この世で5番目に強い男

暗喩

第10話 バカはやっぱり馬鹿


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 俺とピールは、ヒアノー学園を離れ、歩いて1時間少しの所にある"ヌベルの森"へとやってきた。

 一応、どんな敵がいるか分からないので、学園の敷地を出る前から"潜伏"のスキルを発動した。

 それに加えて、ピールの"庇護"のスキルを付与した半径5メートルくらいであるドーム状の防御魔法を展開してもらった。
 もちろん、ドームだけ見え見えでうろうろと進んでいては、不自然というかオカルトとかのレベルになるので、潜伏スキルに"存在消し"の魔法を編み込んで完全に隠したのであった。
 まあ、その最中でも彼女は一悶着起こしたのだが、挙げたらキリがないので省かせてもらう。

 残ったグレイス、ブリザーク、モスの三人にはリンドの護衛を頼んだ。
 "スキル"や"魔力"は絶対に解放しない、ノースキルでのみの護衛を強調した。

 アイツらが魔力やスキルを解放して攻撃ぶっ放したらそれこそ学園全体が人ごと土に還る事になるから。

 言っても聞かない馬鹿どもではあるが、流石に今回は普段のように《まあ、やっちゃうけどね☆》という邪念は感じられなかったので信じることにしたのである。

 
 何にせよ、ピールの魔法は便利だった。
 目の前に樹木が生えていようと、魔物が横切ろうと、関係なく進んでいたのである。
  
 彼女の防御には"神々の庇護"が付いているため、無意味な破壊をしない。だから、敵と察知しない限り物理の法則に反して俺たちごと透明化出来るというチート能力を持っていた。

 正直、俺は攻撃自体は全くの凡人だからその能力は今回の敵の本拠地確認作業の上で使わない手はなかったのである。
 
 それにしてもこいつ、俺と2人になってからやたら腕を組んでみたり、肩の辺りにスリスリしたりと言った変態行為を繰り返している。

「私は、アンタのことなんて全然信じてないんだからねっ!! 」

 とか言う行動と全く相反する言動を繰り返している。


 ……いや、お前は只の幼馴染だ。腐れ縁だ。

 昔からそうだが、一度たりとも好きなんて感情を抱いた事はない。


 小さい頃から散々悪態付いてくるものの、何かと、修行だの何だのと理由を付けて家に来ては俺をボコボコにしたドサクサに紛れて歯ブラシとかパンツとかを盗んでいたのは分かってた。この前の枕しかり。
 ぶっちゃけ、犯人がこのピールである事なんて、とうの昔から知ってるよ。

 
 こいつが間違ったベクトルに進みながら俺の事を好きなのは分かってた。
 だが、何となく彼女自身は隠せているって本気で思ってるみたいだからこの歳までずっと黙ってきた訳だが……。これに関しては、脳筋であるグレイスやブリザーク、モスも全員知っているが口にしない"タブー"なのであった。

 顔は可愛いんだけど。違うんだよね。俺は変態女にはお引き取りを願ってしまうんだよ。

 それよりも、こう、小柄な体で俺に純粋無垢な笑顔を振りまく少しドジっ子な王女殿下の方がずっと魅力がある。間違って結婚してくんないかな。あ、俺別に小ちゃい女の子が好きなロリコンではないからね。同い年だし。


 そんな事を考えているうちに、"ヌベルの森"に到着した。
 それから"洞察"のスキルで森林内の熱源を感知した結果、簡単に敵のアジトを見つけられたのである。

 "潜伏"を上手く活かすために夜に来たのだが、なんと、ちょうどいいタイミングだったみたいだ。

「おい、ピール。あの状況、どう思う? 」

「ふぇ〜? ハッ!! あっ、え、え〜っと、そうねえ……、何かの会議をやっている様にも思えるけど……」

「だろうな。ちょうど今、奴らはお前らの言っている"決行日"の話をしているのであろう」


 人数はおよそ40〜50人。
 一人一人の顔を暗視の魔法で見ると、俺は割と驚いた。

 そこには、元々怪しんでいたミルデンやリベラはもちろん、一度学園に慰問で訪れた事のあるベルバラジ大臣や、ファラー元老院等、加えて、国王軍の兵士の格好をした者たちが椅子に腰掛け談義を交わしていたのである。

 権威ある者の数々に、俺の足元はすくんだ。


 ……いや、これは俺が考えた以上に、相手をしてはいけない敵だ。


 本能的にそう思った。
 だってさ、こいつらと関わった時点で、俺も命狙われる訳でしょ? 今回成功しても、暗殺の対象とかになる訳でしょ? 結論、無理でそ。

 この一件に俺が首突っ込んじゃったら、永遠に農夫には戻れないじゃん。平穏で幸せな生活からかけ離れた茨の道しか保証されてないやん。


 それに、聞こえてくる声は、「国王を堕したら次期王は"ベルバラジ様"ですね」とか、「我々で"ヒブリアン国"に協力して新たな国家を」とか、国家機密なんてものとは全く次元の違う会話の数々。


 うん、帰ろう。
 生憎、今は俺たちの会話は"潜伏"のスキルによって相手に聞こえる事はない訳だし。


 となると、ピールを説得して宿舎に戻ろう……。


 ……って!!!!


「そんな事、ここにいる私、フリード王国軍の騎士、ピールと、同じく騎士である"ミルド"が許さないわ!!!! 」

 いつの間にか俺の潜伏の影響下から出たピールは奴ら大物の前に颯爽と登場した。


 しかも、ちゃっかり俺の自己紹介までしてくれ
た。なんか知らんが"騎士"とか聞いていない称号まで付けてくれて……。

「な、貴様は"英雄"ピール!! なぜこの場所が……」

 ベルバラジは慌てた口調でそう叫んだ。

 それから、点在していた兵士達は彼女の方を囲んで行く。

「いち早く気づくとはなかなか感心だ」
「まあ、バレてしまってはここで斬り捨てるまで」
「これで貴様らの"英雄"ごっこは終わりだ」
「こっちには秘策があるんだ」


 とか、めちゃくちゃ敵視している。 
 てか、秘策って何だよ。

 加えて、ミルデンは「ミルドとは、ここの学生だな」って、魔法の杖を構えながら仲間の皆さんに説明してくれていた。名前が似てるから許してくれると思ったのに。


 このクソ馬鹿野郎、一番やっちゃいけないタイミングでやりやがった。
 どちらにせよ、俺もここから逃げた所で同罪確定だろうな。


 ホント、最悪だよ。めっちゃ怖え。
 でもさ、まあどうせ詰んでるなら、今更変わりないよね。


 なんか、色々どうでも良くなってきた。

「もう、どうにでもなれ」

 俺は"潜伏"を解除して姿を現わすと、この現状を理解して観念した。


「わかったよ、ピール。お前、帰ったら引っ叩くからな」

 俺が手元に護身用の短剣を構えてそう怒りを露わにすると、彼女はこう返答した。

「仕方ないから、引っ叩かれてあげる!! や、約束だからね!! 」


 いいんかーい!!
 こいつ、もしかして俺なら何してもいいのか……?

 そんなドン引きとも取れる現実逃避と共に、俺とピールは"反国王派"の連中との戦闘を始めるのであった。

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