インペリウム『皇国物語』
12話 内通
少しの間気を失っていたようだ。
頭の回転がまだ鈍く、目の前はぼやけているが微かに騒音は聞こえてくる。人が走り早に駆け誰かの指示する声と号令。
「あ…ぅう…」
「気づかれましたか?」
紫苑さんの気遣う声を聞いて目が覚める。テントというよりも野営地のような二人にはゆとりのある場所で縛られたままだった。外から声がハッキリと聞こえ、私達がいることを確認している様子で中へと入ってくる。
「将軍!ご無事で何よりです!」
「バロール将軍の手の者が少々手荒に連れ戻したようです」
紫苑さんに向かって声をかける男性は彼よりも年配のように見えたけど紫苑さん自身が王家に縁のある話をシャーナル皇女としていたときのことを思い出し気づく。
そして男性は私達に近づき直ぐに縄を解こうとする。
「指揮を執っているのはバロール次兄か?」
「はい、陛下を焚き付けた張本人もそうです。ハッキリ言って愚策どころか無謀もいいところです」
「砲台数基程度でドラストニアを陥落させるなどと…」
「……長兄が尚も存命であったのならこうはならなかったろうに」
止められなかったこととおそらくアズランド家の長子とされる方を亡くしたことを心底惜しんでいる様子の紫苑さんを横に先程の男性が私の方を向く。
「この方は?」
「彼女には王宮内でお世話になった方だ。幼い身でありながら私に親身に尽くしてくださった。」
「これは大変失礼を。天龍将軍の一件誠に感謝致します」
直ぐに私の縄を解き、自由を得られたがここで初めて紫苑さんの家名を聞き少し驚いた。和名とは思っていたけど日本人がいると思っていなかった。
「天龍…」
「私の家名です。この国では私くらいの者でしょう。彼はモリアヌス、私の部隊の副将を務めておりました」
紫苑さんの紹介を経て軽く挨拶を交わす。モリアヌス副将の話によれば今回の襲撃自体は本来モリアヌス副将を筆頭にドラストニアとの極秘の和平交渉が目的の遠征であったそうだ。
実情、陣を構えたにしても兵糧も殆どが尽きドラストニアの兵力相手に正面から戦っても無謀。元々ドラストニアに仕えることが彼らにとって使命であったため、アズランド内部で副将もとい紫苑派とアズランド家次兄のバロール将軍の2つの派閥争いになっていたそうだ。
バロール将軍は長子が亡くなったことをいい事にアズランド家当主につけ入り、ドラストニアを軍内部から掌握しようとしていたそうだがラインズさんとシャーナル皇女含む三人の王位継承者、そして紫苑さんによって阻止され当家に仕える高官、家臣を囲い込みアズランド家当主にドラストニアと渡り合うよう軍備強化を促した。
「じゃあ、王宮内部にいる高官の人達にも…?」
私が尋ねるとモリアヌス副将は頷く。既に内部にアズランド家と通じている人間がいたということと、だからアズランド家との激突に難色を示す人物たちがいたのかと今になって思い返す。
「顔を覚えておけって…そういうことだったのか」
独り言を呟いていると外の様子に変化があったのか兵士が一人入ってきてモリアヌス副将に耳打ちしていた。そこで内情を知っているのならラインズさん達に伝えられないだろうか。
「あの!ドラストニアの王宮にどうにかして伝えることは出来ませんか?」
私は提案をするが二人は難しそうな顔をする。
「…そう出来るのならそうしたいですが、敵側である我々を信用して頂けるとは」
続けてモリアヌス副将がこう言う。
「伝令を送り込むことは出来ましょうし、届くこと自体は可能でしょう。敵側からの内部告発ともなると裏が取れる相手でもいない限り説得も難しいでしょうな」
アズランド家の人間からそう言われても信用できないのはわかる。でもそうでない人間であれば良いのではないか?と、ある提案をする。
「なら手紙か何かで私の名前を使ってください!」
◇
ドラストニアの内部でも混乱は起こっている。城壁には被害は大してなく、相手の砲台も数基程度しかないと考えられていた。夜戦とはいえ奇襲が成功したとしてもこちらの立て直しが早かったためか膠着状態が続いている中伝令が入る。
「お嬢がいない!?」
ラインズは前線で指揮を執り、ロゼットの存在を知る一部の兵を護衛につけさせていたが砲撃の際に入り込んだアズランド家の人間により数名がやられたようだ。その際におそらく連れ去られた可能性があるのではないかと話し合っている。
「なんということだ!よりにもよってロゼット様を…!」
「落ち着け、まだそうと決まったわけじゃない」
取り乱すセルバンデスを抑えるがラインズ自身もロゼットは連れ出されたと考えていた。もしそうであるなら下手をすれば交渉材料として使われるとなると状況は最悪の事態になりかねない。
「今回の一件、出来すぎてやがる。王宮に内通者がいるとしか思えない。王位継承者に裏切り者の可能性も」
しかし今はそのことを考えるよりもなんとかロゼットの安否確認が先決だ。作戦を立てるために兵を呼ぶがそこに一報が飛び込んでくる。
「失礼します!たった今アズランド家からの伝令が入りました。」
このタイミングで来るとなるとおそらくロゼットはアズランド側に身柄があるのは確実。ラインズは腹を括り伝令の内容を伺うが思っていたものとは違ったものになるとは想像もしていなかった。
頭の回転がまだ鈍く、目の前はぼやけているが微かに騒音は聞こえてくる。人が走り早に駆け誰かの指示する声と号令。
「あ…ぅう…」
「気づかれましたか?」
紫苑さんの気遣う声を聞いて目が覚める。テントというよりも野営地のような二人にはゆとりのある場所で縛られたままだった。外から声がハッキリと聞こえ、私達がいることを確認している様子で中へと入ってくる。
「将軍!ご無事で何よりです!」
「バロール将軍の手の者が少々手荒に連れ戻したようです」
紫苑さんに向かって声をかける男性は彼よりも年配のように見えたけど紫苑さん自身が王家に縁のある話をシャーナル皇女としていたときのことを思い出し気づく。
そして男性は私達に近づき直ぐに縄を解こうとする。
「指揮を執っているのはバロール次兄か?」
「はい、陛下を焚き付けた張本人もそうです。ハッキリ言って愚策どころか無謀もいいところです」
「砲台数基程度でドラストニアを陥落させるなどと…」
「……長兄が尚も存命であったのならこうはならなかったろうに」
止められなかったこととおそらくアズランド家の長子とされる方を亡くしたことを心底惜しんでいる様子の紫苑さんを横に先程の男性が私の方を向く。
「この方は?」
「彼女には王宮内でお世話になった方だ。幼い身でありながら私に親身に尽くしてくださった。」
「これは大変失礼を。天龍将軍の一件誠に感謝致します」
直ぐに私の縄を解き、自由を得られたがここで初めて紫苑さんの家名を聞き少し驚いた。和名とは思っていたけど日本人がいると思っていなかった。
「天龍…」
「私の家名です。この国では私くらいの者でしょう。彼はモリアヌス、私の部隊の副将を務めておりました」
紫苑さんの紹介を経て軽く挨拶を交わす。モリアヌス副将の話によれば今回の襲撃自体は本来モリアヌス副将を筆頭にドラストニアとの極秘の和平交渉が目的の遠征であったそうだ。
実情、陣を構えたにしても兵糧も殆どが尽きドラストニアの兵力相手に正面から戦っても無謀。元々ドラストニアに仕えることが彼らにとって使命であったため、アズランド内部で副将もとい紫苑派とアズランド家次兄のバロール将軍の2つの派閥争いになっていたそうだ。
バロール将軍は長子が亡くなったことをいい事にアズランド家当主につけ入り、ドラストニアを軍内部から掌握しようとしていたそうだがラインズさんとシャーナル皇女含む三人の王位継承者、そして紫苑さんによって阻止され当家に仕える高官、家臣を囲い込みアズランド家当主にドラストニアと渡り合うよう軍備強化を促した。
「じゃあ、王宮内部にいる高官の人達にも…?」
私が尋ねるとモリアヌス副将は頷く。既に内部にアズランド家と通じている人間がいたということと、だからアズランド家との激突に難色を示す人物たちがいたのかと今になって思い返す。
「顔を覚えておけって…そういうことだったのか」
独り言を呟いていると外の様子に変化があったのか兵士が一人入ってきてモリアヌス副将に耳打ちしていた。そこで内情を知っているのならラインズさん達に伝えられないだろうか。
「あの!ドラストニアの王宮にどうにかして伝えることは出来ませんか?」
私は提案をするが二人は難しそうな顔をする。
「…そう出来るのならそうしたいですが、敵側である我々を信用して頂けるとは」
続けてモリアヌス副将がこう言う。
「伝令を送り込むことは出来ましょうし、届くこと自体は可能でしょう。敵側からの内部告発ともなると裏が取れる相手でもいない限り説得も難しいでしょうな」
アズランド家の人間からそう言われても信用できないのはわかる。でもそうでない人間であれば良いのではないか?と、ある提案をする。
「なら手紙か何かで私の名前を使ってください!」
◇
ドラストニアの内部でも混乱は起こっている。城壁には被害は大してなく、相手の砲台も数基程度しかないと考えられていた。夜戦とはいえ奇襲が成功したとしてもこちらの立て直しが早かったためか膠着状態が続いている中伝令が入る。
「お嬢がいない!?」
ラインズは前線で指揮を執り、ロゼットの存在を知る一部の兵を護衛につけさせていたが砲撃の際に入り込んだアズランド家の人間により数名がやられたようだ。その際におそらく連れ去られた可能性があるのではないかと話し合っている。
「なんということだ!よりにもよってロゼット様を…!」
「落ち着け、まだそうと決まったわけじゃない」
取り乱すセルバンデスを抑えるがラインズ自身もロゼットは連れ出されたと考えていた。もしそうであるなら下手をすれば交渉材料として使われるとなると状況は最悪の事態になりかねない。
「今回の一件、出来すぎてやがる。王宮に内通者がいるとしか思えない。王位継承者に裏切り者の可能性も」
しかし今はそのことを考えるよりもなんとかロゼットの安否確認が先決だ。作戦を立てるために兵を呼ぶがそこに一報が飛び込んでくる。
「失礼します!たった今アズランド家からの伝令が入りました。」
このタイミングで来るとなるとおそらくロゼットはアズランド側に身柄があるのは確実。ラインズは腹を括り伝令の内容を伺うが思っていたものとは違ったものになるとは想像もしていなかった。
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