インペリウム『皇国物語』

funky45

11話 それは唐突に訪れる

「今後のあの子の扱いはどうする?」


 ラインズとセルバンデスの二人は深夜の城壁を歩いていた。今後のロゼットをどう扱うかについて話し合うが互いに意見はまとまらずにいた。


「本来ならば国王、いえ女王陛下として即位されるべきでしょうか」


「あのような女中扱いなど先代が存命であればありえません。」


 セルバンデスはあくまで先代の意向を汲みロゼットに忠義を尽くし、国家の王として
 支えるつもりであった。ラインズとしては現状の派閥争いの中ではロゼット自身に及ぶ危機に関して危惧しているようである。


「あの娘には言わなかったが、母親が暗殺されたなんて教えられないだろ…」


「ロゼット様のその危険性を考慮してドラストニアから離し、隠遁生活を強いられるなど本来はあるべきものではありませんのに…」


 ロゼットの母親の死は派閥争いによる暗殺。そしてロゼット自身の正体がいつ明るみに出るかわからないからこその隠遁生活。現在の派閥争いで暗殺を目論む勢力がいないとも限らない。


 もしくはアズランド家の人間によるものだったのかもしれないと考える二人。


「同じ王家で命の奪い合いなんて…馬鹿げてるなホント」


「ドラストニア近郊と周辺諸国との国交も結んでおり、その手腕は歴代でも過去に前例を見ない国王陛下でした。彼らにとってその血を継ぐロゼット様はいささか危険な存在でもありましょう」


 考え方そのものは同調する二人ではあるもののロゼットの今後の方針に関しては合わない部分もある。だからこそロゼットを国家の頂点に立つ者として育て上げる必要がある。


「しかしアズランドとは禍根かこんを残したままっちまったな。とんだ財産を残してくれたもんだ…」


 ラインズがそう呟くとセルバンデスが足を止めラインズを呼び止める。


「ん?わ、悪かったよセバス。言い過ぎた」


 先代を悪く言われて激怒したのかと思いすぐさま訂正するがどうやらそうではない様子。僅かにだが甲高く遠方から近づいてくる小さな音に反応したらしい。


 その音に耳を立ててラインズは直ぐにセルバンデスの身を屈めさせる。


「セバス!!!」


 ラインズの声と同時に城壁付近にて爆音と共に爆風が巻き起こった。城壁一部は破壊され、煉瓦の破片も飛び散り数名の兵が吹き飛ばされる。火薬の匂いが砂埃に混じる中ラインズはすぐさま行動に移す。


「敵襲!応戦!!」


 見張りの兵達に号令を掛け、それに応え敵襲合図を送る鐘を鳴らす。砲撃は次々と繰り出され、静寂な夜を迎えていた城壁は瞬く間に怒号と轟音ごうおんによって戦場へと変わってしまった。


 ◇


「今のは……?」


 先程までの眠気はたった一度の轟音によってかき消され、城壁から甲高い鐘の音が鳴り響いている。それをかき消すかの如く爆音は立て続けにこの王室にまで届いている。地響きのように地面を伝って聞こえてくるのが分かるほど激しさを増す。


「まさか…戦争…!?」


 私の頭の中で最悪の情景が駆け巡った――。
 慌てて王室を飛び出し政庁を目指し王宮を駆け回る。


 一瞬の出来事に王宮内は騒然とした雰囲気に変わっていた。高官の人達は慌ただしく書類を持ち出し
 自分たちの私物だけを持って逃げまとっている者もいれば兵士達に号令をかけ、戦場へ赴くために備えている人達もいた。メイドさんたちも自ら訓練用の槍を持ち王族の護衛として動いていた。


 しかし他の王位継承者たちの姿は見当たらなかった。


「――そういえばセルバンデスさんとラインズさん達は…」


 二人を探そうと王宮を駆け巡るが見つからず、兵士達の会話から城壁前線にて構えていると聞く。


 そして砲撃の流れ弾が王宮近くまで聞こえてくると同時に地下から轟音が響き渡るように伝わって来ると同時に私は『彼』の安否を確認するために地下へ向かった。


 地下の牢獄は砂煙にまみれ、火薬の匂いであたりは充満している。壁には大きな穴が空き、地下といっても王宮自体が高台に位置しているためか穴からは外が見渡せる。
 彼は居た。鎖が外れ掛かり彼ならば少し力を入れれば外すことも出来たと思われるのに逃げもせずにそこ・・に居た。


「どうして逃げないんですか!?」


 その後の砲撃によっては身の危険さえもあるというのに、どうしてその場に留まっているのか問う。


「私はこの国に拾って頂いた。既に無い命と思いこの国のために捧げてきた。その恩に報いるために戦い抜いて、結果として犯罪者となってしまった。」


「私はこの国の司法によって裁かれるべきなのです…!」


 そこまでして国のことを思うのなら、尚更こんなところで死んでしまってはいけない。
 この人の命を無くしてしまってはならないと――


「だったら余計死んだりしたらダメじゃないですか!この国のためにも生きてください!!」


 私がそう彼に向けて叫ぶと数名の人間が先程の穴から入り込み、私と紫苑さんに頭巾ずきんのような黒衣こくいの被せものを被せてそのまま何処かへ連れ去られてしまう。

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