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インペリウム『皇国物語』

funky45

17話 日常の中で 

 その日、政庁にて議会が開かれアズランドとの問題解消後の対外政策に関する報告と今後の方針についての取り決めであった。王位継承の一件に関してはアズランドとの問題解決に一役買ったラインズに人心が集まるようになり、アズランド側の人間を取り込んだことによりその発言権も大きくなった。
 現状でラインズはあくまでロゼットの即位までの間、それぞれの代表と高官による議会制という形に留めた。ラインズの実質摂政となってしまえば他の王位継承者たちからの不満が上がる恐れがあるため彼らの発言権も余地として残された。


 そして現在ドラストニアに隣接するグレトン公国とは停戦協定、フローゼル王国とは同盟国という関係にある。西側に隣接するレイティス共和国は領土が広大な上、海に面し水資源の豊富な巨大な港町に大規模な市場が存在し、ドラストニアの農産物の流通にも利用されている。


「グレトン公国は近年、鉱物資源の採掘量減少がより顕著になっているせいかこちらへの流通が問題となっております」


 高官の一人の報告から怪訝そうな顔つきになるラインズ。


「けど鉱山は増加傾向にあるんだよな?なんで採掘量が減るんだよ」


「金塊でも掘り当てているのでは?」とラインズの疑問に茶化すように横槍を入れる一部の高官。


「議会で戯言が飛ぶようになるなんて、ドラストニアの質も随分と落ちたものね」


 しかしその発言に対して皮肉を飛ばしたのはシャーナル皇女。彼女の発言に高官は言葉を詰まらせるしかなかった。今後の方針としてグレトン公国との直接の交渉を行なうという意見で一致する。
 そして同盟国でありながら、ドラストニアで内戦があったために交流自体が途絶えていたフローゼル王国とも直接外交官を送るという決議となった。


 随分あっさりと決まったことに対してラインズは眉を顰めるが、その後の派遣する人材に関してラインズ本人とセルバンデスが適任だという意見が数多く出てくることとなり押し付けられる形となってしまった。心配していた通りとなりむしろ安心したというか他人に任せるよりも自身で直接行なうほうが話も早く纏まるとし、フローゼル王国のことはセルバンデスに任せることでラインズの方針は固まった。


 周囲の反応とは裏腹にシャーナル皇女だけは怪訝な顔をしていた。

 ◇


「わぁ…改めて見ると綺麗な町並みですね!」


 その日の午前の仕事を終わらせてすぐに午後からは買い出しに行くように言われ、セルバンデスさんとメイド長の付き添いという形で私は初めて城下町へと出る。
 石造りだけでなくセメントのように固めた造りの家も数多く存在し意外に思いながら通り過ぎる町並みの風景を見渡していた。


「ヴェルクドロール、私達は遊びに来たのではなく備蓄品の買い出しに来たのですよ。王宮に仕える者として品位を損なうようなことはあってはなりません」


「まぁまぁ、外に出て店に入ってしまえば我々も一人のお客ですよ」


 メイド長が咎めるのに対してセルバンデスさんが制止する。
 城下町の王宮付近はやはり高級志向の強いお店が多いのか王族や貴族御用達といった様子で客層も身なりの整った人物ばかりが目立つ。雰囲気も王宮に近い感じに思え、内装も非常整っている上に品揃えも豊富であった。


「やっぱり綺麗な装飾品が目立ちますね」


「貴金属や鉱物資源の加工技術にはドラストニアは長けておりますからね。農産物以外の強みはそこでしょうか」


 そう答えるセルバンデスさんに冗談っぽく「こんなところでも授業ですかぁ?」とぼやいてみると横から端麗な顔たちの貴族が声を掛けてくる。


「おや、お美しい。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうかお嬢さん」


「はぇ?」


 その『お美しい』と評した言葉とは裏腹に突然のことに相変わらず変な声を出してしまう。
 やっぱりどんな時代になってもナンパはあるんだなぁと感じながらセルバンデスさんが間に入ってくれる。


「こちら王家ドラストニアに使える有識者出身の者でして、あまり無礼な立ち振る舞いはどうか謹んでいただきたい」


「あの…ごめんなさい」と私は一言かける。


 その言葉を聞いて先ほどまでの余裕の表情を崩しうなだれるような様子に一瞬変わった後、貴族は慌ててその場を立ち去った。とはいうもの自分に自信があって素直な人は嫌いじゃないからこれで自信を失わないで欲しいなと密かに先ほどの貴族の応援をしていた。がんばれ貴族さん。


「ドラストニアではございませんが、治安の整っていない地域とかですと美しい少女や女性の誘拐なんかは多発しておりますね。その後商売として利用されることも」


「奴隷とかですか…?」と不安気味に尋ねるが「もっと性質が悪い」とだけしかセルバンデスさんは答えなかった。その後の空気を察してか話題は戻る。


「顔立ちの整いだけでなくエルフのように透き通った容姿のロゼット様ですとやはり目を張るものがあるのでしょうな」という発言に私は少し考えた後の返す。


「セルバンデスさんから見ても…そう思いますか?」


「え?」と意外な返事に少しばかり驚くセルバンデスさんは少し私を見た後にすぐに返す。


「ええ、ゴブリンの目からしてもロゼット様は美しいと思われますよ」


 という答えに少し嬉しくなり「知ってる人に言われるほうが、嬉しいですね」と答えるとセルバンデスさんも困ったような笑顔で返してくれた。


 ◇


 大体の物資調達は終わり、後は荷台の調達と物資の搬入作業だけである。荷物のチェックを行なっている横からセルバンデスさんに呼ばれ、どうやら私個人への直接の頼み事のようだった。メイド長が自分が行くと買って出るも私にとのことでメイド長は不満げではあったがそのまま私は任されて行くことになった。渡されたメモと袋の中身を見ることに。


『ロゼット様の私物で足りないものがございましたらこちらで買い足して下さい』


「なんだか気を使わせちゃったかな」


 とか思いつつ袋の中身を覗くと金貨が10枚ほど入っていた。







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