初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが
112話
「──どういう事だ?」
──『イマゴール王国』王宮の大広間。
破闇から説明を受けた聡太は、鋭い瞳をさらに細めて眉を寄せた。
「……今、説明した通りよ。王女シャルロットの正体は、『十二魔獣』だったの。『人王』も、その『十二魔獣』──《愛を願う魔獣》が殺したと言っていたわ」
「《愛を願う魔獣》……」
「えぇ。古河君たちを見送った後、優子と少し立ち話をしていたの。そしたら、アリアが話し掛けてきて……『十二魔獣』だなんて思ってなかったから、不意打ちを食らったわ」
左腕に手を当て、破闇が悔しそうに瞳を閉じた。
──『イマゴール王国』を出発した聡太たちは、次の『大罪迷宮』を探すため、『リーン大海』に向かっていた。
その道中──セシル隊長に貰った『魔道具』から、耳を疑うような話が飛び込んできた。
──小鳥遊 優子が『十二魔獣』に連れ去られた。
それを聞いた聡太は慌てて『イマゴール王国』に引き返し、破闇から説明を受け──今に至る、という感じだ。
「……【大罪技能】は?」
「使ったわ。だけど……全く歯が立たなかった。自分の事をヘルムートと同じくらい強いとも言ってたわね」
瞳を閉じ、聡太が腕を組んだ。
──ドクン……ドクン……ドクン……
どこからか、脈打つような音が聞こえ始める。
地獄の底から響くような重々しい鼓動は──聡太の体から漏れ出していた。
「……本当ッ、この世界の奴らはッ、ドイツもコイツも……ッッ!!」
憤怒の表情を見せる聡太──その体に、赤黒い模様が浮かび上がる。
瞳は真っ赤に染まり、背中に刻まれてる『大罪人』の模様が赤々と輝き始めた。
いつもは怒りを思い出して【大罪技能】を発動しているが──今は違う。現在の出来事に憤怒し、【大罪技能】が発動した。
……落ち着け。落ち着け。
このままだと怒りに呑まれる。
深呼吸を繰り返し、聡太が怒りを抑えようとするが──まるでダムが決壊したかのように、次から次に怒りが溢れ出してくる。
「はぁッ、はァッ、ハっ、ハァァァッ……ッッ!!」
「あ、アルマ? その体の模様は……?」
「……あれぇ……? また出てきたんですぅ?」
「聡ちゃんの【大罪技能】と同じ模様だね〜?」
聡太の【憤怒に燃えし愚か者】が発動したのを切っ掛けに、アルマクスの体にも変化が現れる。
だが──今の聡太には、そんな事を気にかける余裕がない。
そうだ。そうだよ。俺は、何を忘れていたんだ?
異世界人なんて、結局ロクが奴がいない。
──ダメだ。止まれ。
『十二魔獣』を殺した所で、この世界は平和になんてならない。
いっそ、この世界に住む全てを殺してやろうか?
──やめろ。落ち着け。
なんで平静でいられるんだ? 異世界人は俺を殺そうとしたんだぞ?
なんで怒りを忘れる? 異世界人のせいで死に掛けたのを忘れたか?
──忘れるわけない。
ならば──殺せ。
殺せよ。何もかもが憎いだろう? 今にも襲い掛かりたいだろう?
ほら、刀を抜け。今の俺に敵う奴なんていない。簡単に異世界人を殺せるぞ?
「ふッ、ふぅッ……! は、ァ……!」
──これ以上は、マズイ。
視界が少しずつ赤く染まってきた。暴力的な衝動を抑えられない。右手が無意識の内に『紅桜』へと伸びていく。
このままだと、俺は──
「──ぁ?」
ふと、刀を掴もうとしていた右手が、ふわふわとした何かに包まれた。
見ると──赤色に染まりかけた視界の中で、ハーピーのような少女が、心配そうに聡太を右手を握り締めていた。
「……おー……?」
「ハピィ……?」
「おー。大丈夫ー?」
吸い込まれそうなほど美しい濃い青色の瞳に覗き込まれ──聡太の視界から、赤色が消えた。
赤々と輝く背中の模様も、少しずつ光を失い──瞳の色も、赤から黒へと変化。
身体中に浮かび上がっていた赤黒い模様も姿を消し──いつもの聡太に戻った。
それに合わせ、アルマクスの姿も元に戻る。
「……悪い、助かった」
「おー? おー!」
無邪気に笑うハルピュイアの顔を見て、聡太の顔にも柔らかい笑みが浮かぶ。
本当、コイツの無邪気さには敵わない──そんな事を思いながら、聡太はハルピュイアの頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。
……そうだ。忘れてはいけない。
今の聡太には、コイツらがいる。
ミリアが聡太を優しく包み込んでくれた。ハルピュイアが聡太を笑顔にしてくれた。
そうだ──コイツらがいるから、異世界人にも良い奴がいると信じられる。
「……取り乱して悪い。続けてくれ」
「えぇ。アリアが優子を連れ去る時に、『十二魔獣殺し』に伝えろって言われた言葉があるんだけど……『十二魔獣殺し』っていうのは、古河君の事でいいのよね?」
「ああ」
「そう……なら、言うわよ。と言っても、そこまで長い言葉でもないのだけど──」
──小鳥遊 優子は預かった。返して欲しければ、一人で『魔国 オルドヴァーン』に来い。
アリアの残した言葉を聞き──聡太はフンと鼻を鳴らした。
「上等じゃねぇか。そっちがその気なら、『魔国』にいる奴ら一人残らずぶっ殺してやる」
「ソータ様、私たちは?」
「お前らはここに残れ。相手は俺一人をご希望らしいからな」
言いながら、聡太がアルマクスへ視線を向けた。
「アルマ。血をくれ」
「わかりましたよぉ」
「待ってくれ古河! ボクも行く! いや、連れて行ってくれ!」
ここまでずっと黙っていた剣ヶ崎が、顔を真っ赤にして聡太に歩み寄った。
「剣ヶ崎……悪い。今回は大人しくしててくれ」
「な、なんでだ?! 敵は『十二魔獣』なんだぞ?! 古河を一人で行かせるわけにはいかない! それに、優子を連れ去られて黙っている事なんてできない! 頼む、ボクも──」
「剣ヶ崎」
有無を言わせぬ覇気を纏う声に、剣ヶ崎は言葉を詰まらせた。
「敵は、俺一人を希望している。もしお前を連れて行ったりしたら……伝言を守らなかったとか言って、その場で小鳥遊が殺されるかも知れない」
「それは……」
「今回は、俺に任せてくれないか? 大切な幼馴染みが心配なのはわかる。だけどお前が付いて来たら、事態はもっと複雑になるかも知れない」
「……………」
「絶対に小鳥遊は連れて帰る。約束だ。だから──頼む。今回は大人しくしていてくれ」
「……わかったよ……キミがそこまで言うなら、仕方がない」
大きくため息を吐き、剣ヶ崎が真剣な眼差しで聡太を見据えた。
「優子を頼む」
「任せろ」
───────────────────
「──魔王様」
鈴のように美しい声を聞き、玉座に座る大男はゆっくりと瞳を開いた。
「……《愛を願う魔獣》か」
「はい。至急、報告しなければならない事がございますわ。今よろしいです?」
「……いいだろう」
大男の言葉を聞き、アリアは床に膝を突いて頭を下げた。
「ヘルムート、ポーフィ、ディティ、グロウス、ビアルド……今回の作戦に参加した魔獣は、ワタクシ以外全員殺されましたわ」
「……何?」
──大男の雰囲気が一変する。
ビリビリと空気が震え、謁見の間の壁や床が軋み始める。
ただの覇気だけで、これほど周りに影響を与えるなんて──と、アリアは恐怖を覚えた。
「あのヘルムートが殺されただと? どういう事だ?」
「ワタクシも、詳しい事は聞いておりませんが……『十二魔獣殺し』と『紅瞳吸血族』がヘルムートを討ったと」
「『十二魔獣殺し』……ユグルの力を継ぐ者か……ヘルムートの話では、『吸血族』は一匹残らず絶滅させたと聞いていたが?」
「ワタクシもそう聞いておりましたわ。ですが……どうやら、生き残りがいたようですわ」
「そうか……それで? まさか一方的にやられて、そのまま逃げ帰って来たわけじゃないだろう?」
──心臓を直接握り潰されているかのような圧迫感。
ガタガタと震えるアリアは、冷や汗を流しながら口を開いた。
「……『イマゴール王国』に召喚された『勇者』の一人を、こちらへ連れて来ましたわ」
「ほう?」
「その者は、体の一部に『大罪人』の模様が刻まれているそうですわ。『十二魔獣殺し』が言うには、『色欲』の『大罪人』の模様だとか──」
「アリア」
大男が玉座から立ち上がり──たったそれだけの動作で、空間が揺らいだ。
そして──ゆっくりとアリアに歩み寄る。
一歩、また一歩と歩みを進め──近づく絶対的な強者を前に、アリアは貧血のような症状に襲われた。
「吾輩は、逃げ帰って来たのかどうかを聞いている。貴様が連れて来た『勇者』の事など、どうでも良い」
「……申し訳ございません。戦果も挙げず、そのまま戻って来てしまいましたわ」
「そうか……まあ良い。減った魔獣は、また造れば良いからな」
ただし──
「二度目の失敗は許さん。いいな?」
「了解しましたわ」
「……それで、貴様の連れて来た『勇者』は、今どこにいる?」
「地下牢に閉じ込めておりますわ。連れて来ます?」
「いや、良い。リーシアの後継者を見ても、面白くないからな」
アリアを見下したまま、大男は邪悪に笑った。
「……もう一つ、報告する事があります」
「ほう……なんだ?」
「『勇者』を誘拐した際、『十二魔獣殺し』に一人で『魔国』へ来るように言いましたわ。ですので……近々、『十二魔獣殺し』がこの国に来るかと」
──再び空間が揺らぐ。
大男の前で跪いたまま、アリアは気絶しそうになるのをグッと堪えた。
「……今、外に出ている『十二魔獣』は誰だ?」
「《夜空を泳ぐ魔獣》と《共に生ける魔獣》ですわ」
「そうか……」
大男から感じ取れるのは──歓喜の感情。
なのに──その笑顔は、どこまでも邪悪だ。
そんなアリアに気づいていないのか、大男は喜びに染まった声で命令した。
「《愛を願う魔獣》、命令だ」
「はっ」
「《太陽を射る魔獣》、《全てを壊す魔獣》と共に、『十二魔獣殺し』を迎え撃て。必要ならば、試作魔獣を使っても構わん」
「レオーニオを……ですの?」
「ああ。アイツの調整は終わっている。今のアイツなら、『上位魔獣』にも負けない力があるだろう」
「了解しましたわ。それでは、失礼します」
恭しく一礼し、アリアが謁見の間を後にする。
その場に残った大男は──太い腕を組み、口の端を狂喜に歪めた。
「さて──どこまで抗えるか、試させてもらうぞ」
──『イマゴール王国』王宮の大広間。
破闇から説明を受けた聡太は、鋭い瞳をさらに細めて眉を寄せた。
「……今、説明した通りよ。王女シャルロットの正体は、『十二魔獣』だったの。『人王』も、その『十二魔獣』──《愛を願う魔獣》が殺したと言っていたわ」
「《愛を願う魔獣》……」
「えぇ。古河君たちを見送った後、優子と少し立ち話をしていたの。そしたら、アリアが話し掛けてきて……『十二魔獣』だなんて思ってなかったから、不意打ちを食らったわ」
左腕に手を当て、破闇が悔しそうに瞳を閉じた。
──『イマゴール王国』を出発した聡太たちは、次の『大罪迷宮』を探すため、『リーン大海』に向かっていた。
その道中──セシル隊長に貰った『魔道具』から、耳を疑うような話が飛び込んできた。
──小鳥遊 優子が『十二魔獣』に連れ去られた。
それを聞いた聡太は慌てて『イマゴール王国』に引き返し、破闇から説明を受け──今に至る、という感じだ。
「……【大罪技能】は?」
「使ったわ。だけど……全く歯が立たなかった。自分の事をヘルムートと同じくらい強いとも言ってたわね」
瞳を閉じ、聡太が腕を組んだ。
──ドクン……ドクン……ドクン……
どこからか、脈打つような音が聞こえ始める。
地獄の底から響くような重々しい鼓動は──聡太の体から漏れ出していた。
「……本当ッ、この世界の奴らはッ、ドイツもコイツも……ッッ!!」
憤怒の表情を見せる聡太──その体に、赤黒い模様が浮かび上がる。
瞳は真っ赤に染まり、背中に刻まれてる『大罪人』の模様が赤々と輝き始めた。
いつもは怒りを思い出して【大罪技能】を発動しているが──今は違う。現在の出来事に憤怒し、【大罪技能】が発動した。
……落ち着け。落ち着け。
このままだと怒りに呑まれる。
深呼吸を繰り返し、聡太が怒りを抑えようとするが──まるでダムが決壊したかのように、次から次に怒りが溢れ出してくる。
「はぁッ、はァッ、ハっ、ハァァァッ……ッッ!!」
「あ、アルマ? その体の模様は……?」
「……あれぇ……? また出てきたんですぅ?」
「聡ちゃんの【大罪技能】と同じ模様だね〜?」
聡太の【憤怒に燃えし愚か者】が発動したのを切っ掛けに、アルマクスの体にも変化が現れる。
だが──今の聡太には、そんな事を気にかける余裕がない。
そうだ。そうだよ。俺は、何を忘れていたんだ?
異世界人なんて、結局ロクが奴がいない。
──ダメだ。止まれ。
『十二魔獣』を殺した所で、この世界は平和になんてならない。
いっそ、この世界に住む全てを殺してやろうか?
──やめろ。落ち着け。
なんで平静でいられるんだ? 異世界人は俺を殺そうとしたんだぞ?
なんで怒りを忘れる? 異世界人のせいで死に掛けたのを忘れたか?
──忘れるわけない。
ならば──殺せ。
殺せよ。何もかもが憎いだろう? 今にも襲い掛かりたいだろう?
ほら、刀を抜け。今の俺に敵う奴なんていない。簡単に異世界人を殺せるぞ?
「ふッ、ふぅッ……! は、ァ……!」
──これ以上は、マズイ。
視界が少しずつ赤く染まってきた。暴力的な衝動を抑えられない。右手が無意識の内に『紅桜』へと伸びていく。
このままだと、俺は──
「──ぁ?」
ふと、刀を掴もうとしていた右手が、ふわふわとした何かに包まれた。
見ると──赤色に染まりかけた視界の中で、ハーピーのような少女が、心配そうに聡太を右手を握り締めていた。
「……おー……?」
「ハピィ……?」
「おー。大丈夫ー?」
吸い込まれそうなほど美しい濃い青色の瞳に覗き込まれ──聡太の視界から、赤色が消えた。
赤々と輝く背中の模様も、少しずつ光を失い──瞳の色も、赤から黒へと変化。
身体中に浮かび上がっていた赤黒い模様も姿を消し──いつもの聡太に戻った。
それに合わせ、アルマクスの姿も元に戻る。
「……悪い、助かった」
「おー? おー!」
無邪気に笑うハルピュイアの顔を見て、聡太の顔にも柔らかい笑みが浮かぶ。
本当、コイツの無邪気さには敵わない──そんな事を思いながら、聡太はハルピュイアの頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。
……そうだ。忘れてはいけない。
今の聡太には、コイツらがいる。
ミリアが聡太を優しく包み込んでくれた。ハルピュイアが聡太を笑顔にしてくれた。
そうだ──コイツらがいるから、異世界人にも良い奴がいると信じられる。
「……取り乱して悪い。続けてくれ」
「えぇ。アリアが優子を連れ去る時に、『十二魔獣殺し』に伝えろって言われた言葉があるんだけど……『十二魔獣殺し』っていうのは、古河君の事でいいのよね?」
「ああ」
「そう……なら、言うわよ。と言っても、そこまで長い言葉でもないのだけど──」
──小鳥遊 優子は預かった。返して欲しければ、一人で『魔国 オルドヴァーン』に来い。
アリアの残した言葉を聞き──聡太はフンと鼻を鳴らした。
「上等じゃねぇか。そっちがその気なら、『魔国』にいる奴ら一人残らずぶっ殺してやる」
「ソータ様、私たちは?」
「お前らはここに残れ。相手は俺一人をご希望らしいからな」
言いながら、聡太がアルマクスへ視線を向けた。
「アルマ。血をくれ」
「わかりましたよぉ」
「待ってくれ古河! ボクも行く! いや、連れて行ってくれ!」
ここまでずっと黙っていた剣ヶ崎が、顔を真っ赤にして聡太に歩み寄った。
「剣ヶ崎……悪い。今回は大人しくしててくれ」
「な、なんでだ?! 敵は『十二魔獣』なんだぞ?! 古河を一人で行かせるわけにはいかない! それに、優子を連れ去られて黙っている事なんてできない! 頼む、ボクも──」
「剣ヶ崎」
有無を言わせぬ覇気を纏う声に、剣ヶ崎は言葉を詰まらせた。
「敵は、俺一人を希望している。もしお前を連れて行ったりしたら……伝言を守らなかったとか言って、その場で小鳥遊が殺されるかも知れない」
「それは……」
「今回は、俺に任せてくれないか? 大切な幼馴染みが心配なのはわかる。だけどお前が付いて来たら、事態はもっと複雑になるかも知れない」
「……………」
「絶対に小鳥遊は連れて帰る。約束だ。だから──頼む。今回は大人しくしていてくれ」
「……わかったよ……キミがそこまで言うなら、仕方がない」
大きくため息を吐き、剣ヶ崎が真剣な眼差しで聡太を見据えた。
「優子を頼む」
「任せろ」
───────────────────
「──魔王様」
鈴のように美しい声を聞き、玉座に座る大男はゆっくりと瞳を開いた。
「……《愛を願う魔獣》か」
「はい。至急、報告しなければならない事がございますわ。今よろしいです?」
「……いいだろう」
大男の言葉を聞き、アリアは床に膝を突いて頭を下げた。
「ヘルムート、ポーフィ、ディティ、グロウス、ビアルド……今回の作戦に参加した魔獣は、ワタクシ以外全員殺されましたわ」
「……何?」
──大男の雰囲気が一変する。
ビリビリと空気が震え、謁見の間の壁や床が軋み始める。
ただの覇気だけで、これほど周りに影響を与えるなんて──と、アリアは恐怖を覚えた。
「あのヘルムートが殺されただと? どういう事だ?」
「ワタクシも、詳しい事は聞いておりませんが……『十二魔獣殺し』と『紅瞳吸血族』がヘルムートを討ったと」
「『十二魔獣殺し』……ユグルの力を継ぐ者か……ヘルムートの話では、『吸血族』は一匹残らず絶滅させたと聞いていたが?」
「ワタクシもそう聞いておりましたわ。ですが……どうやら、生き残りがいたようですわ」
「そうか……それで? まさか一方的にやられて、そのまま逃げ帰って来たわけじゃないだろう?」
──心臓を直接握り潰されているかのような圧迫感。
ガタガタと震えるアリアは、冷や汗を流しながら口を開いた。
「……『イマゴール王国』に召喚された『勇者』の一人を、こちらへ連れて来ましたわ」
「ほう?」
「その者は、体の一部に『大罪人』の模様が刻まれているそうですわ。『十二魔獣殺し』が言うには、『色欲』の『大罪人』の模様だとか──」
「アリア」
大男が玉座から立ち上がり──たったそれだけの動作で、空間が揺らいだ。
そして──ゆっくりとアリアに歩み寄る。
一歩、また一歩と歩みを進め──近づく絶対的な強者を前に、アリアは貧血のような症状に襲われた。
「吾輩は、逃げ帰って来たのかどうかを聞いている。貴様が連れて来た『勇者』の事など、どうでも良い」
「……申し訳ございません。戦果も挙げず、そのまま戻って来てしまいましたわ」
「そうか……まあ良い。減った魔獣は、また造れば良いからな」
ただし──
「二度目の失敗は許さん。いいな?」
「了解しましたわ」
「……それで、貴様の連れて来た『勇者』は、今どこにいる?」
「地下牢に閉じ込めておりますわ。連れて来ます?」
「いや、良い。リーシアの後継者を見ても、面白くないからな」
アリアを見下したまま、大男は邪悪に笑った。
「……もう一つ、報告する事があります」
「ほう……なんだ?」
「『勇者』を誘拐した際、『十二魔獣殺し』に一人で『魔国』へ来るように言いましたわ。ですので……近々、『十二魔獣殺し』がこの国に来るかと」
──再び空間が揺らぐ。
大男の前で跪いたまま、アリアは気絶しそうになるのをグッと堪えた。
「……今、外に出ている『十二魔獣』は誰だ?」
「《夜空を泳ぐ魔獣》と《共に生ける魔獣》ですわ」
「そうか……」
大男から感じ取れるのは──歓喜の感情。
なのに──その笑顔は、どこまでも邪悪だ。
そんなアリアに気づいていないのか、大男は喜びに染まった声で命令した。
「《愛を願う魔獣》、命令だ」
「はっ」
「《太陽を射る魔獣》、《全てを壊す魔獣》と共に、『十二魔獣殺し』を迎え撃て。必要ならば、試作魔獣を使っても構わん」
「レオーニオを……ですの?」
「ああ。アイツの調整は終わっている。今のアイツなら、『上位魔獣』にも負けない力があるだろう」
「了解しましたわ。それでは、失礼します」
恭しく一礼し、アリアが謁見の間を後にする。
その場に残った大男は──太い腕を組み、口の端を狂喜に歪めた。
「さて──どこまで抗えるか、試させてもらうぞ」
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