この世で5番目に強い男

暗喩

第4話 目覚めと登校


ーーーーーー

 アレ、ここって……。

 俺は、草原の遠目で繰り広げられる惨状に瞬きすら出来ず立ち尽くしていた。

 いや、これは惨状ではない。
 希望の光だ。


 煌びやかに真っ白な光のベール包み込まれた村を、隣国の兵士であろう数万人は魔法や武器で必死で砕こうと試みる。
 だが、それはそのベールからすれば、赤子の攻撃にしか過ぎながった。

 それから、その兵達の頭上には数多の魔法陣が現れた。
 続け様に放たれる真っ赤な槍にも似た鋭利な石は、兵の命を無慈悲に奪って行った。

 強者であろう屈強な男がひとたび拳を放つと、波動砲とも取れる衝撃波によって四方を亡き者に粉砕し尽くしていく。


 そして束の間、1人の剣を構えた青年は、正義一色に身を包んて一振りした。


 すると、その場全ては真っ白な閃光に包まれた。


 目を開けば、敵軍の兵は1人たりとも立ち上がる者は居なかった。


 そんな圧倒的な力を前に、俺は身震いをした。

 続けて、これまで否定し続けた気持ちに支配されたのである。

 ハハハ……。 やっぱり無理だったんだよな。
 俺は、"英雄"になんてなれなければ、奴らと肩を並べる事すら出来ない。


 そんな現実が骨の髄まで染み込んでくると、俺は誰もいない荒野で咽び泣いたのである。


 悔しくて、悔しくて……。


 ……「ミルド! ミルド! いつまで寝てるの?! これじゃ授業に遅れちゃうよ! あたしも! 」


 そんな騒がしい声で目を覚ますと、先程までの出来事が夢だったのだと理解した。
 いや、夢というより、フラッシュバックに近いのかも知れない。

 アレは、本当に起きた出来事なのだから……。


 ところで……。
 そう思いゆっくりと目を開くと、俺の視界いっぱいに、リンドの顔が映し出された。

「うわぁっ!! 」

 状況を理解して照れと慌てから、俺はベットから飛び上がる。

「何でお前がいるんだよ」

「違うよ! 昨日の別れ際も様子おかしかったし、部屋の前で待っててもなかなか出てこないから、起こしに来てあげたんだよ! 」

 俺はそんなやり取りを聞くと、昨日の夕方人知れず振られた事を思い出して心苦しくなった。


 恥ずかしい事を思い出してしまった……。


「それにしても、よく俺の部屋に入れたな。鍵かかってたんじゃ……」

「一大事だと思ったから、壊した!! 」

 俺はそれを聞くとすっかり破壊されて無残にも木クズと化したドアを見ると、小さくため息をついた。

「じゃあ、今度から鍵渡しておくから、壊さないで入ってこいよ」

「わかった!  ごめんね……。たった1人の"親友"が出てこないから心配になっちゃって……」


 俺は再び、"親友"という言葉にグサッと心を抉られながらも、何とか耐え抜いて笑顔を見せた。

「じゃあ、さっさとドア直して支度したら行くから、宿舎の玄関で待っててくれ」

 俺がそう促すと、彼女は満天の笑顔で「じゃあ、待ってるね! 後、またテンパっちゃってごめんね……」と言いながら申し訳なさそうに部屋から出て行った。


 そんな彼女の表情にニコッと微笑んで「全く……」と呟くと、ドアに修復の魔法をかけ元どおりにして足早に支度を済ませた。


 昨日のあの一件も、夢だろう。
 そんな事を思いながら、俺はリンドと共に併設する学園へと向かったのである。


ーーーーーー

 学園へ到着すると、周囲は騒ついていた。
 いや、騒ついていたというより、どちらかというと賞賛の声を上げている。

「何であの方々が?! 」
「やっぱり近くで見ると、カッコいいな!! 」
「私、一目惚れですわよ……」

 そんな生徒たちの声が聞こえてくる。


「何かあったのかな? あたし、全然検討もつかないけど……」

 リンドは顎に手を当てながら、そんな事を言う。

 俺は、何となく想像がついた。
 というより、昨日の夜の事は夢だったんじゃないのだと痛感させられた。

「あいつら、マジで……」

 俺がそう困惑しているのも束の間、その賛辞の中心にいる彼らはゆっくりとこちらへやって来た。

「やっと登校か。もう始業時間までそんなに時間もない。早く僕らと一緒に登校しようではないか」

 当たり前の様に距離感を詰めてそう呟くグレイスを無視して、俺はまだ状況を理解出来ていないリンドの腕を掴み早歩きを始める。

「はっはっは!!!! なんだよ!! 相変わらずミルドは釣れねえな!! 」

 そんな事を言いながら並走してくるやたらとガタイの良いブリザーク。

「と、ところで、こ、この女は何なのよ!! バカミルド!! こ、答えなさい! 」

 何故かやたらと声を上げるピール。

「モテ男……」

 と、ピールを茶化して嬉しそうにするモス。


 俺は、昨日関わらないでくれと頼んだ筈だった。
 だが、奴らは、本当にこのヒアノー学園に転入していたのだ。

 それを象徴する様に、俺と同じ制服に身を包むグレイスとブリザーク。
 加えて、リンドと変わらずチェックのスカートを着こなすピールとモス……。


 ……マジか、こいつら。


 元々、有言実行型で直感型の4人だったとはとうの昔から知ってはいたが、まさか、ここまで思い切った決断をしてくるとは、流石に想定外だった。


 それにしても、俺はもう彼らとは違って"一村人"であり、学園生活では影の薄い"凡人"なのだ。


 だから、いくら彼らがここに転入したとしても、肩を並べて歩くなどおこがましいわけで……。


 ……と、言いたいところではあるが、もう手遅れだった。
 今、足早に逃げようとする俺とリンドへの視線は、疑惑、ないし、期待でいっぱいになっていたからだ。


「なんで、ミルドが英雄様方とお知り合いなの?! あたし、全然知らなかったけど、もしかしてミルドって凄い人なの?! 」

 と、やたら大きな声で騒ぎ立てるリンドの声も相まって余計に……。


 俺は、そんな状況に痺れを切らして、渋々幼馴染4人にこう言った。

「こうなった以上、授業にもならないだろう。とりあえず、先生には連絡を入れておくから、一回宿舎に戻る。付いて来い」

 グレイスは俺がそう言うと、嬉しそうな表情を浮かべた。

「やっと僕らの話を聞いてくれる気になったんだね! 」

 彼のそんな素っ頓狂な発言に対して、俺は大きくため息をついた。
 それから、腕を掴んでいたリンドはなんか知らんが俺と4人を見比べて嬉しそうにしながら、「じゃあ、あたしも付いていく! 」と言って何故か喜びを全身で表現していた。


 そう、こいつらはこの世の全てを叩き潰す力がありながら、決めた事に一直線な脳筋だったのである。

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