インペリウム『皇国物語』
1話 ロゼット・ヴェルクドロールという少女
「はっ……!!…あぁっ……はぁ…」
脳裏に焼きついた赤色の情景に驚き勢いよく目を覚ました。息切れを起こし汗もかいているほどうなされていたのか、その汗が美しい白い髪と白い肌を伝い、碧眼に日の光が当たり一層碧く輝く。
日本には不釣り合いなほどの外見だが今年で十歳を迎える幼い少女ロゼット・ヴェルクドロール。日本に引越してきて数年近く経ちようやく環境に慣れてきたところであった。
「それなのにあんな夢を…」
―――――
うなだれながら再びベッドに横になるが思ったよりも目は冴えており、思考もはっきりしている。二度寝をするにしても時計の針は六時半を回ったところだったため今日は早めに起きることにしようと決め、体を伸ばすために体操で解す日課を行なう。
ある程度解してから姿見で確認しながら肌着を身につける。こっちの風習では衣類を脱いで寝るなんてあまりないようであるが私にとってはごくごく当たり前のことであった。
「あ、寝返りして跡が付いたかなぁ」
少し赤く跡が付いてたりと裸は気持ちいいけどやっぱり就寝時に服は着ようかと最近は迷っているのがここ最近の悩みだった。赤い跡を触りながら、さっきの夢の『朱い情景』を思い出してしまう。
「何だったんだろう…」
不思議と恐怖を感じずむしろ身近というか、僅かな親近感のようなものを感じていた。しかしそれはおかしいと直ぐに考えを改め気を取り直すために洗面台へ向かう。
◇
「ご馳走様でしたー」
こっちに越してきてからは日本食が殆どで自分の故郷の味を忘れてしまいそうなくらいには食事にも慣れていた。学校の給食も食べやすく、みんなと楽しんで食事が出来るから毎日のお昼休みはささやかや楽しみになっていた。それも明日からは夏休みでしばらくは給食はお預けになってしまうけれど、十歳の身としては遊びたい盛り。ママから夏の予定や学校のことなんかを聞かれる。
「リズ、夏休みの予定はどうするの?」
「友達と予定決めようかなって今日考えてるけどママはどう?」
「パパがお仕事がお休みの時とかならどこか連れて行ってあげられると思うわよ」
パパの仕事次第といったところだけど学校行事や友達の親戚の旅館で泊り込むという話も出ていたのでちゃんと検討はしてくれてるみたい。夏休みはプールや海、山でキャンプと期待を膨らませながら学校への支度をしているとピンポーンとチャイムが鳴る。
「おはよーございまーす!」
玄関のドア越しからでも聞こえてくる聞き慣れた声に応えるように荷物をまとめ、急いでドアを開け元気な親友と顔を合わせる。
「じゃあ、ママ!行ってきまーす」
◇
「ねぇリズは夏休みどうするの?」
登校中にそう私に問いかける少女、彼女は私が日本に来てから初めて出来た友達の佳澄。ちなみに本名の『ロゼット』というより『リズ』という愛称で呼ばれることが多かったりする。
「うーん…まだそんなに考えてないんだよね」
「じゃあさ、一緒に海に行かない?クラスの子何人か誘ってさ」
「パパとママに相談しなきゃねー」
他愛のない会話をしているとあっという間に学校付近まで着いていた。楽しいことは本当に時間があっという間に感じてしまい、これから始まる夏休みもあっという間に感じてしまうのだろうなと二人して遠くを見るように目を細めて校庭に広がる光景を見ている。校庭では明日からの夏休みが楽しみなのか、みんなそわそわとどこか落ち着かない様子で明日からの予定や今日の帰りに都市部に行こうとか各々計画を話し合っていた。本当、計画を考えるのが一番楽しく感じるなぁとしみじみ思う。
下駄箱に着くと聞きなれた声が後ろから聞こえてきて、挨拶と共に声を掛けられた。私と佳澄よりも少し背が高く、利発そうな顔立ちをした私のクラスの男子の委員長。
「おはよう昇君。今日は委員会の仕事ないの?」
「夏休み前だしね、そういや今度のキャンプの話どうだった? オーケー出た?」
「パパに相談しないとまだわからないってさ。ママも心配しすぎだよね」
彼は昇君。私が転校してきたばかりの時、佳澄と同じで日本の事を色々と教えてくれたりしてくれた。右も左も分からないパパの故郷のこの国での生活の良さも教えてくれて色んな文化も知ることが出来た私にとっても数少ない信頼できる男の子。他の子達からはやっぱり異国人ということもあって最初の頃は多少、敬遠されたりもあった。元々銀髪で白い肌が特に目立つし、碧い目というのも彼らにとっては不思議なものに見えたのかもしれないしその辺りは仕方ないのかな。
でも仲良くなると気さくに話しかけてくれたり、私もどちらかといえば外で遊んだり、走り回ったりすることが好きな性格だから彼らにもすぐに馴染むことができたと思う。
「ロゼットは実家に帰ったりするの??」
彼が私に夏休みに向けた予定の話の中でそんな質問をし、声色もほんの少しだけ寂しそうにも聞こえた。
「どうかなぁ…結構遠いし、パパもこっちの仕事忙しそうだし」
「牧場があるんだよね?」
佳澄も私の故郷について乗っかるように質問を投げかけてきた。故郷は好きだし、牧場も好きだけど仕事の手伝いは結構な重労働なのは嫌というほど経験してる。実際にやってみないとあの辛さはわからないんじゃないかな。
「うん、けど牛の臭いは結構きついよ。畑仕事も見たり手伝ったりしてたけどおばあちゃん大変そうだったし」
「でも写真観たけどすごいきれいだったじゃんー」
「いいなー」
やっぱり日本以外の国に憧れみたいなものがあるのかな。私にとっては当たり前の風景だったから今の日本の環境のほうが新鮮で面白いと思えてしまう。思い思いに話していると後ろから別の話し声が聞こえ、なんだか私達の会話に関して混ざるように入り込んできた。
「でもさー、動物の糞とかも結構あるんでしょー? ちょっと嫌だよねー」
「ほんとほんと。匂い染み付きそうだし」
入ってきたのはクラスの女子の委員長。少しきつめの口調とは裏腹に可愛い顔立ちで人形のように綺麗に整っている。私も初対面のときはお人形さんかと思うほど驚き、実際何人も彼女に告白している男子がいるほどにモテるそうだ。本人がそう言ってるから本当かは分からないけど…。
でも女の私からも見ても可愛いとは思う。ただ今日は少し、いや―…かなり様子が違っていた。
「えぇ…どうしたの? その髪」
彼女は普段は艶やかで綺麗な黒髪の持ち主なのだが、今日は太陽と同じ黄金の輝きを放つ。昇君も佳澄も一瞬固まった後に彼女はなびかせる様にしてどこか自信に満ちた表情を私に向けてくる。
「イメチェンだよ。ほら二人で並んだら姉妹っぽくない?」
そう言いながら私と並んで見せるけど二人の表情はなんともいえないものに見えるのは気のせいかな…?
正直言うとこの人はちょっと苦手だった。というのも私を見るときの目が鋭く、笑っていない目に見えてちょっとだけ怖かった。私達の様子に他の生徒がわらわらと集まってきて少しばかり騒ぎになる。異国人の私と学校一の美少女が髪の毛を染めて並んでいるとなると嫌でも目立つ。
「ねぇねぇーみんなはさぁ、二人のうちどっちが可愛いと思うー?」
一人の生徒がそう言ったことで周囲はざわつく。周りの面子を見ても男子は委員長に好意的な子達ばかり、女子も取り巻きがチラホラ見えたりであとは興味本位の野次馬ばかり。みんな思い思いに自分の意見だけを言っていた中で昇君と佳澄はそんなの馬鹿馬鹿しいと止めに入ってくれたけれど。
「そうよね、やめようやめようこんなの。ロゼットさんに悪いし」
みんなの悪ノリに対して委員長もやめるように言う。けど最後の台詞に少しムッとくるものがあった。確かに委員長も可愛いとは思うし、周りに好意を寄せてる男子もいるから自信があるのは分かるけどまるで私が負けるみたいな言われ方。ちょっとムカつく―…。
「気にしてないからいいよ、委員長さん。それに委員長さんモテるし、私に勝つのも当たり前だよー」
この状況じゃどうやっても勝てないし、下手に喧嘩なんてこともしたくない。周りも私の言葉に同調するような様子でなぜか取り巻きの数名の女子が勝ち誇ったような顔をしていた。結局騒ぎを聞きつけた先生達もやってきたことで皆は散らばる。委員長は去り際に私に耳打ちするように―…。
「ホント、ウザイねアンタ。昇にその気がないなら絡まないでよ」
とだけ言い残して教室へと向かって行く。やっぱり委員長だけは私の言葉をそのままの意味としてではなくどこか嫌味に受け取っていた。実際少し嫌味っぽく言ってしまったし、ちょっと言い過ぎたかなと段々不安になる。それに昇君のことに言及してきたのを見ると彼に好意を寄せているんだなと思う。
「好きならハッキリ言えば良いのに」
「どうかした?」
私の独り言に佳澄と昇君が首を傾げて聞いてきたけどなんでもないとだけ答えた。
脳裏に焼きついた赤色の情景に驚き勢いよく目を覚ました。息切れを起こし汗もかいているほどうなされていたのか、その汗が美しい白い髪と白い肌を伝い、碧眼に日の光が当たり一層碧く輝く。
日本には不釣り合いなほどの外見だが今年で十歳を迎える幼い少女ロゼット・ヴェルクドロール。日本に引越してきて数年近く経ちようやく環境に慣れてきたところであった。
「それなのにあんな夢を…」
―――――
うなだれながら再びベッドに横になるが思ったよりも目は冴えており、思考もはっきりしている。二度寝をするにしても時計の針は六時半を回ったところだったため今日は早めに起きることにしようと決め、体を伸ばすために体操で解す日課を行なう。
ある程度解してから姿見で確認しながら肌着を身につける。こっちの風習では衣類を脱いで寝るなんてあまりないようであるが私にとってはごくごく当たり前のことであった。
「あ、寝返りして跡が付いたかなぁ」
少し赤く跡が付いてたりと裸は気持ちいいけどやっぱり就寝時に服は着ようかと最近は迷っているのがここ最近の悩みだった。赤い跡を触りながら、さっきの夢の『朱い情景』を思い出してしまう。
「何だったんだろう…」
不思議と恐怖を感じずむしろ身近というか、僅かな親近感のようなものを感じていた。しかしそれはおかしいと直ぐに考えを改め気を取り直すために洗面台へ向かう。
◇
「ご馳走様でしたー」
こっちに越してきてからは日本食が殆どで自分の故郷の味を忘れてしまいそうなくらいには食事にも慣れていた。学校の給食も食べやすく、みんなと楽しんで食事が出来るから毎日のお昼休みはささやかや楽しみになっていた。それも明日からは夏休みでしばらくは給食はお預けになってしまうけれど、十歳の身としては遊びたい盛り。ママから夏の予定や学校のことなんかを聞かれる。
「リズ、夏休みの予定はどうするの?」
「友達と予定決めようかなって今日考えてるけどママはどう?」
「パパがお仕事がお休みの時とかならどこか連れて行ってあげられると思うわよ」
パパの仕事次第といったところだけど学校行事や友達の親戚の旅館で泊り込むという話も出ていたのでちゃんと検討はしてくれてるみたい。夏休みはプールや海、山でキャンプと期待を膨らませながら学校への支度をしているとピンポーンとチャイムが鳴る。
「おはよーございまーす!」
玄関のドア越しからでも聞こえてくる聞き慣れた声に応えるように荷物をまとめ、急いでドアを開け元気な親友と顔を合わせる。
「じゃあ、ママ!行ってきまーす」
◇
「ねぇリズは夏休みどうするの?」
登校中にそう私に問いかける少女、彼女は私が日本に来てから初めて出来た友達の佳澄。ちなみに本名の『ロゼット』というより『リズ』という愛称で呼ばれることが多かったりする。
「うーん…まだそんなに考えてないんだよね」
「じゃあさ、一緒に海に行かない?クラスの子何人か誘ってさ」
「パパとママに相談しなきゃねー」
他愛のない会話をしているとあっという間に学校付近まで着いていた。楽しいことは本当に時間があっという間に感じてしまい、これから始まる夏休みもあっという間に感じてしまうのだろうなと二人して遠くを見るように目を細めて校庭に広がる光景を見ている。校庭では明日からの夏休みが楽しみなのか、みんなそわそわとどこか落ち着かない様子で明日からの予定や今日の帰りに都市部に行こうとか各々計画を話し合っていた。本当、計画を考えるのが一番楽しく感じるなぁとしみじみ思う。
下駄箱に着くと聞きなれた声が後ろから聞こえてきて、挨拶と共に声を掛けられた。私と佳澄よりも少し背が高く、利発そうな顔立ちをした私のクラスの男子の委員長。
「おはよう昇君。今日は委員会の仕事ないの?」
「夏休み前だしね、そういや今度のキャンプの話どうだった? オーケー出た?」
「パパに相談しないとまだわからないってさ。ママも心配しすぎだよね」
彼は昇君。私が転校してきたばかりの時、佳澄と同じで日本の事を色々と教えてくれたりしてくれた。右も左も分からないパパの故郷のこの国での生活の良さも教えてくれて色んな文化も知ることが出来た私にとっても数少ない信頼できる男の子。他の子達からはやっぱり異国人ということもあって最初の頃は多少、敬遠されたりもあった。元々銀髪で白い肌が特に目立つし、碧い目というのも彼らにとっては不思議なものに見えたのかもしれないしその辺りは仕方ないのかな。
でも仲良くなると気さくに話しかけてくれたり、私もどちらかといえば外で遊んだり、走り回ったりすることが好きな性格だから彼らにもすぐに馴染むことができたと思う。
「ロゼットは実家に帰ったりするの??」
彼が私に夏休みに向けた予定の話の中でそんな質問をし、声色もほんの少しだけ寂しそうにも聞こえた。
「どうかなぁ…結構遠いし、パパもこっちの仕事忙しそうだし」
「牧場があるんだよね?」
佳澄も私の故郷について乗っかるように質問を投げかけてきた。故郷は好きだし、牧場も好きだけど仕事の手伝いは結構な重労働なのは嫌というほど経験してる。実際にやってみないとあの辛さはわからないんじゃないかな。
「うん、けど牛の臭いは結構きついよ。畑仕事も見たり手伝ったりしてたけどおばあちゃん大変そうだったし」
「でも写真観たけどすごいきれいだったじゃんー」
「いいなー」
やっぱり日本以外の国に憧れみたいなものがあるのかな。私にとっては当たり前の風景だったから今の日本の環境のほうが新鮮で面白いと思えてしまう。思い思いに話していると後ろから別の話し声が聞こえ、なんだか私達の会話に関して混ざるように入り込んできた。
「でもさー、動物の糞とかも結構あるんでしょー? ちょっと嫌だよねー」
「ほんとほんと。匂い染み付きそうだし」
入ってきたのはクラスの女子の委員長。少しきつめの口調とは裏腹に可愛い顔立ちで人形のように綺麗に整っている。私も初対面のときはお人形さんかと思うほど驚き、実際何人も彼女に告白している男子がいるほどにモテるそうだ。本人がそう言ってるから本当かは分からないけど…。
でも女の私からも見ても可愛いとは思う。ただ今日は少し、いや―…かなり様子が違っていた。
「えぇ…どうしたの? その髪」
彼女は普段は艶やかで綺麗な黒髪の持ち主なのだが、今日は太陽と同じ黄金の輝きを放つ。昇君も佳澄も一瞬固まった後に彼女はなびかせる様にしてどこか自信に満ちた表情を私に向けてくる。
「イメチェンだよ。ほら二人で並んだら姉妹っぽくない?」
そう言いながら私と並んで見せるけど二人の表情はなんともいえないものに見えるのは気のせいかな…?
正直言うとこの人はちょっと苦手だった。というのも私を見るときの目が鋭く、笑っていない目に見えてちょっとだけ怖かった。私達の様子に他の生徒がわらわらと集まってきて少しばかり騒ぎになる。異国人の私と学校一の美少女が髪の毛を染めて並んでいるとなると嫌でも目立つ。
「ねぇねぇーみんなはさぁ、二人のうちどっちが可愛いと思うー?」
一人の生徒がそう言ったことで周囲はざわつく。周りの面子を見ても男子は委員長に好意的な子達ばかり、女子も取り巻きがチラホラ見えたりであとは興味本位の野次馬ばかり。みんな思い思いに自分の意見だけを言っていた中で昇君と佳澄はそんなの馬鹿馬鹿しいと止めに入ってくれたけれど。
「そうよね、やめようやめようこんなの。ロゼットさんに悪いし」
みんなの悪ノリに対して委員長もやめるように言う。けど最後の台詞に少しムッとくるものがあった。確かに委員長も可愛いとは思うし、周りに好意を寄せてる男子もいるから自信があるのは分かるけどまるで私が負けるみたいな言われ方。ちょっとムカつく―…。
「気にしてないからいいよ、委員長さん。それに委員長さんモテるし、私に勝つのも当たり前だよー」
この状況じゃどうやっても勝てないし、下手に喧嘩なんてこともしたくない。周りも私の言葉に同調するような様子でなぜか取り巻きの数名の女子が勝ち誇ったような顔をしていた。結局騒ぎを聞きつけた先生達もやってきたことで皆は散らばる。委員長は去り際に私に耳打ちするように―…。
「ホント、ウザイねアンタ。昇にその気がないなら絡まないでよ」
とだけ言い残して教室へと向かって行く。やっぱり委員長だけは私の言葉をそのままの意味としてではなくどこか嫌味に受け取っていた。実際少し嫌味っぽく言ってしまったし、ちょっと言い過ぎたかなと段々不安になる。それに昇君のことに言及してきたのを見ると彼に好意を寄せているんだなと思う。
「好きならハッキリ言えば良いのに」
「どうかした?」
私の独り言に佳澄と昇君が首を傾げて聞いてきたけどなんでもないとだけ答えた。
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