この世で5番目に強い男

暗喩

第1話 平凡で幸せな日々

ーーーーーー

 俺は今、教室の窓から外を眺めていた。 
 有頂天に沸く学園の生徒達。
 彼らは国家の勝利を全身で祝福している。

「我が国家フリード王国に万歳!! 」

「国王と、国家の窮地を救ってくれた軍の方々に万歳!! 」

 あちらこちらで騒がれるそんな歓喜の声に、俺はあまり興味が湧かずため息をついた。

「当たり前だろうが……」


 だが、そんな小さな呟きをかき消すかの様に目の前には小柄な美少女が現れた。
 整った赤髪の先にアホ毛を生やした少女は、気がつけば隣に座り恍惚の眼差しを俺に向ける。

「もしかして、ミルドはこの結果を見透かしていたの?! やっぱり天才。馬鹿なフリして天才だよ!! 」

 彼女は、綺麗な顔立ちとは裏腹に、あまり頭の良くなさそうな表情で尊敬を表していた。

「だから、リンド。俺は別に天才じゃないって……」

「いや、天才だって。この前の農業の授業の時も、ミルドの芋が一番出来が良かったし! 私のはすぐに枯れちゃったし」

「だ、だからそれは、元々故郷の村で実家が農家だったからってだけで……」

「そんな訳ない! あの芋は、格段に美味かった! だから、天才だよ! そろそろ自分が天才である事を認めて! 」

 俺は押し倒される勢いで近寄ってきた彼女を恥じらいながら振り払うと、落ち着く様に促した。

 
 いや、俺は天才でも何でもないんだよ、リンド。実際に本物の天才を見た事があるからこそ、俺はここにいるんだ。

 今いるこのヒアノー学園は、正直言ってあまり賢い学校とは言えない。
 ヒアノー王国直営で俺みたいな村出身の平民の割合は低い、身分の高い学校である事には変わりない。
 だが、貴族の中でも余り将来に期待がされていない者が集まる、言わば、『貴族矯正学園』なんて巷では囁かれている。

 俺はそんな腐っても国家直営の学園に、故郷である村の農業を効率的に行いたいという一心で、必要な理論や魔法を学びに来ているのであった。
 加えて、村から一番近く、各村々から1人だけ給費生を迎えてくれると言う魅力から、俺はこの学園を志願して選んだのである。

 だから、普段は馬鹿貴族から余り目をつけられたくないので、ワザと成績を取りすぎない様に抑えたり、それなりの努力をしながら学んで来たのだが……。

 まさか、農業の授業で俺の作った芋を物欲しそうにしていた彼女にあげたと言うだけで、ここまで懐かれるとは思ってもいなかった。
 それから、かれこれ1年。
 彼女は置いてかれぬ様に付き纏い、俺の後を追ってくるのであった。

「お前も貴族だって言うのは、今だに信じられないけどな……」

「まあ、人は見た目で判断してはいけないよ! だって、私だって立派な貴族ですのよ? 」

「そうだよな……。周りの奴らは偉そうに貴族貴族してるから分かりやすいが……」

「なんか今、とてつもなく酷い事を言ったよね?! 私聞いたよ!! 」

 少し小馬鹿にした俺に対して、舌を出してツンとしたリンドを見て、小さく微笑んだ。


 俺にとっては、彼女の存在が有り難かった。

 ただでさえ一村人でしかない俺が学園で貴族達から虐めにあったりするのを彼女は避けてくれている。
 何故ならば、リンドというこの一見お馬鹿な美少女は貴族だから。何でも辺境の地にある荒地の領主でしかないらしいのだが、この国において貴族間の揉め事は、王の権限によりタブーとなっている。

 そのおかげで、俺は今こうして悠々自適な学園生活を送れているのだが……。

 それに、この賢くなく、純粋無垢な笑顔を見ていると、日常の疲れや"過去の自分"から解放される気がした。

 リンドは、むくれた表情から一転、ニコッと綺麗に生えそろった白い歯を見せると、

「いつか、最高の芋を作ってミルドに食べさせるから見てて!! 」

と、得意げに言った。


 多分、俺はこのリンドと言うお馬鹿で優しい辺境貴族様に恋をしてしまっているみたいだ。


 それは、だいぶ前から気づいているのだが、身分の差から、実る事がない恋であると充分に理解はしているところだった。

 ならば、卒業までの後1年間は、こんな平凡で幸せな日々が続いてくれる事を強く願うだけである。

 それから、リンドに促されて俺は帰りの支度を終わらせ、寄宿舎へと足を進めるのであった。


 ーー"英雄"など、とうの昔に諦めた清々しい笑顔で。

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