初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが
110話
「は、ぁ……! ぶふっ……!」
口から血を吐き、アルマクスがその場に膝を突いた。
直後──アルマクスの体から、赤黒い霧が放たれる。
霧はアルマクスの姿を覆い隠し──やがて霧が晴れた時、そこには少女の姿となったアルマクスがいた。
……殺した。
あの《死を運ぶ魔獣》を。『十二魔獣』の一匹を。『吸血族』の敵を──今、殺した。
切り札の【血力解放】を使って、聡太を【血の契約】の対象者にして、聡太に自分の血を飲ませて【血の盟約】を使用させて、正体不明な【憤怒の眷属】という【技能】が発動して。
──どうにか、殺す事ができた。
「あ、はぁ……」
力なく笑い、地面に倒れ込む。
……身体中に毒が回っている。
手足が痺れて動けない。このまま放置すれば、毒で死ぬだろう。
ああ、でも……よかった。
『吸血族』の敵を討てたのだ……もう後悔はない。
このまま、静かに──
「──とかバカな事考えてたら、本気でぶっ飛ばすぞ」
そんなアルマクスの思考を読んだかのように、鋭い言葉が発せられる。
見ると、全身血塗れの少年が、力なく笑うアルマクスを睨み付けていた。
『紅桜』と『白桜』の回収に行っていたのだろう。聡太の左腰には見慣れた刀がぶら下がっていた。
「あはぁ……ソウタ……無事そうですねぇ……」
「まあ、なんとかな……もうちょっと踏ん張れ。今から、小鳥遊の所に行くからな」
自分の顔に付いている血を拭い取りながら、アルマクスを抱き上げようと──
「……もう、いいんですよぉ」
──して、アルマクスの言葉を聞いて動きを止めた。
「……何がもういいんだ?」
「ボクはもう、満足してるんですよぉ……ヘルムートを殺して、『吸血族』の敵を討てて……ボクは、満足してるんですぅ……これ以上生きても、何のために生きれば良いかわかりませんよぉ……」
アルマクスの手が、ふるふると震えながら聡太の頬に添えられる。
「だから……ここでお別れですぅ」
「お前……」
「ソウタ、ボクに止めを譲ってくれましたよねぇ? 自分が殺されるかも知れないのに、他人の復讐を優先するなんて……本当、アナタはよくわからない所で優しい方ですねぇ」
アルマクスの手に付いた血が、聡太の頬を赤く染める。
「……ああ……こうして見ると……アナタ、なかなか良い男ですねぇ……ボク好みの顔をしてますよぉ……」
そう──思えば、こうして聡太の顔をしっかり見る機会なんて無かった。
復讐に囚われていたアルマクスは、他人の顔を見る余裕すらなかったのだろう。
「……なるほど……あの二人がソウタに惚れるのも、納得ですぅ……」
【血の契約】は、自分の伴侶となる相手を対象として発動する事が多い。
その理由は──【血の契約】の副次効果に、対象となった相手に惹かれるという効果があるからだ。
故に、アルマクスには──聡太がどうしようもなく愛おしく見えた。
「短い間でしたが、ありがとうございましたぁ……アナタに迷惑ばかり掛けて、ごめんなさいぃ……」
聡太の頬から手を離し、アルマクスがゆっくりと瞳を閉じる──
「……ふんっ」
「はうっ?!」
──直前に、聡太のビンタがアルマクスの頬を打ち抜いた。
「あ、うぅ……いきなり何を──」
「復讐が終わったからもう満足ですぅ。今までありがとうございましたぁ。ああ、良く見たらなかなかいい男ですねぇ。それではさようなら──って、なんだそりゃ。お前、ふざけてんのか?」
呆然と固まるアルマクスを抱き上げ、苛立った様子で聡太が続けた。
「それはお前の都合だろうが。言っとくが、俺はお前の都合なんざ知った事じゃねぇ。勝手に満足して勝手に死ぬな。ぶっ飛ばすぞ」
「あ、はぁ……めちゃくちゃですよぉ……」
「ああ、俺はめちゃくちゃなんだ。異世界人の都合なんか知った事じゃねぇ。だから俺は、俺のやりたいようにやる。それが例え、望まれていない事でもな──『聖天』、『飛翔』」
アルマクスの体を、淡い光が包み込む。
それを確認し、聡太が地面を蹴って空へと飛び上がった。
「何がありがとうございました、だ。何が迷惑ばかり掛けてごめんなさい、だ。お前の勝手な感情を、俺に押し付けんな。シャキッとしろ。お前らしくもねぇ」
大空を飛びながら、聡太が説教を続ける。
「そもそも、根本的な話から間違ってんだよ。俺とお前は、目的が一致しているから一緒に行動していただけだ。別にお前に感謝される筋合いも、謝罪される筋合いもないっつーの」
「……………」
「感謝とか謝罪とか、そういうのは仲間同士がする事だろうが。俺とお前は違う。そんな関係じゃない。だから感謝なんかするな。謝罪なんかするな。ボクのために良く働きましたぁ、とか言っときゃいいんだよ」
「……だったら……なんでソウタは、ボクを助けようとするんですぅ? 手を組んでいるだけの相手を助ける必要なんてないですよぉ? それこそ──」
──それこそ、ソウタの言った仲間同士じゃないと。
そう言おうとしたアルマクスよりも早く、聡太が答えを口にした。
「まあ、なんだ……俺は勝手にお前の事を、仲間だと思ってたからな」
「……ボクが……ソウタの、仲間……?」
「同じ目的を持って行動してるんなら、それはもう仲間だろ、って友人に言われてな」
「その友人ってぇ……?」
「勇輝だ」
「あぁ……あの人ですかぁ……」
なるほど、と納得したように苦笑を漏らす。
「その時から、少しずつ考えてたんだ。んで……俺とお前はそんなつもりがなくても、周りから見れば確かに仲間に見えるなって、いつからか忘れたが、そう思うようになってな」
「……なんでその時に言わなかったんですぅ?」
「言ったらお前、そんなつもりはないですけどぉ? って絶対言ってただろうが」
「あっはぁ……確かに、そうかも知れませんねぇ……」
……仲間。
それは、アルマクスが失った物。憎き相手を殺しても、二度と戻ってくる事のない大切な物。
だが──失った仲間は取り戻せなくても、新たな仲間は迎える事ができる。
……ああ、なんだ。
結局、ボクはただ意地を張っていただけだったのか。
失った仲間は戻ってこないから、もう仲間はいない──なんて、よくよく考えればバカな考えだ。子どもですら首を傾げるような考えだろう。
「……では、ソウタ」
「なんだ?」
「……ボクを、アナタの仲間にしてくれますぅ?」
一瞬、聡太がアルマクスへ視線を向け──言った。
「無理だ」
「えっ……」
「死にかけの奴を仲間にしてどうするんだよ。怪我を治してから言え」
ああ、それもそうか。とアルマクスは一人で笑う。
「では……死ぬわけにはいきませんねぇ?」
「ならもうちょっと踏ん張れ」
──ふわふわする。
聡太に抱えられて空を飛んでいるからだろうか? それとも、毒が回っているからだろうか?
いや……どちらも違うだろう。
だって、ボクの心臓は──こんなにうるさく鼓動しているのだから。
……ああ、なるほど。
このふわふわした感覚は。胸から溢れ出る熱い気持ちは。聡太の事を愛おしくて愛おしくてたまらないと想う心は。
──これが恋情だと、熱烈に訴えているのだろう。
────────────────────
「…………あ、ぅ……」
──眩しい。
時刻は朝だろうか。カーテン越しから射し込む太陽の光が、少女の体を遠慮なく焼いている。
今の状況を確認するために、少女は薄らと瞳を開いた。
「あ──アルマ!」
少女が目を覚ました事に気づいたのか、『黒森精族』の少女が声を上げた。
「アルマくん……! よかった〜、起きたんだね〜……」
左右非対称の色違いの瞳を嬉しそうに細め、『人類族』の少女が安心したようなため息を漏らす。
「全く、心配させて……ほら、体起こせる?」
金髪金瞳の『褐女種』が、少女の背中に手を回してゆっくりと体を起こさせる。
「おー! アルマー! 起きてよかったー!」
体を起こした少女に、ハーピー種の少女が飛び付いた。
力強く抱き締めてくるハーピー種の少女を抱き締め返し……少女は、絞り出すように声を出した。
「……ボク、生きてたんですねぇ……」
「当たり前だろ。そう簡単に死なせてたまるかってんだ」
部屋の端から聞こえたぶっきらぼうな声に、少女はそちらへ視線を向けた。
そこには──木製の椅子に腰掛ける、黒髪黒瞳の少年の姿が。
「ソウタぁ……」
「体に違和感はないか? 痛い所とかは?」
「……ありませんよぉ」
「そうか……ケガは小鳥遊が、毒は川上先生が治してくれたんだからな。後で小鳥遊と川上先生に礼を言いに行くぞ。いいな?」
「はいぃ……ありがとうございますぅ」
アルマクスの感謝の言葉を聞いた聡太は、フンと鼻を鳴らして顔を逸らした。
「……聡ちゃん、アルマくんの事すっごく心配してたんだよ〜」
「そうなんですぅ?」
「おい、火鈴」
「アルマくんの看病を交代するって言っても、いや俺がやるって言って代わらなかったんだよ〜。だからみんなでアルマくんの看病をしてたんだ〜」
火鈴の言葉に、聡太が小さく舌打ちをした。
……きゅうっと、心臓が締め付けられたかのように痛む。
──嬉しい。どうしよう、顔がニヤニヤするのを止められない。
「……ソウタぁ」
「……なんだ」
「もう一度、顔をしっかり見せてくれませんかぁ?」
「……別にいいけど……」
のっそりと椅子から立ち上がり、聡太がアルマクスに近づく。
「もっと近くに来てくださいぃ」
「……チッ……なんでこんな事──」
何かを言いかける聡太──その両頬がガシッと掴まれる。
何をする気だ? と、聡太が一瞬だけ動きを止め──アルマクスが聡太の顔を引き寄せた。
そして──おもむろに、キスをした。
「──ん」
「んっ──?!」
「「「あああああああああああああっっ?!」」」
「おー? ねーカリンー。なんでハピィの目を隠すのー?」
突然の行為に、聡太の体が固まる。
その隙に、アルマクスがガッシリと聡太の顔を抱き寄せ、簡単に離れないよう体勢を整えた。
「んん?! んっ、んんんんんんんっっ!!」
ようやく我に返った聡太が、慌てて聡太がアルマクスを離そうとするが──遅い。
必死に暴れる聡太の唇を無理矢理こじ開け、アルマクスが自分の舌を聡太の口内にねじ込んだ。
「ちょ、ちょっとアルマ! 離れなさい!」
「あ、ああ……い、いきなりキスするなんて……そ、それも……舌を……」
「ねーカリンー、手ー離してよー。何も見えないよー」
「ん〜……ハピィちゃんには、まだちょっと早いかな〜……」
──何秒ほど経過しただろうか。
やがて、アルマクスがゆっくりと唇を離した。
自分の唇をチロッと舐め、口元に妖艶な笑みを浮かべる。
「あ、はぁ……また、キスしちゃいましたぁ……」
「お、お前……!」
──溢れ出るこの気持ちを抑えられない。
これも【血の契約】の影響だろうか。聡太が欲しくて欲しくてたまらない。
まだ満足できない。もっと聡太が欲しい。もっともっと聡太と繋がっていたい。
「いい加減っ、離れなさい!」
「うおっ──」
間に割り込んだフォルテが、聡太を突き飛ばした。
そのままアルマクスを引き剥がし、ベッドの上へと投げる。
「フォルテ……邪魔しないでくださいよぉ」
「アンタ、いきなり何考えてんの?!」
「えぇ? 何を考えてるって言われましてもぉ……ソウタにキスしただけですよぉ?」
「そ・れ・を! 何考えてんのって言ってんの!」
ギャーギャー騒ぐフォルテを無視して、アルマクスが聡太に視線を向けた。
そして──ペロッと唇を舐め、妖艶な笑みをさらに深める。
「っ……」
その妖艶な動作に、不覚にも聡太はドキッとしてしまう。
「……ソウタぁ。【血の契約】の説明は、以前にしましたよねぇ?」
「……ああ」
「『吸血族』は、自分の伴侶となる者を【血の契約】の対象者にする……つまり、今のボクにとっての伴侶とは、ソウタなんですよぉ」
どこか勝ち誇ったような笑みを浮かべ、アルマクスが続ける。
「【血の契約】の影響で、ボクはソウタからしか吸血を行えない……こんな体にした責任、取ってくれますよねぇ?」
「いや、それは《死を運ぶ魔獣》を殺すために──」
「ボクの初めても、ヘルムートと戦っている時に奪われてしまいましたしぃ……まさかこんな事をしておいて、ボクの事を捨てる気ですぅ?」
「あのキスはお前からしてきたんだろうが……!」
初めてを奪ったのではなく、初めてを押し売りされたと表現する方が正しいだろう。
額に青筋を浮かべる聡太の姿に、アルマクスはくすくすと笑った。
「では、ソウタぁ」
先ほどまでの妖艶な笑みではなく、外見相応の可愛らしい笑みを浮かべ、アルマクスが言った。
「──ボクを、アナタの仲間にしてくださいぃ」
口から血を吐き、アルマクスがその場に膝を突いた。
直後──アルマクスの体から、赤黒い霧が放たれる。
霧はアルマクスの姿を覆い隠し──やがて霧が晴れた時、そこには少女の姿となったアルマクスがいた。
……殺した。
あの《死を運ぶ魔獣》を。『十二魔獣』の一匹を。『吸血族』の敵を──今、殺した。
切り札の【血力解放】を使って、聡太を【血の契約】の対象者にして、聡太に自分の血を飲ませて【血の盟約】を使用させて、正体不明な【憤怒の眷属】という【技能】が発動して。
──どうにか、殺す事ができた。
「あ、はぁ……」
力なく笑い、地面に倒れ込む。
……身体中に毒が回っている。
手足が痺れて動けない。このまま放置すれば、毒で死ぬだろう。
ああ、でも……よかった。
『吸血族』の敵を討てたのだ……もう後悔はない。
このまま、静かに──
「──とかバカな事考えてたら、本気でぶっ飛ばすぞ」
そんなアルマクスの思考を読んだかのように、鋭い言葉が発せられる。
見ると、全身血塗れの少年が、力なく笑うアルマクスを睨み付けていた。
『紅桜』と『白桜』の回収に行っていたのだろう。聡太の左腰には見慣れた刀がぶら下がっていた。
「あはぁ……ソウタ……無事そうですねぇ……」
「まあ、なんとかな……もうちょっと踏ん張れ。今から、小鳥遊の所に行くからな」
自分の顔に付いている血を拭い取りながら、アルマクスを抱き上げようと──
「……もう、いいんですよぉ」
──して、アルマクスの言葉を聞いて動きを止めた。
「……何がもういいんだ?」
「ボクはもう、満足してるんですよぉ……ヘルムートを殺して、『吸血族』の敵を討てて……ボクは、満足してるんですぅ……これ以上生きても、何のために生きれば良いかわかりませんよぉ……」
アルマクスの手が、ふるふると震えながら聡太の頬に添えられる。
「だから……ここでお別れですぅ」
「お前……」
「ソウタ、ボクに止めを譲ってくれましたよねぇ? 自分が殺されるかも知れないのに、他人の復讐を優先するなんて……本当、アナタはよくわからない所で優しい方ですねぇ」
アルマクスの手に付いた血が、聡太の頬を赤く染める。
「……ああ……こうして見ると……アナタ、なかなか良い男ですねぇ……ボク好みの顔をしてますよぉ……」
そう──思えば、こうして聡太の顔をしっかり見る機会なんて無かった。
復讐に囚われていたアルマクスは、他人の顔を見る余裕すらなかったのだろう。
「……なるほど……あの二人がソウタに惚れるのも、納得ですぅ……」
【血の契約】は、自分の伴侶となる相手を対象として発動する事が多い。
その理由は──【血の契約】の副次効果に、対象となった相手に惹かれるという効果があるからだ。
故に、アルマクスには──聡太がどうしようもなく愛おしく見えた。
「短い間でしたが、ありがとうございましたぁ……アナタに迷惑ばかり掛けて、ごめんなさいぃ……」
聡太の頬から手を離し、アルマクスがゆっくりと瞳を閉じる──
「……ふんっ」
「はうっ?!」
──直前に、聡太のビンタがアルマクスの頬を打ち抜いた。
「あ、うぅ……いきなり何を──」
「復讐が終わったからもう満足ですぅ。今までありがとうございましたぁ。ああ、良く見たらなかなかいい男ですねぇ。それではさようなら──って、なんだそりゃ。お前、ふざけてんのか?」
呆然と固まるアルマクスを抱き上げ、苛立った様子で聡太が続けた。
「それはお前の都合だろうが。言っとくが、俺はお前の都合なんざ知った事じゃねぇ。勝手に満足して勝手に死ぬな。ぶっ飛ばすぞ」
「あ、はぁ……めちゃくちゃですよぉ……」
「ああ、俺はめちゃくちゃなんだ。異世界人の都合なんか知った事じゃねぇ。だから俺は、俺のやりたいようにやる。それが例え、望まれていない事でもな──『聖天』、『飛翔』」
アルマクスの体を、淡い光が包み込む。
それを確認し、聡太が地面を蹴って空へと飛び上がった。
「何がありがとうございました、だ。何が迷惑ばかり掛けてごめんなさい、だ。お前の勝手な感情を、俺に押し付けんな。シャキッとしろ。お前らしくもねぇ」
大空を飛びながら、聡太が説教を続ける。
「そもそも、根本的な話から間違ってんだよ。俺とお前は、目的が一致しているから一緒に行動していただけだ。別にお前に感謝される筋合いも、謝罪される筋合いもないっつーの」
「……………」
「感謝とか謝罪とか、そういうのは仲間同士がする事だろうが。俺とお前は違う。そんな関係じゃない。だから感謝なんかするな。謝罪なんかするな。ボクのために良く働きましたぁ、とか言っときゃいいんだよ」
「……だったら……なんでソウタは、ボクを助けようとするんですぅ? 手を組んでいるだけの相手を助ける必要なんてないですよぉ? それこそ──」
──それこそ、ソウタの言った仲間同士じゃないと。
そう言おうとしたアルマクスよりも早く、聡太が答えを口にした。
「まあ、なんだ……俺は勝手にお前の事を、仲間だと思ってたからな」
「……ボクが……ソウタの、仲間……?」
「同じ目的を持って行動してるんなら、それはもう仲間だろ、って友人に言われてな」
「その友人ってぇ……?」
「勇輝だ」
「あぁ……あの人ですかぁ……」
なるほど、と納得したように苦笑を漏らす。
「その時から、少しずつ考えてたんだ。んで……俺とお前はそんなつもりがなくても、周りから見れば確かに仲間に見えるなって、いつからか忘れたが、そう思うようになってな」
「……なんでその時に言わなかったんですぅ?」
「言ったらお前、そんなつもりはないですけどぉ? って絶対言ってただろうが」
「あっはぁ……確かに、そうかも知れませんねぇ……」
……仲間。
それは、アルマクスが失った物。憎き相手を殺しても、二度と戻ってくる事のない大切な物。
だが──失った仲間は取り戻せなくても、新たな仲間は迎える事ができる。
……ああ、なんだ。
結局、ボクはただ意地を張っていただけだったのか。
失った仲間は戻ってこないから、もう仲間はいない──なんて、よくよく考えればバカな考えだ。子どもですら首を傾げるような考えだろう。
「……では、ソウタ」
「なんだ?」
「……ボクを、アナタの仲間にしてくれますぅ?」
一瞬、聡太がアルマクスへ視線を向け──言った。
「無理だ」
「えっ……」
「死にかけの奴を仲間にしてどうするんだよ。怪我を治してから言え」
ああ、それもそうか。とアルマクスは一人で笑う。
「では……死ぬわけにはいきませんねぇ?」
「ならもうちょっと踏ん張れ」
──ふわふわする。
聡太に抱えられて空を飛んでいるからだろうか? それとも、毒が回っているからだろうか?
いや……どちらも違うだろう。
だって、ボクの心臓は──こんなにうるさく鼓動しているのだから。
……ああ、なるほど。
このふわふわした感覚は。胸から溢れ出る熱い気持ちは。聡太の事を愛おしくて愛おしくてたまらないと想う心は。
──これが恋情だと、熱烈に訴えているのだろう。
────────────────────
「…………あ、ぅ……」
──眩しい。
時刻は朝だろうか。カーテン越しから射し込む太陽の光が、少女の体を遠慮なく焼いている。
今の状況を確認するために、少女は薄らと瞳を開いた。
「あ──アルマ!」
少女が目を覚ました事に気づいたのか、『黒森精族』の少女が声を上げた。
「アルマくん……! よかった〜、起きたんだね〜……」
左右非対称の色違いの瞳を嬉しそうに細め、『人類族』の少女が安心したようなため息を漏らす。
「全く、心配させて……ほら、体起こせる?」
金髪金瞳の『褐女種』が、少女の背中に手を回してゆっくりと体を起こさせる。
「おー! アルマー! 起きてよかったー!」
体を起こした少女に、ハーピー種の少女が飛び付いた。
力強く抱き締めてくるハーピー種の少女を抱き締め返し……少女は、絞り出すように声を出した。
「……ボク、生きてたんですねぇ……」
「当たり前だろ。そう簡単に死なせてたまるかってんだ」
部屋の端から聞こえたぶっきらぼうな声に、少女はそちらへ視線を向けた。
そこには──木製の椅子に腰掛ける、黒髪黒瞳の少年の姿が。
「ソウタぁ……」
「体に違和感はないか? 痛い所とかは?」
「……ありませんよぉ」
「そうか……ケガは小鳥遊が、毒は川上先生が治してくれたんだからな。後で小鳥遊と川上先生に礼を言いに行くぞ。いいな?」
「はいぃ……ありがとうございますぅ」
アルマクスの感謝の言葉を聞いた聡太は、フンと鼻を鳴らして顔を逸らした。
「……聡ちゃん、アルマくんの事すっごく心配してたんだよ〜」
「そうなんですぅ?」
「おい、火鈴」
「アルマくんの看病を交代するって言っても、いや俺がやるって言って代わらなかったんだよ〜。だからみんなでアルマくんの看病をしてたんだ〜」
火鈴の言葉に、聡太が小さく舌打ちをした。
……きゅうっと、心臓が締め付けられたかのように痛む。
──嬉しい。どうしよう、顔がニヤニヤするのを止められない。
「……ソウタぁ」
「……なんだ」
「もう一度、顔をしっかり見せてくれませんかぁ?」
「……別にいいけど……」
のっそりと椅子から立ち上がり、聡太がアルマクスに近づく。
「もっと近くに来てくださいぃ」
「……チッ……なんでこんな事──」
何かを言いかける聡太──その両頬がガシッと掴まれる。
何をする気だ? と、聡太が一瞬だけ動きを止め──アルマクスが聡太の顔を引き寄せた。
そして──おもむろに、キスをした。
「──ん」
「んっ──?!」
「「「あああああああああああああっっ?!」」」
「おー? ねーカリンー。なんでハピィの目を隠すのー?」
突然の行為に、聡太の体が固まる。
その隙に、アルマクスがガッシリと聡太の顔を抱き寄せ、簡単に離れないよう体勢を整えた。
「んん?! んっ、んんんんんんんっっ!!」
ようやく我に返った聡太が、慌てて聡太がアルマクスを離そうとするが──遅い。
必死に暴れる聡太の唇を無理矢理こじ開け、アルマクスが自分の舌を聡太の口内にねじ込んだ。
「ちょ、ちょっとアルマ! 離れなさい!」
「あ、ああ……い、いきなりキスするなんて……そ、それも……舌を……」
「ねーカリンー、手ー離してよー。何も見えないよー」
「ん〜……ハピィちゃんには、まだちょっと早いかな〜……」
──何秒ほど経過しただろうか。
やがて、アルマクスがゆっくりと唇を離した。
自分の唇をチロッと舐め、口元に妖艶な笑みを浮かべる。
「あ、はぁ……また、キスしちゃいましたぁ……」
「お、お前……!」
──溢れ出るこの気持ちを抑えられない。
これも【血の契約】の影響だろうか。聡太が欲しくて欲しくてたまらない。
まだ満足できない。もっと聡太が欲しい。もっともっと聡太と繋がっていたい。
「いい加減っ、離れなさい!」
「うおっ──」
間に割り込んだフォルテが、聡太を突き飛ばした。
そのままアルマクスを引き剥がし、ベッドの上へと投げる。
「フォルテ……邪魔しないでくださいよぉ」
「アンタ、いきなり何考えてんの?!」
「えぇ? 何を考えてるって言われましてもぉ……ソウタにキスしただけですよぉ?」
「そ・れ・を! 何考えてんのって言ってんの!」
ギャーギャー騒ぐフォルテを無視して、アルマクスが聡太に視線を向けた。
そして──ペロッと唇を舐め、妖艶な笑みをさらに深める。
「っ……」
その妖艶な動作に、不覚にも聡太はドキッとしてしまう。
「……ソウタぁ。【血の契約】の説明は、以前にしましたよねぇ?」
「……ああ」
「『吸血族』は、自分の伴侶となる者を【血の契約】の対象者にする……つまり、今のボクにとっての伴侶とは、ソウタなんですよぉ」
どこか勝ち誇ったような笑みを浮かべ、アルマクスが続ける。
「【血の契約】の影響で、ボクはソウタからしか吸血を行えない……こんな体にした責任、取ってくれますよねぇ?」
「いや、それは《死を運ぶ魔獣》を殺すために──」
「ボクの初めても、ヘルムートと戦っている時に奪われてしまいましたしぃ……まさかこんな事をしておいて、ボクの事を捨てる気ですぅ?」
「あのキスはお前からしてきたんだろうが……!」
初めてを奪ったのではなく、初めてを押し売りされたと表現する方が正しいだろう。
額に青筋を浮かべる聡太の姿に、アルマクスはくすくすと笑った。
「では、ソウタぁ」
先ほどまでの妖艶な笑みではなく、外見相応の可愛らしい笑みを浮かべ、アルマクスが言った。
「──ボクを、アナタの仲間にしてくださいぃ」
「初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
-
305
-
191
-
-
2.1万
-
7万
-
-
512
-
880
-
-
176
-
61
-
-
1,124
-
1,733
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
66
-
22
-
-
310
-
215
-
-
5,217
-
2.6万
-
-
6,681
-
2.9万
-
-
565
-
616
-
-
5,039
-
1万
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
2,534
-
6,825
-
-
3,152
-
3,387
-
-
8,191
-
5.5万
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
6,044
-
2.9万
-
-
14
-
8
-
-
213
-
937
-
-
1,295
-
1,425
-
-
65
-
390
-
-
6,199
-
2.6万
-
-
6,675
-
6,971
-
-
6,237
-
3.1万
-
-
62
-
89
-
-
3万
-
4.9万
-
-
29
-
52
-
-
2,629
-
7,284
-
-
76
-
153
-
-
450
-
727
-
-
187
-
610
-
-
2,860
-
4,949
-
-
344
-
843
-
-
10
-
46
-
-
3
-
2
-
-
1,863
-
1,560
-
-
1,000
-
1,512
-
-
3,548
-
5,228
-
-
86
-
893
-
-
108
-
364
-
-
62
-
89
-
-
3,224
-
1.5万
-
-
71
-
63
-
-
86
-
288
-
-
23
-
3
-
-
477
-
3,004
-
-
83
-
250
-
-
614
-
1,144
-
-
89
-
139
-
-
4,922
-
1.7万
-
-
33
-
48
-
-
398
-
3,087
-
-
47
-
515
-
-
218
-
165
-
-
2,951
-
4,405
-
-
10
-
72
-
-
27
-
2
-
-
2,799
-
1万
-
-
7
-
10
-
-
17
-
14
-
-
9
-
23
-
-
18
-
60
-
-
614
-
221
-
-
116
-
17
-
-
220
-
516
-
-
3,653
-
9,436
-
-
2,431
-
9,370
-
-
408
-
439
-
-
183
-
157
-
-
7,474
-
1.5万
-
-
1,301
-
8,782
-
-
215
-
969
-
-
104
-
158
-
-
83
-
2,915
-
-
1,658
-
2,771
-
-
265
-
1,847
-
-
1,391
-
1,159
-
-
42
-
14
-
-
51
-
163
-
-
34
-
83
-
-
164
-
253
「ファンタジー」の人気作品
-
-
3万
-
4.9万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
1万
-
2.3万
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
9,545
-
1.1万
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
9,173
-
2.3万
コメント