鈴蘭には毒がある-見た目に騙されてはいけません-

叶 望

ドロップを活用しよう

 いつものようにエルダートレントの花と実を売りにギルドへと向かうリリーナ。
 清算を終えたリリーナは迷宮へと向かおうと考えていたところで声が掛かった。


「よう!リリーナ。調子はどうだ?」


「ハラハドさん。こんにちは、いつも通りですよ?」


「いつも通りって……最近ダンジョンに潜っているんだってな。」


「はい。とっても楽しいです。」


「遊びじゃないんだが……。まぁいい。ところで潜っているのにドロップ品を売りに出している所を見た事がないんだが、どうしているんだ?」


「別に何もしていないんですが、何でですか?」


「いや、普通換金したりするもんなんだが。」


 それを聞いたリリーナは少し考えてから笑った。


「だって別に困っていませんから。換金する必要もないというか。集めるのが楽しいというか。」


「確かにリリーナが困る事はないだろうな。だが持っていても意味のない奴もあるんじゃないか?」


「それを言ったら大抵は意味がありませんが……。確かに持っているだけって言うのも勿体無いかもしれません。」


 ハラハドは宝の持ち腐れになるくらいなら売ってくれと言いたかったのだが、リリーナには曲解されてしまっていた。
 持っているだけでなく活用しろと伝わったのだ。


 にっこりと微笑んでリリーナはいつも通り迷宮を探検して屋敷に返ってきた。
 ハラハドに言われた事を思い出して迷宮の腕輪の中身を確認する。


「うーん。これって何に使うんでしょう。」


 ドロップの中には通常の魔石の他に魔石の欠片というものがあった。
 他にも鉄鉱石の欠片やもちろん宝石類も。
 だが、大抵は欠片で綺麗な状態の宝石なんて一つもない。


 もっと深い階層まで行ければ大きな宝石も出てくるのかも知れないが、リリーナはまだそこまで到達していない。
 腕輪のボックスから魔石の欠片を取り出して首を傾げる。
 欠片には僅かな魔力が込められているのが分かるが普通の魔石と比べるとその量はほんの欠片ほどしかない。


 これでは生活魔法1回で使いきってしまいそうなくらいの僅かな魔力。
 鉱石だって欠片しかないのでこれも大して価値があるとは思えない。
 鉱石の欠片に魔力を浸透させてやると自由に形を変えることができる。
 これは土属性魔法の応用だ。


 土の形が変えられるなら鉱石だって変えられるだろうと考えた結果こんな事が出来るようになっていた。
 ぐねぐねと形を変えて不純物を取り除いていくと綺麗な金属だけが残る。
 それを変形すると武器を失った時にも使えるのでダンジョンの探索では意外と役に立つ。
 ぐねぐねと変形させて遊んでいたリリーナはふと思いついてアクセサリーを作り始めた。


 宝石の欠片も綺麗に魔力で形を整えてやればそれなりに見える。
 当然本職の人間には及ばないが可愛らしいアクセサリーがリリーナの手で作られていく。
 そしてそこに魔石の欠片を組み込んでやる。


 一つではなく3つほどの欠片をアクセサリーのバランスを崩さないように配置して魔石に魔力を込めてみる。
 込めた魔法はリリーナが作ったオリジナルの『リフレクション』という魔法だ。


 危害が及びそうになった時に自動的に発動する結界の一種で、受けた力を跳ね返すイメージで作られている。
 普段は自分自身でこういった魔法を纏っているので体の一部のようになっている。
 だからあまり使っているという感じはないのだがこれに助けられることは多い。


 こうして作られたアクセサリーはちょっとしたお守り代わりになれば良いかと考える程度の品だ。


 アクセサリーにするのが面白くて気が付くとリリーナはお守りを大量に量産していた。
 せっかくなので今度父と兄にもプレゼントしようと考えるリリーナ。
 気持ち程度のお守りではあるが、実際に試すような事はしない。


 理由は怖いから。


 危険が迫るような状況事態が好ましくない。
 作ったお守りはあくまで気休めなのだ。
 銀色の丸いお守りは宝石と魔石を使って花のように見立てて作られている。


 蔦が絡んだように淵を囲った愛らしいお守りをネックレスのようにして首にかけたリリーナは再びドロップ品を整理し始めた。


――――…


 ドロップを整理し終えたリリーナは再び外へ出ていた。


 ドロップの肉が気になって調理でもできたら面白いと考えての行動だ。
 調味料などを揃えるならと王都へ足を運んだリリーナはお店を回って様々な物を取り揃えていった。
 塩や砂糖、甘いソースや辛いソースなども豊富に揃っている。


 ついでに果物類や野菜も買い揃えていったのだがふと重大な事に気が付いた。
 リリーナは解体作業なら問題なく出来るものの料理などやった事がないのだ。
 そして料理の器具さえ持っていないことに気が付く。


 頭を抱えたリリーナは通りの道が騒がしい事に気が付いた。


「おい、盗みだ。その子供を捕まえてくれ!」


 大声で子供を追いかけている店主と逃げ回る子供。


 人々が行き来する通りをちょろちょろと逃げ惑う子供は騒がしさにぽかんとしていたリリーナと衝突した。


「うわっ。」


 ぶつかった勢いでリリーナは倒れこむが思わず反射的に子供の服をしっかりと掴んでしまった。
 共に倒れるリリーナと子供。
 そこへ店主が追いついてきた。


「嬢ちゃんすまねぇな。その子をこっちに渡してくれるか。」


 店主は子供を睨み付けてリリーナに告げる。
 びくりと震える子供を見てリリーナは店主に何があったのかを聞いた。


「こいつ、家の店の商品を盗んだんですよ。ほら、これだ。」


 指を指して言うのは子供がしっかりと掴んでいる果物だった。
 子供は渡すまいと必死で隠そうとしている。


「ねぇ。君、お腹空いてるの?」


 リリーナの問いにこくりと頷いた子供を見てリリーナは店主へと向き直った。


「これ、おいくらですか?」


「嬢ちゃん、悪い事は言わない。そんな子供に一度恵んでも同じ事を繰り返すだけだ。」


「これで足りるかしら?」


 リリーナが店主に手渡したのは銀貨3枚。
 30,000円だ。
 それを見た店主はごくりと唾を呑み込んでリリーナを見る。


 果物一個に法外な金額だ。
 つまり見逃せということだろうと店主は悟った。


 そもそもリリーナはドレスを着込んでいる。
 上質な生地を使っているのは見るだけでも分かる。


「お嬢さんに感謝しろよ餓鬼。次やったらただじゃおかねぇ。」


 店主はそう言って店へと戻って行った。
 リリーナと子供はそれをただ見送って街は元の賑やかさを取り戻した。
 リリーナは目の前の子供をじっくりと見つめる。


「あの、ありがとうお姉さん。」


「構わないわ。ところで貴方名前は?」


「俺はハル。お姉さんは?」


「私はリリーナ。ねぇ、お腹空いてるんでしょ?」


「う、うん。」


「それだけで足りるの?」


 果物一個で腹が膨れるはずがない。
 首を横に振ったハルは下を向いて悔しげに唇を噛む。


「足りる、わけない。」


「……でしょうね。」


 そんなリリーナとハルに別の子が近づいてきた。


「ハル、大丈夫?無茶しないでって言ったのに。」


 少女はリリーナを見上げて頭を下げた。
 茶色の髪がぴょこんと跳ねた。


「お姉さん、ハルを助けてくれてありがとう。」


 エマと名乗った少女に連れられてリリーナはスラムにある一つの家に辿り着いた。
 扉を空ける前に勢い良く開いた扉。


「この馬鹿野郎が!ハル聞いたぞ。盗みで無茶したんだってな。」


 飛び出してきた男はハルの頭にゴツンと拳骨を落とした。


「う、ごめんよマドックさん。どうしても果物をあいつに食べさせてやりたかったんだ。」


 スラムでは病に倒れるものが多い。
 死が当たり前に蔓延しているこの劣悪な環境で生き延びるのは至難の業だ。
 リリーナは初めて街の裏に潜む闇へと足を踏み入れた。



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