インペリウム『皇国物語』
3話 それはまるで『アリス』のように
情景が駆け巡る。
どこかで見たことがあるような荒れ果てた戦地
大勢の兵士たちが激突し合い…
怒号と鉄の打ち合う音。その中で走り抜ける一人の青年。
大勢の兵士に単騎で挑みに掛かるところで私の記憶は飛んでいた…。
◇
「……っ!!」
目を開けると見慣れない木造の部屋、草木の香り、そしてベッドの軋む音。全く見に覚えのない場所でロゼットは眠っていた。
「え……どこ…?ここ。というか図書館で本を見つけて…」
慌ててベッドから飛び起き、外を目指して出口を探し回る。周囲の家具、戸棚、収納スペース、テーブルに椅子、何から何まで使い古されたまるで中世の時代にあるようなどこか趣きのある風景にも見える。
そして外へ出てみると…
周囲には草木と緑が生い茂り、川のせせらぎ、鳥の囀りが響き渡る。まるでどこかへ飛ばされてしまったかのような自分のいた世界とは全く異なった場所へと来てしまったかのようであった。
「あれ…?ほ、本当にここはどこなの…!?」
美しい風景を前にしていても感じたものは焦りと恐怖にも似た、得体のしれないもの見たときの不気味な感覚。風景だけを見ると自身の故郷のことを思い出すが、僅か数分前までは現代日本の図書館にいた。
それとはまるでかけ離れた風景がいきなり目の前で広がっているとなると話は別である。
わからない…ここが何処で――どうしていきなりこんな場所に来たのか。
「ど…どうしよう……帰りたい…」
絶望に打ちひしがれ、その場にへたり込んでしまう。すると微かにだが蹄の音が段々と近づいてくる。それがやがて大きくなり、馬車の走る音のように聞こえてくる。大きな躯体の2頭の馬に引かれた馬車、そこから数名の鎧を身にまとった兵士のような人が降りてきた。
「な、な、何!?な、なんなの!?」
突然のことに戸惑うことしか出来ず、驚きのあまり尻餅をつく私の元に向かってくるや否、私の名前を訊ねてきた。
「ロゼット・ヴェルクドロール様であらせられますか?」
「そ、そうですけど…えっと…どうして私の名前を?」
「それは私からご説明させていただきます」
私の問いに兵士の人たちの背後からしゃがれた声で答える。
「お騒がせいたしまして誠に申し訳ございません。急な謁見、どうかお許しいただきたい。」
その声の主に私は言葉を一瞬失ってしまった。子供のような躯体に深緑の肌に特徴的な高い鼻と長い耳。立派なローブを身に纏い私に歩み寄ってくる。その姿はまるで…
「ご、ゴブリン!?」
その驚きの声に兵士の視線が鋭く刺さり、思わず身構えてしまう。
「驚かれるのも無理はございません。人間社会で私を重用しているなど、この国くらいなものでしょう」
「私はホブゴブリンのセルバンデスと申します」
「あ、ロゼット・ヴェルクドロールです。ご丁寧にどうもです…」
少しため息混じりに言った後切り替えるように自己紹介。見た目とは裏腹に丁寧な言葉使いと対応に少し戸惑いつつも自身も返す。握手もしたけどおじいちゃんみたいなしわしわな感触で内心ちょっと安心してしまった。
「お話は馬車の中で、とにかく急ぎわが国に同道をお願いしたく伺いました」
「え、えっと…何がなにやら…。あ、あの…人違いではありませんよね?」
「ロゼット・ヴェルクドロール様であらせられるのでしたら間違いございません。ささ、どうぞ馬車へ」
「えぇ…」
戸惑いつつも私は馬車の中へと半ば強引に案内され、そのまま連れられてしまうことに…。
◇
「突然のご無礼、誠に申し訳なく…」
「あ、いえ、その…私はどこに連れて行かれちゃうんですか…?」
「…我が国は現在、国王が亡くなり後継者争いの真っ只中におります。なにぶん子を儲けることがなかったため、後継者は現在の将兵、高官により争われ国政の機能が損なわれることが危ぶまれております…」
国王?――後継者?――…こくせい――…?
何を言っているのか全く理解が追い付かない。というかなんでそんな話を私にするのか、どこへ連れて行かれるのかと聞いたのになんでこんな答えが返ってくるのかわからず堪らず聞いてしまった。
「あの…!私はどこに連れて行かれるのでしょうか!?」
少し口調を強く問い詰めるような感じに聞いてしまい、セルバンデスと名乗ったゴブリンもビクッと反応していた。
「ああ…申し訳ございません。我が国『ドラストニア』の王宮でございます。」
「王宮……ということはお城に連れていかれるんですか!?なんで!?」
「ですから後継者争いに終止符を打つためでございます」
だんだん読めてきた気がする。いくら小学生の私でもここまで言われたら察しが付いてしまう。
「……もしかして…私がその『後継者』……」
「ええ、王位継承者第一位、ロゼット・ヴェルクドロール様。いえ、『リズリス・ベル・ドラストニア』様です」
「何かの間違いなんじゃ…というか私、王族でもなんでもないですよ!!」
「ですが、確かに王位継承者第一位「ロゼット・ヴェルクドロール」様ですよね?先代からもそう遺言も伝えられております。」
名前は間違いなく私のものだ。けれどその後の「リズリス」という名前は全く聞いたこともないし、身に覚えもない。
「そ、それにその大げさな名前も全然聞いたこともないですし」
「それはロゼット様が継承されるにあたり先代より与えられし王名でございます。王宮に着き次第詳しいお話は致します」
そうして招かれ、私は流されるなままに身を委ね馬車は駆けてゆく。全く話がわからないまま私は王宮へと連れて行かれ、身に覚えのない『王位継承者』として後継者争いの渦中へと連れて行かれてしまった。
どこかで見たことがあるような荒れ果てた戦地
大勢の兵士たちが激突し合い…
怒号と鉄の打ち合う音。その中で走り抜ける一人の青年。
大勢の兵士に単騎で挑みに掛かるところで私の記憶は飛んでいた…。
◇
「……っ!!」
目を開けると見慣れない木造の部屋、草木の香り、そしてベッドの軋む音。全く見に覚えのない場所でロゼットは眠っていた。
「え……どこ…?ここ。というか図書館で本を見つけて…」
慌ててベッドから飛び起き、外を目指して出口を探し回る。周囲の家具、戸棚、収納スペース、テーブルに椅子、何から何まで使い古されたまるで中世の時代にあるようなどこか趣きのある風景にも見える。
そして外へ出てみると…
周囲には草木と緑が生い茂り、川のせせらぎ、鳥の囀りが響き渡る。まるでどこかへ飛ばされてしまったかのような自分のいた世界とは全く異なった場所へと来てしまったかのようであった。
「あれ…?ほ、本当にここはどこなの…!?」
美しい風景を前にしていても感じたものは焦りと恐怖にも似た、得体のしれないもの見たときの不気味な感覚。風景だけを見ると自身の故郷のことを思い出すが、僅か数分前までは現代日本の図書館にいた。
それとはまるでかけ離れた風景がいきなり目の前で広がっているとなると話は別である。
わからない…ここが何処で――どうしていきなりこんな場所に来たのか。
「ど…どうしよう……帰りたい…」
絶望に打ちひしがれ、その場にへたり込んでしまう。すると微かにだが蹄の音が段々と近づいてくる。それがやがて大きくなり、馬車の走る音のように聞こえてくる。大きな躯体の2頭の馬に引かれた馬車、そこから数名の鎧を身にまとった兵士のような人が降りてきた。
「な、な、何!?な、なんなの!?」
突然のことに戸惑うことしか出来ず、驚きのあまり尻餅をつく私の元に向かってくるや否、私の名前を訊ねてきた。
「ロゼット・ヴェルクドロール様であらせられますか?」
「そ、そうですけど…えっと…どうして私の名前を?」
「それは私からご説明させていただきます」
私の問いに兵士の人たちの背後からしゃがれた声で答える。
「お騒がせいたしまして誠に申し訳ございません。急な謁見、どうかお許しいただきたい。」
その声の主に私は言葉を一瞬失ってしまった。子供のような躯体に深緑の肌に特徴的な高い鼻と長い耳。立派なローブを身に纏い私に歩み寄ってくる。その姿はまるで…
「ご、ゴブリン!?」
その驚きの声に兵士の視線が鋭く刺さり、思わず身構えてしまう。
「驚かれるのも無理はございません。人間社会で私を重用しているなど、この国くらいなものでしょう」
「私はホブゴブリンのセルバンデスと申します」
「あ、ロゼット・ヴェルクドロールです。ご丁寧にどうもです…」
少しため息混じりに言った後切り替えるように自己紹介。見た目とは裏腹に丁寧な言葉使いと対応に少し戸惑いつつも自身も返す。握手もしたけどおじいちゃんみたいなしわしわな感触で内心ちょっと安心してしまった。
「お話は馬車の中で、とにかく急ぎわが国に同道をお願いしたく伺いました」
「え、えっと…何がなにやら…。あ、あの…人違いではありませんよね?」
「ロゼット・ヴェルクドロール様であらせられるのでしたら間違いございません。ささ、どうぞ馬車へ」
「えぇ…」
戸惑いつつも私は馬車の中へと半ば強引に案内され、そのまま連れられてしまうことに…。
◇
「突然のご無礼、誠に申し訳なく…」
「あ、いえ、その…私はどこに連れて行かれちゃうんですか…?」
「…我が国は現在、国王が亡くなり後継者争いの真っ只中におります。なにぶん子を儲けることがなかったため、後継者は現在の将兵、高官により争われ国政の機能が損なわれることが危ぶまれております…」
国王?――後継者?――…こくせい――…?
何を言っているのか全く理解が追い付かない。というかなんでそんな話を私にするのか、どこへ連れて行かれるのかと聞いたのになんでこんな答えが返ってくるのかわからず堪らず聞いてしまった。
「あの…!私はどこに連れて行かれるのでしょうか!?」
少し口調を強く問い詰めるような感じに聞いてしまい、セルバンデスと名乗ったゴブリンもビクッと反応していた。
「ああ…申し訳ございません。我が国『ドラストニア』の王宮でございます。」
「王宮……ということはお城に連れていかれるんですか!?なんで!?」
「ですから後継者争いに終止符を打つためでございます」
だんだん読めてきた気がする。いくら小学生の私でもここまで言われたら察しが付いてしまう。
「……もしかして…私がその『後継者』……」
「ええ、王位継承者第一位、ロゼット・ヴェルクドロール様。いえ、『リズリス・ベル・ドラストニア』様です」
「何かの間違いなんじゃ…というか私、王族でもなんでもないですよ!!」
「ですが、確かに王位継承者第一位「ロゼット・ヴェルクドロール」様ですよね?先代からもそう遺言も伝えられております。」
名前は間違いなく私のものだ。けれどその後の「リズリス」という名前は全く聞いたこともないし、身に覚えもない。
「そ、それにその大げさな名前も全然聞いたこともないですし」
「それはロゼット様が継承されるにあたり先代より与えられし王名でございます。王宮に着き次第詳しいお話は致します」
そうして招かれ、私は流されるなままに身を委ね馬車は駆けてゆく。全く話がわからないまま私は王宮へと連れて行かれ、身に覚えのない『王位継承者』として後継者争いの渦中へと連れて行かれてしまった。
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