この世で5番目に強い男

暗喩

第14話 学園へ帰還


ーーーーーー

 俺とピールは"ヌベルの森"を抜けている。
 その間、もう一度彼女に釘を刺していた。

「まあ、アレだ。敵がどれだけいるのか分からない以上、やむ終えなかったんだよ」

 なんか、やたらと不機嫌な彼女にそう弁明をすると、こんな答えが帰ってきた。

「それはいいのよ。でも、あの時のバカミルド、まるで"悪魔"みたいな顔だったわよ……。私の知ってる幼馴染のミルドじゃなくなっちゃった様な気がして、少し寂しかっただけっ!! 」

 そう言って、有り余る胸を抱え上げる様にして腕を組んで膨れていた。


 こういう時は、可愛いんだけどな。OPPAIも大きいし。
 多分、こいつも子供の頃から精神年齢が変わってないかもしれんなとか思いつつ、俺は彼女の口封じに追い打ちをかけた。

「いや、あのな。俺も、ピールを信用したから今まで見せなかった顔を見せたんだ。というよりも、ピールには見て欲しかった。俺のもう一つの顔をな……」


 それを聞くと、ピールの目はハートマークになっていた。

「ま、まあ、それなら仕方ないわね!! 私とあんたの秘密って事で受け入れてあげるわ!! 」

 
 ……あまりにもチョロいわ……。
 なんにせよ、これで確実に黙っててくれるっぽいし大腕を振って学園に帰れるってもんだ。


 それと、暫くはグレイス、ブリオーダ、モスの3人にも俺が"反国王派"を操っている事を黙っておこう。
 なんか、やたらと正義感出して国王殿下とかに報告されてもそれはそれでヤバい気がするから。


 それこそ、もう二度とこの学園には戻れなくなるからな。
 という事で、リンドにも伝えずに任務を遂行するという形を取る事にした。


 ヌベルの森では、調査のみ実行した事にして、相変わらず相手の様子を見て活動するって言う形を取るのが今のところは一番穏便に終わると考えたのだった。


 学園の危機に関しては……。
 "潜伏"スキルで盗み聞きした結果、ヒアノー学園には余り魅力が無いと判断されて管轄外の扱いになったという事にしておこう。


 その為にも、もう既に名をばらしてしまったミルデンとリベラを始めとした5人には、ファラー枢密院の方から撤退を指示してもらうとしよう。


 そう考えると、俺は帰りの道中に足を進めつつ、早速、ファラーに連絡を送った。

「おい、ファラー。聞こえるか? 」

「先程はお疲れ様でした。ミルド様。どうされましたか? 」

「とりあえず、最初の仕事だ。もう英雄達にミルデンやリベラを始めとした"反国王派"が学園に点在している事を話してしまったんだ。だから、出来るだけでなく目につかない形での撤退を指示してもらいたい」

「かしこまりました。あなた様のお望みとあれば……」

 そんなやり取りを終えると、俺はホッとした。

 これで、ピールを除いた"英雄"3人と、リンドに分かりやすくこの学園は平和になったとアピールが出来るし、俺も説明がしやすい。
  

 という訳で、これを以って、まずは人知れずヒアノー学園を守る事に成功したのであった。

  
ーーーーーー

 学園の宿舎に戻る頃には、すっかり明け方になった。

 ピールも少し疲れたのか俺の肩に手を当てながらフラフラと歩いていた。
  

 まあ、今回の功労者だという事で、俺は彼女に「ありがとな」と小さな声で囁いておいた。

 それを聞くや否や、いきなり起き上がって嬉しそうに、「別に、あんたの為じゃないんだからね!! 」とか、喜んでる辺り、こいつはホンマもんだなと思った。

 とは言え、入学からの1年間と比べると、ここ数日は余りにも非現実的であった。
 いきなり"英雄"に押しかけられ、ヤバい組織に肩入れする羽目になるなんて、先週の俺では全く想像出来なかったであろう。

 だからこそ、宿舎の自室にドアに手をかけた時、ホッと一安心したのである。
 リンドには"反国王派"に狙われない為にも俺の部屋でグレイスらと共に待機してもらっていたのだ。


 やっと会える。
 待たせたな、リンド。 

 俺は、心に秘めた感慨深さを抑えつつ、ゆっくりとドアを開けたのであった。


 ……するとその瞬間。

 
 目の前の視界は遮断された。

 それからすぐに、頭から肩にかけて少しの重さを感じた。

「良かった!! 無事に帰ってこれたんだね!! 心配で心配で……」

 俺は、ちょっと照れた。
 リンド、お前そんなにも俺の事を……。


 ……と思いたかったのだが、残念ながらその声は男のものだった。

 グレイスだった。
 なんか肩すかしを食らったようでイラっとした。

 だからこそ、鬱陶しげに払いのけると、俺は小さくため息をついた。


 それから、部屋に入ると、モスは歓喜に叫ぶグレイスに「兄さん、シッ……」と小声で言って黙るように促していた。

 俺は、そんなモスのモーションを確認すると、ベットの方へ目を向けた。


 ーーすると、そこにはスヤスヤと幸せそうに寝息を立てて俺の布団の上で寝るリンドの姿があった。


 なんか、その姿を見ると、俺は心の底からホッとした。
 きめ細やかな白い肌、真っ直ぐ伸びる真っ赤な髪。まだあどけなさの残った顔。
 その全てが輝いて見えたのである。


 それに、彼女は今、俺のベットで寝ている。
 クッソ嬉しい。このシーツ、もう洗わないわ。多分、一回はおかずにするかもしれん。

 恍惚の眼差しを向けて立ちすくんでいると、騒ぎに気がついたのか、リンドは目を覚ますと俺を見つめた。

  その後で、一度小さなあくびをして眠たまなこを擦ると、ニコッと笑ってこう口にしたのである。

「おかえり、ミルド……」

 その笑顔は、俺にとって何よりのご褒美出会った。
  
 同時に、今、この瞬間だけはこれから起きるであろう惨劇の全てを忘れられた。


 だからこそ、何の淀みもない純粋な気持ちで、俺は彼女にこう伝えたのである。

「ただいま、リンド……」

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