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竜の血脈―黒狼盗賊団の頭―

叶 望

029 交じり合う記憶

 リュシュランは闇の中に浮かぶ記憶の玉を眺めている。
 触れれば壊れてしまいそうな程繊細な膜に覆われてふよふよと宙に浮いている。
 リュシュランは決意を固め、その一つに触れた。
 触れた途端に記憶の玉は吸い込まれるようにリュシュランの中に入り込んでくる。
 駆け巡るような記憶の波に呑まれないように必死で自分を保ち続ける。
 波が去るとリュシュランの中にリュシュランではないものの記憶が混じりこんだ。
 そしてそれを自分ではない記憶として受け入れる。
 ひとつ、またひとつ。
 リュシュランは記憶の玉を取り込んでいく。
 無数にある記憶の玉には、生まれてすぐに途絶えたものもある。
 どちらかというとそう言ったものの方が多い気がする。
 生きながらえた者は多くの中の一握りだ。
 交じり合う記憶をリュシュランはゆっくりと自分の中に落とし込んで行った。
 最後の玉を取り込んだリュシュランは少し大人びたような顔つきになって居た。
 多くの人生を呑み込んだリュシュランに彼らの経験が蓄積されたのだから当然とも言える。
 そして再びリュシュランは目の前の少年と向き合った。
 もう一人の自分だ。


「よく耐えたな。」


「そうだな。記憶を取り込むというのはかなり大変だったよ。」


「自分を見失わないでこうして立っていられるだけでも十分だろうよ。」


「記憶の中に父上の物は無かったな。」


「当然だろ、父上はまだ生きているんだから。」


「そうか。」


「俺で最後だよ、リュシュラン。俺の名はシュラ。黒狼盗賊団の頭領だ。しっかりと受け取ってこれから先をおまえ自身で選べ。」


 シュラはそういうとリュシュランに手を差し出した。
 その手を取るとシュラの輪郭がおぼろげに崩れてリュシュランの中に吸い込まれて行った。
 リュシュランの中に取り込まれたシュラの記憶。
 そしてそれがリュシュランの中にしっかりと根付く。
 暗い闇の中柔らかな光がリュシュランを暖かく包んだ。


――――…


 リュシュランが目を覚ましたのは暗い牢屋の中。
 黒ずんだ染みがあちらこちらに残されている。
 体を動かそうとして痛みに目を見開いた。


「つぅ…。」


 痛みを堪えて体を無理やり起こす。
 だが体力が落ちているのか思うように動けなかった。
 リュシュランは魔力を使って自らの体を癒した。
 痛みが引いて体が少しだけ楽になる。
 今度こそと体を起こしたリュシュランは辺りの様子を伺った。
 鎖に繋がれた自分の姿を見て自嘲する。
 ここが好意的な場所ではない事は明白で、ライアック王国であればこの様な扱いを受ける事は無い。
 自然とリュシュランはこの場所が何処なのかなんとなく理解した。


「目を覚ましたか。」


 唐突に声をかけられて顔を上げる。
 長い黒髪に赤い瞳の女性が牢の前に立っていた。


「貴方は?」


 見た事がない人物だ。
 だが、黒髪に赤い瞳で豪華なドレスを身に纏う女性であれば自然と身分を予想させる。


「私はフレイン王国第二王女シャイラ・フレイン・ウェスリー。お前はライアック王国の第五王子で間違いないか。」


「えぇ。私はリュシュラン・ライアック・シェルザール。ライアック王国の第五王子に相違ありません。」


「お前はわが国へ不法に入国した。国へ帰れるとは思わないことだ。」


「不法入国ですか?それはまた随分と穏やかではありませんね。」


「当たり前だお前は敵国の王子なのだから。」


 キッとリュシュランを睨み付ける王女の目には、はっきりと憎悪が浮かんでいた。


「シルフィールは…。」


「何?」


「彼女は無事ですか?」


 名を出しただけで忌々しそうな表情に変わる王女。
 その様子を無視してリュシュランは尋ねた。


「ふん。無事だ。お前にとっても敵国の王女だろう。なぜ気にかける?」


「彼女は私の大切な人だから。」


 その言葉にシャイラは目を見開いた。
 在りえないものを見たかのように驚いた表情で目を瞬いたがすぐにその表情は消え去った。


「お前がこの国から出る事はない。だが、お前はライアック王国で疎まれる黒髪を纏っている。わが国では黒は神聖な色だ。お前が望むのなら私の愛人にしてやっても良い。」


「何のつもりですシャイラ王女。」


「言葉通りだ。私の愛人にしてやろうと言っている。ただし、扱いは奴隷と同じだがな。」


「お断りします。私にその気は無い。」


 その言葉を聞いたシャイラは鼻で笑った。


「お前に拒否権など無い。」


 そう言い捨てて看守にリュシュランの支度をして自分の下へ連れてくるように告げるとその場を去って行った。


「あの王女、何のつもりなんだ。」


 思わず呟いた言葉は看守の耳に止まる。
 悲しげな表情の看守はリュシュランの支度を整えながら話してくれた。


「シャイラ様は大切なお方を戦で亡くされたんですよ。討ち取ったのはライアック王国の第四王子様だったとか。悲しみにくれたシャイラ様は敵を取る為にずっと努力されてきました。無事に復讐を遂げられましたが今も悲しみは癒えていないのです。貴方にお辛く当たられるのも、そのような扱いをされるのもきっと、未だ憎しみが消えていないからでしょう。」


「そんな事、私に言っても良かったのですか?」


「貴方は王族でいらっしゃる。それに第七王女であるシルフィール様もまた可哀想な方です。彼女を大切だと言った貴方だからこそお話いたしました。」


「そうか。ところで私はどれくらい眠っていたんだ?」


「3日ほどでしょうか。ただ、城に連れてこられる前も含めるともっと長いのではないかと。」


「だろうな。」


 看守に連れられて身を清められたリュシュランはシャイラ王女の下へと連れてこられた。
 看守はすぐにその場を去ってリュシュランは王女と二人きりになった。


「ふっ、似合っているではないか。」


 今のリュシュランはフレイン王国の城勤めをしている侍従のような格好をしている。
 久々に身を清められて綺麗にはなっているがずっと眠っていたためか体調がかなり悪い。
 正直に言うと動くのも億劫なのだ。
 何も口にしていない状態で死ななかったのは竜の血がリュシュランを生かし続けていただけだ。
 今にも倒れそうなリュシュランを見てシャイラ王女は満足そうに笑った。
 その顔は笑顔なのにどこか冷たい。


「こちらに来い。いい物をやろう。」


 動かないリュシュランをシャイラ王女は引っ張って連れ立った。
 そして棚からある物を取り出すとふらふらなリュシュランを上から押さえつけて首に取り付けた。
 ちくりと首に痛みが走りリュシュランは呻いた。


「うっ…ぁ…。」


 じわりと体に痺れが走る。
 まるで自分の体が別の何かに乗っ取られたかのような違和感にリュシュランは襲われた。
 以前の名を縛られたときとは違った感覚にリュシュランは眉を顰める。


「これは隷属の首輪。主である私に逆らえなくなるものだ。」


 リュシュランの髪を引っ張り、無理やり上を向かせる。
 シャイラは意地の悪い笑みを浮かべてリュシュランを見下ろしていた。


「なんで、こんな事を。」


「言っただろう?お前は不法入国者だ。それを捕らえたわが国の捕虜だ。奴隷となるのもまた当然であろう。」


「…そうじゃない。」


「何?」


「こんな事をしても失った者は戻らない。」


 リュシュランはシャイラ王女を見上げて真っ直ぐにそれを口にした。
 その言葉を聞いた瞬間シャイラの怒りが爆発した。


「お前が、お前がそれを言うのか。ライアック王国の王族であるお前が。私の愛しい人を奪ったお前たちにそれを言う資格などありはしない!」


 怒りのままシャイラ王女はリュシュランの服を掴むと壁に叩きつけた。


「かはっ!」


 背中に衝撃が走りぐったりと壁にもたれかかったリュシュランはシャイラ王女にされるがまま暴行を受け続けた。



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