竜の血脈―黒狼盗賊団の頭―
021 名の持つ強制力
黒狼盗賊団は一気に大所帯となった。
シュラは勝手にしろとは言ったが付いてくるものを無碍にできるような性格ではない。
仲間を大切にするというのがシュラだ。
そして僅かな期間で元漆黒の使徒のメンバーを手懐けてしまっていた。
元々面倒見のよいシュラだが厳しさも当然併せ持っている。
上に立つ者としての資質は十分に備えていた。
それぞれ元居たメンバーの下に人を付ける形で彼らを吸収したのであれば暫くは何らかの問題が出るのは明白だ。
だが、シュラが最初にやったのは新しく入った者たちの特性を見極める事からだった。
何が得意なのかを見極めて適正に振り分ける。
それが出来たからこそ自然と集団として纏まって統制が取れるようになったのだ。
そして集めた情報から一週間後に城の外で黒髪の者たちが一斉に集められるという情報を手に入れた。
その日に向かって全員の準備を進めていく。
逃がすものと誘導するもの、そして敵を引き付けておく者。
そして逃げた者たちを匿う者。
それぞれの役割をしっかりと果たせるように動きを細かく決めておく。
城への侵入なのだ。
危険は大きい為、失敗しても振り返らずに逃げるように言っている。
何が起こるのか分からない。
命を大切にすること。
失敗しても次がある。
決して無茶をしないように言い聞かせた。
――――…
当日、各所から黒髪を持つ少年たちを集めた馬車がライアックの城へ集められた。
城内には入らない。
身元の不確かな者を大勢中に入れるわけにはいかないからだ。
城の外にある広間のような場所で多くの黒髪を持つ少年たちが連れられて入ってくる。
整列させてから跪かせるとその者達を見るために国王が自ら姿を現した。
そして黒髪の中から一人を引きずり出して前に歩かせる。
そして一定の場所まで来るとまた押さえつけられて顔を上げられる。
そして王が首を振るとその者は再び引きずられて連れて行かれる。
3人目が始まったその時、破壊音が響き渡った。
騎士たちが確認のために動き出す。
「申し上げます。何者かによる襲撃がありました。どうやら黒髪の少年たちを収容していた場所が狙われた模様です。」
騎士が報告に戻ってくるとざわりと会場は騒がしくなった。
「すでに全員が連れ去られた後であり、けが人はありません。」
そう告げた瞬間に巨大な咆哮が会場に響き渡った。
黒い巨大な狼が会場に姿を現す。
「シュランガルムだ!馬鹿な、なぜこんな場所に。」
ありえないと叫ぶ声と悲鳴が会場に木霊する。
慌てて逃げ出す者たちに乗じて黒髪の少年達を連れ出す黒狼盗賊団の面々。
そして、前方に居る一人の少年の横にふわりと降り立つ者が居た。
シュラだ。
黒い髪と金の瞳を持つ少年。
そして後方から少年を押さえつけていた騎士を風の魔力で吹き飛ばしたルイ。
青い髪と緑の瞳。その姿を見た何人かの貴族がその男を見て名を叫ぶ。
「馬鹿な、ルイス・シュバリエだと!なぜここに。」
大勢の騒ぎの中、少年を連れ出そうとするシュラ。
シュラの瞳と髪を見てその子は怒りに震えた。
「お前がそうなのか。お前のせいで僕は捕まったのか。」
「そうかもしれない。だが、今はそんな事を話している暇はない。」
そう告げて連れ出そうとするシュラ。
だが、少年は動かないままだった。その僅かな時間が命取りだ。
少年が抵抗している時、壇上から声が上がった。
国王の声が会場内に響き渡る。
「リュシュラン。そこを動くな。」
国王の声がシュラの体に異変を齎す。
体の奥底に国王の言葉が染み渡り、まるで魂が縛られたかのようにシュラの体の自由を奪う。
異変に気付いたルイはシュラに駆け寄ろうとするが、それは叶わなかった。
『ルイ、カゲロウこいつを連れて逃げろ。』
風の魔力で伝達された命令。
自由の聞かない体であってもシュラの目は諦めていなかった。
だがルイが少年を掴んで逃げようとするも、騎士がそれを許さない。
カゲロウがそこへ割り込んで少年を咥えて走り出した。
シュラはカゲロウのために道を作る。
風の階段を駆け上り逃げ果せたのを確認したが、騎士と戦い続けていたルイは流石に何人もの騎士に囲まれれば成す術はない。
押さえ込まれて捕らえられたルイ。
それを見たシュラはルイを逃がそうと魔力を集める。
だがそれもまた叶わなかった。
いつの間にか目前に迫っていた国王はシュラをそっと抱きしめた。
意味が分からずに動揺するシュラ。
「しばし眠れ、リュシュラン。」
その言葉で強制的に思考が閉じられシュラは抵抗する間もなく崩れ落ちる。
それをしっかりと抱きしめて支える王はシュラを優しく抱きかかえた。
「シュラ様!」
「悪いようにはしない。ルイス・シュバリエ、大人しくしなさい。」
国王の言葉にルイは成す術もなく騎士たちに連行される。
会場の混乱はすでに落ち着きを取り戻しており、賊として捕らえられたのはルイとシュラのみ。
多くの者が逃げ果せたがそれが問題に成らないほどの成果があった。
この日、ライアック王国の第五王子が見つかったと探し人の依頼は取り下げられる事と成った。
――――…
体を清められてベッドに横たわる我が子を不安げに見つめる王妃と国王。
黒い髪を持ったが為に15年もの間、行方不明になっていた王子はやっと自分達の手元に戻ってきた。
だが、城に襲撃を仕掛けた犯人である事は多くの者が見てしまっている。
出来る事なら穏便に済ませたかった国王は子供が見つかった喜びだけでは済まない。
シュラと呼ばれた我が子をこれからこの国を担う者として育てねばならないが、果たして市井で生きてきたこの子が素直に応じるだろうか。
何をするか分からない為リュシュランの手足には鎖が繋げられており、それが王妃を苦しめている。
まるで罪人のように扱われる我が子を悲しまないわけがない。
シュラの傍にいた男。
ルイス・シュバリエもまた牢に入れられて繋がれている。
本来であればリュシュランをここまで守ってくれていた彼に礼をしたいと思うところではあるが、襲撃を行った犯人である為それもできないのだ。
これから先どうしていけばいいのか、国王は悩む事になった。
だが、その苦悩を更に増やす出来事が起きた。
病弱であったユリウス王子が息を引き取ったのだ。
まるでリュシュランが戻るのを待っていたのだと言わんばかりのタイミングで命を落とした第三王子。
これで王の血を引く子供はとうとうリュシュランただ一人に成ってしまった。
リュシュランはまだ眠りから覚めない。
あどけなさを残した黒き髪を持つ少年は眠っている間に己の命運が決まろうとしている事など知る由もなく、ただただ昏々と眠り続けていた。
――――…
黒狼盗賊団の面々は沈痛な表情を浮かべて集まっていた。
頭領であるシュラとその右腕であるルイが捕まったのだ。
カゲロウが連れてきた少年はシュラが自分たちを助けてくれたのに自身の苛立ちのせいで逃げるのが遅れて捕まる事に成ったと責任を感じていた。
少年は漆黒の使徒のリーダーで会った男の息子だった。
シュラの話を聞いて自分が行った事を悔いている少年にフリットが声をかけた。
「シュラ様はきっと君を責めたりなどしませんよ。」
「でも僕のせいで彼は…。」
「シュラ様はお優しい方です。責めるくらいなら別の事を頑張った方がマシだと言うと思いますよ。」
「僕に出来る事はあるかな。」
「きっとあります。出来る事をやっておきましょう。シュラ様からの連絡を待つしかありませんしね。」
「分かった。僕、頑張るよ。」
シュラが居なくても彼らがやるべき事は変わらない。
生きるために必要な事を出来る内に行う。
今の彼らに出来るのはいつかに備えて新しく入ったメンバーをしっかりと鍛え上げることだ。
シュラとルイの抜けた分も黒狼盗賊団は一団と成って動いていた。
シュラは勝手にしろとは言ったが付いてくるものを無碍にできるような性格ではない。
仲間を大切にするというのがシュラだ。
そして僅かな期間で元漆黒の使徒のメンバーを手懐けてしまっていた。
元々面倒見のよいシュラだが厳しさも当然併せ持っている。
上に立つ者としての資質は十分に備えていた。
それぞれ元居たメンバーの下に人を付ける形で彼らを吸収したのであれば暫くは何らかの問題が出るのは明白だ。
だが、シュラが最初にやったのは新しく入った者たちの特性を見極める事からだった。
何が得意なのかを見極めて適正に振り分ける。
それが出来たからこそ自然と集団として纏まって統制が取れるようになったのだ。
そして集めた情報から一週間後に城の外で黒髪の者たちが一斉に集められるという情報を手に入れた。
その日に向かって全員の準備を進めていく。
逃がすものと誘導するもの、そして敵を引き付けておく者。
そして逃げた者たちを匿う者。
それぞれの役割をしっかりと果たせるように動きを細かく決めておく。
城への侵入なのだ。
危険は大きい為、失敗しても振り返らずに逃げるように言っている。
何が起こるのか分からない。
命を大切にすること。
失敗しても次がある。
決して無茶をしないように言い聞かせた。
――――…
当日、各所から黒髪を持つ少年たちを集めた馬車がライアックの城へ集められた。
城内には入らない。
身元の不確かな者を大勢中に入れるわけにはいかないからだ。
城の外にある広間のような場所で多くの黒髪を持つ少年たちが連れられて入ってくる。
整列させてから跪かせるとその者達を見るために国王が自ら姿を現した。
そして黒髪の中から一人を引きずり出して前に歩かせる。
そして一定の場所まで来るとまた押さえつけられて顔を上げられる。
そして王が首を振るとその者は再び引きずられて連れて行かれる。
3人目が始まったその時、破壊音が響き渡った。
騎士たちが確認のために動き出す。
「申し上げます。何者かによる襲撃がありました。どうやら黒髪の少年たちを収容していた場所が狙われた模様です。」
騎士が報告に戻ってくるとざわりと会場は騒がしくなった。
「すでに全員が連れ去られた後であり、けが人はありません。」
そう告げた瞬間に巨大な咆哮が会場に響き渡った。
黒い巨大な狼が会場に姿を現す。
「シュランガルムだ!馬鹿な、なぜこんな場所に。」
ありえないと叫ぶ声と悲鳴が会場に木霊する。
慌てて逃げ出す者たちに乗じて黒髪の少年達を連れ出す黒狼盗賊団の面々。
そして、前方に居る一人の少年の横にふわりと降り立つ者が居た。
シュラだ。
黒い髪と金の瞳を持つ少年。
そして後方から少年を押さえつけていた騎士を風の魔力で吹き飛ばしたルイ。
青い髪と緑の瞳。その姿を見た何人かの貴族がその男を見て名を叫ぶ。
「馬鹿な、ルイス・シュバリエだと!なぜここに。」
大勢の騒ぎの中、少年を連れ出そうとするシュラ。
シュラの瞳と髪を見てその子は怒りに震えた。
「お前がそうなのか。お前のせいで僕は捕まったのか。」
「そうかもしれない。だが、今はそんな事を話している暇はない。」
そう告げて連れ出そうとするシュラ。
だが、少年は動かないままだった。その僅かな時間が命取りだ。
少年が抵抗している時、壇上から声が上がった。
国王の声が会場内に響き渡る。
「リュシュラン。そこを動くな。」
国王の声がシュラの体に異変を齎す。
体の奥底に国王の言葉が染み渡り、まるで魂が縛られたかのようにシュラの体の自由を奪う。
異変に気付いたルイはシュラに駆け寄ろうとするが、それは叶わなかった。
『ルイ、カゲロウこいつを連れて逃げろ。』
風の魔力で伝達された命令。
自由の聞かない体であってもシュラの目は諦めていなかった。
だがルイが少年を掴んで逃げようとするも、騎士がそれを許さない。
カゲロウがそこへ割り込んで少年を咥えて走り出した。
シュラはカゲロウのために道を作る。
風の階段を駆け上り逃げ果せたのを確認したが、騎士と戦い続けていたルイは流石に何人もの騎士に囲まれれば成す術はない。
押さえ込まれて捕らえられたルイ。
それを見たシュラはルイを逃がそうと魔力を集める。
だがそれもまた叶わなかった。
いつの間にか目前に迫っていた国王はシュラをそっと抱きしめた。
意味が分からずに動揺するシュラ。
「しばし眠れ、リュシュラン。」
その言葉で強制的に思考が閉じられシュラは抵抗する間もなく崩れ落ちる。
それをしっかりと抱きしめて支える王はシュラを優しく抱きかかえた。
「シュラ様!」
「悪いようにはしない。ルイス・シュバリエ、大人しくしなさい。」
国王の言葉にルイは成す術もなく騎士たちに連行される。
会場の混乱はすでに落ち着きを取り戻しており、賊として捕らえられたのはルイとシュラのみ。
多くの者が逃げ果せたがそれが問題に成らないほどの成果があった。
この日、ライアック王国の第五王子が見つかったと探し人の依頼は取り下げられる事と成った。
――――…
体を清められてベッドに横たわる我が子を不安げに見つめる王妃と国王。
黒い髪を持ったが為に15年もの間、行方不明になっていた王子はやっと自分達の手元に戻ってきた。
だが、城に襲撃を仕掛けた犯人である事は多くの者が見てしまっている。
出来る事なら穏便に済ませたかった国王は子供が見つかった喜びだけでは済まない。
シュラと呼ばれた我が子をこれからこの国を担う者として育てねばならないが、果たして市井で生きてきたこの子が素直に応じるだろうか。
何をするか分からない為リュシュランの手足には鎖が繋げられており、それが王妃を苦しめている。
まるで罪人のように扱われる我が子を悲しまないわけがない。
シュラの傍にいた男。
ルイス・シュバリエもまた牢に入れられて繋がれている。
本来であればリュシュランをここまで守ってくれていた彼に礼をしたいと思うところではあるが、襲撃を行った犯人である為それもできないのだ。
これから先どうしていけばいいのか、国王は悩む事になった。
だが、その苦悩を更に増やす出来事が起きた。
病弱であったユリウス王子が息を引き取ったのだ。
まるでリュシュランが戻るのを待っていたのだと言わんばかりのタイミングで命を落とした第三王子。
これで王の血を引く子供はとうとうリュシュランただ一人に成ってしまった。
リュシュランはまだ眠りから覚めない。
あどけなさを残した黒き髪を持つ少年は眠っている間に己の命運が決まろうとしている事など知る由もなく、ただただ昏々と眠り続けていた。
――――…
黒狼盗賊団の面々は沈痛な表情を浮かべて集まっていた。
頭領であるシュラとその右腕であるルイが捕まったのだ。
カゲロウが連れてきた少年はシュラが自分たちを助けてくれたのに自身の苛立ちのせいで逃げるのが遅れて捕まる事に成ったと責任を感じていた。
少年は漆黒の使徒のリーダーで会った男の息子だった。
シュラの話を聞いて自分が行った事を悔いている少年にフリットが声をかけた。
「シュラ様はきっと君を責めたりなどしませんよ。」
「でも僕のせいで彼は…。」
「シュラ様はお優しい方です。責めるくらいなら別の事を頑張った方がマシだと言うと思いますよ。」
「僕に出来る事はあるかな。」
「きっとあります。出来る事をやっておきましょう。シュラ様からの連絡を待つしかありませんしね。」
「分かった。僕、頑張るよ。」
シュラが居なくても彼らがやるべき事は変わらない。
生きるために必要な事を出来る内に行う。
今の彼らに出来るのはいつかに備えて新しく入ったメンバーをしっかりと鍛え上げることだ。
シュラとルイの抜けた分も黒狼盗賊団は一団と成って動いていた。
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