初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが
98話
「──『剛力』ッッ!!」
「はあッッ!!」
斜めに振り下ろされる『紅桜』を弾き返し、剣ヶ崎が連続で聖剣を振るう。
素早く体勢を立て直した聡太が大きく後ろに飛び、追撃を狙う剣ヶ崎が追い掛ける──と。
「──ふッ!」
「なっ──?!」
──『紅桜』の切っ先が、剣ヶ崎の眼前に迫っている。
咄嗟に身を屈める事で『紅桜』を避け──次に顔を上げた時、目の前に聡太がいた。
右手に黒色の短刀を、左手に白色の短刀を持っている状態の聡太が。
「おらァああああああああッッ!!」
「ふっ、くッ!」
様々な方向から放たれる斬撃に、剣ヶ崎は防戦一方になる。
──なるほど。どうやらさっきの『紅桜』は、ただ真っ直ぐに投げられた一撃だったらしい。
聡太の本当の目的は──剣ヶ崎の体勢を崩し、そこを狙う事だったようだ。
「──“燃えろ炎。我が望むは炎の槍”『ファイア・ランス』ッ! 『水弾』ッ!」
距離を取って体勢を立て直そうと、剣ヶ崎がその場から飛び退き──聡太が詠唱。
瞬間──剣ヶ崎の周りに、赤色と青色の魔法陣が浮かび上がる。
「これは──」
慌てた様子の剣ヶ崎が、再び距離を取ろうとするが──その前に、魔法陣から炎の槍と水の弾丸が放たれる。
恐るべきは、その数だ。
逃げ出す隙間もない魔法の雨──絶対に逃げられないと、誰もがそう思った。
「ん──?」
──剣ヶ崎の体が、赤く輝いた。
直後──爆発、轟音。
辺りに熱風が吹き荒れ、勇輝たちは咄嗟に顔を覆い隠した。
「……へぇ……」
──『ファイア・ランス』が炎により呑み込まれ、『水弾』が熱によって蒸発した。
契約している精霊の力を宿していると言っていたが……あれほどまでに強力なのか。
「……そうか」
今まで聡太は、剣ヶ崎たちの事を見ようとしていなかった。
単に興味もなかったし、そもそも聡太は剣ヶ崎の事が嫌いだったからだ。
しかし──前はあれだけ力の差があったのに、いつの間にか聡太と並ぶほどに強くなっている。
【大罪技能】に目覚めたから? もちろん、それもあるだろう。
だが、一番の理由は──剣ヶ崎が、強くなろうと努力したからだろう。
「お前も──ここまで強くなってたのか」
お面の下で、聡太が柔らかな笑みを浮かべ──すぐに表情を引き締める。
「……いい機会だ。相手が剣ヶ崎なら、新技を試すのも悪くない」
「何?」
「『二重詠唱・蒼熱線』、『付属獄炎』」
聡太が剣ヶ崎に『白桜』の切っ先を向け──巨大な蒼色の魔法陣が浮かび上がる。
続いて赤黒い魔法陣が浮かび──二つの魔法陣が混ざり合い、複雑で奇妙な紋様を描き始めた。
「合体魔法、『地獄の──」
「『人王』様ッ!」
突如、訓練所の扉が乱暴に開けられ──鎧に身を包んだ騎士が現れる。
突然の来訪者に、訓練所にいた全員が固まり──そんな聡太たちを無視して、騎士の男は『人王』に近づいた。
「どうした、騒がしいぞ」
「も、申し訳ありません! しかし、ご報告しなければならない事が……!」
「良い。報告せよ」
「はっ!」
『人王』の前に膝を突く男が──耳を疑うような報告をした。
「『イマゴール王国』を囲むようにモンスターの大群が! このままだと、数時間後には『イマゴール王国』に到達するかと!」
「何……?」
「一度に襲いかかって来ない所を見るに、何者かがあの大群を率いているかと思われます! どうされますか?!」
男の報告を聞き──聡太は、驚愕に目を見開いた。
……モンスターの大群? それも、誰かが率いている?
まさか──
「《魔物を従える魔獣》……?!」
聡太の脳裏に浮かんだのは──モンスターの大群を率いて『地精族』に攻めてきた、あの忌々しい『十二魔獣』だった。
「剣ヶ崎! 勝負は中止だッ!」
「わ、わかった!」
『黒曜石の短刀』と『白桜』を鞘に収め、地面に落ちたままとなっていた『紅桜』を拾う。
ミリアに視線を向け──聡太の言いたい事を察したのか、五人は力強く頷いた。
「──待て。勝負は終わっていない。どこへ行くつもりだ」
そのまま訓練所を飛び出す──寸前、低く重々しい声が聡太を呼び止めた。『人王』だ。
「……先ほどの報告を聞いていなかったのですか? モンスターの大群が攻めて来ているんです。『人王様』も早く避難された方がよろしいですよ」
「その様子だと、この異常事態について何か知っているようだな?」
「えぇ、まあ」
「ここで話せ」
一刻でも惜しいのに、この『人王』はどこまで自分の意見を貫こうとするのか。
苛立ちを隠せない聡太は、できるだけ短く言葉を返した。
「異常事態の原因は『十二魔獣』です。今から自分たちで討伐してきます」
「……ほう。お前たち六人でか?」
「はい。その代わり、『十二魔獣』を討伐する事ができた時は──それを自分の実力証明とし、自分はこの国を去りますので」
踵を返し、今度こそ訓練所を出ようと──して、今度は聞き慣れた声が聡太を呼び止める。
「聡太! オレたちも行くぜ!」
「あァ……『十二魔獣』はちっと厳しいかも知れねェが、モンスターの相手ぐらいだったらできるからよォ」
「えぇ、そうね。古河君。私たちも手伝うわ」
「わ、私も! みんなが怪我をしても治せるように、一緒に行く!」
自分たちの武器を持って、戦意を露わにする勇者一行。
そして──剣ヶ崎が聡太に歩み寄り、その肩にポンと手を乗せた。
「もうキミを一人で戦わせたりはしない──あの時の『大罪迷宮』のように」
「……はっ」
剣ヶ崎の言葉に、聡太は──お面の下で、小さく笑った。
「好きにしろ。ただし、絶対に死ぬなよ」
───────────────────
「──ヴヴガァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
灰色の短髪を揺らす少年が、その体からは考えられないような雄叫びを上げる。
そんな少年を見て、隣を歩いていた少女はうるさそうに耳を塞いだ。
「……はー……ほんとうるさいなー。もっと静かに命令できないのー?」
「できるならとっくにしてるさ。あまり文句は言わないで欲しいな」
「まーどうでもいいけどー……それより、目的はわかってるよねー?」
「もちろん……『イマゴール王国』を潰して、『大罪迷宮』に残されている『大罪人』の力を手に入れる。全て上手くいけば、世界征服まで一気に近づく事ができる」
頭部から生えた湾曲角を触りながら、少年は邪悪な笑みを浮かべた。
──そんな少年の右腕は、普通の腕ではなかった。
肘先からは黒く禍々しい剣が生えており──その刀身を撫で、少年は地獄の底から響くような声で呟く。
「『十二魔獣殺し』……次に会ったら、絶対に殺す」
「悪いけどー、『十二魔獣殺し』はわたしの獲物だよー? ──あいつはバラバラにして殺さないと、わたしの気が済まないからさー」
巨大な壺と長い銀髪をズルズルと引き摺り、少女もまた邪悪に笑う。
「キミはどう思う? ──《死を運ぶ魔獣》」
灰髪の少年が振り返り──黄色と緑色の色違いの瞳を、そこにいた者に向けた。
「──興味ねぇッス。つーか、なんでオイラがアンタらの尻拭いをしなきゃいけねぇんスか」
「……酷い言い草だね、ヘルムート」
不機嫌そうに舌打ちし、ヘルムートと呼ばれた少年がうんざりしたようにため息を吐く。
──紫色の髪に、紫紺の瞳。臀部から蠍のような尻尾を生やした、奇妙な少年だ。
「あのッスねぇ《魔物を従える魔獣》……そもそもの話、こんなモンスターの群れなんか必要ねぇんスよ。最初からオイラ一人に任せとけば、『人類族』なんざ数時間で全滅させられるッス」
「……それは、いくらなんでも傲慢なんじゃないかな?」
「そうだよねー。『吸血族』を殺せたのだってたまたま相性が良かっただけだし、あんまり調子に乗らない方がいいよー?」
「好きに言ってろッス《激流を司る魔獣》。何の成果も上げてねぇアンタらよりマシッスよ」
ポーフィとディティを追い抜かし、ヘルムートは両腕を大きく広げた。
「さて──殺戮の始まりッス」
「はあッッ!!」
斜めに振り下ろされる『紅桜』を弾き返し、剣ヶ崎が連続で聖剣を振るう。
素早く体勢を立て直した聡太が大きく後ろに飛び、追撃を狙う剣ヶ崎が追い掛ける──と。
「──ふッ!」
「なっ──?!」
──『紅桜』の切っ先が、剣ヶ崎の眼前に迫っている。
咄嗟に身を屈める事で『紅桜』を避け──次に顔を上げた時、目の前に聡太がいた。
右手に黒色の短刀を、左手に白色の短刀を持っている状態の聡太が。
「おらァああああああああッッ!!」
「ふっ、くッ!」
様々な方向から放たれる斬撃に、剣ヶ崎は防戦一方になる。
──なるほど。どうやらさっきの『紅桜』は、ただ真っ直ぐに投げられた一撃だったらしい。
聡太の本当の目的は──剣ヶ崎の体勢を崩し、そこを狙う事だったようだ。
「──“燃えろ炎。我が望むは炎の槍”『ファイア・ランス』ッ! 『水弾』ッ!」
距離を取って体勢を立て直そうと、剣ヶ崎がその場から飛び退き──聡太が詠唱。
瞬間──剣ヶ崎の周りに、赤色と青色の魔法陣が浮かび上がる。
「これは──」
慌てた様子の剣ヶ崎が、再び距離を取ろうとするが──その前に、魔法陣から炎の槍と水の弾丸が放たれる。
恐るべきは、その数だ。
逃げ出す隙間もない魔法の雨──絶対に逃げられないと、誰もがそう思った。
「ん──?」
──剣ヶ崎の体が、赤く輝いた。
直後──爆発、轟音。
辺りに熱風が吹き荒れ、勇輝たちは咄嗟に顔を覆い隠した。
「……へぇ……」
──『ファイア・ランス』が炎により呑み込まれ、『水弾』が熱によって蒸発した。
契約している精霊の力を宿していると言っていたが……あれほどまでに強力なのか。
「……そうか」
今まで聡太は、剣ヶ崎たちの事を見ようとしていなかった。
単に興味もなかったし、そもそも聡太は剣ヶ崎の事が嫌いだったからだ。
しかし──前はあれだけ力の差があったのに、いつの間にか聡太と並ぶほどに強くなっている。
【大罪技能】に目覚めたから? もちろん、それもあるだろう。
だが、一番の理由は──剣ヶ崎が、強くなろうと努力したからだろう。
「お前も──ここまで強くなってたのか」
お面の下で、聡太が柔らかな笑みを浮かべ──すぐに表情を引き締める。
「……いい機会だ。相手が剣ヶ崎なら、新技を試すのも悪くない」
「何?」
「『二重詠唱・蒼熱線』、『付属獄炎』」
聡太が剣ヶ崎に『白桜』の切っ先を向け──巨大な蒼色の魔法陣が浮かび上がる。
続いて赤黒い魔法陣が浮かび──二つの魔法陣が混ざり合い、複雑で奇妙な紋様を描き始めた。
「合体魔法、『地獄の──」
「『人王』様ッ!」
突如、訓練所の扉が乱暴に開けられ──鎧に身を包んだ騎士が現れる。
突然の来訪者に、訓練所にいた全員が固まり──そんな聡太たちを無視して、騎士の男は『人王』に近づいた。
「どうした、騒がしいぞ」
「も、申し訳ありません! しかし、ご報告しなければならない事が……!」
「良い。報告せよ」
「はっ!」
『人王』の前に膝を突く男が──耳を疑うような報告をした。
「『イマゴール王国』を囲むようにモンスターの大群が! このままだと、数時間後には『イマゴール王国』に到達するかと!」
「何……?」
「一度に襲いかかって来ない所を見るに、何者かがあの大群を率いているかと思われます! どうされますか?!」
男の報告を聞き──聡太は、驚愕に目を見開いた。
……モンスターの大群? それも、誰かが率いている?
まさか──
「《魔物を従える魔獣》……?!」
聡太の脳裏に浮かんだのは──モンスターの大群を率いて『地精族』に攻めてきた、あの忌々しい『十二魔獣』だった。
「剣ヶ崎! 勝負は中止だッ!」
「わ、わかった!」
『黒曜石の短刀』と『白桜』を鞘に収め、地面に落ちたままとなっていた『紅桜』を拾う。
ミリアに視線を向け──聡太の言いたい事を察したのか、五人は力強く頷いた。
「──待て。勝負は終わっていない。どこへ行くつもりだ」
そのまま訓練所を飛び出す──寸前、低く重々しい声が聡太を呼び止めた。『人王』だ。
「……先ほどの報告を聞いていなかったのですか? モンスターの大群が攻めて来ているんです。『人王様』も早く避難された方がよろしいですよ」
「その様子だと、この異常事態について何か知っているようだな?」
「えぇ、まあ」
「ここで話せ」
一刻でも惜しいのに、この『人王』はどこまで自分の意見を貫こうとするのか。
苛立ちを隠せない聡太は、できるだけ短く言葉を返した。
「異常事態の原因は『十二魔獣』です。今から自分たちで討伐してきます」
「……ほう。お前たち六人でか?」
「はい。その代わり、『十二魔獣』を討伐する事ができた時は──それを自分の実力証明とし、自分はこの国を去りますので」
踵を返し、今度こそ訓練所を出ようと──して、今度は聞き慣れた声が聡太を呼び止める。
「聡太! オレたちも行くぜ!」
「あァ……『十二魔獣』はちっと厳しいかも知れねェが、モンスターの相手ぐらいだったらできるからよォ」
「えぇ、そうね。古河君。私たちも手伝うわ」
「わ、私も! みんなが怪我をしても治せるように、一緒に行く!」
自分たちの武器を持って、戦意を露わにする勇者一行。
そして──剣ヶ崎が聡太に歩み寄り、その肩にポンと手を乗せた。
「もうキミを一人で戦わせたりはしない──あの時の『大罪迷宮』のように」
「……はっ」
剣ヶ崎の言葉に、聡太は──お面の下で、小さく笑った。
「好きにしろ。ただし、絶対に死ぬなよ」
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「──ヴヴガァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
灰色の短髪を揺らす少年が、その体からは考えられないような雄叫びを上げる。
そんな少年を見て、隣を歩いていた少女はうるさそうに耳を塞いだ。
「……はー……ほんとうるさいなー。もっと静かに命令できないのー?」
「できるならとっくにしてるさ。あまり文句は言わないで欲しいな」
「まーどうでもいいけどー……それより、目的はわかってるよねー?」
「もちろん……『イマゴール王国』を潰して、『大罪迷宮』に残されている『大罪人』の力を手に入れる。全て上手くいけば、世界征服まで一気に近づく事ができる」
頭部から生えた湾曲角を触りながら、少年は邪悪な笑みを浮かべた。
──そんな少年の右腕は、普通の腕ではなかった。
肘先からは黒く禍々しい剣が生えており──その刀身を撫で、少年は地獄の底から響くような声で呟く。
「『十二魔獣殺し』……次に会ったら、絶対に殺す」
「悪いけどー、『十二魔獣殺し』はわたしの獲物だよー? ──あいつはバラバラにして殺さないと、わたしの気が済まないからさー」
巨大な壺と長い銀髪をズルズルと引き摺り、少女もまた邪悪に笑う。
「キミはどう思う? ──《死を運ぶ魔獣》」
灰髪の少年が振り返り──黄色と緑色の色違いの瞳を、そこにいた者に向けた。
「──興味ねぇッス。つーか、なんでオイラがアンタらの尻拭いをしなきゃいけねぇんスか」
「……酷い言い草だね、ヘルムート」
不機嫌そうに舌打ちし、ヘルムートと呼ばれた少年がうんざりしたようにため息を吐く。
──紫色の髪に、紫紺の瞳。臀部から蠍のような尻尾を生やした、奇妙な少年だ。
「あのッスねぇ《魔物を従える魔獣》……そもそもの話、こんなモンスターの群れなんか必要ねぇんスよ。最初からオイラ一人に任せとけば、『人類族』なんざ数時間で全滅させられるッス」
「……それは、いくらなんでも傲慢なんじゃないかな?」
「そうだよねー。『吸血族』を殺せたのだってたまたま相性が良かっただけだし、あんまり調子に乗らない方がいいよー?」
「好きに言ってろッス《激流を司る魔獣》。何の成果も上げてねぇアンタらよりマシッスよ」
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