この世で5番目に強い男

暗喩

第6話 絶賛恋愛中


ーーーーーー

 俺は、リンドだけを残し、幼馴染の4人を部屋から追い出した。

「そんなに嫌なの? だって、すっごく強い人達と一緒に戦えば、それなりの身分も保証される訳で……」

 彼女は俺にそんな事を口にした。

「いや、ダメなんだよ。俺なんかじゃ。俺は、村の農民。いわゆる"凡人"なんだ」

「でも、英雄様方もあなたの知恵が欲しいって」

「うん。それなんだが、純粋に奴等が考えな過ぎるだけというか」

「それでも、あたしは"親友"であるミルドがこんなにもこの国の"英雄"に必要とされているって事がすっごく嬉しかったよ」

 リンドは素直な気持ちでそう言うと、笑顔を見せた。

 綺麗に透き通った青い瞳をウルウルとさせながら、小さな体で俺を見上げている。

 やばい、可愛すぎる。

 抱きしめたくなった。
 むしろ、今なら良いのでは?

 でも、その後で"親友"という言葉が心に突き刺さった。

 それに、身分の差という消えない壁もある。
 貴族と平民の恋など、この国では聞いた事すらない。


 ……いや、待てよ。


 今ここで、俺が幼馴染4人と共に"英雄"になったとしたら、王の温情とかで頼めば貴族になれるかもしれない。

 そうすれば、俺も晴れてリンドに猛アタックできるタイミングが出来るという訳で、親友から将来の旦那候補にクラスアップ出来るのでは……?

 となると、軍に入隊するのも悪くないな。
 そうと決まれば早速、グレイス達の所へ……。


 ……って、それじゃまた昔の焼き直しじゃないか!!


 状況は違えど、またあの脳筋共の世話を繰り返し、作戦を潰され、強引に無茶な戦いに巻き込まれるだけだ。

 下手したら、死ぬ。
 
 死んでしまっては元も子もない。


 だから、俺は邪な考えを捨てて、冷静さを取り戻すのであった。


 ミルド、17歳。キス経験なし。
 俺は今、恋をしてしまっています。
 まともな思考も取られない程に……。


「まあなんだ、俺は今まで通り農夫を目指すつもりだ。だから、とりあえず遅くなっちまったけど、授業に行くか」

 俺がそう促すと、リンドはほんの少し残念そうな表情を浮かべた後で、ニコッと笑ったのだ。

「……じゃあ、あたしが本当の事を話せるのは、もう少し先になりそうだね! 」


 本当の事……?
 リンドが放ったその一言に、俺は疑問を抱いた。

 彼女は辺境の地の貴族。
 たしかに、俺はそれしか知らない。

 だが、どうやら何か深い根がありそうな予感がした。
 しかし、状況的に今それについて聞いたところで返答はしてくれない事を何となく理解したので、敢えて聞かなかったフリをした。


 ……いや、やっぱめっちゃ気になるやん。
 好きな人が何かを隠してる事に気がついたんだ。当然の話ではないか。
  
  
 どうやら状況から察するに、英雄と何らかの因果関係がありそうな気はする。

 つまり、俺の"英雄"入りを望んでいるのか?
 
 なんなら、俺のスキル"洞察"を使えば、ある程度の感情や思考は読み取れる訳だが……。

 まあ、やめておこう。
 あの日、幼馴染と決別する時にもう使わないと決意したんだ。

 それに、この子には邪な気待ちで接したくない。
 いずれ話してくれるといいな……。


 だからこそ、気になる気持ちを無理やり抑えて、俺は何事も無かったかのように再び学園へと向かったのであった。

 ところで、俺の枕が無いんだけど……。


ーーーーーー

 一度宿舎の自室に戻った英雄一行は、ミルドを取り入る為の作戦会議を開いていた。

「どうやったら、ミルドは分かってくれるのだ。僕達は計画や説得というものを避けてきたツケがこの様な形で出てしまうとは……」

 グレイスはうなだれてそう呟いた。

 他の3人もそれに頷く。

 彼らはこれまでずっと、自由に戦ってきた。
 敵と見なせば蹂躙するだけであった。どんな理不尽も、産まれながらに持ったスキルで全て打ち砕いて来たのだ。


 だが、今は状況が違った。


「まさか、反国王派の人間が、友好国である"ヒブリアン国"と結託し各都市に民間人になりすまし点在するとは心にも思わなかったわよ。こればっかりは、私達ではお手上げね」

 ピールはミルドの部屋から拝借した枕を抱きかかえながらそんな事を言うと、ブリザークは少し考え込んだ後で、こう返答する。

「もう既に、この学園にも顔を変え、気づかれぬように潜んでいると言う。特殊なスキルによって特定は不可。諜報員が言うには、まずこの辺境の学園で軽く暴れて存在を露わにする事が狙いである事は限りなくクロだと。だが、俺達の力を使ってしまってはこの施設丸ごと吹き飛ばしてしまう。そうなってしまっては……」

「それじゃ、意味はない……。モス達幼馴染がした約束は、平和な世界を作る事。それはあってはならない……。国王は危機感を感じていないからこそ、モス達がここに行く事を否定し続けた」

 グレイスはモスの頭を優しく撫でると、こう付け加えた。

「僕達は、作戦や策略を立てると言う点においては、"無能"だ。国家の上層部や将校達も僕らに頼り切り、『策略などいらん、蹂躙するまで』などと言う意思で統一されてしまっている。このままでは、民間人達にも危害が及び、この国は内部から崩壊してしまう……。もっと、僕らに知恵があれば……」


 彼は心から悔しさをにじませてそうぼやいた。


 そして、4人は再び決意する。

「奴等の決行日は近い。それまでに、何とかミルドを取り入れるんだ。僕達は知っている。彼の持つ"洞察"と"策略"のスキルを持ってすれば、この危機的な状況を最小限の被害で打破出来ると!! 」


 グレイスがそう宣言して立ち上がると、ピールはこう言った。

「まあ、バカミルドは"軍事指揮"においては、天才的な才能を見せていたものね。私達はそれを無視して暴れ続けたけど、そろそろそれも限界になった訳だし」

「ハッハッハ!! まあ、今回は力を封印してミルドに使われてやろうではないか!! 」

「決まりだね……。頑固なミルド兄をモスの妹力で必ず口説いてみせる」

  グレイスは彼らの発言を聞くと、颯爽と宿舎を出て行った。

「では、行こうではないか!! 我が仲間の元へ!! 」

 知恵なき4人は、幼馴染唯一の知者を取り入れる為に、再び進み始めたのであった。

「この世で5番目に強い男」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く