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竜の血脈―黒狼盗賊団の頭―

叶 望

001 プロローグ



 かつて双子島が1つの島であった頃、2頭の竜がこの地に降り立った。
 片方は白銀に金色の瞳を持つ雄竜名をジークムントと言った。
 片方は漆黒の紅玉の瞳を持つ雌竜で名をレジーナと言った。
 竜は生涯に一度、唯一の番を選びそれは大切に扱う。
 しかしこの2頭は互いに唯一の番ではなく、成竜となって番が決まっていないのがたまたまこの2頭で、居ない者同士でとりあえず次の世代が育つまで番となる事を決めたという状況だった。
 竜はかなりの長寿なので子を早々産まない為だ。
 竜の生態は属性によっても異なる。
 例えば火属性の火竜は火山の河口付近をよく好むし、水属性の水竜はひれを持っており水中では他の竜種に負ける事はない。
 風属性の風竜はきまぐれで一所に留まる事を知らない。
 土属性の土竜は手が発達した反面翼が退化した。
 土の中や洞窟を好み大抵は潜って出てくる事は少ない。
 光属性の光竜は温厚で大人しい。
 闇属性の闇竜は戦闘を好みいつも争っている。
 それぞれの属性は瞳に現れており大抵は体色も同様の色を持つ事が多いが、必ずしもそうとは限らない。
 なぜなら同種での婚姻ばかり繰り返してきたわけではない為だ。
 大抵は同種で番となる事が多いがそれは絶対ではない。
 旅に出た先の出会いで別の種の竜と恋に落ちたものも居れば里に戻ってくるものも居る。
 一言で表すことなどで気はしないが、何千、何万という月日を重ねて生きてきた竜たちが様々な種類の竜と交じり合って今があるのだから当然だ。
 それは当然竜に限る事ではない。
 そしてこの2頭が唯一でなかったことがこの先の問題を引き起こす事となるなどこの時は知るはずもなかった。


――――…


 2頭は島の中原にある大きな山を住処として暮らし始めた。
 山で狩をしたり、住みやすいように山の一部を削り取ったりして過ごした。
 住処として申し分ない場所を確保して生活に慣れだした頃2頭はこのまま番として過ごすのもいいだろうと思い始めていた。
 住み始めて3年と半年が経ったころそれは起きた。
 雄竜であるジークムントが唐突に雌竜であるレジーナに別れを告げた。
 一方的な告白にレジーナは訳が分からない。
 やっと互いに認め始めていたところでこれだ。
 レジーナは納得がいかなかった。
 そしてジークムントが人族の娘を見初めたというのだ。
 種族を超えた恋愛と言えば聞こえはいいが同じ竜種である自分を捨ててまで選ぶなど理解できない。レジーナは怒り狂った。
 恋と言えるほどではないが親愛の情が沸くくらいには夫婦として共に過ごしたからだ。
 竜種の怒りは普通の夫婦喧嘩で済むものではない。
 怒りの咆哮と共に高圧で熱量の高いブレスが山を真っ二つに引き裂いた。
 そしてその怒りによる攻撃は山の中枢まで及び地震を引き起こし、山を活性化させた。
 活火山となった山は噴火を起こし、亀裂の入っていた山はその力に耐え切れずに崩壊した。
 それだけで済めばよかったのだが、山は島の中枢にあった。
 山は島の根幹を支えているものだった。
 山が崩れひび割れた大地と共に島に亀裂が走る。大きな音と巨大な地震が起こり島は二つに分かれてしまった。
 それを見届けたレジーナはジークムントと人族の娘を一瞥すると左側の島へ飛び去った。
 残されたジークムントと娘は右の島に住み着いた。
 2頭が分かれて3月が経った。
 島は地震も収まり落ち着いたようだった。
 左の島に住み着いたレジーナは小さな丘の上で自分の楽園を築いていた。
 人族と契るなど馬鹿げている。
 きっとすぐに戻ってくるに違いないと思ったからだ。
 しかしその思いは決して叶う事はなかった。
 半年が経ち、1年、そして10年の歳月が経ってもジークムントが自分の下へ戻ってくる事はなかったのだ。
 レジーナは悲しみにくれた。
 怒りを通り越すと悲しみへと変わる。
 そうして泣いて過ごす日々を送っていた。
 食も細り食べる事をしなくなった。
 悲しみにくれる竜。
 巨大な体を支えるにはかなりの食事量が必要だ。
 しかしそれをしなくなったことで体力の消耗を抑えようと体は生きる為に人化をするという選択を取った。
 弱った竜は望まない形で人の姿となったのだ。
 そして更に数日が経って体が限界を感じた頃、一人の人族の男がレジーナの住む丘を通りがかった。
 レジーナを見つけた男は弱った彼女を家へ連れて帰り甲斐甲斐しく世話を焼いた。
 次第に体力が戻り、レジーナは男と共に生活し始めた。
 男の住んでいたのは小さな村だった。
 レジーナは人としての生活に、初めは馴染めなかったが時間をかけてゆっくりと人の生活に慣れていった。
 共に暮らすうちにレジーナはいつしか男に恋をしていた。


――――…


 暮らし始めてから数年が経ったころ、レジーナは男と夫婦になっていた。
 当然自分が竜である事はとっくの昔に話していた。
 男は種族が違う事も理解した上でレジーナを受け入れてくれた。
 いつしか二人の間には子供が出来た。
 それも一人ではなく何人も。
 子供達はすくすくと育っていった。
 レジーナの子供達は普通の人族よりも長寿だった。
 だからこそ自然に村のリーダーとなるようになった。
 レジーナは男が年老いて死ぬまで幸せに暮らした。
 そして、子供達を見守りながら長い時間を過ごした。
 子供の次は孫、そしてさらにその子供達。
 竜の寿命は長い。
 レジーナは何代もの孫を看取っていった。
 いつしか村は街になり、いくつかの街や村を作り、そしていつしかそこは国となった。
 レジーナの血を引いた子供が初代の国王となった。
 黒い髪に赤い瞳。そしてレジーナの子供達には一つの特徴があった。
 女系であったことだ。
 レジーナの血を引いた国王は女でありながらも国を建てた。
 何代経っても国王として立ったのはレジーナの血を引く娘だった。
 レジーナの特徴である黒髪と赤い瞳を引き継いだ子供達。
 レジーナが眠りに付くころには左側の島を支配する巨大な国となっていた。
 左側の島の名はフレイン王国。
 代々女王が国を守る黒き竜を崇拝する国へと変わっていった。


――――…


 一方右側の島で暮らし始めた白銀の竜であるジークムントは番となった娘に合わせるために人化をして暮らし始めた。
 番となった娘は元々山に住み着いた2頭の竜を恐れた麓の村に住んでいた身寄りのない娘だった。
 レジーナの怒りによって村は崩壊したが、娘は状況を理解できるほどの知恵も知識も持たなかった。
 娘は村にとってお荷物だった。
 だから生贄を出そうと決めたときに候補を選ぶなんて事もなく決まってしまった。
 その事に悲しみを感じるだけの気力が娘にはなかった。
 娘の家族は娘が幼い頃に島に住む魔物に殺されていたので娘は家族と言うものを知らなかった。
 そして奴隷のようにこき使われて過ごしてきた彼女に自我らしい自我は育っていなかったのだ。
 感慨深いものもないままジークムントに連れられて小さな村で二人は過ごし始めた。
 甲斐甲斐しく娘の世話を行うジークムントに少しずつ心を開いていく娘。
 いつしか二人は夫婦となって子をもうけていた。
 ジークムントの髪の色を移したように綺麗な白銀の髪を持った男の子だった。
 金の瞳を受け継ぎ力も普通の人族とは違って強かった。
 白銀の髪など初めのころは村では受け入れられなかった。
 大勢の持つ色とかなり異なる白銀の髪。
 昔から白い髪は異端として嫌悪される対象であり迫害されていた色だった。
 だが、代を重ねて力を持ったジークムント血を引く子供達はいつしか英雄のように祭り上げられるようになった。
 一番効果があったとすれば光属性の魔法を使った回復魔法が使えた事だろうか。
 その力で子供達はいつしか村のリーダーのような存在となっていった。
 そして小さな村は年月を経て街になり、複数の街や村を従えるようになる。
 守り神のように崇められるようになっていたジークムントの子供はいつしか国を建てた。
 その頃には右側の島では白銀は尊いものと変わり、その代わりにその反対色の黒が忌み嫌われるようになった。
 それは何代も代を重ねジークムントが眠りについて以降に特に強くなった。
 理由は単純なことだ。
 国が2つできれば自然と戦いが起こるものだ。
 ジークムントの子が建てた国の名はライアック王国。
 黒き竜を祭り火の属性魔法を操るのに長けた王を称えるフレイン王国と白銀の竜を祭り光属性魔法に長けた王を称えるライアック王国。
 2頭の竜の別れは島を分けただけではなく、国としても反するものとなったのだ。
 フレイン王国は好戦的な国だった。
 それはレジーナの血に闇属性の血筋が入っていた事も理由としてあるだろう。
 もちろん血筋を辿ればもっと複数の竜の血が混じっているのだがそのような事を知るはずもない。
 逆にライアック王国は平和主義だった。
 だが、一方的な搾取など許されるものではない。
 奪われない為にも必死で抗ってきた。この二国の構図は今も変わる事はない。



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