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竜の血脈―黒狼盗賊団の頭―

叶 望

033 新たなる国

 一歩、そして一歩リュシュランが進む度にシャイラ王女は怯えたように後ずさっていく。
 そして瓦礫の山に背が当たるとシャイラ王女はとうとう観念したかのようにリュシュランに視線を向けた。
 リュシュランはすでにシャイラ王女の目の前に立って居た。


「俺が怖いですか?」


「………。」


「首輪が付いている時はあんなに大胆な事をされていたのに。」


「それ、は…。」


 シャイラ王女に先程までの狂気の気配はすでにない。
 すでに憔悴しきっている目をリュシュランに向けている。


「分かっていますよ、貴方は番の元へ逝きたかったのでしょう?」


「なっ…なんですって?」


 その言葉にシルフィールが驚いてシェイラに視線を向けた。


「お前に、何が分かる。」


「そうですね。俺自身にはきっと理解できないでしょう。ですが、俺にはこれまで生きてきた竜の血を引く者たちの記憶もある。だから貴方の行動はそういった理由があるのだと思っていました。」


「記憶…。」


「えぇ。気が遠くなるほどの記憶。その中で番を失った者達の心が俺の中にあります。貴方も彼らと同じ目をしている。」


「だったら、私を…。」


 リュシュランはその言葉に被せて殺さないと宣言した。
 シェイラは理解できないと言った表情をリュシュランに向ける。


「死は貴方にとってご褒美にしかなりませんからね。命を失うことなくしっかりと罰を与えて差し上げますから覚悟してくださいね?」


 リュシュランの言葉にシェイラはがっくりと項垂れた。
 まるで世界が終わったかのような絶望をその目に浮かべる。
 それをカルラ女王は悲しげな瞳で見つめていた。
 だが、どこかほっとしたようなそんな安堵の色も僅かに混じっている辺り、やはり彼女は母親なのだとリュシュランは感じた。
 そしてリュシュランは懐かしい気配を感じて振り向いた。
 小さくて黒い毛並みを持った子犬サイズのカゲロウがリュシュランに飛び掛った。
 小さくても勢いが強くリュシュランは思わず尻餅をついた。


「ちょ、うわっ。か、カゲロウ!や…やめ。」


 ぺろぺろとリュシュランの顔を舐めまわすカゲロウの後を黒狼盗賊団の面々が追いかけてきた。
 城が崩れて落ち着いた為、状況を把握しようと走り回る騎士たちは瓦礫の撤去や怪我人の把握などで手一杯だ。


「あ、お前らも来たのか。」


 リュシュランは懐かしい顔ぶれをみて頬を緩ませる。
 そのリュシュランを見て記憶が戻ったことを伝えるとわっと歓声が上がる。


「お帰りなさいシュラ様。」


 今や黒狼盗賊団は大所帯になっている。
 そしてリュシュランにとって大切な仲間である彼らを盗賊のままにしておくのは忍びない。


「そうだ、お前たち。黒狼盗賊団の名を改め、今後は黒狼騎士団を名乗れ。」


「えぇ騎士ですか!そんな名乗って大丈夫っすか?」


 ジャズがそんな事を言い出すが、他の面々も同じような顔をしている。


「俺がシルフィールと作る国なら問題ないだろ?」


「はへ?国って何の事ですかい?」


 オルグが首を傾げてルイスを見るが意味深な表情を返されるだけだった。


「とりあえず、お前らも瓦礫の撤去とか手伝ってやれ。黒狼騎士団初仕事だ。」


「おう!」


 訳が分からないまま作業に借り出されていく彼ら。
 そしてリュシュランはカルラ女王に向き合った。
 今後の事を決めなければ成らないからだ。


「本気なのかや?」


「当然です。だから世代交代はまだ先で良いですよ?」


「な、なんじゃと?お主もしや妾を扱き使う気か?」


 何を当然の事を言っているのかというリュシュランの表情でカルラ女王はこの先待ち受けているであろう混乱の数々を考えると頭を抱えた。
 そしてリュシュランとシルフィールそしてフレイン王国の女王であるカルラと彼女の選抜した貴族の面々を連れてライアック王国の城へと移動する事になった。
 理由は当然城が見事に破壊されてもはや城を建て直すよりもこの先に起こるであろう国の統合に力を注いだ方が早いと考えたからだろう。
 無事に帰還したリュシュランとシルフィールをライアック王国は大歓迎だった。
 おまけに互いを婚約者であるとして大々的に広めたので国内は一気にお祭りムードとなった。
 ライアック王国の国王であるリュオン・ライアック・シェルザールとフレイン王国の女王カルラの話し合いが秘密裏に行われ、国の統合に向けての行動は少しずつ行う事で同意した。
 リュシュランの望みもあり世代交代までの時間はまだまだある。
 その間にゆっくりと国同士をまとめていけば良いと考えての事だ。
 リュシュランはライアック王国に帰るとすぐにネイト・メルディーに手紙を送った。
 リュシュランとネイトとの約束を果たす為だ。
 そしてリュシュランとレイオス・メルディーは互いに大切にしている記憶の中のミュリエルを語り合った。
 リュシュランとレイオスはまるで祖父と孫のようにゆっくりと交流を深め合う。
 いつしかリュシュランの傍にはルイスやナイルズと並んでネイトやフェルトが立つようになる。
 それは新たな国でリュシュランとシルフィールを支える存在と成っていった。
 そしてシルフィールに危害を加え崖から落とした罪を持つアリッサ・シュバリエはなぜかシルフィールの2人目の侍女となった。
 家からの意向ということでシルフィールがアリッサを許したのだ。
 かなり甘いと周りからも散々と言われたがシルフィールがそれを覆す事は無かった。
 アリッサが向けてきた感情はシルフィールにとっては新鮮なものだった。
 今までずっと隔離されて育ったシルフィールはエマしか女友達と言える者は居ない。
 しかもエマはシルフィールの侍女であって友人以前の問題だ。
 アリッサが向けた感情は明らかに王族に対しては不敬なものだが、シルフィールが許せばそれまでだ。
 アリッサは最初かなり警戒していたようだが、シルフィールはアリッサを貶めるつもりなど当然無い。
 そしてリュシュランを奴隷にして傷つけたシャイラ王女はというと…。


「だからってこれは無いわ。」


「そうですか?とってもお似合いですが。」


「あなた一国の王女を何だと思っているのよ!」


「えっと、教育係?」


 シャイラはリュシュラン監督の下でシルフィールの教育係として立っていた。
 なぜか侍女の服を着せられたシャイラはリュシュランに抗議の声を上げた。
 何気に奴隷にされた事を根に持っているリュシュランはシャイラにゆっくりする間も与えないほど扱き使っている。
 それは教育係だけではなく侍女としての扱いも兼ねているということだ。
 明らかにありえない状況だが、リュシュランに行った事を考えればこの程度で済んでいるだけマシと言えるだろう。
 シャイラは番の事を考える間もなく忙しく働かされている。
 唯一寝るときだけはその時間があるはずなのだが、リュシュランの絶妙な仕事配分でベッドに倒れるように眠るシャイラはそれを考える暇さえなかった。
 この件についてはカルラ女王も許可しており、忙しそうなシャイラを見守っている。
 だが、カルラ女王もそんな暇が無いほど忙しい。
 組織の再編というのは途方も無い作業になっていた。
 なぜなら2国はずっといがみ合って来たので統合する上で様々な問題が生じていた。
 一番の問題はフレイン王国の資料がほとんど残っていない事だ。
 城ごと見事にリュシュランによって吹き飛ばされたお陰で資料を集めるのでさえ一苦労となっていた。
 その分資料の集め方もライアック王国に合わせるという普通なら出来なかっただろう方法が取れたのだが、それが良かったのか悪かったのか。
 様々な紆余曲折を経てフレイン王国とライアック王国は一つに纏まっていった。
 新たな国の名は両国の名を取ってフライ王国となった。
 そしてその国の国王として立つリュシュランと女王として立つシルフィールの傍には黒き狼であるカゲロウが寄り添い、その守護として黒狼騎士団が国の騎士や近衛とは別に立っていた。



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