初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが
116話
「──どういうつもりだ?」
どこまでも続く赤い空間の中。聡太は目の前に立つユグルに問い掛ける。
『どういうつもりって……何がだ?』
「なんでお前が俺の体を使って魔王と戦っている? お前、俺の体を乗っ取るつもりか?」
『いやいやいや、そんなつもりじゃねぇって。ドゥーマの相手はお前には厳しいかと思って、代わりに戦ってただけだって』
「んなの頼んでねぇ。余計なお世話だっての」
『……お前、本当に性格がひねくれてるよな……ちょっとはあの嬢ちゃんを見習った方がいいぞ?』
ジトッとした視線を向けてくるユグルに対し、聡太はフンと鼻を鳴らした。
「それで……あの大男が、魔王なのか?」
『んー……ま、そうだな。アイツが魔王だ。元々は俺たちの仲間で、『憂鬱』って呼ばれてたんだが』
「『憂鬱』……?」
『ああ。興味あるか?』
「……まあ、多少は」
『んなら、教えてやるか──誰にも語られていない、俺たち『大罪人』の話を』
そう言って笑うユグルの姿は──どこか、寂しそうに見えた。
だが口を挟む事なく、聡太は黙ってユグルの話を待つ。
『……俺たちは、いつも九人で行動していた。俺、リーシア、ディアボロ、ルーシャ、ガルドール、アルバトス、フィオナ──そして、ドゥーマとノア。この九人だ』
「ドゥーマ……っては、魔王の事だよな?」
『ああ。んで、ノアってのは……ドゥーマの婚約者だった女だ』
どこか懐かしむように目を細め、ユグルが続ける。
『いつだったかな……ノアが、『森精族』を滅ぼすって言い始めたんだ』
「『森精族』を、滅ぼす……?!」
『ああ。ノアには【未来予知】って【技能】があってな。その【未来予知】で、『森精族』が何かをやらかす未来を視たらしい』
「その何かって?」
『わからん。【未来予知】は未来の出来事がわかる便利な【技能】だが、自分の視た未来の内容を他人には話す事ができないって制限がある……らしい。詳しくは俺も知らん』
──【未来予知】。それは、未来を視る事ができるという便利な【技能】。
だが──自身の視た未来の内容を、他者に教える事はできない。
例えば、世界が滅ぶ未来を視たとする。
その者は世界が滅びる事も、滅びる原因もわかっているが──それを他人に教える事はできない。【未来予知】の副次効果により、その者は【未来予知】で視た未来の内容を教える事はできないからだ。
故に──その者が未来を変えるために必死になって行動したとしても、他者にとっては不可思議な行動にしか見えない。
『……俺たちは、アイツの【未来予知】に何度も何度も助けられてきた。だが……『森精族』を滅ぼすってのには、どうしても納得できなかった。だから俺たちは、ノアに加勢する事も、ノアを止める事もしなかった。ま、傍観してたって事だな』
「……………」
『そのままノアが『森精族』を滅ぼして、未来を良い方向に進める──はずだったんだ。だけど、アルバトスはそれを許さなかった。アイツは正義感が強かったからな。理由も教えられないで『森精族』が殺される事に納得できなかったんだ。そして、『嫉妬』のアルバトスと『虚飾』のノアが戦って……ノアは死んだ』
そう言って顔を伏せるユグルの姿は──過去の出来事を後悔しているように見えた。
『婚約者を殺されたドゥーマは、俺たちの元からいなくなった。んで……それからちょっとして、アイツは魔王を名乗り、『魔族』を率いて世界を敵に戦争を始めた』
「……そのドゥーマって奴は、『人類族』なのか?」
『ああ。俺たちは全員『人類族』──いや、違うな』
「……?」
『『虚飾』のノアは、『黒森精族』だった。お前らの世界では、『黒森精族』は嫌われてるんだろ? 多分それは、ノアが『黒森精族』だったからだ』
なるほど……『黒森精族』のミリアが何故あれほどまで差別されているのか疑問だったが、ようやく理解できた。
『ドゥーマが魔王になってから、俺たちはドゥーマと戦う事を決意した。アイツに致命傷を与える事はできたが……逃げられてな』
「それは、元仲間だから殺すのを躊躇したって認識していいのか?」
失礼とも言える聡太の言葉に、だがユグルは怒る事なく頷いた。
『……そうだ。俺は……ドゥーマを殺せたのに、殺さなかった。アイツは自分の魂を【魂魄魔法】で保護して、【時空魔法】で未来へと転移させた。んで……今の魔王になった、ってわけだ』
「そうか……アルバトスって奴が『森精族』に好かれているのは、『虚飾』から助けてもらったからって事か?」
『そうだ。ドゥーマを退けた後、俺たち『大罪人』として国外へ追放されて……それぞれの隠れ家に、ドゥーマに対抗する手段を残した。アイツが未来に転生する事はわかってたからな。んで……俺たちは寿命を迎えて死んだ』
瞳を閉じ、唇を噛み締めるユグル。
そんな姿を見て、聡太はなんとも言えない気持ちになった。
「……なあ、いくつか聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
『なんだ?』
「魔王は、生き物を造り出す魔法とか【技能】を持っていたりしたか?」
『……いや、聞いた事がない』
ユグルの返答に、聡太は腕を組んで眉を寄せた。
『ああでも、そんな感じの力を持つ『魔道具』なら、ガルドールが持っていたな』
「ガルドール……って、『強欲』の『大罪人』か」
『ああ。アイツは『魔道具』を集めるのが趣味でな。『魔道具』の事になると、いつも目を輝かせていたよ』
「それで、その『魔道具』にはどんな力があったんだ?」
『詳しい事は俺もよくわからねぇが──生き物と生き物を融合させて、別の生き物を造り出すって力だったと思う』
──やはりそうか。
『十二魔獣』は魔王が造り出した人工の化物。
そして……その『魔道具』は、攻略済みだった『シャイタン大峡谷』の『大罪迷宮』に残されていた。
だとすれば、『魔族』の半数がいなくなった理由は──
「『十二魔獣』を造り出すための素材……!」
そう考えれば、『魔族』が中途半端に半数ほど生き残った理由にも納得ができる。
『どうした? なんかわかったのか?』
「ああいや、こっちの話だ……それより、質問を続けるぞ」
『おう』
「あの魔王には、何か弱点はないのか?」
『弱点ねぇ……んなの、俺の方が聞きたいぐらいなんだが──って、待て待て待て。まさかお前、ドゥーマと戦うつもりか?』
予想外の言葉に、ユグルが驚愕に目を見開く。
「当たり前だろうが。あんな危険な奴……あのまま放置しておけねぇだろ」
そう──聡太たちが元の世界に戻れる可能性の一つは、この世界を平和にする事だ。
だが、あの魔王がいる限り、この世界は平和にはならない。
それに……仮に『十二魔獣』を討伐して、元の世界に戻れるようになったとしても──
「ハピィたちは、魔王に怯えて生活しなきゃいけない」
『……………』
「それに──負けっぱなしは、性に合わねぇんだ。次にあったらあの魔王、ぶっ殺してやる」
『……いいな、お前──気に入った!』
ユグルが聡太の肩に手を置き、満面の笑みを浮かべる。
『そうだよな、負けっぱなしじゃ終われねぇよな! 何百年も前の因縁を、今の時代まで引っ張るなって話だよな!』
「あ、ああ……」
『よし、お前がドゥーマをぶっ飛ばせ! んで、クソッタレな世界を救っちまえ!』
満面の笑みを浮かべたまま、バシバシと何度も聡太の肩を叩く。
「な、なあ」
『おうどうした!』
「【憤怒の眷属】って【技能】を知ってるか?」
『おっ。お前、あの【技能】を発動したのか? って事は──お前、キスしたな?』
ユグルの質問に、聡太は無言で頷いた。
『あの【技能】は、キスとか性行為とかをした相手に発動するんだ。まあ、なんて言えばいいかな……【憤怒に燃えし愚か者】が発動している時に、【憤怒の眷属】も発動するんだ。んで、【憤怒の眷属】が発動している間、ソイツの身体能力とかが強化される。ま、【憤怒に燃えし愚か者】の下位互換ってところだ』
「なるほどな……【血の契約】を発動するためにキスをして、その時に【憤怒の眷属】も発動したって事か……」
アルマクスに突然【憤怒の眷属】が発動したのは、聡太とキスを交わした事が原因だったようだ。
「他の『大罪迷宮』には、魔王に関する情報が残されてるって手記に書いていたよな?」
『ああ』
「そうか……」
なら、今後の目的は決まった。
遭遇する『十二魔獣』を殺す。全ての『大罪迷宮』を攻略する。
そして──魔王を殺し、聡太がいなくなった後も、ハルピュイアたちが平和に暮らせる世界にする。
「……おい」
『ん?』
「その……さっきは、余計なお世話だって言ったが……本当に助かった。今の俺じゃ、魔王に対抗する事はできなかったからな。だから……ありがとな、ユグル」
『はっ、いいって事よ。それより、しっかりアイツをぶっ倒してくれよ? 俺たちじゃアイツを止められなかったからな……任せるぜ、ソータ』
互いに笑い合い──赤い空間に亀裂が走る。
『んじゃ──行ってこい』
「ああ──行ってくる」
どこまでも続く赤い空間の中。聡太は目の前に立つユグルに問い掛ける。
『どういうつもりって……何がだ?』
「なんでお前が俺の体を使って魔王と戦っている? お前、俺の体を乗っ取るつもりか?」
『いやいやいや、そんなつもりじゃねぇって。ドゥーマの相手はお前には厳しいかと思って、代わりに戦ってただけだって』
「んなの頼んでねぇ。余計なお世話だっての」
『……お前、本当に性格がひねくれてるよな……ちょっとはあの嬢ちゃんを見習った方がいいぞ?』
ジトッとした視線を向けてくるユグルに対し、聡太はフンと鼻を鳴らした。
「それで……あの大男が、魔王なのか?」
『んー……ま、そうだな。アイツが魔王だ。元々は俺たちの仲間で、『憂鬱』って呼ばれてたんだが』
「『憂鬱』……?」
『ああ。興味あるか?』
「……まあ、多少は」
『んなら、教えてやるか──誰にも語られていない、俺たち『大罪人』の話を』
そう言って笑うユグルの姿は──どこか、寂しそうに見えた。
だが口を挟む事なく、聡太は黙ってユグルの話を待つ。
『……俺たちは、いつも九人で行動していた。俺、リーシア、ディアボロ、ルーシャ、ガルドール、アルバトス、フィオナ──そして、ドゥーマとノア。この九人だ』
「ドゥーマ……っては、魔王の事だよな?」
『ああ。んで、ノアってのは……ドゥーマの婚約者だった女だ』
どこか懐かしむように目を細め、ユグルが続ける。
『いつだったかな……ノアが、『森精族』を滅ぼすって言い始めたんだ』
「『森精族』を、滅ぼす……?!」
『ああ。ノアには【未来予知】って【技能】があってな。その【未来予知】で、『森精族』が何かをやらかす未来を視たらしい』
「その何かって?」
『わからん。【未来予知】は未来の出来事がわかる便利な【技能】だが、自分の視た未来の内容を他人には話す事ができないって制限がある……らしい。詳しくは俺も知らん』
──【未来予知】。それは、未来を視る事ができるという便利な【技能】。
だが──自身の視た未来の内容を、他者に教える事はできない。
例えば、世界が滅ぶ未来を視たとする。
その者は世界が滅びる事も、滅びる原因もわかっているが──それを他人に教える事はできない。【未来予知】の副次効果により、その者は【未来予知】で視た未来の内容を教える事はできないからだ。
故に──その者が未来を変えるために必死になって行動したとしても、他者にとっては不可思議な行動にしか見えない。
『……俺たちは、アイツの【未来予知】に何度も何度も助けられてきた。だが……『森精族』を滅ぼすってのには、どうしても納得できなかった。だから俺たちは、ノアに加勢する事も、ノアを止める事もしなかった。ま、傍観してたって事だな』
「……………」
『そのままノアが『森精族』を滅ぼして、未来を良い方向に進める──はずだったんだ。だけど、アルバトスはそれを許さなかった。アイツは正義感が強かったからな。理由も教えられないで『森精族』が殺される事に納得できなかったんだ。そして、『嫉妬』のアルバトスと『虚飾』のノアが戦って……ノアは死んだ』
そう言って顔を伏せるユグルの姿は──過去の出来事を後悔しているように見えた。
『婚約者を殺されたドゥーマは、俺たちの元からいなくなった。んで……それからちょっとして、アイツは魔王を名乗り、『魔族』を率いて世界を敵に戦争を始めた』
「……そのドゥーマって奴は、『人類族』なのか?」
『ああ。俺たちは全員『人類族』──いや、違うな』
「……?」
『『虚飾』のノアは、『黒森精族』だった。お前らの世界では、『黒森精族』は嫌われてるんだろ? 多分それは、ノアが『黒森精族』だったからだ』
なるほど……『黒森精族』のミリアが何故あれほどまで差別されているのか疑問だったが、ようやく理解できた。
『ドゥーマが魔王になってから、俺たちはドゥーマと戦う事を決意した。アイツに致命傷を与える事はできたが……逃げられてな』
「それは、元仲間だから殺すのを躊躇したって認識していいのか?」
失礼とも言える聡太の言葉に、だがユグルは怒る事なく頷いた。
『……そうだ。俺は……ドゥーマを殺せたのに、殺さなかった。アイツは自分の魂を【魂魄魔法】で保護して、【時空魔法】で未来へと転移させた。んで……今の魔王になった、ってわけだ』
「そうか……アルバトスって奴が『森精族』に好かれているのは、『虚飾』から助けてもらったからって事か?」
『そうだ。ドゥーマを退けた後、俺たち『大罪人』として国外へ追放されて……それぞれの隠れ家に、ドゥーマに対抗する手段を残した。アイツが未来に転生する事はわかってたからな。んで……俺たちは寿命を迎えて死んだ』
瞳を閉じ、唇を噛み締めるユグル。
そんな姿を見て、聡太はなんとも言えない気持ちになった。
「……なあ、いくつか聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
『なんだ?』
「魔王は、生き物を造り出す魔法とか【技能】を持っていたりしたか?」
『……いや、聞いた事がない』
ユグルの返答に、聡太は腕を組んで眉を寄せた。
『ああでも、そんな感じの力を持つ『魔道具』なら、ガルドールが持っていたな』
「ガルドール……って、『強欲』の『大罪人』か」
『ああ。アイツは『魔道具』を集めるのが趣味でな。『魔道具』の事になると、いつも目を輝かせていたよ』
「それで、その『魔道具』にはどんな力があったんだ?」
『詳しい事は俺もよくわからねぇが──生き物と生き物を融合させて、別の生き物を造り出すって力だったと思う』
──やはりそうか。
『十二魔獣』は魔王が造り出した人工の化物。
そして……その『魔道具』は、攻略済みだった『シャイタン大峡谷』の『大罪迷宮』に残されていた。
だとすれば、『魔族』の半数がいなくなった理由は──
「『十二魔獣』を造り出すための素材……!」
そう考えれば、『魔族』が中途半端に半数ほど生き残った理由にも納得ができる。
『どうした? なんかわかったのか?』
「ああいや、こっちの話だ……それより、質問を続けるぞ」
『おう』
「あの魔王には、何か弱点はないのか?」
『弱点ねぇ……んなの、俺の方が聞きたいぐらいなんだが──って、待て待て待て。まさかお前、ドゥーマと戦うつもりか?』
予想外の言葉に、ユグルが驚愕に目を見開く。
「当たり前だろうが。あんな危険な奴……あのまま放置しておけねぇだろ」
そう──聡太たちが元の世界に戻れる可能性の一つは、この世界を平和にする事だ。
だが、あの魔王がいる限り、この世界は平和にはならない。
それに……仮に『十二魔獣』を討伐して、元の世界に戻れるようになったとしても──
「ハピィたちは、魔王に怯えて生活しなきゃいけない」
『……………』
「それに──負けっぱなしは、性に合わねぇんだ。次にあったらあの魔王、ぶっ殺してやる」
『……いいな、お前──気に入った!』
ユグルが聡太の肩に手を置き、満面の笑みを浮かべる。
『そうだよな、負けっぱなしじゃ終われねぇよな! 何百年も前の因縁を、今の時代まで引っ張るなって話だよな!』
「あ、ああ……」
『よし、お前がドゥーマをぶっ飛ばせ! んで、クソッタレな世界を救っちまえ!』
満面の笑みを浮かべたまま、バシバシと何度も聡太の肩を叩く。
「な、なあ」
『おうどうした!』
「【憤怒の眷属】って【技能】を知ってるか?」
『おっ。お前、あの【技能】を発動したのか? って事は──お前、キスしたな?』
ユグルの質問に、聡太は無言で頷いた。
『あの【技能】は、キスとか性行為とかをした相手に発動するんだ。まあ、なんて言えばいいかな……【憤怒に燃えし愚か者】が発動している時に、【憤怒の眷属】も発動するんだ。んで、【憤怒の眷属】が発動している間、ソイツの身体能力とかが強化される。ま、【憤怒に燃えし愚か者】の下位互換ってところだ』
「なるほどな……【血の契約】を発動するためにキスをして、その時に【憤怒の眷属】も発動したって事か……」
アルマクスに突然【憤怒の眷属】が発動したのは、聡太とキスを交わした事が原因だったようだ。
「他の『大罪迷宮』には、魔王に関する情報が残されてるって手記に書いていたよな?」
『ああ』
「そうか……」
なら、今後の目的は決まった。
遭遇する『十二魔獣』を殺す。全ての『大罪迷宮』を攻略する。
そして──魔王を殺し、聡太がいなくなった後も、ハルピュイアたちが平和に暮らせる世界にする。
「……おい」
『ん?』
「その……さっきは、余計なお世話だって言ったが……本当に助かった。今の俺じゃ、魔王に対抗する事はできなかったからな。だから……ありがとな、ユグル」
『はっ、いいって事よ。それより、しっかりアイツをぶっ倒してくれよ? 俺たちじゃアイツを止められなかったからな……任せるぜ、ソータ』
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