インペリウム『皇国物語』
20話 大地を走る
朝を伝える小鳥のさえずり、日差し照らすよりも早く町を駆け出す少女の姿があった。
「おはようございます!」元気良く服屋の呼び鈴を鳴らすロゼット。約束の三日の早朝であり店主も既に完成していると答え店内を案内する。
太ももまである長い皮のブーツにボトムス。シャツは現代のものに近い肌触りで着心地もよくベストも上質な生地で作られ、胸元や腹部の弱い部分が少し硬く中に鋼鉄を細かい鎖状に加工して仕込んであるらしい。
これはもしものときのための防護手段として使えると言われるが決して着にくいものでもない。
ベルトも金属部分は鍛え上げられた鋼鉄で出来ており非常に軽い仕上がりとなっていた。
「凄いですよ!!これ可愛いし!なんだか大人になったみたいな気分です!」
満悦そうなロゼットの様子を見て店主も少し満足げな顔をする。
「この時代何があるかわからんからな、こいつもオマケにつけとく」といわれ皮と鋼鉄で出来た篭手のような手袋を渡される。そしてちょっと立派な帽子までおまけしてもらう。
「こんなに色々としていただいてすみません。ちゃんと御代は持ってきましたので」と言いかけると代金はもう支払い済みだと言われ、あのシェイド少年が昨日やって来て支払っていったそうだ。
なんでも彼もこの国の人間ではなかったらしく旅行で来ていた貴族だったらしい。今日の早朝に発つと言っていたので今頃馬車の中だろうとのことだ。
「そっか…」と少し落ち込むロゼット。勝手に買い物させてお金だけ払って自分はとっとと帰っていくなんてと、どこか寂しさを感じながらも店主に感謝をして店を出た先に皮のコートを着た人物が目に入った。
「なんだ似合ってるじゃん」
あの少し生意気そうな耳に残る声で褒められる。先ほどまで帰国したと話していたシェイドがそこで待っていたのだ。
「な、帰ったんじゃなかったの!?」驚きに満ちていたがどこか嬉しさも滲んでいる様子のロゼット。
「なにー?俺がいなくなって寂しくなったの??店内であんなに寂しそうな顔してたのに今凄い嬉しそうな顔してるよ?」と図星を突いて悪戯っぽく言ってくる相変わらずなシェイド。
「べ、別に寂しいとかそんなんじゃないしっ!!ただ…お礼も言えずに帰っていかれるのも…」と照れ隠しするが見透かされているのかシェイドの態度は変わらず。
「どうやら色々と盛ってもらったみたいだしねー」とロゼットの胸元を見ながら言っていことに気づき思わず顔を真っ赤にしながら隠すロゼット。
「どーせ!私はまな板ですよー!!」と逆鱗に触れてしまったようでマイペースなシェイドも流石に謝りつつ服装とロゼット自身が非常に似合っていると再度褒める。
「やっぱりお前良いな。良いよ良いよ」と意味深に続けるシェイドにジト目で顔を赤らめながら向かい「その…ありがとう」とだけ伝える。
「じゃ、じゃあ私これから用事あるから!!また、いつかどこかで会えたらっ!」
と言い残しそのままロゼットは城壁正門へと向って走り去っていく。
「またね…か。嫌がってる素振り見せてても言動が一致してないぞバーカ」
そう言うシェイドであったが彼も笑みが溢れるばかりだった。そして彼を迎えに来たであろう高官が数名。
「シェイド公爵、何度も勝手に出歩かれるのは自重ください」
「悪い悪い、約束があったからさ。でも済んだから帰ろっか」
満足気な表情のシェイドを見てなにか良いことがあったと察する高官。「何か面白いことでも?」と尋ねると彼は少し考えてから答えた。
「んー…色々とあったよ。グレトンに帰ったあとたっぷり話すよ。」
「あ、それとさ見つけたんだよ。未来の嫁さん候補」
シェイドの言った奥方候補。それは紛れもなくロゼットのことであった。
◇
出発の準備も完了し、予定時間も近くなる中ロゼットはなんとか正門にたどり着くことが出来た。セルバンデスと合流する予定だったのだが彼のもとに辿り着くと意外な人物も同行していた。
「しゃ、シャーナル皇女!?」
驚くロゼットに対しては困り顔のセルバンデスが説明を交え、シャーナル皇女の希望で今回同行することとなったそうだ。
「あら?ロゼットからしてみたら私が同行することは何か不都合でも?」
「そ、そ、そ、そんなことないですっ!!」
これから四六時中シャーナル皇女と旅路を同道するのだと考えると気が滅入るといった様子か。ロゼットの服装の変化に対してセルバンデスが問い、服屋で仕立ててもらった物だと説明する。
「はした素材でもないようね。少なくとも王族御用達の仕立て屋に劣らない作りはしてるわね」
やはり見る目があるのかシャーナル皇女の鋭い観察眼には恐れ入るといった感じか、しかしそのシャーナル皇女に認められるということはやはりあの服屋は中々の腕前だったのだと改めて考え、嬉しく思えてくるのであった。
「そろそろお時間ですので駅へ移動しましょうか」と話を切り上げセルバンデスに案内される。
ドラストニアには巨大な駅も存在しておりますなんと地下に建設されているのだ。見た目は蒸気機関車そのもので数台の列車が並びそれぞれの国境付近まで行き先が書かれている。現代の地下鉄よりも広い作りになっており、ここでは新幹線のような長距離を行き来することに用いられるそうだ。
街並みは中世のような古い作りに対して、こうした技術力の面は産業時代以上というべきなのか。列車には魔物も一緒に乗せることも可能ではあるもののあまりにも大きすぎて駅員に止められている光景を眺めていた。
「いや、あんなの入らないでしょ…」
「無茶なんてさせたら魔物もいい迷惑よね」とロゼットの言葉に同調の意を示す。
「ロゼットさ……殿。我々は三番線から乗りますぞ」思わずシャーナル皇女の前でも普段の癖が出かかるが寸出のところで訂正する。ロゼットも少し冷々していたがシャーナル皇女に気づかれる様子はなかった。
それぞれの荷物を抱え、列車に乗り込む。ロゼット達は先頭車両の高級クラス…ではなく中間車両の中堅クラスの車両に乗り込んでいた。ここは商人や中流階級が多く搭乗しており、半分は個室兼簡易寝室となっている。
「ここで寝泊まりするんですか?」と疑問を投げるロゼットにさも当たり前のようにシャーナル皇女は答えていた。
「列車で二日ほどで国境付近まで着くわ、そこから馬車で関所まで二日かけて向かった後フローゼル国内の列車で一日と半日ってところかしら」
「お隣さんの国でも結構距離があるんですね」
移動手段が列車と馬車しかないのだから時間はかかってしまう。魔物や野盗の襲撃の恐れもある馬車での移動手段は大体は国境付近で用いられるか町から町までの短距離移動に使われることが多い。国家間の往来を行なう際に用いられる列車は外交官や交易商人など重要人物にとっては重宝される移動手段。
「列車がなかったころなんて臆病な王族や貴族は親書でのやり取りしかできなかったという逸話もあるほど列車の登場は大きかったのでしょうね」
そう言ったシャーナル皇女はまるで今のドラストニア内部の長老派に対して皮肉混じりに言っているようにも見えていた。
荷物を運び終え、各々席に着いたと同時に発車の呼び鈴が高々に鳴り響き、甲高い汽笛を鳴らしながら列車は出発した。
出発する列車に手を振る人々に対して応える乗客を見てロゼットも思わず窓を開けて「いってきまーす!」と元気良く応える。シャーナル皇女の「誰に向かって言ってるのよ」とつっこまれながらもロゼットは笑顔で応え続けていた。
暗い地下道を走り続けた後に外の光が眩しく照らす。一瞬視界が奪われた後目を開けると広大な大地が広がり鳥が数羽並走しているように飛んでいる。
「わぁあ!!綺麗」と単純な感想ではあるがそれ以上にロゼットの心は高鳴っていた。
ファンタジー世界に旅立つ冒険者という情景を自分自身がまるで体験しているかのように列車は果てしなく続くような大地を走り続ける。
「おはようございます!」元気良く服屋の呼び鈴を鳴らすロゼット。約束の三日の早朝であり店主も既に完成していると答え店内を案内する。
太ももまである長い皮のブーツにボトムス。シャツは現代のものに近い肌触りで着心地もよくベストも上質な生地で作られ、胸元や腹部の弱い部分が少し硬く中に鋼鉄を細かい鎖状に加工して仕込んであるらしい。
これはもしものときのための防護手段として使えると言われるが決して着にくいものでもない。
ベルトも金属部分は鍛え上げられた鋼鉄で出来ており非常に軽い仕上がりとなっていた。
「凄いですよ!!これ可愛いし!なんだか大人になったみたいな気分です!」
満悦そうなロゼットの様子を見て店主も少し満足げな顔をする。
「この時代何があるかわからんからな、こいつもオマケにつけとく」といわれ皮と鋼鉄で出来た篭手のような手袋を渡される。そしてちょっと立派な帽子までおまけしてもらう。
「こんなに色々としていただいてすみません。ちゃんと御代は持ってきましたので」と言いかけると代金はもう支払い済みだと言われ、あのシェイド少年が昨日やって来て支払っていったそうだ。
なんでも彼もこの国の人間ではなかったらしく旅行で来ていた貴族だったらしい。今日の早朝に発つと言っていたので今頃馬車の中だろうとのことだ。
「そっか…」と少し落ち込むロゼット。勝手に買い物させてお金だけ払って自分はとっとと帰っていくなんてと、どこか寂しさを感じながらも店主に感謝をして店を出た先に皮のコートを着た人物が目に入った。
「なんだ似合ってるじゃん」
あの少し生意気そうな耳に残る声で褒められる。先ほどまで帰国したと話していたシェイドがそこで待っていたのだ。
「な、帰ったんじゃなかったの!?」驚きに満ちていたがどこか嬉しさも滲んでいる様子のロゼット。
「なにー?俺がいなくなって寂しくなったの??店内であんなに寂しそうな顔してたのに今凄い嬉しそうな顔してるよ?」と図星を突いて悪戯っぽく言ってくる相変わらずなシェイド。
「べ、別に寂しいとかそんなんじゃないしっ!!ただ…お礼も言えずに帰っていかれるのも…」と照れ隠しするが見透かされているのかシェイドの態度は変わらず。
「どうやら色々と盛ってもらったみたいだしねー」とロゼットの胸元を見ながら言っていことに気づき思わず顔を真っ赤にしながら隠すロゼット。
「どーせ!私はまな板ですよー!!」と逆鱗に触れてしまったようでマイペースなシェイドも流石に謝りつつ服装とロゼット自身が非常に似合っていると再度褒める。
「やっぱりお前良いな。良いよ良いよ」と意味深に続けるシェイドにジト目で顔を赤らめながら向かい「その…ありがとう」とだけ伝える。
「じゃ、じゃあ私これから用事あるから!!また、いつかどこかで会えたらっ!」
と言い残しそのままロゼットは城壁正門へと向って走り去っていく。
「またね…か。嫌がってる素振り見せてても言動が一致してないぞバーカ」
そう言うシェイドであったが彼も笑みが溢れるばかりだった。そして彼を迎えに来たであろう高官が数名。
「シェイド公爵、何度も勝手に出歩かれるのは自重ください」
「悪い悪い、約束があったからさ。でも済んだから帰ろっか」
満足気な表情のシェイドを見てなにか良いことがあったと察する高官。「何か面白いことでも?」と尋ねると彼は少し考えてから答えた。
「んー…色々とあったよ。グレトンに帰ったあとたっぷり話すよ。」
「あ、それとさ見つけたんだよ。未来の嫁さん候補」
シェイドの言った奥方候補。それは紛れもなくロゼットのことであった。
◇
出発の準備も完了し、予定時間も近くなる中ロゼットはなんとか正門にたどり着くことが出来た。セルバンデスと合流する予定だったのだが彼のもとに辿り着くと意外な人物も同行していた。
「しゃ、シャーナル皇女!?」
驚くロゼットに対しては困り顔のセルバンデスが説明を交え、シャーナル皇女の希望で今回同行することとなったそうだ。
「あら?ロゼットからしてみたら私が同行することは何か不都合でも?」
「そ、そ、そ、そんなことないですっ!!」
これから四六時中シャーナル皇女と旅路を同道するのだと考えると気が滅入るといった様子か。ロゼットの服装の変化に対してセルバンデスが問い、服屋で仕立ててもらった物だと説明する。
「はした素材でもないようね。少なくとも王族御用達の仕立て屋に劣らない作りはしてるわね」
やはり見る目があるのかシャーナル皇女の鋭い観察眼には恐れ入るといった感じか、しかしそのシャーナル皇女に認められるということはやはりあの服屋は中々の腕前だったのだと改めて考え、嬉しく思えてくるのであった。
「そろそろお時間ですので駅へ移動しましょうか」と話を切り上げセルバンデスに案内される。
ドラストニアには巨大な駅も存在しておりますなんと地下に建設されているのだ。見た目は蒸気機関車そのもので数台の列車が並びそれぞれの国境付近まで行き先が書かれている。現代の地下鉄よりも広い作りになっており、ここでは新幹線のような長距離を行き来することに用いられるそうだ。
街並みは中世のような古い作りに対して、こうした技術力の面は産業時代以上というべきなのか。列車には魔物も一緒に乗せることも可能ではあるもののあまりにも大きすぎて駅員に止められている光景を眺めていた。
「いや、あんなの入らないでしょ…」
「無茶なんてさせたら魔物もいい迷惑よね」とロゼットの言葉に同調の意を示す。
「ロゼットさ……殿。我々は三番線から乗りますぞ」思わずシャーナル皇女の前でも普段の癖が出かかるが寸出のところで訂正する。ロゼットも少し冷々していたがシャーナル皇女に気づかれる様子はなかった。
それぞれの荷物を抱え、列車に乗り込む。ロゼット達は先頭車両の高級クラス…ではなく中間車両の中堅クラスの車両に乗り込んでいた。ここは商人や中流階級が多く搭乗しており、半分は個室兼簡易寝室となっている。
「ここで寝泊まりするんですか?」と疑問を投げるロゼットにさも当たり前のようにシャーナル皇女は答えていた。
「列車で二日ほどで国境付近まで着くわ、そこから馬車で関所まで二日かけて向かった後フローゼル国内の列車で一日と半日ってところかしら」
「お隣さんの国でも結構距離があるんですね」
移動手段が列車と馬車しかないのだから時間はかかってしまう。魔物や野盗の襲撃の恐れもある馬車での移動手段は大体は国境付近で用いられるか町から町までの短距離移動に使われることが多い。国家間の往来を行なう際に用いられる列車は外交官や交易商人など重要人物にとっては重宝される移動手段。
「列車がなかったころなんて臆病な王族や貴族は親書でのやり取りしかできなかったという逸話もあるほど列車の登場は大きかったのでしょうね」
そう言ったシャーナル皇女はまるで今のドラストニア内部の長老派に対して皮肉混じりに言っているようにも見えていた。
荷物を運び終え、各々席に着いたと同時に発車の呼び鈴が高々に鳴り響き、甲高い汽笛を鳴らしながら列車は出発した。
出発する列車に手を振る人々に対して応える乗客を見てロゼットも思わず窓を開けて「いってきまーす!」と元気良く応える。シャーナル皇女の「誰に向かって言ってるのよ」とつっこまれながらもロゼットは笑顔で応え続けていた。
暗い地下道を走り続けた後に外の光が眩しく照らす。一瞬視界が奪われた後目を開けると広大な大地が広がり鳥が数羽並走しているように飛んでいる。
「わぁあ!!綺麗」と単純な感想ではあるがそれ以上にロゼットの心は高鳴っていた。
ファンタジー世界に旅立つ冒険者という情景を自分自身がまるで体験しているかのように列車は果てしなく続くような大地を走り続ける。
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