インペリウム『皇国物語』
22話 異種族交流
ドラストニア王国の中心地である王都から出発した列車は北東へ北上しつつ、二日かけてドラストニアとフローゼルとの国境付近へ到着、そこから馬車で二日掛けてようやく関所に着く段取りである。
そしてラインズもまたグレトン公国へと列車で向かっているがこちらは関所まで一日そしてさらに関所からグレトン公国中心都市行きの列車でおよそ一日で辿り着く。
そしてロゼット達は国境付近の町に到着し今度は馬車での旅となる。ここが中継地点となるために馬車の数は他の街の比較にならない量だ。そして人の出入りも激しい街である。
「凄い、馬車が沢山並んでる。みんな可愛い馬ばかりだなぁ」
感心して声を上げるロゼットと比例して平静であるシャーナル皇女。
「ここは丁度馬車と列車の入れ替えとなる中継地点ですので常に馬車が止まっております。その分人の出入りも激しいのではぐれないように注意してください」
セルバンデスから注意を受け、離れないように付いて行くロゼット。馬車の受付に行き予約をしていた馬車の確認を行なうのだが――
「馬車が来られないですと!?」
「どういうことよ」
セルバンデスとシャーナル皇女の声が響き渡る。予約していた馬車にトラブルが発生したようで、馬車が用意できないということであった。他の予備の馬車も出払っており、次の空き便で乗るほか無いのだが二日後になってしまうとのこと。
「問題外ね」
シャーナル皇女は呆れて、帰国後馬車の運営側に責任を追及するとし一行はその場を後にする。しかし『足』が無い以上国境を徒歩で走破しなければならなくなり三日後には着くとすでに先方のフローゼル王国には伝えてある。親書で遅れるという趣旨を伝える方法もあるにはあるが先方にも予定があるため迷惑はかけられない。
こちらもドラストニア王宮に帰国してからの仕事もあるため出来ることならばそれは避けたいところ。
噂話では他の馬車にもトラブルがあったようで盗賊の襲撃によるものではないかと囁かれているのを耳にする。フローゼルに入ってからも再び列車の旅となるのだがなぜフローゼルとドラストニアとで列車を結ばないのか質問するロゼットに対してシャーナル皇女が答えた。
「フローゼルとドラストニアとは違う国。密入国者の管理もあるから繋げることも簡単に出来ないのよ。列車が賊に占拠されて街に突っ込んだなんて大惨事を招いたことも昔あったからね」
「そんなに盗賊って多いんですか?」
「私達が頭を抱えるくらいにはね」
特に国境付近である関所近辺では多く、警備の数だけは年々増やしているがそれでも盗賊による襲撃が減っているわけでもない。ここ最近は義勇軍などにも協力依頼を行ない賞金稼ぎ達も稼ぎ時だと躍起になっていることから落ち着き始めているがそれでも一日平均十数件は起こっているそうだ。
「そんなに盗賊が怖いなら馬なんてやめとけ」
ロゼット達が話してる横から声をかけてくる人物がいる。その躯体は有に七尺(約二メートルほど)は超えているであろう背の高さの大柄な男性だった。
「お、大きい…」
ロゼットが驚いている横でセルバンデスが答える。
「ケンタウロス…ですか」
足元をよく見ると確かに蹄に馬の足そのもの。上半身にかけて衣服きておりおそらく人間の男性の身体なのだと想像させる。
「ケンタウロスが何の用かしら?私達は『足』を探してるのであって野獣を探してるわけじゃないのだけれど」
冷たい声で突き放すように言うシャーナル皇女を二人で宥める。ケンタウロスも表情は変わらず涼しい顔でなんのことやらといった様子。彼には手綱のようにロープが身体に身に付けられておりケンタウロスに牽引される形で馬車が後方に付いていた。
「あなたが馬車を引っ張ってるんですか?」
そう尋ねるロゼットに対して素直に答えるケンタウロス。彼も馬車での運搬稼業を行なっているようで営業に行っている相棒を待っているようであった。そうこうしている内に陽気な声と共にこちらに向かってくる一行の姿が目に入ってくる。
「いえいえうちの馬車の速さはこの界隈最速を誇っていますよ。関所なんて一日でたどり着いて見せますよ」
そう豪語しながらやってきたのは紳士風なちょび髭を生やした胡散臭そうな男性と貴族らしき家族連れだった。彼が営業を行なっているという相棒なのはロゼットでもなんとなく感づいて、一同不審なものを見るかのような目で彼に視線を向ける。
「馬車と聞いたんだが、魔物じゃないか」と訊ねる家族連れの貴族。
それでも利口で速さでは馬に負けることがないと相棒らしき男性は力説するも家族連れの奥方が嫌悪感を示したために「俺はこんな連中乗せるのは願い下げだ」とケンタウロスが発した一言で一同は騒然とし、セルバンデスとロゼットが宥める。そんなことしている間に貴族の家族連れは何処かへ行ってしまっていた。
「馬鹿野郎!!お前折角連れてきた客になんてこと抜かしやがる!!」
先ほどまでの紳士風な雰囲気は欠片もなくケンタウロスを罵る相棒とされる男性。全く気にする素振りもないケンタウロスだがその彼に少し同調するロゼット。
「でも…あんなに魔物だと毛嫌いしてる人なんか多分乗ってくれないと思いますよ?」
「あん?お嬢ちゃん誰だい」
そう言った相棒に互いに自己紹介を交わし予定していた馬車がトラブルに見舞われて代わりを探しているという趣旨を説明する。
「あーそうかい、まぁせいぜい頑張ってくれや」とだけ言い放つ。
「ちょ、ちょっと待って下さい!!あの…なんとか乗せて貰えませんか!?」とロゼットが頼み込む。
セルバンデスもそれ同調し、二人で説得するが貴族風のシャーナル皇女に子供のロゼット、そしてホブゴブリンのセルバンデスというあまりにも異色な組み合わせに警戒心を持たれ、更に金を持っていなさそうと判断したのか邪険にあしらう。一方でシャーナル皇女はケンタウロスを観察しているようであった。
「勘弁してくれ、素性もわからないような連中相手に旅のお供なんて出来るかよ」
「我々はドラストニア王国から遣わされた使者です。なんとか乗せていただけませんか」
ロゼット達が頼み込んでいる横からシャーナル皇女の声が飛ぶ。
「ねぇ。彼、馬よりも早く走れるのよね?」
「そこらへんの馬なんざ相手になりゃしねぇよ!」
乱暴に返すケンタウロスの相棒の男性。それを聞きシャーナル皇女は「これにするわ」とケンタウロス便に乗るという意志を告げる。
「ちょ、ちょっと待てよ乗せるかどうか決めるのは俺らだ」
これを聞きシャーナル皇女はセルバンデスを呼びつけ「資金的には十分よね?」と訊ねるとセルバンデスもそれに同意して、彼らに交渉を持ちかける。
「なら前金として大銀貨五枚出しましょう。無事に関所まで届けていただければ金貨一枚。そちらにも悪い話ではありますまい。」
その言葉で揺らいだのか少し狼狽する様子だったが、すぐに平静を装いそれでも意思は変えなかった。そこで今度はシャーナル皇女がケンタウロスに対して煽るように言い放つ。
「あなた馬よりも早く走破できるのでしょう?このままこんな小娘に言われたい放題で、貴族に罵られたままで納得など出来ないではなくて?」
ケンタウロスの方は目を閉ざしたまま聞いていた。そして馬車ごと身体を動かし彼の相棒の方へと歩み出す。相棒の方はほっとしたような様子でロゼット達は半ば諦めかけようとしていたら意外な返事が返ってきた。
「国境付近まで連れて行けばいいのだろう?そこで終わりだ」
そうケンタウロスが告げると相棒の方は彼になにやら文句を唱えていたがロゼット達は安堵の様子を浮かべていた。こうして当初の予定とはずれたものの『足』を手にしたロゼット達は予定通りの時刻に出発できることとなった。
出発までの空き時間で少し物見見物ということで市場に足を運ぶロゼットであった。
◇
市場はドラストニアの中心街ほどではなく、露店を広げたバザーのような形式で開かれ骨董品や日常品などの生活必需品から怪しいセールスまで幅広く展開されているように見えた。
散歩がてらに歩いていたけど周囲の目がどうにも気になり道行く人に珍しいものでも見たかのような目で見られる。
(そんなに子供が珍しいのかなぁ。それとも銀髪…?)
貴族や旅人の子連れはよく見かけるし、そんなに珍しいものでもないとは思う、そう考えるとこの銀色の髪は確かに『エンティア』に来てもあまり見かけることはなかった。
じろじろと見られるのも嫌だったので適当に店の商品を見終わったらすぐに戻ろうと思い目線を流していた矢先に『それ』は目に入ってきた。
丸く綺麗な形に綺麗な模様の入った『それ』は普通なら食料品売り場においてありそうなはずなのになぜか骨董品売り場に堂々と陳列していたのだ。『それ』が気になって仕方なかった私は近くまで駆け寄り私に向けられていいた視線を今度は私自身が送っていた。
「これ、卵ですか?」
店主に質問すると気の無い返事が返ってきただけだった。
なんでも店主の親戚の農場で鶏の卵に混じっていたようでなんの卵かわからずそのまま商品として売りに出そうと思ったが客はむしろ気味悪がって買わないようだった。
確かに大きさは鶏の卵にしては大きく持ち運びに不便というほど大きいわけでもなかったが何の卵かわからないということもあり当初の売値の半額で売っているので値段を聞いてみたところ「お嬢ちゃんじゃ買えやしない」と邪険にされた。
なんだか少しムッと来たので持っているお金の大銀貨五枚と相談してから交渉する。
「じゃあ大銀貨一枚でどうですか?」と大銀貨を差し出すと目玉が飛び出たと言わんばかりに驚いた顔でこちらを見ていた。
「…お嬢ちゃんどっかの金持ちの娘さんかなんかか?」と訊ねられたけど
「内緒♪」とだけ返し、大銀貨一枚を置いてその卵を貰っていった。
後から考えてみたけど勝手に持ってきちゃってまずかったかなと思ったが、実際いくらだったのかわからなかったけど反応を見る限りもっと安かったのかなと自分の中で納得してその場を後にし馬車の方へと向かって行った。
セルバンデスさん達と合流すると既に馬車は出発の準便が出来ており、私を待っていたようだった。私を見るや否やセルバンデスさんが卵について言及していた。
「その卵は如何されたのでしょうか?」
「えっと…買ってきちゃいました」
少し呆れた顔をしていたセルバンデスさんを横に普段の冷静な表情を崩してシャーナル皇女も呆れ顔で私を見ていたのを見てまずかったかなと思い「返品した方が良いですか…?」と不安気な声で訊ねる。
彼女は少しため息をついた後「…好きにしなさい」とお許しを頂くことができた。
私が喜んでいる様子を見た二人は少し安堵したような表情に変わり荷台に荷物を乗せ出発となった。
「じゃあ行きますか、頼むぞ相棒」と声高々にケンタウロスの相棒である男性が合図を出し走り出す。一瞬身体が浮いた後も物凄い勢いで馬車は進んでいく。
その速度は隣の四頭の馬で牽いている馬車をあっという間に抜き去りその後も勢いは衰えない。
「す、凄い!!あっという間に抜き去ったよ!!」と私がはしゃぐように叫んでいると笑ったような声で「舌を噛むから気をつけろよ」と注意を投げかけてくる。
先は荒れた荒野のような大地が広がり、整地された土地ではないためか凄い勢いで揺れること。
「ちょっと…!もっと優しく進めないの!?」
そうシャーナル皇女がぼやいているのをセルバンデスさんは宥めながらも自身も体が跳ね上がったりと落ち着けない様子が少し可笑しく申し訳ないと思いつつも笑いながら私は見ていた。
ただ一人はしゃぐ私を見てケンタウロスの相棒の男性に御者席へと案内されそちらに移る。
「随分楽しんでるな」
「うんっ。すっごく楽しいです!!」
素直に答える私の様子を見て先ほど断わっていた態度を改めて謝罪してくる。
「俺はラフィークって言うんだ。そんで相棒はハーフェル」
私もそれに続いて自己紹介をしてケンタウロスのハーフェルさんにも改めて挨拶をすると「振り落とされるなよ」と心配してくれてそのままの勢いで駆け抜けていった。
そしてラインズもまたグレトン公国へと列車で向かっているがこちらは関所まで一日そしてさらに関所からグレトン公国中心都市行きの列車でおよそ一日で辿り着く。
そしてロゼット達は国境付近の町に到着し今度は馬車での旅となる。ここが中継地点となるために馬車の数は他の街の比較にならない量だ。そして人の出入りも激しい街である。
「凄い、馬車が沢山並んでる。みんな可愛い馬ばかりだなぁ」
感心して声を上げるロゼットと比例して平静であるシャーナル皇女。
「ここは丁度馬車と列車の入れ替えとなる中継地点ですので常に馬車が止まっております。その分人の出入りも激しいのではぐれないように注意してください」
セルバンデスから注意を受け、離れないように付いて行くロゼット。馬車の受付に行き予約をしていた馬車の確認を行なうのだが――
「馬車が来られないですと!?」
「どういうことよ」
セルバンデスとシャーナル皇女の声が響き渡る。予約していた馬車にトラブルが発生したようで、馬車が用意できないということであった。他の予備の馬車も出払っており、次の空き便で乗るほか無いのだが二日後になってしまうとのこと。
「問題外ね」
シャーナル皇女は呆れて、帰国後馬車の運営側に責任を追及するとし一行はその場を後にする。しかし『足』が無い以上国境を徒歩で走破しなければならなくなり三日後には着くとすでに先方のフローゼル王国には伝えてある。親書で遅れるという趣旨を伝える方法もあるにはあるが先方にも予定があるため迷惑はかけられない。
こちらもドラストニア王宮に帰国してからの仕事もあるため出来ることならばそれは避けたいところ。
噂話では他の馬車にもトラブルがあったようで盗賊の襲撃によるものではないかと囁かれているのを耳にする。フローゼルに入ってからも再び列車の旅となるのだがなぜフローゼルとドラストニアとで列車を結ばないのか質問するロゼットに対してシャーナル皇女が答えた。
「フローゼルとドラストニアとは違う国。密入国者の管理もあるから繋げることも簡単に出来ないのよ。列車が賊に占拠されて街に突っ込んだなんて大惨事を招いたことも昔あったからね」
「そんなに盗賊って多いんですか?」
「私達が頭を抱えるくらいにはね」
特に国境付近である関所近辺では多く、警備の数だけは年々増やしているがそれでも盗賊による襲撃が減っているわけでもない。ここ最近は義勇軍などにも協力依頼を行ない賞金稼ぎ達も稼ぎ時だと躍起になっていることから落ち着き始めているがそれでも一日平均十数件は起こっているそうだ。
「そんなに盗賊が怖いなら馬なんてやめとけ」
ロゼット達が話してる横から声をかけてくる人物がいる。その躯体は有に七尺(約二メートルほど)は超えているであろう背の高さの大柄な男性だった。
「お、大きい…」
ロゼットが驚いている横でセルバンデスが答える。
「ケンタウロス…ですか」
足元をよく見ると確かに蹄に馬の足そのもの。上半身にかけて衣服きておりおそらく人間の男性の身体なのだと想像させる。
「ケンタウロスが何の用かしら?私達は『足』を探してるのであって野獣を探してるわけじゃないのだけれど」
冷たい声で突き放すように言うシャーナル皇女を二人で宥める。ケンタウロスも表情は変わらず涼しい顔でなんのことやらといった様子。彼には手綱のようにロープが身体に身に付けられておりケンタウロスに牽引される形で馬車が後方に付いていた。
「あなたが馬車を引っ張ってるんですか?」
そう尋ねるロゼットに対して素直に答えるケンタウロス。彼も馬車での運搬稼業を行なっているようで営業に行っている相棒を待っているようであった。そうこうしている内に陽気な声と共にこちらに向かってくる一行の姿が目に入ってくる。
「いえいえうちの馬車の速さはこの界隈最速を誇っていますよ。関所なんて一日でたどり着いて見せますよ」
そう豪語しながらやってきたのは紳士風なちょび髭を生やした胡散臭そうな男性と貴族らしき家族連れだった。彼が営業を行なっているという相棒なのはロゼットでもなんとなく感づいて、一同不審なものを見るかのような目で彼に視線を向ける。
「馬車と聞いたんだが、魔物じゃないか」と訊ねる家族連れの貴族。
それでも利口で速さでは馬に負けることがないと相棒らしき男性は力説するも家族連れの奥方が嫌悪感を示したために「俺はこんな連中乗せるのは願い下げだ」とケンタウロスが発した一言で一同は騒然とし、セルバンデスとロゼットが宥める。そんなことしている間に貴族の家族連れは何処かへ行ってしまっていた。
「馬鹿野郎!!お前折角連れてきた客になんてこと抜かしやがる!!」
先ほどまでの紳士風な雰囲気は欠片もなくケンタウロスを罵る相棒とされる男性。全く気にする素振りもないケンタウロスだがその彼に少し同調するロゼット。
「でも…あんなに魔物だと毛嫌いしてる人なんか多分乗ってくれないと思いますよ?」
「あん?お嬢ちゃん誰だい」
そう言った相棒に互いに自己紹介を交わし予定していた馬車がトラブルに見舞われて代わりを探しているという趣旨を説明する。
「あーそうかい、まぁせいぜい頑張ってくれや」とだけ言い放つ。
「ちょ、ちょっと待って下さい!!あの…なんとか乗せて貰えませんか!?」とロゼットが頼み込む。
セルバンデスもそれ同調し、二人で説得するが貴族風のシャーナル皇女に子供のロゼット、そしてホブゴブリンのセルバンデスというあまりにも異色な組み合わせに警戒心を持たれ、更に金を持っていなさそうと判断したのか邪険にあしらう。一方でシャーナル皇女はケンタウロスを観察しているようであった。
「勘弁してくれ、素性もわからないような連中相手に旅のお供なんて出来るかよ」
「我々はドラストニア王国から遣わされた使者です。なんとか乗せていただけませんか」
ロゼット達が頼み込んでいる横からシャーナル皇女の声が飛ぶ。
「ねぇ。彼、馬よりも早く走れるのよね?」
「そこらへんの馬なんざ相手になりゃしねぇよ!」
乱暴に返すケンタウロスの相棒の男性。それを聞きシャーナル皇女は「これにするわ」とケンタウロス便に乗るという意志を告げる。
「ちょ、ちょっと待てよ乗せるかどうか決めるのは俺らだ」
これを聞きシャーナル皇女はセルバンデスを呼びつけ「資金的には十分よね?」と訊ねるとセルバンデスもそれに同意して、彼らに交渉を持ちかける。
「なら前金として大銀貨五枚出しましょう。無事に関所まで届けていただければ金貨一枚。そちらにも悪い話ではありますまい。」
その言葉で揺らいだのか少し狼狽する様子だったが、すぐに平静を装いそれでも意思は変えなかった。そこで今度はシャーナル皇女がケンタウロスに対して煽るように言い放つ。
「あなた馬よりも早く走破できるのでしょう?このままこんな小娘に言われたい放題で、貴族に罵られたままで納得など出来ないではなくて?」
ケンタウロスの方は目を閉ざしたまま聞いていた。そして馬車ごと身体を動かし彼の相棒の方へと歩み出す。相棒の方はほっとしたような様子でロゼット達は半ば諦めかけようとしていたら意外な返事が返ってきた。
「国境付近まで連れて行けばいいのだろう?そこで終わりだ」
そうケンタウロスが告げると相棒の方は彼になにやら文句を唱えていたがロゼット達は安堵の様子を浮かべていた。こうして当初の予定とはずれたものの『足』を手にしたロゼット達は予定通りの時刻に出発できることとなった。
出発までの空き時間で少し物見見物ということで市場に足を運ぶロゼットであった。
◇
市場はドラストニアの中心街ほどではなく、露店を広げたバザーのような形式で開かれ骨董品や日常品などの生活必需品から怪しいセールスまで幅広く展開されているように見えた。
散歩がてらに歩いていたけど周囲の目がどうにも気になり道行く人に珍しいものでも見たかのような目で見られる。
(そんなに子供が珍しいのかなぁ。それとも銀髪…?)
貴族や旅人の子連れはよく見かけるし、そんなに珍しいものでもないとは思う、そう考えるとこの銀色の髪は確かに『エンティア』に来てもあまり見かけることはなかった。
じろじろと見られるのも嫌だったので適当に店の商品を見終わったらすぐに戻ろうと思い目線を流していた矢先に『それ』は目に入ってきた。
丸く綺麗な形に綺麗な模様の入った『それ』は普通なら食料品売り場においてありそうなはずなのになぜか骨董品売り場に堂々と陳列していたのだ。『それ』が気になって仕方なかった私は近くまで駆け寄り私に向けられていいた視線を今度は私自身が送っていた。
「これ、卵ですか?」
店主に質問すると気の無い返事が返ってきただけだった。
なんでも店主の親戚の農場で鶏の卵に混じっていたようでなんの卵かわからずそのまま商品として売りに出そうと思ったが客はむしろ気味悪がって買わないようだった。
確かに大きさは鶏の卵にしては大きく持ち運びに不便というほど大きいわけでもなかったが何の卵かわからないということもあり当初の売値の半額で売っているので値段を聞いてみたところ「お嬢ちゃんじゃ買えやしない」と邪険にされた。
なんだか少しムッと来たので持っているお金の大銀貨五枚と相談してから交渉する。
「じゃあ大銀貨一枚でどうですか?」と大銀貨を差し出すと目玉が飛び出たと言わんばかりに驚いた顔でこちらを見ていた。
「…お嬢ちゃんどっかの金持ちの娘さんかなんかか?」と訊ねられたけど
「内緒♪」とだけ返し、大銀貨一枚を置いてその卵を貰っていった。
後から考えてみたけど勝手に持ってきちゃってまずかったかなと思ったが、実際いくらだったのかわからなかったけど反応を見る限りもっと安かったのかなと自分の中で納得してその場を後にし馬車の方へと向かって行った。
セルバンデスさん達と合流すると既に馬車は出発の準便が出来ており、私を待っていたようだった。私を見るや否やセルバンデスさんが卵について言及していた。
「その卵は如何されたのでしょうか?」
「えっと…買ってきちゃいました」
少し呆れた顔をしていたセルバンデスさんを横に普段の冷静な表情を崩してシャーナル皇女も呆れ顔で私を見ていたのを見てまずかったかなと思い「返品した方が良いですか…?」と不安気な声で訊ねる。
彼女は少しため息をついた後「…好きにしなさい」とお許しを頂くことができた。
私が喜んでいる様子を見た二人は少し安堵したような表情に変わり荷台に荷物を乗せ出発となった。
「じゃあ行きますか、頼むぞ相棒」と声高々にケンタウロスの相棒である男性が合図を出し走り出す。一瞬身体が浮いた後も物凄い勢いで馬車は進んでいく。
その速度は隣の四頭の馬で牽いている馬車をあっという間に抜き去りその後も勢いは衰えない。
「す、凄い!!あっという間に抜き去ったよ!!」と私がはしゃぐように叫んでいると笑ったような声で「舌を噛むから気をつけろよ」と注意を投げかけてくる。
先は荒れた荒野のような大地が広がり、整地された土地ではないためか凄い勢いで揺れること。
「ちょっと…!もっと優しく進めないの!?」
そうシャーナル皇女がぼやいているのをセルバンデスさんは宥めながらも自身も体が跳ね上がったりと落ち着けない様子が少し可笑しく申し訳ないと思いつつも笑いながら私は見ていた。
ただ一人はしゃぐ私を見てケンタウロスの相棒の男性に御者席へと案内されそちらに移る。
「随分楽しんでるな」
「うんっ。すっごく楽しいです!!」
素直に答える私の様子を見て先ほど断わっていた態度を改めて謝罪してくる。
「俺はラフィークって言うんだ。そんで相棒はハーフェル」
私もそれに続いて自己紹介をしてケンタウロスのハーフェルさんにも改めて挨拶をすると「振り落とされるなよ」と心配してくれてそのままの勢いで駆け抜けていった。
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