竜の血脈―黒狼盗賊団の頭―
019 漆黒の使徒
とある場所では黒いローブを纏った男たちが集まっていた。
その中に数人の男が駆け込んでくる。
失敗したのだと一目でそれが分かるほど焦った様子の彼らを見た男たちは悔しげな思いを噛み締めた。
だが正確に確認しなければ、失敗したとは限らない。
戻って来た者たちが落ち着きを取り戻した頃を見計らって彼らに問う。
「それで、どうだったのだ?」
「失敗です。少年が矢の軌道に割り込んできて邪魔されました。」
「その少年に矢が当たったというのか?」
「いいえ、矢を掴んで馬車に乗る王女を守ったのです。」
「なんと!そんな事が出来る者がいるとは。だが、失敗したのなら当然追っ手は撒いてきたのだろうな。」
「もちろんです。かなりしつこい奴らで、王都の外れまで追われましたが、まだこの場所は気付かれて居ません。」
「そうか。だが、気を付けねばなるまい。」
失敗が分かり肩を落とす使徒達。
だが彼らは一度の失敗で大人しくしている者ではない。
すぐに切り替えて動かなければならない事態が起きていた。
「まぁ王女の事はいい。だが問題が起きている。」
「また誰か捕まったのですか?」
「そうだ。それも私の息子が捕まった。」
「なんと。」
悲痛な表情を浮かべるリーダー格の男は悔しげに呻いた。
そう……今、王都では黒髪であるだけでもひっ捕らえられて、どこかに連れて行かれる。
見つかったらもう彼らに出来る事は無い。
連れて行かれた者の末路は分からないが、同士が確実に減ってきているのは確かだった。
だからこそ、彼らは次の手を打たねばならない。
自分達の命が掛かっている。
追い立てられた獣は牙を剥く。
全員が武装して身を守る必要がある。
そうは言っても武器を操れるものなどごく一部だ。
せいぜい護身用のナイフに毒を塗っておくことくらいしか出来はしない。
それには相手に一発でも入れてやると言う彼らの想いが詰まっていた。
――――…
王女が襲撃を受けてから数日が経った。
王都は祭りの気分から抜けて日常に戻っている。
1つ違いがあるとすれば、王都を巡回する騎士が増えたことだろうか。
未だに黒髪の少年を探しているらしく、あちらこちらに張り紙がある。
そんな王都の街を二人の女性が歩いていた。
街娘のような格好をして顔をすっぽり覆うようなローブを着込んだ女性とそれに付き添う女性。
だが街で買い物をしている訳でもなく、ふらふらしている訳でも無いため騎士たちは見逃してしまった。
その顔と髪の色を確認すればすぐに連れ戻されるであろう二人。
フレイン王国から人質としてライアック王国に来ていたシルフィール・フレイン・ウェスリーとその侍女エマである。
彼女たちは騎士たちの目を盗んで城から抜け出してきていた。
王女は真っ直ぐどこかへ向かっている。
王都の路地裏に迷いもせずに入り込んでいく。
エマが止めようとした時にはすでに遅かった。
同じ様にローブを被った男が目に入った。
暗い路地では目深に被っていたローブよりも彼女の瞳の色が目を引いた。
赤い瞳はまるでルビーのようだ。
そしてローブから僅かに見える白銀の髪。
それを見た男は突然豹変した。
ナイフを振り上げて二人を追いかけて来る男。
来た事も無い道を逃げ惑う二人は男を必死で振り払おうと逃げた。
だが、地の利は男にある。
あっという間に路地裏の行き止まりに追い詰められてしまった。
ローブを無造作に掴まれその姿を露にされたシルフィール王女は震えながらじりじりと迫るナイフから目が離せない。
侍女のエマが目を瞑ろうとした瞬間、がばりと王女を誰かが庇うのが目に入った。
黒い髪の少年だ。
ぴっと何かが飛び、くぐもった呻き声をあげた少年は突然の乱入者に隙を見せた男をすぐに立ち上がって蹴り飛ばす。
壁に激突した男は慌てた様子で逃げ出した。
逃げるローブの男を睨み付けて少年が近付いて来た男達に指示を飛ばす。
「今度こそ逃がすな。追え!」
全員が男を追いかける。
指示を終えた少年は傷を抑えてよろめいた。
王女に覆いかぶさるように倒れこむ少年。
シルフィール王女は彼をなんとか支えるとエマに誰かを呼んでくるように命じた。
助けを請うためにすぐさまエマは走り出した。
――――…
二人きりになり、シュラは赤い瞳をじっと見つめる。
いやな胸騒ぎがして思わず飛び出してきたらこんな場面だ。
驚かないはずがない。
「…なんでこんな場所に王女様が。」
むりやり起き上がり王女と距離を取るシュラ。
「怪我を…。」
近付こうとする王女を手で制止する。
「傷なら平気。ほらっ。」
柔らかな光が傷を包み込んで消える。
怪我なんて無かったかのように完全に傷が消え去ったのを見た王女は息を呑んだ。
だが、シュラは傷が治ったのにも関わらず倦怠感が抜けないことに気が付くと、慌ててポーチの中から瓶を取り出した。
「毒か…。」
呟いて瓶の中から解毒丸を3つほど取り出した。
飲もうとしたその時、突然眩暈がシュラを襲った。
「うっ……。」
ふらりと体が傾いで、壁伝いにずるずると体が落ちる。
こんなに毒が速く回るとは思っても居なかったと言うよりも、毒を受けたのが初めてだったシュラ。
全身から冷や汗が噴出して体から力が抜けて行く。
呼吸が荒くなりぐったりとしたシュラは手から瓶を取り落としてしまった。
手に持っていた解毒丸がぽろぽろと零れ落ちる。
異変に気が付いたシルフィール王女はぐったりとしたシュラに恐る恐る近付くと、落ちている薬らしき物を慌てて拾い上げて苦しげなシュラを見る。
「毒と言っていたわ。」
そう呟くと迷うことなく手に持っていた解毒丸と水筒から水を口に含んで苦しげなシュラに口付けた。
唇をこじ開けて口内に薬を流し込む。
こくりと喉の音が鳴り、薬を飲み込んだのを確認するとほっと息をついた。
うっすらと目を開けて王女をぼんやりと見つめるシュラ。
互いの視線が絡み合う。
その時、青髪の男が焦ったように戻ってきた。
「シュラ様!」
ぐったりと体を投げ出しているシュラを見付けると慌てて駆け寄る。
ルイが近付いたと気付いてぐっと体を起こして立ち上がろうとするシュラ。
だが力が入らず起き上がる事が出来なかった。
「悪ぃ、へました。」
掠れた声で告げるシュラをふわりと抱き上げるルイ。
その時、エマが誰かを連れて戻ってきた。
エマが連れてきたのは金の髪を短く刈り上げた青い瞳を持つ男。
黒い髪の少年を探しここ数日王都の街を歩き回っていた彼は悲鳴のような叫び声を聞いて駆けつけた。
その女性に着いてきた彼は目の前の男に抱えられている少年を見て目を見開いた。
うっすらと開いている目の色は金。
黒い髪を持った少年は、ぐったりしており青い髪をもつ青年に体を預けている。
「その少年は…」
「悪いがそこを退いて貰おう。こちらの事は気にしなくて良い。それよりも王女を城へつれて帰られてはどうかな。」
尋ねようとしたナイルズの言葉はルイによって止められた。
ナイルズの着ている服は騎士服だ。
しかも近衛のものだと言う事はルイにはすぐに分かる。
だからこそ、続けられる言葉を聞きたくなかったと言うのもあるし、シュラを一刻も早く安全な場所で休ませたいと言う思いもあった。
王女の事を出されればナイルズも引かざるを得ない。
そう考えるのも付かぬ間にルイは地を蹴ると風の魔力を使ってその場から離脱した。
ナイルズも王女を置いて追うわけには行かなかった。
悔しげな表情は一瞬で消し去って、王女を城へと送り届ける。
今のナイルズにはそうする他に方法が無かったのだ。
だが、この目でリュシュラン王子を見る事が出来たのは行幸だった。
今までは噂や人伝えにしか聞いて来なかった為、確証を得ることが出来なかったからだ。
だが、こうして会う事が出来、本人であることを確認する事が出来た。
次に会った時こそは必ずと誓いを胸にナイルズはその場を後にした。
その中に数人の男が駆け込んでくる。
失敗したのだと一目でそれが分かるほど焦った様子の彼らを見た男たちは悔しげな思いを噛み締めた。
だが正確に確認しなければ、失敗したとは限らない。
戻って来た者たちが落ち着きを取り戻した頃を見計らって彼らに問う。
「それで、どうだったのだ?」
「失敗です。少年が矢の軌道に割り込んできて邪魔されました。」
「その少年に矢が当たったというのか?」
「いいえ、矢を掴んで馬車に乗る王女を守ったのです。」
「なんと!そんな事が出来る者がいるとは。だが、失敗したのなら当然追っ手は撒いてきたのだろうな。」
「もちろんです。かなりしつこい奴らで、王都の外れまで追われましたが、まだこの場所は気付かれて居ません。」
「そうか。だが、気を付けねばなるまい。」
失敗が分かり肩を落とす使徒達。
だが彼らは一度の失敗で大人しくしている者ではない。
すぐに切り替えて動かなければならない事態が起きていた。
「まぁ王女の事はいい。だが問題が起きている。」
「また誰か捕まったのですか?」
「そうだ。それも私の息子が捕まった。」
「なんと。」
悲痛な表情を浮かべるリーダー格の男は悔しげに呻いた。
そう……今、王都では黒髪であるだけでもひっ捕らえられて、どこかに連れて行かれる。
見つかったらもう彼らに出来る事は無い。
連れて行かれた者の末路は分からないが、同士が確実に減ってきているのは確かだった。
だからこそ、彼らは次の手を打たねばならない。
自分達の命が掛かっている。
追い立てられた獣は牙を剥く。
全員が武装して身を守る必要がある。
そうは言っても武器を操れるものなどごく一部だ。
せいぜい護身用のナイフに毒を塗っておくことくらいしか出来はしない。
それには相手に一発でも入れてやると言う彼らの想いが詰まっていた。
――――…
王女が襲撃を受けてから数日が経った。
王都は祭りの気分から抜けて日常に戻っている。
1つ違いがあるとすれば、王都を巡回する騎士が増えたことだろうか。
未だに黒髪の少年を探しているらしく、あちらこちらに張り紙がある。
そんな王都の街を二人の女性が歩いていた。
街娘のような格好をして顔をすっぽり覆うようなローブを着込んだ女性とそれに付き添う女性。
だが街で買い物をしている訳でもなく、ふらふらしている訳でも無いため騎士たちは見逃してしまった。
その顔と髪の色を確認すればすぐに連れ戻されるであろう二人。
フレイン王国から人質としてライアック王国に来ていたシルフィール・フレイン・ウェスリーとその侍女エマである。
彼女たちは騎士たちの目を盗んで城から抜け出してきていた。
王女は真っ直ぐどこかへ向かっている。
王都の路地裏に迷いもせずに入り込んでいく。
エマが止めようとした時にはすでに遅かった。
同じ様にローブを被った男が目に入った。
暗い路地では目深に被っていたローブよりも彼女の瞳の色が目を引いた。
赤い瞳はまるでルビーのようだ。
そしてローブから僅かに見える白銀の髪。
それを見た男は突然豹変した。
ナイフを振り上げて二人を追いかけて来る男。
来た事も無い道を逃げ惑う二人は男を必死で振り払おうと逃げた。
だが、地の利は男にある。
あっという間に路地裏の行き止まりに追い詰められてしまった。
ローブを無造作に掴まれその姿を露にされたシルフィール王女は震えながらじりじりと迫るナイフから目が離せない。
侍女のエマが目を瞑ろうとした瞬間、がばりと王女を誰かが庇うのが目に入った。
黒い髪の少年だ。
ぴっと何かが飛び、くぐもった呻き声をあげた少年は突然の乱入者に隙を見せた男をすぐに立ち上がって蹴り飛ばす。
壁に激突した男は慌てた様子で逃げ出した。
逃げるローブの男を睨み付けて少年が近付いて来た男達に指示を飛ばす。
「今度こそ逃がすな。追え!」
全員が男を追いかける。
指示を終えた少年は傷を抑えてよろめいた。
王女に覆いかぶさるように倒れこむ少年。
シルフィール王女は彼をなんとか支えるとエマに誰かを呼んでくるように命じた。
助けを請うためにすぐさまエマは走り出した。
――――…
二人きりになり、シュラは赤い瞳をじっと見つめる。
いやな胸騒ぎがして思わず飛び出してきたらこんな場面だ。
驚かないはずがない。
「…なんでこんな場所に王女様が。」
むりやり起き上がり王女と距離を取るシュラ。
「怪我を…。」
近付こうとする王女を手で制止する。
「傷なら平気。ほらっ。」
柔らかな光が傷を包み込んで消える。
怪我なんて無かったかのように完全に傷が消え去ったのを見た王女は息を呑んだ。
だが、シュラは傷が治ったのにも関わらず倦怠感が抜けないことに気が付くと、慌ててポーチの中から瓶を取り出した。
「毒か…。」
呟いて瓶の中から解毒丸を3つほど取り出した。
飲もうとしたその時、突然眩暈がシュラを襲った。
「うっ……。」
ふらりと体が傾いで、壁伝いにずるずると体が落ちる。
こんなに毒が速く回るとは思っても居なかったと言うよりも、毒を受けたのが初めてだったシュラ。
全身から冷や汗が噴出して体から力が抜けて行く。
呼吸が荒くなりぐったりとしたシュラは手から瓶を取り落としてしまった。
手に持っていた解毒丸がぽろぽろと零れ落ちる。
異変に気が付いたシルフィール王女はぐったりとしたシュラに恐る恐る近付くと、落ちている薬らしき物を慌てて拾い上げて苦しげなシュラを見る。
「毒と言っていたわ。」
そう呟くと迷うことなく手に持っていた解毒丸と水筒から水を口に含んで苦しげなシュラに口付けた。
唇をこじ開けて口内に薬を流し込む。
こくりと喉の音が鳴り、薬を飲み込んだのを確認するとほっと息をついた。
うっすらと目を開けて王女をぼんやりと見つめるシュラ。
互いの視線が絡み合う。
その時、青髪の男が焦ったように戻ってきた。
「シュラ様!」
ぐったりと体を投げ出しているシュラを見付けると慌てて駆け寄る。
ルイが近付いたと気付いてぐっと体を起こして立ち上がろうとするシュラ。
だが力が入らず起き上がる事が出来なかった。
「悪ぃ、へました。」
掠れた声で告げるシュラをふわりと抱き上げるルイ。
その時、エマが誰かを連れて戻ってきた。
エマが連れてきたのは金の髪を短く刈り上げた青い瞳を持つ男。
黒い髪の少年を探しここ数日王都の街を歩き回っていた彼は悲鳴のような叫び声を聞いて駆けつけた。
その女性に着いてきた彼は目の前の男に抱えられている少年を見て目を見開いた。
うっすらと開いている目の色は金。
黒い髪を持った少年は、ぐったりしており青い髪をもつ青年に体を預けている。
「その少年は…」
「悪いがそこを退いて貰おう。こちらの事は気にしなくて良い。それよりも王女を城へつれて帰られてはどうかな。」
尋ねようとしたナイルズの言葉はルイによって止められた。
ナイルズの着ている服は騎士服だ。
しかも近衛のものだと言う事はルイにはすぐに分かる。
だからこそ、続けられる言葉を聞きたくなかったと言うのもあるし、シュラを一刻も早く安全な場所で休ませたいと言う思いもあった。
王女の事を出されればナイルズも引かざるを得ない。
そう考えるのも付かぬ間にルイは地を蹴ると風の魔力を使ってその場から離脱した。
ナイルズも王女を置いて追うわけには行かなかった。
悔しげな表情は一瞬で消し去って、王女を城へと送り届ける。
今のナイルズにはそうする他に方法が無かったのだ。
だが、この目でリュシュラン王子を見る事が出来たのは行幸だった。
今までは噂や人伝えにしか聞いて来なかった為、確証を得ることが出来なかったからだ。
だが、こうして会う事が出来、本人であることを確認する事が出来た。
次に会った時こそは必ずと誓いを胸にナイルズはその場を後にした。
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