなりとその提案を受け入れた。普段は俺に悪態付きまくるピールが頷く演技を見せてくれたのが効いたのであろう。


 という訳で、表面上はここを防衛する事は成功したという事になっている。
 それを、グレイスらは心から喜んでいた。


 だからこそ、今は俺も学園生活を謳歌している。

 王女である事をカミングアウトしながら、いつも通り接してくれる少しおバカな可愛いリンドと俺は、畑を弄ったりしてイチャラブよ。まあ、一方通行なのが辛いけどね。
  
 加えて、グレイス、ブリザーク、モス、ピールの4人も王国からの指令がない間は当面、ここで学ぶという事になり、周りの学生と変わらずに日々の生活を楽しんでいた。

 相変わらず、俺に『軍へ入れ』と言い続けて来たのだが、最近はスルーするのにもだいぶ慣れた。


 ……だが、それは表面上の話である。


 実際は昼間だろうと、夜だろうと、俺の部下になったベルバラジ始めとした"元反国王派"の連中の報告は、脳内に届き続けた。


 彼から聞いた話だと、フリード王国にあるから10の主要都市には、各支部とも言うべき責任者がいて、その下にはうちの学園に潜んでいた約50人の構成員よりも多い100人規模で資金繰りや街の者への勧誘を繰り返していると言う。

 その中には、都市の統括の貴族だったり、裏を牛耳るマフィアのボスなんかも名を連ねているとか。


 俺が想像していたよりもずっと、"反国王派"の人間は危険な存在だったのである。


 今は、学園から程近い場所に位置する西の貿易都市である"クインタット"にて行われる定例会に出席する為の準備をしていると言う。

「その前に、一度お伝えしたい事があります」

 と、ベルバラジが余りにもしつこく願って来た為、俺は夕飯を食べ終えると「アジトへ行ってくる」と、ピールにのみ耳打ちしてから一人で自室に戻る。

 国王軍や他の"反国王派"にバレない様に"ヌベルの森"最深部の洞窟に移転したアジトへと、カーペットの下に隠した魔法陣を使い転移したのであった。


 俺が洞窟の入り口に到着すると、普段は王都で業務を行なっているファラー元老院やベルバラジ大臣、国王軍中将である"ヤンドウル"が膝をつき俺を迎え入れてくれた。

 ちなみに、"ヤンドウル"って言うのは、この前契約の際に『騎士が!! 』とか喚いて俺が脅した指揮官である。

「お待ちしておりました、ミルド様……」

 ベルバラジは俺に深々とお辞儀をしながらそう呟く。
 あれから数週間が経過したが、俺はその時間の多くを情報収集に充てていた。

 加えて、"契約"をかけた者達には各都市にある支部へと違和感なく移動してもらい、俺の駒を散りばめる事により、奴らの行動や計画等をより速く正確に認知できる体制を作った。

 おかげで、裏の動きの他、国王側のアプローチも耳に入ってくるのである。
 思った以上に国王側の妨害工作は無能で、アジトを見つけるのにも時間をかけ過ぎて芋づるを狙って動こうとすれば、"反国王派"に察知されて撤退され、後手後手に回っていたのである。


 まあ、これだけ多くの人脈を駆使して国家転覆を狙っているんだ。
 そう簡単には尻尾を出さないだろう。


 俺は、そんな事を考えながらもヤンドウルのオッサンに誘導されながらアジトの中へと向かったのである。


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 アジトの中へ入ると、一際目立つ王が座ると映えそうな高級な椅子が用意されていた。


 えっ、何これ……?


 俺は苦笑いしながらその椅子を見ていると、ニコニコと得意げにしているデブ、 ベルバラジは説明を始めた。

「我が"反国王派討伐"の総帥であるミルド様に相応しい椅子がありましたので、こちらに持ってきた次第です!! 」

 なんかこいつ、やたら嬉しそうにそんな事を言っている。

 どうやら、俺の50人の部下達は、あの一件以来、俺を神かなんかと勘違いしてる様に厚遇してくるのである。


 その理由は、3つあるらしい。

『あれだけ巧妙に隠してきた計画をアッサリ見抜いた頭脳』
『"英雄"すらも手玉に取り冷酷に任務を遂行する勇姿』
『本来ならば一族諸共処刑になる様な状況にも関わらず慈悲を与えてくれた優しさ』

 それによって完全に俺に心酔してしまったらしい。
 ならば、"契約"の魔法などかけなければ良かったわ。


 だからこそ、こいつらは俺の為なら身を粉にして働く。

 ぶっちゃけ、これじゃまるで【悪の組織のリーダー】じゃないか。
 俺は只、"反国王派"を根こそぎぶっ潰してまた平和な学園生活を送りたいだけなのに……。


 そんな感じで勝手に俺を崇めて盛り上がっている奴らに小さなため息をつくと、せっかくだからその椅子に腰掛けた。


「で、話ってなんだよ? 」

 俺がそう問いかけると、ファラーは真剣な表情でこう返答した。

「正直に仰いますと、今、我々の手駒では、"反国王派"の動向は上辺だけでしか認知出来ないと言う話です。我々も国の要人とは言え、幹部クラスでは無かったもので……」

 俺はそれを聞くと、小さくうなずいた。
 どうやらこいつらは、組織の中では実行役に過ぎないと言う訳だ。


 そもそも、"反国王派"は命令役と実行役が綺麗に分かれているという事も聞いていた。


 幹部級の者は影を潜めてどこかから動向を示唆して淡々と指令を出しているという。


 となると、内部の異常が認識された途端、各地から届く計画に偽装を交えてくる可能性も捨てきれない。


 何故ならば、組織の中でも基本的に幹部は誰なのかと言うのは、誰も知らないからだ。
 全く、よくもまあ、そんな奴ら信用したもんだ。


 そうなると、惑わされて対応を間違えた時点で俺達の存在が一瞬で明るみになり、今よりもずっと危険な状況になる事は簡単に想像できると言うわけだ。


 それにしても、国家の大臣級の人間でも幹部になれない"反国王派"って……。


 俺はそんな風に考えを巡らせると、ファラーにこう言った。

「なるほど。それは理解した。要は、一人でも幹部をこちら側に引きずり込む必要があるって事だな」

「仰る通りでございます」

「だが、誰なのかすら分かっていないのであれば、本末転倒じゃないか? 」

 俺が素朴な疑問を投げかけると、ファラーは顎に肥やしたヒゲを丁寧に撫でながらこう返答したのである。

「実は、ワシもたった一人だけ"幹部"の者を知っております。その者は古くからの友人でして。ワシだけにコッソリとその事実を伝えてくれたのですよ。その者、非常にフランクな性格なので、密会をセッティングして秘密裏に脅しをかける事も可能かと」


 ファラーからの提案に対して、俺は一度考える。


 実際に一人でも幹部を知っていると言うのは、かなり好都合だ。
 それに、今は情報が欲しいところ。


 そうなると、幹部を無理やりにでも取り入れる必要はあるな。

 俺はそう思うと、その場にいる部下達にこう宣言した。

「では、セッティングはファラーに任せる。もし仮に、密会の日時が決まったら、俺もバレぬように同行するとしよう。それまでに、任務遂行の計画を立てるとしようか」

 そんな提案に対して、皆は大きくうなずいた。

 密会の際は、万が一の為にピールも連れて行こう。
 奴ならば部下を守るだけの力を持っている。


 次にやる事は決まった。

 "反国王派"の幹部を俺達に引き込む事だ。

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