インペリウム『皇国物語』
23話 荒野を駆ける嵐
夜の便で一足早くラインズはグレトン公国の中心都市にたどり着いた。深夜を回っていたためか大都市も静寂の暗闇に包まれ街灯は点々と照らしているだけであった。事前に手紙で予約を取っておいた宿舎に向かいチェックインを行なう。連れてきた数名の紫苑が選び抜いた精鋭兵に労いの言葉を掛け各々が泊まる部屋へと向かう。
部屋に入ったラインズは近くにあった椅子に深く腰を掛け、旅の疲れからため息をつき目を擦る。
「まずは無事に辿り付けたな。しかし、交渉が上手くいくかどうか…」
交渉材料として持ってきた、労働力不足の問題とグレトンの鉱山の増加。そしてドラストニアにおける鉱山労働力の斡旋。グレトンの人口全体が減少しつつあるためか労働力の圧倒的な不足の中尚も鉱山を増やし続けているがあまりにも気掛かり。
ドラストニアへの流通量が減少傾向にあり鉱山増加、おそらく採掘量自体はさほど増えてはいないと踏んでいる。問題なのは何を掘り当てるつもりなのか、そこである。
「なんか掘り当てたのか…、それとも掘り当てたいのか。フローゼルに対しても何か仕掛けてるだろうな。どうしたもんかね」
明日の訪問までの時間、都心部での情報を集めるために予め送り込んでおいたドラストニアの行商人と接触を図り情報回収に当たる予定とし、ラインズはそのまま深い眠りに就いた。
◇
一方ロゼット達は休息場として利用されている小さな街に停泊していた。予定よりもかなり早く着くことが出来たために今になって他の馬車もこちらにたどり着いていた。荷物整理を行なっていると現代の市販の花火をサイズアップしたような形状のものを発見し訊ねるロゼット。
「これって花火ですよね?」
その問いにケンタウロス便の営業担当のラフィークは答える。
「ああ、そいつはフローゼルの王女の生誕を祝うためのもんだよ。その道の職人が扱いやすいように作ったらしくてそいつのお披露目のために運んでるのさ」
ラフィークを横にシャーナル皇女が皮肉交じりに「フローゼル王女様の生誕祭ねぇ」と含み笑いも浮かべ呟く。ロゼットが何かあるのかと質問するが鼻で答えるだけであった。
「よーし、じゃあ一杯いきましょうぜ」
嬉々として声高々にラフィークは言うもののロゼット達はあまり乗り気ではなく、というのもシャーナル皇女はそもそもそんな気もなくロゼットはそれ以前にまだ子供。矛先が向いたのは―
「じゃあセバス付き合ってあげなさい」
「いえっ…私は」
セルバンデスが発する前にラフィークに強引に酒場に連れられていく。
「あれ大丈夫ですか?」と問うロゼットに対して「ゴブリン相手に酒盛りなんて何考えているのかしらね」とだけ言い残しシャーナル皇女は宿舎の自室へと先に行ってしまった。心配の必要はないと言わんばかりの対応に少し不安になりつつもロゼットも市場で購入した卵を抱えながら厩舎へと向かう。
今夜は月が見えないせいか星の明かりと掛けられている松明の灯りを頼りに向かう。子供のロゼットにとっては好奇心とも恐怖心とも言いえぬものを感じながら送られてくる風がそれに拍車を掛ける。
「こんばんは」
声をかけたのは簡易な作りの厩舎で身体を休めているケンタウロスのハーフェルだった。ここまで走り続けていたのでその労いも兼ねてやってきた。
「先ほどの少女か、どうした?」
「お休み中ごめんなさい。疲れてませんか?」と問いに答え、彼の近くで腰を下ろす。
彼は「久方ぶりの仕事だったからな」と返した。その表情はどこか満ち足りているようにもロゼットの目には映っている。
たった一人で馬車を引っ張りながらも他の馬車よりも圧倒的な差をつけてここまで走破したのを間近で見ているために余計に不思議に感じていた。どうしてケンタウロスでの運送は彼らしかいないのだろうか。
「やっぱり…あまりお仕事は依頼されないんですか?」
「そのあたりは割り切っているから気にしてはいない」
冷たい声でハーフェルは答える。ケンタウロスも種族としてはやはり魔物の部類に入っているようで今でこそ魔物とも僅かながらに交流はあるがその大半と意思疎通を行なうことはやはり難しいようである。彼のように言葉を介して接触することも可能ではあるが人間社会を中心として動いている『エンティア』においても人間以外の存在は歪なものに捉えられがちであった。
「でもケンタウロスの走りって凄いんですね。たった一人で四人を乗せた馬車をあんな速さで運ぶなんて」
力強い足腰に蹄を見ながらハーフェルのことを評する。彼女はそもそもファンタジー世界のものしか見たことがなく実像が存在するなんて思ってもいなかったのでケンタウロスに対する抵抗感というよりもむしろ好奇心や興味のほうが強かった。ケンタウロスについてハーフェルと話していると彼らの歴史について訊ねる。
「戦闘も行なえる種族で好戦的ではあるが、テリトリーに侵入されない限り積極的な戦闘は避ける傾向にある。好戦的…というのが人間からして見れば良いものではなかったのだろうな」
「だろうな…?」という過去形の部分に引っかかりを覚えるロゼット。
「ケンタウロス自体の文明…と言っていいのか、そういったものははるか昔に滅んでいる」
かつては新天地を目指してやってきた人間との間で覇権を争い紛争が起こった。対話で申し入れるがそもそも元の土地の民であるケンタウロスからすれば侵略者に他ならない。現在では僅かに社会形成した存在や人間社会に入り込んでいる存在と多種多様であった。
「俺はどちらに非があったとも思わんがな」そう言うハーフェルの言葉に「え?」と疑問を吐露するロゼット。
どちらも互いの種族の繁栄を求めての結果、そこに善悪など存在しない。人間が対話を申し込むがそれを拒んだのもケンタウロス。侵攻に至ったにしても自然界でもあるように強い存在が侵略するなんてものはいくらでもある。なるようになってしまっただけだとハーフェルは言い切る。
ロゼットはてっきりハーフェルは人間に対して良い感情を抱いていないと思っていたが、相棒であるラフィークのような人間もいる。彼はむしろ自身の存在の歯痒さに虚しさを感じているようにも思える。力ある者が認められるのであればむしろ現状はおかしいのでは?
「なら…どうして馬よりも早く走ることができるハーフェルさん達を蔑ろにするんですかね」
ロゼットの単純な疑問。ハーフェルは答えなかったが、その瞳は「時代だ」と答えているようにも見えていた。
「お前のような考え方のできる人間もいる。今はそれだけで十分だ」とだけ答えて、ロゼットも困ったような笑みで返す。ロゼットが一緒にここで寝ても良いかと確認すると、お許しを貰って来いとだけ言われ彼女はシャーナル皇女の宿舎へ向かっていた。
ロゼットが出て行き静かになった厩舎で僅かだが地響きのようなものを感じるハーフェル。
「近い…。かなりの量だな」と呟き腰を上げ出発の準備を始めた。
◇
酒場から出てきた二人の男が用を足していると馬群の走る音が徐々に近づいてくるのがわかる。その直後弓矢が近くまで飛んできて二人は飛び上がるようにして酒場へと掛けていく。
酒場では酒盛りをしているラフィークはもはや半分グロッキー状態であった。それに反してセルバンデスはほろ酔い状態という様子で余裕さえも感じる。やがてラフィークの愚痴話へと変わり、相槌で応えるセルバンデス。店主にも絡みだしたために派手に水をかけられ「冷やして来い」と外へと促される。セルバンデスも同調し彼を外へ連れ出そうとした。
その時外から血相を変えて飛んできた二人の男が「賊の襲撃だ!!」と叫ぶ。
それを聞き周囲は騒然とし、逃げるようにして一斉に動き出す。
宿舎でシャーナル皇女と話していたロゼットだが外の様子が騒々しいことに気づいた二人は外へと飛び出すと慌てて出発の準備を始める人間達でごった返しとなっていた。
「何の騒ぎなの!?」と馬車の主の一人に訊ねると「賊の襲撃だよ!」と答えが返ってくる。その瞬間放たれた弓矢によって男の胸は貫かれ倒れた。ロゼットは思わず悲鳴を上げ、シャーナル皇女はすぐさま行動に移しすぐに出る準備をするとだけ彼女に伝える。
小さな酒場町は一瞬にして阿鼻叫喚の戦場へと変わり、すでに野盗によっていくつかの馬車と貴族達は被害に遭い悲鳴と刃物で突き刺す音が響き制圧されつつあった。荷物をまとめて宿舎から出てきたロゼット達は急いで厩舎へ向かう。
しかし後方から馬に乗った野盗がこちらに向かってくる。二人の前に立ちはだかり下劣な口調で仲間に告げる。
「おい!上等な女達も土産に持って帰るかぁ!?」
野盗の下品な叫び声が響き、二人は身構えシャーナル皇女は剣を抜こうとする。次の瞬間、野盗は横から突進してきた馬体に馬ごと吹き飛ばされて近場の小屋に突っ込んでいった。
「早く乗れ!」と告げるハーフェルのおかげで二人は事なきを得てシャーナル皇女はそれに「ご苦労」とだけ返し、そのまま乗り込むと馬車は走り出す。
酒場から急いで出てくるセルバンデスとラフィークを発見し、すぐさま乗り込ませそのままの勢いで町を駆け抜ける。
逃走に成功した馬車もいくつか確認できたがその後町の周囲には火が放たれ逃げ遅れた人々の悲鳴と金属音が響きその中には子供の悲鳴も混じっていた。赤々と燃えゆく光景をロゼットは悲痛な表情で見つめることしかできなかった。
逃げ切ることが出来たと安堵していると隣を走っていた馬車に弓矢が放たれたと同時に火の手が回る。
「まずい!火矢を使ってきてやがる!!」
ラフィークの叫びが響き、野盗がまだ追ってきている事に気づく。彼の声に呼応するかの如くハーフェルは更に速度を上げていく。流石にケンタウロスのハーフェルでも4人を乗せた馬車では単騎の馬を引き離すことは出来ないようで徐々に迫ってくる。その間も周囲の馬車は次々と襲撃に遭い落とされていく。
「弓を貸しなさい!前に出る」とシャーナル皇女は身を乗り出しそのまま御者席へ移り側面から来る野盗に対して弓矢で応戦。セルバンデスもシャーナル皇女の安否を確認しながらも後方からの襲撃に備え弓矢で応戦する。
側面から急接近してくる敵に対してラフィークが振り払おうとした瞬間シャーナル皇女はそのまま馬へと飛び移り、野盗も思いもよらぬ行動と反撃により油断していたところを一瞬にして馬から蹴落とされ馬を奪取される。
その姿にロゼットは思わず「か…かっこいい…」と吐露して見惚れてしまう。
「シャーナル皇女!無茶です!危険すぎます!!」
セルバンデスの静止する声を無視してシャーナル皇女は馬を制して自身の細剣を抜き騎馬で応戦をする態勢。
「紫苑のように上手くはないわよ…!」
そう吐きつつもシャーナル皇女は迫り来る野盗の迎撃へと向かっていく。
部屋に入ったラインズは近くにあった椅子に深く腰を掛け、旅の疲れからため息をつき目を擦る。
「まずは無事に辿り付けたな。しかし、交渉が上手くいくかどうか…」
交渉材料として持ってきた、労働力不足の問題とグレトンの鉱山の増加。そしてドラストニアにおける鉱山労働力の斡旋。グレトンの人口全体が減少しつつあるためか労働力の圧倒的な不足の中尚も鉱山を増やし続けているがあまりにも気掛かり。
ドラストニアへの流通量が減少傾向にあり鉱山増加、おそらく採掘量自体はさほど増えてはいないと踏んでいる。問題なのは何を掘り当てるつもりなのか、そこである。
「なんか掘り当てたのか…、それとも掘り当てたいのか。フローゼルに対しても何か仕掛けてるだろうな。どうしたもんかね」
明日の訪問までの時間、都心部での情報を集めるために予め送り込んでおいたドラストニアの行商人と接触を図り情報回収に当たる予定とし、ラインズはそのまま深い眠りに就いた。
◇
一方ロゼット達は休息場として利用されている小さな街に停泊していた。予定よりもかなり早く着くことが出来たために今になって他の馬車もこちらにたどり着いていた。荷物整理を行なっていると現代の市販の花火をサイズアップしたような形状のものを発見し訊ねるロゼット。
「これって花火ですよね?」
その問いにケンタウロス便の営業担当のラフィークは答える。
「ああ、そいつはフローゼルの王女の生誕を祝うためのもんだよ。その道の職人が扱いやすいように作ったらしくてそいつのお披露目のために運んでるのさ」
ラフィークを横にシャーナル皇女が皮肉交じりに「フローゼル王女様の生誕祭ねぇ」と含み笑いも浮かべ呟く。ロゼットが何かあるのかと質問するが鼻で答えるだけであった。
「よーし、じゃあ一杯いきましょうぜ」
嬉々として声高々にラフィークは言うもののロゼット達はあまり乗り気ではなく、というのもシャーナル皇女はそもそもそんな気もなくロゼットはそれ以前にまだ子供。矛先が向いたのは―
「じゃあセバス付き合ってあげなさい」
「いえっ…私は」
セルバンデスが発する前にラフィークに強引に酒場に連れられていく。
「あれ大丈夫ですか?」と問うロゼットに対して「ゴブリン相手に酒盛りなんて何考えているのかしらね」とだけ言い残しシャーナル皇女は宿舎の自室へと先に行ってしまった。心配の必要はないと言わんばかりの対応に少し不安になりつつもロゼットも市場で購入した卵を抱えながら厩舎へと向かう。
今夜は月が見えないせいか星の明かりと掛けられている松明の灯りを頼りに向かう。子供のロゼットにとっては好奇心とも恐怖心とも言いえぬものを感じながら送られてくる風がそれに拍車を掛ける。
「こんばんは」
声をかけたのは簡易な作りの厩舎で身体を休めているケンタウロスのハーフェルだった。ここまで走り続けていたのでその労いも兼ねてやってきた。
「先ほどの少女か、どうした?」
「お休み中ごめんなさい。疲れてませんか?」と問いに答え、彼の近くで腰を下ろす。
彼は「久方ぶりの仕事だったからな」と返した。その表情はどこか満ち足りているようにもロゼットの目には映っている。
たった一人で馬車を引っ張りながらも他の馬車よりも圧倒的な差をつけてここまで走破したのを間近で見ているために余計に不思議に感じていた。どうしてケンタウロスでの運送は彼らしかいないのだろうか。
「やっぱり…あまりお仕事は依頼されないんですか?」
「そのあたりは割り切っているから気にしてはいない」
冷たい声でハーフェルは答える。ケンタウロスも種族としてはやはり魔物の部類に入っているようで今でこそ魔物とも僅かながらに交流はあるがその大半と意思疎通を行なうことはやはり難しいようである。彼のように言葉を介して接触することも可能ではあるが人間社会を中心として動いている『エンティア』においても人間以外の存在は歪なものに捉えられがちであった。
「でもケンタウロスの走りって凄いんですね。たった一人で四人を乗せた馬車をあんな速さで運ぶなんて」
力強い足腰に蹄を見ながらハーフェルのことを評する。彼女はそもそもファンタジー世界のものしか見たことがなく実像が存在するなんて思ってもいなかったのでケンタウロスに対する抵抗感というよりもむしろ好奇心や興味のほうが強かった。ケンタウロスについてハーフェルと話していると彼らの歴史について訊ねる。
「戦闘も行なえる種族で好戦的ではあるが、テリトリーに侵入されない限り積極的な戦闘は避ける傾向にある。好戦的…というのが人間からして見れば良いものではなかったのだろうな」
「だろうな…?」という過去形の部分に引っかかりを覚えるロゼット。
「ケンタウロス自体の文明…と言っていいのか、そういったものははるか昔に滅んでいる」
かつては新天地を目指してやってきた人間との間で覇権を争い紛争が起こった。対話で申し入れるがそもそも元の土地の民であるケンタウロスからすれば侵略者に他ならない。現在では僅かに社会形成した存在や人間社会に入り込んでいる存在と多種多様であった。
「俺はどちらに非があったとも思わんがな」そう言うハーフェルの言葉に「え?」と疑問を吐露するロゼット。
どちらも互いの種族の繁栄を求めての結果、そこに善悪など存在しない。人間が対話を申し込むがそれを拒んだのもケンタウロス。侵攻に至ったにしても自然界でもあるように強い存在が侵略するなんてものはいくらでもある。なるようになってしまっただけだとハーフェルは言い切る。
ロゼットはてっきりハーフェルは人間に対して良い感情を抱いていないと思っていたが、相棒であるラフィークのような人間もいる。彼はむしろ自身の存在の歯痒さに虚しさを感じているようにも思える。力ある者が認められるのであればむしろ現状はおかしいのでは?
「なら…どうして馬よりも早く走ることができるハーフェルさん達を蔑ろにするんですかね」
ロゼットの単純な疑問。ハーフェルは答えなかったが、その瞳は「時代だ」と答えているようにも見えていた。
「お前のような考え方のできる人間もいる。今はそれだけで十分だ」とだけ答えて、ロゼットも困ったような笑みで返す。ロゼットが一緒にここで寝ても良いかと確認すると、お許しを貰って来いとだけ言われ彼女はシャーナル皇女の宿舎へ向かっていた。
ロゼットが出て行き静かになった厩舎で僅かだが地響きのようなものを感じるハーフェル。
「近い…。かなりの量だな」と呟き腰を上げ出発の準備を始めた。
◇
酒場から出てきた二人の男が用を足していると馬群の走る音が徐々に近づいてくるのがわかる。その直後弓矢が近くまで飛んできて二人は飛び上がるようにして酒場へと掛けていく。
酒場では酒盛りをしているラフィークはもはや半分グロッキー状態であった。それに反してセルバンデスはほろ酔い状態という様子で余裕さえも感じる。やがてラフィークの愚痴話へと変わり、相槌で応えるセルバンデス。店主にも絡みだしたために派手に水をかけられ「冷やして来い」と外へと促される。セルバンデスも同調し彼を外へ連れ出そうとした。
その時外から血相を変えて飛んできた二人の男が「賊の襲撃だ!!」と叫ぶ。
それを聞き周囲は騒然とし、逃げるようにして一斉に動き出す。
宿舎でシャーナル皇女と話していたロゼットだが外の様子が騒々しいことに気づいた二人は外へと飛び出すと慌てて出発の準備を始める人間達でごった返しとなっていた。
「何の騒ぎなの!?」と馬車の主の一人に訊ねると「賊の襲撃だよ!」と答えが返ってくる。その瞬間放たれた弓矢によって男の胸は貫かれ倒れた。ロゼットは思わず悲鳴を上げ、シャーナル皇女はすぐさま行動に移しすぐに出る準備をするとだけ彼女に伝える。
小さな酒場町は一瞬にして阿鼻叫喚の戦場へと変わり、すでに野盗によっていくつかの馬車と貴族達は被害に遭い悲鳴と刃物で突き刺す音が響き制圧されつつあった。荷物をまとめて宿舎から出てきたロゼット達は急いで厩舎へ向かう。
しかし後方から馬に乗った野盗がこちらに向かってくる。二人の前に立ちはだかり下劣な口調で仲間に告げる。
「おい!上等な女達も土産に持って帰るかぁ!?」
野盗の下品な叫び声が響き、二人は身構えシャーナル皇女は剣を抜こうとする。次の瞬間、野盗は横から突進してきた馬体に馬ごと吹き飛ばされて近場の小屋に突っ込んでいった。
「早く乗れ!」と告げるハーフェルのおかげで二人は事なきを得てシャーナル皇女はそれに「ご苦労」とだけ返し、そのまま乗り込むと馬車は走り出す。
酒場から急いで出てくるセルバンデスとラフィークを発見し、すぐさま乗り込ませそのままの勢いで町を駆け抜ける。
逃走に成功した馬車もいくつか確認できたがその後町の周囲には火が放たれ逃げ遅れた人々の悲鳴と金属音が響きその中には子供の悲鳴も混じっていた。赤々と燃えゆく光景をロゼットは悲痛な表情で見つめることしかできなかった。
逃げ切ることが出来たと安堵していると隣を走っていた馬車に弓矢が放たれたと同時に火の手が回る。
「まずい!火矢を使ってきてやがる!!」
ラフィークの叫びが響き、野盗がまだ追ってきている事に気づく。彼の声に呼応するかの如くハーフェルは更に速度を上げていく。流石にケンタウロスのハーフェルでも4人を乗せた馬車では単騎の馬を引き離すことは出来ないようで徐々に迫ってくる。その間も周囲の馬車は次々と襲撃に遭い落とされていく。
「弓を貸しなさい!前に出る」とシャーナル皇女は身を乗り出しそのまま御者席へ移り側面から来る野盗に対して弓矢で応戦。セルバンデスもシャーナル皇女の安否を確認しながらも後方からの襲撃に備え弓矢で応戦する。
側面から急接近してくる敵に対してラフィークが振り払おうとした瞬間シャーナル皇女はそのまま馬へと飛び移り、野盗も思いもよらぬ行動と反撃により油断していたところを一瞬にして馬から蹴落とされ馬を奪取される。
その姿にロゼットは思わず「か…かっこいい…」と吐露して見惚れてしまう。
「シャーナル皇女!無茶です!危険すぎます!!」
セルバンデスの静止する声を無視してシャーナル皇女は馬を制して自身の細剣を抜き騎馬で応戦をする態勢。
「紫苑のように上手くはないわよ…!」
そう吐きつつもシャーナル皇女は迫り来る野盗の迎撃へと向かっていく。
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