インペリウム『皇国物語』
14話 親と子の狭間に
ロゼットはバロール将軍の向かい合っていた。ただの少女に王家の将軍を言い負かすことなど出来るはずも無い。ましてや威圧感、風格、知識、どれをとっても将軍に勝るものなどない。純粋な子共故に彼女の言葉には建前も何もない。
「国を守りたいと、そう願うのであればどうして話してくれないのですか!?」
「同じ国に生きる人同士で戦争を起こす理由なんてどこにもないじゃないですか!!」
周囲の兵達もその言葉に反応する。彼らもドラストニアに生きる国民の一人である。家族や大切な人、友人もいる。そんな彼らに刃を向けている現状に疑問がないわけではない。アズランド家という主君に仕える以上そうするしかないのだ。
「国を支えているのが国民だとわかっているならどうして私たち「国民」に訴えかけてくれないのですか!?」
バロール将軍は反論する。
「それを訴えたところでどうなるという?大々的に広めることとなれば国内に存在する密偵、内通者にも知れ渡ることになるのだぞ?自国の方針を宣伝しているような真似をしろというのか!?」
「国内で戦争なんて起こしたらもっと早く知れ渡ってしまうでしょ!!」
ロゼットはすぐに切り返した。賢しい子供を相手に苛立ちを見せるバロール将軍。彼女の言うことは至極真っ当であった。幼いが故に国の情勢、王家の確執、内政の乱れ、それらを全てを考慮など出来うるわけではない。他に方法などいくらでもあるだろうが少なくとも国力を消耗する戦争という方法よりも遥かに有用である。
バロール将軍にとっては内部にいる高官共々に粛清できる戦争という形が都合が良かったのだろうがそこには道理はない。剥き出しにしすぎた野心は既に見透かされている。
「バロール将軍、ロゼット殿の言うことに理があります。国力を消耗して、回復できたとしてもどれほどの時間を有するか少しお考えになれば答えは出ませんか!?」
「むしろこのままいけば国の弱体化に繋がります。あなたのやろうとしていることではドラストニアの滅亡が加速するだけです!!」
紫苑のその言葉に怒りを顕にするバロール将軍。
「お前たちは西大陸の恐ろしさを何もわかっていない!たった二代の王であの大陸を制覇し、今や軍事力においてはどの国でも勝ち目などない。奴らの技術力は我々が1000年かけても追いつくことなど出来ない!そんな化物を相手にどう戦うというのだ!」
「もはや言葉などなんの意味も持たん!…理解せぬというのであれば貴様とて容赦はしない」
バロール将軍は剣を抜き構え紫苑たちに向ける。
兵たちも構え、二人が討たれようとしているその時だった
「将軍!」
外の様子に変化があったようで、どうやらドラストニアの襲撃に遭っているようであった。先ほどの伝令が間に合ったようでアズランド家が内部で分裂していることと兵力のおおよその残存情報も行き渡っているためその制圧に動いていた。
「紫苑ッ!! 裏切ったな!!」
バロール将軍が斬りかかり、ロゼットは目を瞑り身構える。紫苑がすかさず彼女を抱き上げ「お任せください」と告げ抱き上げたまま、バロール将軍の一撃をかわし、すかさず兵から槍を奪う。
「我が武は元々ドラストニア国民のための刃。ドラストニアに刃を向けた貴方に言われる憶えは無い!」
そのままの状態で紫苑は兵達の間を突っ切る。テントを突き破り外に出るとモリアヌス副将の派閥が制圧に掛かっていた。ロゼットをまずは安全な場所へと向かわせるために敵味方入り乱れる陣を切り抜ける。バロール将軍がテントから一時退いていく様子が目に映るとロゼットは追うように指示する。
「紫苑さん! 彼を追ってください!」
「しかし、今は貴方の身の安全を!」
紫苑はロゼットの身を案じるが「私が話したのは『彼』だけです!」というロゼットの言葉に反応し
紫苑はロゼットを抱えたままバロール将軍を追う。
◇
入り乱れる陣はすでに戦場と化し、怒号と武器の金属音が響き渡っている。近場で暴れている騎馬兵用の馬体に瞬く間に騎乗し、一瞬で落ち着かせたのちそのまま紫苑とロゼットは突っ切る。
すぐに総大将がいるであろうテントに辿り着いたが弓によって馬がやられる。落馬してしまうが紫苑がロゼットを庇いながら地面に落ちる。と同時にバロール将軍が二人に斬りかかる。紫苑はロゼットを突き放しバロール将軍の一撃を槍で受け止め、バロール将軍も近場にあった槍で打ち合いが始まる。
「ロゼット殿!! 先に向かってください!!」紫苑はそう叫びバロール将軍との打ち合いを続ける。
ロゼットは意を決してテントへと入り込む。
そこには王家の紋様の旗が掲げられ、一段と重厚な鎧を身に纏った男性が威圧感を漂わせている。幼いロゼットでもわかるほどに威厳を感じられるその人こそがアズランド家当主――
数名の兵が身構えるも相手が子供だと気づき驚きの表情を見せる。
「ドラストニアの使いか、それにしてはやり方が狡いな…」
野太くも落ち着きのある声、困惑する周りの兵たちと対照して冷静沈着である。この人物が王と言われても疑うことなく信じてしまうかもしれないが今ドラストニアに対して攻撃を行なっている張本人だと思うとより一層疑問が増す。
「あなたが戦争を…?」ロゼットが言い終わる前にアズランド当主が始める。
「この国は今、危機に陥っている。王の不在、政権争い、派閥、諸外国との関係」
「だがそんなものは本当の危機に比べれば小さなものだ。規模の拡大化という危機に比べればな」
「規模の…拡大?」
ロゼットは聞き返すとアズランド当主は続ける。
「貿易による危機に瀕した際に、経済規模の拡大化を行なうことで一時的な危機は回避された。しかしその後の国家交流における伝統、文化」
「それらの拡大まで行なう傾向がより顕著となったのだ」
「考えてもみたまえ、違う文化に考え方が突如自国に入り込んできたとして受け入れられるだろうか?」
「異なる種族が入り込んできたとして、受け入れられるであろうか?」
ロゼットは言葉を詰まらせた。
経済のことに関しては全くわからなかったが、文化の違いについては母国と日本との違いで幼い少女でも理解していた。実際に日本に来た当初はクラスメイト以外でも近隣の人から距離を置かれていた経験もある。彼女の場合は時間をかけて解消されたことに加え彼女自身が日本文化に興味があったからだ。
しかし全ての人間がそうというわけではなく彼女に馴染むことができないクラスメイトも数名いたことを思い出す。
そして現在ドラストニアでも…
メイドとして入り込んだにも関わらず、他の派閥の王位継承者たちにさえ良い目で見られているとは決して言えない。幾分かラインズ達と交流があるという理由もあるだろうが、人とは新しいものが訪れると必ずすぐに受け入れられるものではない。
「でも他の文化に触れて交流が出来るということは相手を理解することにも繋がります!」
「入ってくるものを全てを嫌なものだと決めつけないで、良い部分だってあるし、そこから自分たちで……吸収することだって出来るんじゃないですか」
少女なりに言葉を選び答える。
ただ拒絶するのではなく、そこから良い部分を文化として受け入れることだって出来ると。すべてを悪しきものと拒絶することも、正しく良いものだと決めつける事もどちらも恐ろしいことなのだ。大切なこととは…
「それを決める事ができるのも私達だと思います」
自分で選び決める事。
「そのためにこんな戦争で解決されることなんて誰も望んでなんかいません」
「それも同じ国民同士での殺し合いなんて…」
アズランド側の士気はもはや壊滅状態。戦闘継続すら怪しいものである。実際にアズランド当主も戦争を仕掛けてしまった以上引くに引けない状態だった。誰かに止めてもらわなければもはや行くところまで行ってしまうかもしれない。
その時勢いよく紫苑がテントに入り込んでくる。
「御当主! 彼女の言うとおりです。ドラストニア国民がそこまで愚かとも思えません。御当主は自国の民でさえ信じることができないのですか?」
アズランド自身も理解していた、このまま続けてもドラストニア相手に勝ち目などないと。これまで様々な采配で軍を勝利に導いてきたが自身に理がないことにも気づきつつあった。バロール将軍とは考え方そのものが異なっていたが手段が同じであったことには彼の考え方があったから兵たちもどちらかといえば、やはり現アズランド当主に賛同している部分があったのかもしれない。
「当主…どうか退いてください」
紫苑の言葉に目を閉じ、撤退の意を決めたその時ー
テントを破って猛進してくる人物。
「当主!! そのような甘言に惑わされてはなりません!!」
「紫苑ッ貴様ぁあ!!」
バロール将軍はそのままの勢いで紫苑に襲いかかる。
だがしかし紫苑のほうが遥かに反応が早く、わずか一瞬の出来事でバロール将軍を斬り捨てる。紫苑の抜いた刀はバロール将軍の自慢の鎧さえも切り裂いていた。
反射的に動き、紫苑にとってもそうせざるを得なかった。唖然としている一同を横目に
「紫苑!!」
アズランド当主が激高し紫苑に斬りかかる。
紫苑は身構えるも先程とは違い、ただ攻撃を防ごうとする構えを維持しながら叫ぶ。
「父上ッ!」
「…っ!! ッダメぇぇぇえ!!」
紫苑がそう叫びロゼットが必死の思いで止めに入ろうとする、と同時にアズランド当主の鎧の隙間を弓矢が貫いた。アズランド当主はその場に倒れ、その後周囲の兵の制圧にドラストニア兵たちが押し入る。
射ったのはラインズであった。やりきれない表情を浮べながら周囲の兵たちに指示を行ない、その場を後にする。
紫苑はアズランド当主に駆け寄り、まだ僅かだが息はあったようだ。アズランド当主は目を開けわずかに映る少女の姿を見る。
膝をつき涙を浮かべこちらを見ていた。
「なぜ泣く……少女よ。これで…良かったのだ」
暴走した自分を止めるにはこれしか方法がなかった。謀反を起こし、ドラストニアに戻ったところで自身の居場所などない。わかっていながらそうすることしか出来なかった。
国を思う気持ちは同じであったはずなのに、どうしてこうなってしまったのか。兵たちの動く音にかき消されるようにロゼットのすすり泣く声がこだましていた。
「国を守りたいと、そう願うのであればどうして話してくれないのですか!?」
「同じ国に生きる人同士で戦争を起こす理由なんてどこにもないじゃないですか!!」
周囲の兵達もその言葉に反応する。彼らもドラストニアに生きる国民の一人である。家族や大切な人、友人もいる。そんな彼らに刃を向けている現状に疑問がないわけではない。アズランド家という主君に仕える以上そうするしかないのだ。
「国を支えているのが国民だとわかっているならどうして私たち「国民」に訴えかけてくれないのですか!?」
バロール将軍は反論する。
「それを訴えたところでどうなるという?大々的に広めることとなれば国内に存在する密偵、内通者にも知れ渡ることになるのだぞ?自国の方針を宣伝しているような真似をしろというのか!?」
「国内で戦争なんて起こしたらもっと早く知れ渡ってしまうでしょ!!」
ロゼットはすぐに切り返した。賢しい子供を相手に苛立ちを見せるバロール将軍。彼女の言うことは至極真っ当であった。幼いが故に国の情勢、王家の確執、内政の乱れ、それらを全てを考慮など出来うるわけではない。他に方法などいくらでもあるだろうが少なくとも国力を消耗する戦争という方法よりも遥かに有用である。
バロール将軍にとっては内部にいる高官共々に粛清できる戦争という形が都合が良かったのだろうがそこには道理はない。剥き出しにしすぎた野心は既に見透かされている。
「バロール将軍、ロゼット殿の言うことに理があります。国力を消耗して、回復できたとしてもどれほどの時間を有するか少しお考えになれば答えは出ませんか!?」
「むしろこのままいけば国の弱体化に繋がります。あなたのやろうとしていることではドラストニアの滅亡が加速するだけです!!」
紫苑のその言葉に怒りを顕にするバロール将軍。
「お前たちは西大陸の恐ろしさを何もわかっていない!たった二代の王であの大陸を制覇し、今や軍事力においてはどの国でも勝ち目などない。奴らの技術力は我々が1000年かけても追いつくことなど出来ない!そんな化物を相手にどう戦うというのだ!」
「もはや言葉などなんの意味も持たん!…理解せぬというのであれば貴様とて容赦はしない」
バロール将軍は剣を抜き構え紫苑たちに向ける。
兵たちも構え、二人が討たれようとしているその時だった
「将軍!」
外の様子に変化があったようで、どうやらドラストニアの襲撃に遭っているようであった。先ほどの伝令が間に合ったようでアズランド家が内部で分裂していることと兵力のおおよその残存情報も行き渡っているためその制圧に動いていた。
「紫苑ッ!! 裏切ったな!!」
バロール将軍が斬りかかり、ロゼットは目を瞑り身構える。紫苑がすかさず彼女を抱き上げ「お任せください」と告げ抱き上げたまま、バロール将軍の一撃をかわし、すかさず兵から槍を奪う。
「我が武は元々ドラストニア国民のための刃。ドラストニアに刃を向けた貴方に言われる憶えは無い!」
そのままの状態で紫苑は兵達の間を突っ切る。テントを突き破り外に出るとモリアヌス副将の派閥が制圧に掛かっていた。ロゼットをまずは安全な場所へと向かわせるために敵味方入り乱れる陣を切り抜ける。バロール将軍がテントから一時退いていく様子が目に映るとロゼットは追うように指示する。
「紫苑さん! 彼を追ってください!」
「しかし、今は貴方の身の安全を!」
紫苑はロゼットの身を案じるが「私が話したのは『彼』だけです!」というロゼットの言葉に反応し
紫苑はロゼットを抱えたままバロール将軍を追う。
◇
入り乱れる陣はすでに戦場と化し、怒号と武器の金属音が響き渡っている。近場で暴れている騎馬兵用の馬体に瞬く間に騎乗し、一瞬で落ち着かせたのちそのまま紫苑とロゼットは突っ切る。
すぐに総大将がいるであろうテントに辿り着いたが弓によって馬がやられる。落馬してしまうが紫苑がロゼットを庇いながら地面に落ちる。と同時にバロール将軍が二人に斬りかかる。紫苑はロゼットを突き放しバロール将軍の一撃を槍で受け止め、バロール将軍も近場にあった槍で打ち合いが始まる。
「ロゼット殿!! 先に向かってください!!」紫苑はそう叫びバロール将軍との打ち合いを続ける。
ロゼットは意を決してテントへと入り込む。
そこには王家の紋様の旗が掲げられ、一段と重厚な鎧を身に纏った男性が威圧感を漂わせている。幼いロゼットでもわかるほどに威厳を感じられるその人こそがアズランド家当主――
数名の兵が身構えるも相手が子供だと気づき驚きの表情を見せる。
「ドラストニアの使いか、それにしてはやり方が狡いな…」
野太くも落ち着きのある声、困惑する周りの兵たちと対照して冷静沈着である。この人物が王と言われても疑うことなく信じてしまうかもしれないが今ドラストニアに対して攻撃を行なっている張本人だと思うとより一層疑問が増す。
「あなたが戦争を…?」ロゼットが言い終わる前にアズランド当主が始める。
「この国は今、危機に陥っている。王の不在、政権争い、派閥、諸外国との関係」
「だがそんなものは本当の危機に比べれば小さなものだ。規模の拡大化という危機に比べればな」
「規模の…拡大?」
ロゼットは聞き返すとアズランド当主は続ける。
「貿易による危機に瀕した際に、経済規模の拡大化を行なうことで一時的な危機は回避された。しかしその後の国家交流における伝統、文化」
「それらの拡大まで行なう傾向がより顕著となったのだ」
「考えてもみたまえ、違う文化に考え方が突如自国に入り込んできたとして受け入れられるだろうか?」
「異なる種族が入り込んできたとして、受け入れられるであろうか?」
ロゼットは言葉を詰まらせた。
経済のことに関しては全くわからなかったが、文化の違いについては母国と日本との違いで幼い少女でも理解していた。実際に日本に来た当初はクラスメイト以外でも近隣の人から距離を置かれていた経験もある。彼女の場合は時間をかけて解消されたことに加え彼女自身が日本文化に興味があったからだ。
しかし全ての人間がそうというわけではなく彼女に馴染むことができないクラスメイトも数名いたことを思い出す。
そして現在ドラストニアでも…
メイドとして入り込んだにも関わらず、他の派閥の王位継承者たちにさえ良い目で見られているとは決して言えない。幾分かラインズ達と交流があるという理由もあるだろうが、人とは新しいものが訪れると必ずすぐに受け入れられるものではない。
「でも他の文化に触れて交流が出来るということは相手を理解することにも繋がります!」
「入ってくるものを全てを嫌なものだと決めつけないで、良い部分だってあるし、そこから自分たちで……吸収することだって出来るんじゃないですか」
少女なりに言葉を選び答える。
ただ拒絶するのではなく、そこから良い部分を文化として受け入れることだって出来ると。すべてを悪しきものと拒絶することも、正しく良いものだと決めつける事もどちらも恐ろしいことなのだ。大切なこととは…
「それを決める事ができるのも私達だと思います」
自分で選び決める事。
「そのためにこんな戦争で解決されることなんて誰も望んでなんかいません」
「それも同じ国民同士での殺し合いなんて…」
アズランド側の士気はもはや壊滅状態。戦闘継続すら怪しいものである。実際にアズランド当主も戦争を仕掛けてしまった以上引くに引けない状態だった。誰かに止めてもらわなければもはや行くところまで行ってしまうかもしれない。
その時勢いよく紫苑がテントに入り込んでくる。
「御当主! 彼女の言うとおりです。ドラストニア国民がそこまで愚かとも思えません。御当主は自国の民でさえ信じることができないのですか?」
アズランド自身も理解していた、このまま続けてもドラストニア相手に勝ち目などないと。これまで様々な采配で軍を勝利に導いてきたが自身に理がないことにも気づきつつあった。バロール将軍とは考え方そのものが異なっていたが手段が同じであったことには彼の考え方があったから兵たちもどちらかといえば、やはり現アズランド当主に賛同している部分があったのかもしれない。
「当主…どうか退いてください」
紫苑の言葉に目を閉じ、撤退の意を決めたその時ー
テントを破って猛進してくる人物。
「当主!! そのような甘言に惑わされてはなりません!!」
「紫苑ッ貴様ぁあ!!」
バロール将軍はそのままの勢いで紫苑に襲いかかる。
だがしかし紫苑のほうが遥かに反応が早く、わずか一瞬の出来事でバロール将軍を斬り捨てる。紫苑の抜いた刀はバロール将軍の自慢の鎧さえも切り裂いていた。
反射的に動き、紫苑にとってもそうせざるを得なかった。唖然としている一同を横目に
「紫苑!!」
アズランド当主が激高し紫苑に斬りかかる。
紫苑は身構えるも先程とは違い、ただ攻撃を防ごうとする構えを維持しながら叫ぶ。
「父上ッ!」
「…っ!! ッダメぇぇぇえ!!」
紫苑がそう叫びロゼットが必死の思いで止めに入ろうとする、と同時にアズランド当主の鎧の隙間を弓矢が貫いた。アズランド当主はその場に倒れ、その後周囲の兵の制圧にドラストニア兵たちが押し入る。
射ったのはラインズであった。やりきれない表情を浮べながら周囲の兵たちに指示を行ない、その場を後にする。
紫苑はアズランド当主に駆け寄り、まだ僅かだが息はあったようだ。アズランド当主は目を開けわずかに映る少女の姿を見る。
膝をつき涙を浮かべこちらを見ていた。
「なぜ泣く……少女よ。これで…良かったのだ」
暴走した自分を止めるにはこれしか方法がなかった。謀反を起こし、ドラストニアに戻ったところで自身の居場所などない。わかっていながらそうすることしか出来なかった。
国を思う気持ちは同じであったはずなのに、どうしてこうなってしまったのか。兵たちの動く音にかき消されるようにロゼットのすすり泣く声がこだましていた。
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