インペリウム『皇国物語』

funky45

9話 2つの王家

 会食後の後片付けを行なっている最中セルバンデスさんに呼び出される。他のメイドさん達はこちらを一瞥したもの何事もなかったかのように作業を続ける。メイド長に渋られそうになったけれどラインズさん直々のお呼びかけとのこともあったので不問もなった。


 政庁にて普段使われていない小部屋がありそこへ案内されセルバンデスさん、ラインズさん二人と今回の件の話し合いが行なわれた。


「結局何も決まらなかったな」


「王位継承の件を収めるにはアズランド家との問題を取り上げる他はございません。」


 二人は頭を抱えるようにして今回の件に関して対策を練っていたようだった。実際一番の悩みの種はアズランド家との問題なのだと思う。


「アズランド家の人々がどうして所属する自国に敵対するような行為をしたのですか?」


 私がこの国で暮らす普通の国民だったのならそんな怖いことをする人たちに同調することなんてとても出来ない。
 一息置き、ラインズさんが続ける。


「色々と募るものはあったらしいが、一番の問題はドラストニアの――…国王自身に世継ぎがいなかったことが原因と言われてる」


「後継者ってことですか?王位継承者とは違うんですか?」


 私の返事に対してセルバンデスさんが答える。


「正確には直系の血族という意味ですね。10年前にロゼット様が誕生されてから間もなくして国内内密に信頼たる然るべき場所へと保護されました。当時は近隣諸国と貿易摩擦によって荒れておりましたから」


「そうだったんですか」


「陛下はあなたが生まれたその時から王位継承者として決めていたようでした。ゆくゆくはアズランド家とも融和のために互いのご息女、ご子息とで縁を作り彼らを長として即位させるものだと」


 つまり私とアズランド家の皇子にあたる人と結婚をするということである。
 皇子様と言われて少し鼓動が高鳴ってしまった。


「まぁわかりやすい政略結婚だよな」


 そうラインズさんに言われるとモヤモヤとした気持ちになる。多分その間に生まれた子供が本当の国王として国を治めるつもりだったのかもしれない。


「アズランド家もおそらくはその考えには同調していたのでしょう。ただそれを待つことができなかったのか…」


「お嬢が生まれた直後に妃が亡くなられたからな」


「それが国外へ移された理由でもあるのですか?」


 ラインズさんが頷く。子供を育てる環境としては最悪の状態だったのは目に見えていたけれど
 どうして私の存在は秘匿にされたのだろう?
 少なくともアズランド家とは交流があっても良かったのではないかと思えるのだが。


「どうしてアズランド家の人にも伝えなかったのでしょうか」


「…それが一番の問題で実はアズランド家の皇子が戦から帰還の最中に闇討ちにあったんだ」


「暗殺っ!?」


 二人の表情は険しくなり当時のことを話してくれた。そのせいでアズランド王家の当主は相当荒れ狂ったそうだ。そのこともあってか私が誕生したことが余計にアズランド当主の感情を逆撫でする恐れもあり秘匿とされたそうだ。
 王家として国を担うと同時に一人の親であったことを考えるとアズランド当主の気持ちもわからなくはなかった。大切な人を亡くしたのだからとても精神を保っていられなかったのだろうに。


 けれども…。


「もしかして…アズランド家が今回の行動に至った理由って」


 私が言う前にセルバンデスさんが遮った。


「いえ、そのようなことはありえません。ロゼット様の存在が向こうに漏れるということは断じてありえません。それに次兄もおられましたから世継ぎがいないわけでも…」


「あの次兄に世継ぎなんて託せると思うか?」


 そうラインズさんが言うけれど跡継ぎがいたとしても自分の子供を亡くしているのは変わらないのだし荒れるなというのが難しい話だと思う。そこでふと疑問が浮かぶ。


 こちらのことをアズランド側が知っているのであれば今回の会食で他の王位継承者の三人が知らないはずが無いし、真っ先に彼らに情報が渡るだろう。


 じゃあどうしてアズランド家は今回の紛争を引き起こそうとしているの?


 ―――考えれば考えるほどわからない。


「相手の真意がわからない、掴めない以上最悪の場合を考えなくてはならない」


 最悪の場合。私の予感が的中しないで欲しいと思ったがセルバンデスさんの一言でわずかな望みはあっけなく崩れてしまう。


「開戦…でしょうな」


 ◇


 二人と今後の方針について話し合った後、私はあの地下室へと足を運んだ。夜は更に厳重に警備されており地下の扉には南京錠まで掛けられていたため以前落ちた隠し通路からロープの代わりになるような物をつけて「彼」に食事を運んだ。


「こんばんは…お待たせしました」


 再びやってきた私の声に少し驚いた表情で迎える。


「あなたですか…」


 そう呟く声に私は安心感を得られた。


「今日は会食が執り行われ、料理も豪華なものが出されました。残り物ですけど良かったら食べてくださいね」


 今回は直ぐに口に運んでくれる。私が盛り付けたサラダも手を付けてくれ「それ私が盛り付けました」と横やりを入れたりしながら過ごした。


「ありがとうございます…。あなたはお優しいのですね」


 そう彼に言われると胸が高鳴り、顔が熱くなる。凄いくしゃくしゃな顔をしてしたと思う。恥ずかしくもあったけれど彼の表情が柔らかくなっていたのを見て笑みで応える。静かな夜、牢獄という場所なのに二人の声が静かに響き、どこか幻想的に感じていた。


 時間はあっという間に過ぎ彼との時間を名残惜しく思う。


「ありがとうございます。また会いに来ますね」


 返事はなかったけれど優しい表情で私を見つめ返してくれる。そのたびに私は安堵と安心感を得ていた。でも…本音は違うところにあった。


 この安心感を得たかったから彼に会いに来たのかもしれない。


 セルバンデスさんやラインズさんとの話からもしかしたら開戦になるという不安感を拭いたかった。こんな当て付けるように会いに来る自分に少し嫌悪感を抱いてしまった。


「私…すごくずるいです…」


「え?」


 彼がそう聞き返す。


「今の自分の環境が怖くて…どこかで安心できる場所を探して」


「それをあなたに求めてしまってるから、会いに来たんだと思います」


「ごめんなさい」


 少しの沈黙のあと、彼が口を開く


「あなたは……楽しい…そして本当に優しいお方なのですね…」


 なんだか少しからかわれるのかなと思い困ったように笑ってしまった。


「ロゼット・ヴェルクドロールです。」


「これからはそう呼んでください」


紫苑しおんです。」


 彼は私に返事した。見た姿は確かにそうだと思ってはいたけれど東洋、私の住んでいた日本―――和名によく似ている。お互いに今更ながらの自己紹介をした後、地下の入り口から誰かの声が聞こえてきたので急いで隠し通路へと向かった。


 その声は聞き覚えがあった。そしてあの香水の匂い…。


「シャーナル皇女…?」





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