インペリウム『皇国物語』
13話 バロール将軍との確執
どれほど時間が経っただろうか。体感としてはかなりの時間この野営地に留まっているけど下手に外に出てはならないと言われ紫苑さんと二人でいた。
「ロゼット殿が高官待遇の有識者とは」
「そ、そうですね…。私もその辺のことは良くわからないですけどセルバンデスさんとはよく話してましたから」
ここでの自分の立ち位置がよくわからないから戸惑いながら話しつつも紫苑さんは理解を示してくれていた。
「セルバンデス殿とは私もよく交流を持ってました。彼は自身が異なる種族として人間社会で生活している点で惹かれる部分もございましたから」
セルバンデスさんに何かシンパシーを感じていることに対して先程の会話の中で感じた疑問を投げかけた。
「そういえば次兄って言ってましたよね」
私の問いに紫苑さんは答える。
「バロール将軍はアズランド家の次兄であり私の義兄でもあります」
「ということは…もしかして」
「私は…養子です。」
その昔、まだドラストニア近隣が今よりも荒れていた時期、港町で賊討伐のための義勇兵として参加した紫苑さんは当時私と同じ年齢だったそうだ。
その時に賊討伐のために遠征していたアズランド家率いる部隊と合流し討伐を果たした際にアズランド当主に登用され、能力を買われアズランド家の一員として迎え入れられた。
当時まだ長兄が存命だったため、次兄も内心良く思ってはいなかったものの受入れたそうだ。
しかしその後すぐに長兄が亡くなったため、以降は紫苑さんへの態度が急変したそうだ。
「バロール将軍にとって、いずれ軍務を任される可能性のある私の存在が邪魔だったのかもしれません」
「武勇には自信はありましたが、それでも私は血族ではありません。血族とはなれずとも当主の国に対する思いに惹かれアズランド家に加わった以上、尽力するつもりでした」
だが今のアズランド家にかつてのような誇りは朽ち果ててしまっていた。派閥争いの中で国民を巻き込んでまで自身の主張を振りかざすことに嫌気が差し、ドラストニアと衝突した際、間に入り自身の身柄と引き換えに恩を受けた王家のためにとアズランド家の滅亡は免れたのであった。
「しかし今となってはそれが正しかったのかわからない」と言う紫苑さん。
自身を慕う配下の者を守りたかったというのもあった。彼らも内部からアズランド当主を止めようと交渉の場を設ける努力も行なったがどれも実ることはなかった。
実質暴走しているのは当主陣営の中でもバロール将軍だけである。兵はただ従うしか道が残されておらず、中には民のためと信じ込まされている者までいる始末。
「私には止める力もなかった。しかし――…」
牢獄の中で見た紫苑さんは威光のような力強さを感じたが今はアズランド家に仕える一人の将として悩み続けている。あんなに大きな躯体なのに心を痛めているためか小さく見えてしまう。
私はそっと彼の手をとった。
「でも紫苑さんは諦めなかった。今もこうして止めようとしてるんですよね?」
「それは紫苑さんにしか出来ないからじゃありませんか?」
私の問いに今度は力強く答える紫苑さん。
「ええ。だから私はここに居ます。」
自分の境遇と似ている部分のある紫苑さんに言い表すことの出来ないものを感じる。突然連れてこられた私と、自ら望んで連れてこられた違いはあれどドラストニアの「外の人間」としてやってきた経緯。
外側の人間としてドラストニアでどんな日々を送ってきたのだろうか。今度はそれを私自身が経験していくことになるのだからいろんな感情が混じり合う。自分の今後について考えている中、外の様子が騒然とし、こちらのテントの中に数名の兵士と将兵らしき人物が入ってくる。
「よくも戻ってこれたものだな」
尊大な態度で派手な装飾の鎧を身に纏った将兵が紫苑さんに吐きかけるように言い放つ。内心この人にはいい感情は抱けないという特徴が顕著にわかる。けれどもこの人が渦中の人なのだろうとなんとなくだが気づいていた。
「アズランドの今後を思えば私の生き恥など瑣末なことです」
その言葉に冷たい視線を送るこの人こそがアズランド家の次兄・バロール将軍。表情は氷のように冷たく、恨みとも憎しみとも思えない感情を向けながら話を続けた。
ドラストニア内部にいる高官の粛清が今回の目的だと話す。彼らは現状の近隣諸国との関係でさえも重い腰を動かそうとせず強国となれる好機をみすみす潰そうとしていると語り、内部にいる高官を腰抜けと称していた。
「軍拡をすべきとおっしゃるのでしょうか?」
「近隣諸国とて同盟というわけではない。彼らに対して牽制し、力関係を制御、主導権を握れるのであればそうすべきだ」
そこまで力に固執する理由は何か――
西側大陸にはとてつもなく巨大な国家が存在し彼らがいずれ侵略してくるであろうと、そのためにも東側大陸を統一する必要があると考えていたようだ。彼らはそのためにドラストニアに反旗を翻しドラストニア統一を掲げ、この内乱はそのために必要とされた犠牲だとバロール将軍は言った。
「今国内が荒れることのほうが近隣諸国に与える影響は大きくなります。そのことはあなたでも理解できるはずでは?」
「内乱が行なわれていた国、それによって指導者が変わったとして、いきなり信用などされるわけがないでしょう」
これにバロール将軍は返す。
「一時的な内政の乱れなどその後どうとでもなる」
アズランドが王として即位し、その後に粛々と内政を統治する。障害となるドラストニア王家の者は見せしめとして処断となる。権威を示せば民衆は従う、そのために軍拡が必要だと述べる。『力』で他国を支配、勢力圏を伸ばしゆくゆくは自国の国力としていくのだと。
「我々に必要なのものは絶対的な力だ!それによってこの国の繁栄が約束されるのであれば、犠牲となる者も浮かばれるであろう?」
西大陸に対抗しうる唯一の術、自分達が強国となること。
しかしその先にあるもの――。
「この東大陸に戦乱を巻き起こすというのですか!?」
紫苑さんは語気を強める。
「既に戦乱は起こっている!!貿易摩擦から逃れ、一時的な平定を築いたとしてもいつまでも続く保証など誰がしてくれるという!?」
「ならば我々が『支配者』とならなければならない!!そうでなければこの大陸は飲み込まれるのだぞ!」
自国を守るために犠牲になるのは自国の民。
―矛盾している―
守るべき国のために国を支える人々が犠牲なるなんて。
そんなことがあっていいわけが無い…。
「そんなのおかしいです!!」
ロゼットは声を張り上げその声に驚きの表情を浮かべる紫苑とバロール。
「ロゼット殿が高官待遇の有識者とは」
「そ、そうですね…。私もその辺のことは良くわからないですけどセルバンデスさんとはよく話してましたから」
ここでの自分の立ち位置がよくわからないから戸惑いながら話しつつも紫苑さんは理解を示してくれていた。
「セルバンデス殿とは私もよく交流を持ってました。彼は自身が異なる種族として人間社会で生活している点で惹かれる部分もございましたから」
セルバンデスさんに何かシンパシーを感じていることに対して先程の会話の中で感じた疑問を投げかけた。
「そういえば次兄って言ってましたよね」
私の問いに紫苑さんは答える。
「バロール将軍はアズランド家の次兄であり私の義兄でもあります」
「ということは…もしかして」
「私は…養子です。」
その昔、まだドラストニア近隣が今よりも荒れていた時期、港町で賊討伐のための義勇兵として参加した紫苑さんは当時私と同じ年齢だったそうだ。
その時に賊討伐のために遠征していたアズランド家率いる部隊と合流し討伐を果たした際にアズランド当主に登用され、能力を買われアズランド家の一員として迎え入れられた。
当時まだ長兄が存命だったため、次兄も内心良く思ってはいなかったものの受入れたそうだ。
しかしその後すぐに長兄が亡くなったため、以降は紫苑さんへの態度が急変したそうだ。
「バロール将軍にとって、いずれ軍務を任される可能性のある私の存在が邪魔だったのかもしれません」
「武勇には自信はありましたが、それでも私は血族ではありません。血族とはなれずとも当主の国に対する思いに惹かれアズランド家に加わった以上、尽力するつもりでした」
だが今のアズランド家にかつてのような誇りは朽ち果ててしまっていた。派閥争いの中で国民を巻き込んでまで自身の主張を振りかざすことに嫌気が差し、ドラストニアと衝突した際、間に入り自身の身柄と引き換えに恩を受けた王家のためにとアズランド家の滅亡は免れたのであった。
「しかし今となってはそれが正しかったのかわからない」と言う紫苑さん。
自身を慕う配下の者を守りたかったというのもあった。彼らも内部からアズランド当主を止めようと交渉の場を設ける努力も行なったがどれも実ることはなかった。
実質暴走しているのは当主陣営の中でもバロール将軍だけである。兵はただ従うしか道が残されておらず、中には民のためと信じ込まされている者までいる始末。
「私には止める力もなかった。しかし――…」
牢獄の中で見た紫苑さんは威光のような力強さを感じたが今はアズランド家に仕える一人の将として悩み続けている。あんなに大きな躯体なのに心を痛めているためか小さく見えてしまう。
私はそっと彼の手をとった。
「でも紫苑さんは諦めなかった。今もこうして止めようとしてるんですよね?」
「それは紫苑さんにしか出来ないからじゃありませんか?」
私の問いに今度は力強く答える紫苑さん。
「ええ。だから私はここに居ます。」
自分の境遇と似ている部分のある紫苑さんに言い表すことの出来ないものを感じる。突然連れてこられた私と、自ら望んで連れてこられた違いはあれどドラストニアの「外の人間」としてやってきた経緯。
外側の人間としてドラストニアでどんな日々を送ってきたのだろうか。今度はそれを私自身が経験していくことになるのだからいろんな感情が混じり合う。自分の今後について考えている中、外の様子が騒然とし、こちらのテントの中に数名の兵士と将兵らしき人物が入ってくる。
「よくも戻ってこれたものだな」
尊大な態度で派手な装飾の鎧を身に纏った将兵が紫苑さんに吐きかけるように言い放つ。内心この人にはいい感情は抱けないという特徴が顕著にわかる。けれどもこの人が渦中の人なのだろうとなんとなくだが気づいていた。
「アズランドの今後を思えば私の生き恥など瑣末なことです」
その言葉に冷たい視線を送るこの人こそがアズランド家の次兄・バロール将軍。表情は氷のように冷たく、恨みとも憎しみとも思えない感情を向けながら話を続けた。
ドラストニア内部にいる高官の粛清が今回の目的だと話す。彼らは現状の近隣諸国との関係でさえも重い腰を動かそうとせず強国となれる好機をみすみす潰そうとしていると語り、内部にいる高官を腰抜けと称していた。
「軍拡をすべきとおっしゃるのでしょうか?」
「近隣諸国とて同盟というわけではない。彼らに対して牽制し、力関係を制御、主導権を握れるのであればそうすべきだ」
そこまで力に固執する理由は何か――
西側大陸にはとてつもなく巨大な国家が存在し彼らがいずれ侵略してくるであろうと、そのためにも東側大陸を統一する必要があると考えていたようだ。彼らはそのためにドラストニアに反旗を翻しドラストニア統一を掲げ、この内乱はそのために必要とされた犠牲だとバロール将軍は言った。
「今国内が荒れることのほうが近隣諸国に与える影響は大きくなります。そのことはあなたでも理解できるはずでは?」
「内乱が行なわれていた国、それによって指導者が変わったとして、いきなり信用などされるわけがないでしょう」
これにバロール将軍は返す。
「一時的な内政の乱れなどその後どうとでもなる」
アズランドが王として即位し、その後に粛々と内政を統治する。障害となるドラストニア王家の者は見せしめとして処断となる。権威を示せば民衆は従う、そのために軍拡が必要だと述べる。『力』で他国を支配、勢力圏を伸ばしゆくゆくは自国の国力としていくのだと。
「我々に必要なのものは絶対的な力だ!それによってこの国の繁栄が約束されるのであれば、犠牲となる者も浮かばれるであろう?」
西大陸に対抗しうる唯一の術、自分達が強国となること。
しかしその先にあるもの――。
「この東大陸に戦乱を巻き起こすというのですか!?」
紫苑さんは語気を強める。
「既に戦乱は起こっている!!貿易摩擦から逃れ、一時的な平定を築いたとしてもいつまでも続く保証など誰がしてくれるという!?」
「ならば我々が『支配者』とならなければならない!!そうでなければこの大陸は飲み込まれるのだぞ!」
自国を守るために犠牲になるのは自国の民。
―矛盾している―
守るべき国のために国を支える人々が犠牲なるなんて。
そんなことがあっていいわけが無い…。
「そんなのおかしいです!!」
ロゼットは声を張り上げその声に驚きの表情を浮かべる紫苑とバロール。
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